辻 和利氏

店頭でのエンターテイメントを
次々に仕掛ける専門集団です
ソニーコンスーマーセールス(株)
代表取締役社長
辻 和利氏
Kazutoshi Tsuji

本年4月、ソニーコンスーマーセールスはソニー製品のセールス活動および販売促進活動を専門的に行う組織として設立された。地デジ化の勢いが去ったAV市場で喫緊の課題は、新たな価値訴求。その鍵を握る売りの現場をどうつくるか。同社新社長に就任された辻氏に聞く。

 

魔法などはない
知恵の連鎖で気づきを引き出す

先鋭化した店頭をつくる
プロ集団になる

── まず新会社設立の経緯と目的をお聞かせください。

 新会社はマーケティングカンパニーであるソニーマーケティングから分離し、Shop Frontでの活動に専門化した集団です。営業活動という広い担当領域の中で、お客様への店頭での提案活動という最も大切な部分を専任化し、責任をもってあたるという役割です。これまでは新製品が発売されると、カテゴリー別の販促施策にあわせて、そのまま市場導入する縦軸のやり方でしたが、ネットワーク時代では単一カテゴリー内だけでは展開しきれない領域が出てきます。それを、新会社がカテゴリーを横断する横軸のプラットフォームとして、よりお客様に近い目線で店頭表現する実力をつける。それこそが新会社に期待されるミッションです。商品のカテゴリーが何であっても、いい意味で横の連携をとって提案/販売していくイメージです。

── ソニーマーケティングに残った量販営業の部署との役割分担はどうなっているのでしょうか。

 社内では、『セルイン』『セルアウト』という言葉を使っていますが、法人様への『セルイン』をソニーマーケティングが、店頭でのお客様への『セルアウト』のプロモーションの役割を新会社が担います。ソニーマーケティングの量販営業部は量販法人様と商談を通して、カテゴリー別商品別の組み立てを図る立場です。一方、ソニーコンスーマーセールスは店舗の担当であり、売り場を提案し、イベントやキャンペーン展開などお客様へのプロモーション計画をそれぞれの店舗様と相談して、実現することで実売につなげていきます。

お客様から見て
店頭に魅力があるか

── ネットワークへの広がりも考慮するとソニー製品だけではカバーし切れない部分も出てきます。営業マンはこれまでにない勉強も必要になってきますね。

 ソニーマーケティングの中にいますと、どうしてもメーカーとしてのロジックが中心となり、カテゴリーレスが進む現場との乖離が生まれてしまいます。しかも現実的にはカテゴリーの軸で次から次へと発売される商品に対応するだけで手いっぱい、カテゴリーの枠を超えた必然性のベクトルを顕在化させて対応していくには難しい状況でした。今はまさに勉強をしているところです。

社長になって最初のメッセージで、まずは皆に「プロのユーザー」になれと宣言しました。自分の商品の守備範囲にとらわれず、どんなお客様がいらっしゃっても話が通じる、納得のいく説明ができるようなプロ集団を目指したいと思ったからです。

プロのユーザーになるということは、たとえば機器同士の接続の可否がどうとかいうことをこと細かく暗記せよということではなく、たとえば、「Wi-Fiとは何者か? 何ができるのか?」というような、まず基本的なところを理解すること。そこからの発展問題は、二次対応として調べればかまわないのです。

まずは、お客様と話が通じないというのは困るわけで、ネットワーク、アプリ、ハードウェアの世界の土地勘といいましょうか、基本的なところが把握できていれば、たいがいの会話はできるはずです。このような新しい世界をトータルで提案できる専門集団になるために、まず現場にこれからのネットAVの世界に対する方向性を打ち出しました。また、これまで個々の現場で蓄積されてきた情報やノウハウを集約して皆で共有し、次に活かしていきます。

そういう意味で、「お客様目線」という考え方をより一層重視したいと思います。メーカーが決めたカテゴリーにとらわれず、「お客様から見てどうか?」という原点にもどり、売り場での担当者自身の実感を大事にしたい。お客様に叱られ、ほめられた経験から、こんな提案や接客をすると効くという実感。このような体験は重要で、そこで磨かれないと商品も売り場も強くなれません。日々の取り組みがお客様目線として、絶えずちゃんとやれているかを振り返ることが大切です。

例えば売り場の担当者は、販促物をマニュアル通りにセッティングしている。一見、過不足ないように思われます。しかし私はこれでいいのかと絶えず気づきを促します。マニュアルの指示がどうではなく、お客様から見た場合に、他社に勝る魅力をもっている展示かどうか。そうでないと我々は単なるメッセンジャーです。このような話を営業現場で繰り返し発信するようにすると、改めてスイッチが入り、自分たちの役割はマニュアル通りに販促物を並べることではなく、いかに店頭を魅力的にするか、と再認識するはずです。

例えばカメラ売り場ならば、必ず作例写真を展示するようにと言っています。MK部は担当者の手間を考え、ハードウェアの性能を発揮させたより美しい写真をバインダーに入れたパッケージを準備するわけですが、店頭でバインダーに手を伸ばすお客様は多くありません。それよりもお店の近くの身近な景色を撮ったものを店頭に貼っておくと、どこで撮った、どうやって撮った、という写真にまつわる会話のきっかけをつくれます。

ソニーショップ様で興味深い話を聞きました。撮影写真のギャラリーをつくるとなると、壁に穴を開けスペースを作らなければならずに諦めていたのですが、イーゼルを用意して、コルクボードに作例写真を貼るという簡易型を提案しました。ほぼ200店に行き渡ったところです。

すると驚くことに、この作例写真をきっかけに常連のお客様と初めてカメラの話をしたという事例があります。店頭にはいつもカメラを展示していたのですが、テレビを買いに来るお客様の目には留まっていなかった。けれども写真があると、写真をきっかけに話が始まり、お客様がその店でカメラを買い始めるようになる。そして、店主の方も新たな売り方に気づくのです。

今、量販店様でも約200店にイーゼルを立てて店員様やお客様が撮った写真を貼り、レンズや撮影のデータを明記しています。最近の収穫です。

── まだ掘り起こせていない部分はたくさんありますね。

 あとはアイデアに対するコストと手間のかけ方が割に合っているかどうか。割に合わないイメージがあると思っているので皆やらないのです。イーゼルを置くだけでお客様の気づきになるのですから、そこは知恵の絞り方だと思います。知恵のかたまり、知恵の連鎖です。魔法などありません。単価が下がっている分コストも頑張って下げますが、少しでも上位機種を買っていただく、レンズなどのアクセサリーをたくさん買っていただくところに何とかもっていかないといけません。

『お客様目線』というと、お客様に奉仕するという意味でとらえる人も多いですが、そうではありませんね。お客様にいかに商品を提案するか。心理戦です。高いものを買っておいたほうが後悔しないといかに納得していただくかが大切です。そのためにいろいろな店頭での仕掛けが必要です。それはマニュアル通りに商品を並べることではありません。商品スペックや価格だけではないお客様にソニー製品を選んでもらうための勝負です。限られたスペースでの店頭実現は簡単ではありませんが、そこには我々の価値もあるわけです。1つ1つ実現していかなければなりません。

辻 和利氏面倒なものにこそ
チャンスがある

── 昨今のAV、デジタルイメージング市場をどうご覧になりますか。

 極めて難しい問題です。地デジ化の大きな流れが終わり、もちろん分かっていたことではありますが、想定以上にテレビへの影響が大きい。直近でも台数ベースで前年比20数パーセント、金額ベースで同30数パーセントの業界出荷となっています。

ここ3年ほどは、程度の差はあれどのメーカーさんもどの法人様もテレビ主体でやってきて、大きな柱をなくし、頭では分かっていても切り替えることが難しい状況です。とにかくテレビのマーケットは前年比30%から40%で、しばらく我慢するしかない。しかしそれ以外のカテゴリーは何とか前年比100%以上で組み立てたい。そこに向けて単価アップと顧客数拡大にどのように取り組んでいくか。

そういった環境下で、ソニーとしてのポスト地デジは、カメラをしっかり売ろうということです。マーケットに関しては、2011年度にコンパクトデジカメが約800万台、前年比90%というところ。一眼レフが150万台、タイの洪水がなければ160?170万台は目指せていただろうというイメージ。今年度は敗者復活戦としてそのくらいの数字を目指すということです。カメラのカテゴリーはまだまだ力強いと思っていますし、それは業界にとっても当社にとっても同じだと思います。

デジタルビデオカメラは180万台くらいのマーケットサイズですが、単価ダウンは進んでいるものの、この規模に拡大しそれを維持していること自体がすごいことです。以前は少子高齢化に普及率を掛けるといつ100万台を切るかと見ていましたから。そもそもハンディカムは運動会と誕生日以外使われてなく、これでは買い替えが起こるはずもない。気軽に使っていただけるよう、小型化や電池寿命の改善などいろいろなことをやってきました。今の180万台は単価が落ちて買い替えやすくなった要素もあるかとも思いますが、安定的に推移しています。

コンパクトデジカメはやはりスマホとの棲み分けが鍵で、これは業界あげての課題です。スマホでカメラ体験をしたお客様が、ズームやクォリティなどに物足りなさを感じたところでデジカメに動いていただく。そのための売り場にしなくてはなりません。現状の売り場はデジカメ同士で戦っているだけです。そういうところを突き詰めていけば、スマホからのステップアップに行けるでしょうし、さらに先々はコンパクト一眼にも行っていただけるでしょう。

デジカメの販売提案の一例として、スーパーボールすくいの体験イベントがあります。子どもさんたちが楽しそうに遊んでいるところを、お母さんに小型一眼カメラを渡して撮影していただくのです。連写設定にして下からのアングルで撮るといい表情が撮れて、それをA4でプリントする数分で商品の説明をする。

これを土日で200組くらい体験していただいたところ、10台前後売れました。そのうちの7?8割は衝動買いらしく、カメラ売り場に来るつもりのなかったお客様です。難しいスペックの説明もなく、小型一眼カメラが売れていきます。こういった取り組みをコツコツやることで、販売店様にとっても大きな気づきがあり、その気づきは大事です。売り場の劇場化、来ていただいて楽しい売り場をつくらなくてはならない、と痛感します。

店頭を磨くことを一生懸命に、さらに先鋭化していき、テクニックやノウハウがたまっていく会社にしていきたいと思います。カテゴリーは何でも、いかに店頭でアレンジしていい売り場をつくり、いい接客ができて、さらにはお客様にいい買い物をして満足いただくか。それが原点だと思います。

話は変わりますが、ソニーショップさんに対しては、2年程前からネットワークの研修を実施しています。お客様のご自宅のホームLANを設置したら、そのお宅の間取りから商品の買い替えサイクルまでわかります。ネットに接続する製品が急増する中、ホームLANを握ることがお客様の家を丸ごと握ることになります。そうなるためにしっかりやってください、と。

昨今は大変よくわかっていただき、熱心に勉強していただいています。ネットワークのフォローではサービス料をとることができますし、次のハードウェアの販売につなげることもできます。こうした面倒なものにこそ、ビジネス拡大のチャンスがあり、お店の強みになります。

売り場を活性化するのは新会社の責務だと思っていますし、逆風だからこそしっかりとやっていかなくてはいけません。商品力だけでなく、トータルで売り場に関わっている人の競争力、お客様から見て気の効いた説明と展示がしっかりとできるように。そこにさらに集中して専門家になっていく。それが新会社の命題だと思っています。

◆PROFILE◆

辻 和利氏 Kazutoshi Tsuji
1956年生まれ。1978年4月 ソニー商事(株)入社。1998年7月 ソニーマーケティング(株)南関東・南関東第1支店 支店長に就任。2000年10月 モービルエレクトロニクスマーケティング部 統括部長、2001年4月 パーソナルAVマーケティング部 統括部長、2002年4月 デジタルイメージングマーケティング部 統括部長、2004年4月 ビジネスパートナーセールス総括に就任。2005年3月 ソニースタイル・ジャパン(株)取締役に就任。2008年4月 ソニーマーケティング(株)法人営業本部 本部長、2009年4月 中部営業本部 本部長、2011年4月 執行役員常務に就任。2012年4月 ソニーコンスーマーセールス(株)代表取締役社長に就任

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