揚 伯裕氏

原点回帰であるべき姿を徹底して追及
ワクワクするような“遊び心”も大切
(株)スタート・ラボ
代表取締役社長
揚 伯裕氏
Hakuyu(Henry)Yoh

昨年1月、スタート・ラボの代表取締役社長に就任し、二年目を迎えた揚氏。「原点回帰」を掲げ、社会貢献を含めた経営品質の改善に積極的な取り組みを展開。大きな話題を集める「お持ち帰りCD」など、新たな市場創造のチャレンジにも貪欲な姿勢を見せる。光ディスクの持つポテンシャルの啓発、そして市場開拓へ、二年目に向けた意気込みを聞く。

 

品質・信頼性に対して寄せられる
評価と期待に応え続ける!

新たな文化の創造が
潜在需要を掘り起こす

── ファイル・ウェブへの掲載を機に、奥田民生さんの「お持ち帰りCD」がネットで大反響を呼んでいます。そこで使用されていたCD-Rを提供されているのがスタート・ラボさんです。御社が「お持ち帰りCD」の事業を始められるきっかけは何だったのでしょうか。

 日本ではまだ、あまり馴染みがないですが、海外では「お持ち帰りCD」の文化は以前からあり、顕著な例としては、ビートルズで有名な英国アビー・ロード・スタジオが「Abbey Road Live Here Now」と題した「お持ち帰りCD」の発売を行っています。日本では、私がスタート・ラボの社長に就任(2011年1月)する数ヵ月前、2010年11月に「EMI ROCKS」という複数のアーティストが参加したロック・コンサートで行われたのが最初と言われており、私も『ライブの感動と興奮をそのまま真空パックする試み』に大変興味を持ちました。そこで使用されたのが弊社のCD-Rです。

── 品質・信頼性はもちろんのことだと思いますが、改めて、御社のCD-Rが選ばれたのは、どのような理由からだったのでしょうか。

 当時の経緯を深掘りしていくとある事実が判明しました。それは英国EMI社より「使用するメディアはGradeone≠フ品質であること」という指定があったそうで、それに該当する唯一のメディアが、弊社製のCD-Rだったのです。

また、奥田民生さんの「お持ち帰りCD」では、D.&A.MUSIC社がCD作製を担当されています。同社の白川幸宏社長は1989年に出張録音を軸に会社を立ち上げられ、その後、業務用記録メディアの総合商社として、レコーディングスタジオや放送局に記録メディアを供給されています。プロのお客様が相手ですから、「音質と互換性は絶対に譲れない条件。コストを優先させてしまったら、我々の信頼を失ってしまう」という強い信念をお持ちで、その白川氏が、現存する最良の品質として選ばれたのが、弊社の扱う商品(太陽誘電製)だったというわけなのです。

私としては、日本製だから単によいということではなく、世界市場の中で最高品質の商品を選び抜いたら、それが太陽誘電製の「That’s」ブランドであり、原産国が日本であった、ということだと理解しています。日本製という理由だけで通用するほど、現在の市場は甘くはありません。ですから、現状の品質を継続的に市場へ供給することが、お客様の信頼に応えていくことだと思っています。

今回の奥田民生さんの「お持ち帰りCD」は、その存在を知ったレーベルとマネジメントのスタッフから「やってみたい」と発案があり、ご本人も大変前向きだったことで実現の運びとなったそうです。合計約6000枚のCD-Rを提供しましたが、お陰様で1枚の不良も出すことなく、無事終了することができました。

── 音楽CD市場の低迷がよく指摘されますが、今回の「お持ち帰りCD」への並々ならぬ関心の高さを目の当たりにすると、要はやり方の問題であり、需要はもっともっと掘り起こせるように思います。

 その通りだと思います。御社のファイル・ウェブに掲載いただいた奥田民生さんの「お持ち帰りCD」の記事には、すでにツイートが500件以上、face bookで1700件以上の投稿があり、現在なお増えている状況です。ツイートは全てのコメントを毎日読ませていただいていますが、「音楽産業の向かうべき道だ」「パッケージ業界の救世主」「会場の熱気をそのまま自分のものにできるのは最高の贅沢」「配信では得られない思い出の宝物=vなど、本当に貴重なご意見が多々あります。こうしたお客様の声をどのようにして具現化していくか、その具体的な検討に入っています。

「VOC」(VoiceOfCustomer)という表現があります。お客様の声に敏感に反応し、そこに何らかの化学反応を起こすことで新たな文化が創造できれば、潜在的な需要を掘り起こすことができると思います。まだまだ万策尽きたわけではないと思います。

先日、日経産業新聞にCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)の戦略企画部長の取材記事が掲載されていました。「CDやDVDが売れない時代なんて、誰が決めたんだ」という発言に始まり、2009年以降、洋楽や邦楽の名曲を集めたCDを999円で相次ぎ発売し、累計100万枚を超えるヒットとなっているそうです。「音楽をネット配信ではなく、パッケージCDとして保有したい層が確実に存在することを証明した」と業界関係者は評するとあり、また、「業界の常識を疑い、顧客が何を求めているのかにひたすら耳を傾けること」が重要で、「CDは売れないだとか、衰退産業だとか言うのは、考え抜くことを放棄した人が言う言葉だ」と締めくくられていました。同じ思いを持った方がまだまだ存在する。化学変化は間違いなく起こすことができると思います。

揚 伯裕氏ソリューション提案が
大事なポイント

── 1989年にスタート・ラボが世界で初めてCD-Rを発売以来、20年以上が経過しました。ハードディスクドライブや半導体メモリー、さらに、クラウドサービスの登場など、「記録するための方法」も多様化する中にあって、光ディスクの強みについて、改めてお聞かせください。

 技術的にも、また、フォーマットとしても、確立された安定感と汎用性は何より大きな強みと言えます。30年以上の保存が加速試験で実証されており、長期保存の安定性では他のフォーマットとは比較にならないレベルにあります。自社内のデータとしては、もちろん保存環境にもよりますが、100年を超える長期保存が可能という試験データもあります。

また、書き換えができないRメディアの存在も大きな技術的アドバンテージのひとつになります。誤ってデータを消してしまい困った経験は皆さん、一度はあるのではないかと思いますが、Rメディアは、一度記録をするとデータを改ざんすることができないことから、公文書や古文書、金融機関のデータ保存、医療業界でのデータ・画像保存で既に使用されている実績があります。

ディスク表面に印刷ができることも光ディスクの持つ特徴のひとつです。ご家族の写真を印刷するもよし、自分だけのオリジナリティーを持ったディスクが1枚からつくれます。プリンターの性能も格段に向上しており、一般のご家庭でも簡単にプリントできるようになりました。

── 昨年、「マイクロフィルム劣化で読めず」というショッキングな記事が話題になりました。京都市内の私立大学図書館で起こった事例で、フィルムが波を打ち、表面に白い粉が付いてしまい、機器で映し出すこともできなかったそうです。国際標準化機構(ISO)は期待寿命を100年としていますが、高温と多湿により、それ以前にこのような状態になってしまうフィルムもあるそうですね。

 短期的な記録・保存ではHDDやメモリー系商品も魅力的かもしれませんが、長期的な保存に関しては、光ディスクが他を圧倒しています。ここで肝心なのは、メディア単体だけではなく、ドライブも含めた総合的なソリューションを提供できるかどうかです。現在、そうした取り組みにも力を入れています。短絡的にどのフォーマットが良い、悪いというのではなく、お客様の用途によって使い分けることが重要だと思います。

── 公文書や金融機関、医療機関の例がさきほどありましたが、その他にもいろいろな場面で、光ディスクが活用されているそうですね。

 米国ニューヨーク州にあるコーネル大学は、獣医学の世界的権威として知られていますが、同大学の鳥類学研究所には、歴史的にも貴重な鳥に関する鳴き声や映像などのデータを管理しているライブラリーがあり、約17万8000件の録音資料と、3000件以上の映像資料があります。1999年からデジタル化によるアーカイブが進められていますが、そこで用いられているのが、弊社の「DVD-R for master」なのです。エラーレートが圧倒的に低く、安定している点が大変高く評価されています。手前味噌になりますが、「DVD-R for master」が現存するDVD-Rの中で正に世界最高水準にあることが、こうした機関のテスト結果からも証明されています。

世界的にもトップレベルのフィギュアスケート選手や陸上選手が多く在籍している大学としても皆さんご存じの中京大学では、生協で数多くの弊社商品をお取り扱いいただいています。学生はもちろん、先生方の大切な研究データや撮り貯めた研究・講義素材を、安心して記録・保存できるメディアとして、太陽誘電製メディア(日本製)の高品質・高信頼性を高く評価いただいています。こうした期待に、応え続けていかなくてはなりません。

社会貢献活動も
継続して行っていく

── 御社では、継続的に被災地の東北を支援していく活動にも力を入れて展開されています。

 就任後2ヵ月余りで東日本大震災が起こり、弊社の福島県伊達市にあります工場「ザッツ福島」も被災し、大きな被害を受けました。同工場では、震災直後から工場内の複数の個所に放射線の線量計を設置し、測定を毎日行っています。震災以前に政府が取り決めた基準値以内の値を継続しており、商品への放射能汚染が基準値以内であることを確認の上、製品を工場から出荷しています。福島県伊達市役所の入口にも放射線の線量計が設置されており、毎日値が公表されています。

今回の東日本大震災では、「社会貢献」という言葉をより強く意識するようになりました。工場の復旧と合わせて、弊社の主力商品(DVD-R)に、「がんばろう!日本」モデルを立ち上げ、売上げの一部を義援金として、工場のある福島県伊達市に直接寄付をさせていただきました。昨年の10月に続き、3月に2回目の訪問をして参りました。身の丈に合った活動ではありますが、継続的に訪問を重ね、被災地の復興・復旧を微力ながら応援していきたいと思っています。

── 女性目線で企画された「CD-R for MUSIC」など、光ディスク需要層の拡大という切り口からも、積極的な商品展開をされています。今年の展開についてお聞かせください。

 「CD-R for MUSIC」も着実に実績が上がっており、顧客目線での商品導入の成功事例になると思います。海外からの引き合いもあり、今後のさらなる販売増にも期待しているところです。商品展開としては、CD-R、DVD-R、BD-Rといった基幹商品を軸にして、さらに、「お持ち帰り」文化などの新たな市場の創造にも積極的にチャレンジしていきたいと思います。また、先程少し触れましたが、光ディスクの持つ高品質・高信頼性・長期保存特性に優れた技術的なアドバンテージを生かした、ディスクからドライブまでを含めた新たな「トータル・アーカイブ・ソリューション」を市場投入していきたいと思っております。そのような中で、ワクワクするような「遊び心」を大切にしていきたいと思っています。お客様だけではなく、商品を供給致します我々自身もワクワクするような商品供給ができれば最高ですね。

── 今年は、7月27日からロンドンオリンピックも開幕しますし、6月からは、ワールドカップサッカー・ブラジル大会の出場をかけた最終予選も始まります。これは、という感動のシーンに多く出会えそうですね。

 スポーツの持つ筋書きのないドラマが、様々な競技で展開されると思います。多くの感動と興奮を、是非、弊社の商品に真空パックしていただき、長期にわたり楽しんでいただければ幸いですね。

── 社長にご就任されて1年が経過し、4月から新年度が始まりました。2年目に向けての意気込みをお聞かせください。

 昨年1月の就任以来、原点に立ち返り、会社としてのあるべき姿を徹底的に追求し、株主・お客様にご満足していただける結果を残すことを目標に取り組んできました。今年度は引き続き、「原点回帰2年目の年」と位置付けています。

会社経営には近道も王道もありませんので、地道に一つ一つの経営課題に取り組み、結果として、経営目標を達成するとともに、社会貢献を含めた経営品質の向上を目指して参りたいと思います。

◆PROFILE◆

揚 伯裕氏 Hakuyu(Henry)Yoh
1958年生まれ、東京都出身。81年 ソニー(株)入社。ソニーマグネプロダクツ(仙台工場)で一年間研修の後、磁気製品事業本部に配属され、磁気製品、記録メディア関連製品のセールス、マーケティングに携わる。その後、ソニーオーストラリア(90?93年)、ソニーカナダ(96?98年)に赴任。07年 ソニーエレクトロニクス アジア・パシフィック(シンガポール)で記録メディア、バッテリー、Felicaビジネスの統括職を歴任。2011年1月 (株)スタート・ラボ 代表取締役社長に就任。趣味はスポーツ全般。サッカー歴は46年。現在も暁星高校サッカー部OB会、アストラ倶楽部で活動中。

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