小島正彦氏

写真・映像の感動が呼び起こす
無限の可能性
大切なのは人間の本能に訴えること
富士フイルム イメージングシステムズ(株)
代表取締役社長 執行役員
小島正彦氏
Masahiko Kojima

富士フイルム(株)のイメージング事業を手掛けるコンシューマー営業本部と、富士フイルムイメージテック(株)を統合して発足した新会社、富士フイルムイメージングシステムズ(株)。電子映像・写真関連商品と「写真・映像・情報」サービスの営業体制を一元化し、一般消費者から法人向けビジネス分野まで、多様なお客様のニーズに応える複合的サービスを提供する。積極果敢な提案力を前面に押し出す新会社の狙いと意気込みを小島正彦社長に聞く。

 

“撮る”だけで終わりではない。
プリントして見ることで感動が伝わる

写真メーカーならではの
複合的サービスが生む商機

── 本年2月、富士フイルムでは、イメージング事業を統括する販売会社として「富士フイルムイメージングシステムズ」を立ち上げられました。まず、新会社の狙いについてお聞かせください。

小島 統合した富士フイルムイメージテックは、ビジネスユースにおける広告用の大型ディスプレイ出力、ID・ICカードを起点としたセキュリティサービスやクラウドサービスなどの事業を展開しており、例えば、ID・ICカードでは、大手の印刷会社など参入メーカーも多いのですが、私どもの持つイメージインテリジェンスの技術を活かし、きれいに写った顔写真が入れられることを最大の特徴としています。当社は写真プリントのため、1000枚、1万枚単位の受注となる他社とは異なり、1枚からでもご注文が受けられます。クラウドサービスも、五重六重にもなるセキュリティの高さが大きな特徴のひとつです。

新会社発足の背景となったのは、ひとつには、印刷と私どもの写真プリントとの境界がなくなりつつあることです。オンデマンド印刷や少量印刷が簡単に行えるようになる一方、B2、B1のポスターも50枚程度の少量なら当社のオンデマンドポスターから出力した方が安くできます。仕上がりも非常に光沢感があり、高品質にできるオンデマンドポスターの分野を新しいビジネスとして立ち上げています。

もうひとつは、当社は一般消費者向けのビジネスでは、大型量販店、コンビニエンスストア、ホームセンター、ドラッグストアなど、幅広い法人との取り引きがあります。そのお客様にはモノだけではなく、このICカードやセキュリティのサービス導入もお薦めすることができるわけです。すなわち、1+1が単純に2になるのではなく、それ以上の提案が行える体制を構築したことが、今回の新会社設立の趣旨になります。

従来、富士フイルムといえばフィルムやデジタルカメラなどモノ≠フイメージでしたが、これからはお取引先にあった商品提案、サービス提案を行うことができる「写真・映像・情報」サービスを備えた複合的なサービスを提供する会社になったとご理解いただければと思います。

── モノとサービスとの融合ですね。

小島 これからの大変重要なテーマです。すでに、デジタルカメラでお取り引きいただいているある会社では、入居されているビル全体でICカードを導入いただきました。お取引先の女性社員の方からは「顔写真がきれいで大変満足している」という評価をいただきました。女性の方は運転免許証の写真に不満のある方がかなりいらっしゃるようで、また、ICカードとなれば、一日中首から下げておくものですから、特に気にされる重要なポイントとなります。

── デジタルサイネージも手掛けていらっしゃいますね。

小島 日本では駅などでの利用が目に付きます。モニターを何台も置いて大きな映像で見せるものもありますが、私どもがこだわっているのは中身=Bサイネージのコンテンツに大きな特徴があります。例えばお客様からキャラクターが印刷されている1枚のポスターを題材としていただいただけで、そのキャラクターが動き出すコンテンツを、簡単に、比較的安価にご提供することができます。

さらに、パーティ会場などで出席しているメンバーを紹介するサイネージの映像に、外からスマートフォンで「おーい、盛り上がっているか」などと写真付きでメッセージを送ると、瞬時にサイネージの映像の中に反映させることができる「スマートバルーン」、反対に、お客様が店頭で商品紹介用の画像・映像を見て家に持ち帰って家族にも見せたいと思ったときに、簡易(アプリのダウンロード不要)にWi‐Fi経由でスマートフォンに情報を取り込める「どこサイ」といったユニークなコンテンツ配信サービスを実現しています。

── 様々な場面でスマートフォンとの連携がポイントになりますね。

小島  今、全国の交通機関に伺っていますが、交通広告のビジネスに対し、デジタルサイネージに活路を見いだそうと考えているところが大変多いです。しかし、成功事例が少ないのが実情です。どうしたらお客様に注目していただけるのか。デジタルサイネージの普及の鍵はコンテンツにあります。

現在、事業の売上げ比率はBtoBとBtoCで1対6くらいなのですが、写真メーカーならではの特長をアピールし、BtoBの1のところをもっと大きくしていきます。

小島正彦氏スマホユーザーが
買いたくなるカメラ

── 続いて、デジタルカメラの今年の事業展開のポイントについてお聞かせください。

小島 まず、1つめは、この春発売したレンズ交換式の「X-Pro1」です。敢えて「ミラーレス」とは呼ばずに「レンズ交換式プレミアム一眼」と称し、現状のミラーレスとは一線を画しました。それは、現状のミラーレス一眼の価格帯に対して、私どもはボディだけで15万円、レンズを付けると20万円になり、お客様が抱かれているミラーレスのイメージとはカテゴリーとして違うものではないかと考えたこと。そして、センサーがAPS-Cサイズでありながら、フルサイズを凌駕する画質を実現している、画質に対するこだわりからです。

交換レンズとして、使いやすい単焦点タイプを3本、用意させていただきましたが、その拡充が今年の大きなテーマです。お客様やご販売店からもすでに数多くのご要望の声をいただいており、向こう2年の間に、ズームレンズをはじめ少なくともあと6本を順次発売していきます。また、カメラの開発も、コンパクトのように半年サイクルで出していくことは考えていませんが、必要なタイミングに、お客様の改善要望を受け止めたボディの商品化を行っていきます。

2つめのポイントは、ある程度の量の拡大がなければ、次の商品開発ができませんので、ワールドワイドの視点から、新興国を含めた海外展開をより拡充していきます。昨年度は韓国、インドネシア、ウクライナの3ヵ国にデジタルカメラを主にした現地法人を立ち上げましたが、12年度も引き続き、複数の現地法人を立ち上げる計画です。「FUJIFILM」というブランドは、フィルムとしては広く浸透していますが、デジタルカメラとしての存在感はまだまだです。Xシリーズなどは、そこに大きく貢献する存在になると考えています。

── コンパクトカメラに対するスマートフォンの影響をどのように見ていらっしゃいますか。

小島 ただ写すという機能だけで見たら、スマートフォンの勢いは無視できません。しかし、10倍以上の高倍率ズームと部屋の中など暗い場所での高画質撮影という2つのポイントは、そう簡単には凌駕できないと思います。むしろその強みを活かし、スマートフォンのユーザーにも買っていただけるカメラをつくることが大事ではないでしょうか。

また、FinePix Z1000EXRでは、スマホへの画像送信をワイヤレスで簡単に行える機能を新たに搭載しましたが、撮った画像をいかに簡便に活用いただける環境を提供できるかも重要なポイントになります。店頭でもそうした機能をきちんと説明し、デモを行うと、お客様の関心も非常に高いですね。

現在、カメラによる総ショット数は年間280億ショットになります。これに、ケータイやスマホでの撮影が加わるわけですから、いたるところでシャッターが押されているわけです。それをプリントしてもらうための様々な提案を行っていますが、店頭のキヨスク端末機「プリンチャオ」でも、駅のターミナル近くなどに置いてあるものでは、すでに約2割がスマートフォンや携帯電話からのプリントになっています。

── スマホならかざすだけでデータを読み取ってもらえるなど、さらなるブレイクスルーも必要になってきますね。

小島 店頭のプリント受付機では撮影データをすべて吸い上げるのに時間がかかり、さらに、吸い上げた写真がいっぱいありすぎて選ぶのにも困惑。挙句の果てに、店頭まで来たのに、面倒臭くなって諦めてしまうというケースが少なくありません。そこで、当社では3月から導入している新しいフォトブックのサービスソフトで、プリントするのに相応しい写真を自動で選んで印をつけるなど、どうしたらプリントにしていただけるか、フォトブックをつくっていただけるか。そのための簡便さの追求やソフトの改良を行っています。

思い出を語れるツールを
人間の本能が求めている

── 数多くの写真関係の商材を揃えていらっしゃいますが、「アルバムカフェ」が大変好評のようですね。

小島 写真は撮るけどプリントしなくなった。そうした背景の中で、2010年10月にスタートしたのが「アルバムカフェ」です。写真は、「撮る」「見る」「残す」の3つの要素で成り立っています。もっと正しく言えば、感動したり、キレイなものを見ると思わず写真を撮りたくなる「撮りたい」、それを「見せたい」「残したい」という人間の本能です。

ただ、写真にして残しておいてよかったという価値は、時間が経るほどに出てくるものです。また、アルバムづくりでは、「作り方がわからない」「途中で止めてしまった」という例も多く見られます。そこで、子育て中のママたちを対象に、グループでわいわいつくることで、アルバムづくりの楽しさを伝えるのが、この「アルバムカフェ」の活動です。彼女たちはちょうど今から十数年前、女子高生写真ブームのときに、毎日の日常を写真で記録していた女子高生たちなんですね。

アルバムカフェでは、われわれは講師をアテンドすることなどが主な役割で、場を提供するホテルやデパートなどの異業種が、集客等の狙いも含めて開催しています。これからの消費の中心になっていく世帯でもある参加者のお母様たちの何気ない会話が大変勉強になるそうです。すでに600ヵ所以上で開催されている「アルバムカフェ」を、今年は日本中にブームとして巻き起こしたいと思います。

── 様々な活動や商品を通した「見たい」「残したい」の取り組みへの手応えをどのように感じていますか。

小島 例えば、アルバムカフェに参加されたお母様たちは、写真の大切さやメモリアルを未来につなげるツールとしてアルバムの魅力を強く実感されています。写真の魅力の原点を掘り起こし、もう一度わかってもらうためには、手間はかかりますが、こうした地道な活動を重ねていくほかないと思っています。

── 写真店さんをはじめ、店頭でお客様に対してきちんと説明していくことが大切になりますね。

小島 撮るだけで終わりではないのです。やはり、プリントして見ることで初めて感動が伝わるのではないかと思います。ビジネスも、プリントのところまでつなげていくことができるのです。そこを、ご販売店さんと一緒になって創造していきたいと思います。

富士フイルムでは、フォトブックやアルバムカフェの活動以外にも、写真を持ち歩く新しいコンセプトを打ち出した新商品の「ララフォト」や、学校や企業の周年行事に最適な「フォトモザイク」など、写真に関連したビジネスとして、カメラにはじまり、店頭のプリント受付機、さらに、メディア、プリントに至る幅広い商材を用意しています。これまでは、そうした商品やサービスを十分にご紹介することができていませんでしたが、今回、国内の営業機能を統合した新会社の強みを活かし、「こういうビジネスができますよ」「こんなことをやりませんか」という提案を、これからはもっと積極的に展開していきたいと思います。どうぞご期待ください。

◆PROFILE◆

小島正彦氏 Masahiko Kojima
1951年生まれ、東京都出身。1974年慶応大学卒業。同年、富士フイルム(株)入社。2002年 札幌営業所所長、2004年富士フイルムイメージング(株)北海道支社長、2011年6月、富士フイルム(株)コンシューマー営業本部長を経て、2012年2月富士フイルムイメージングシステムズ(株)設立とともに、同社代表取締役社長に就任。趣味は写真撮影、音楽鑑賞、ゴルフ。

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