野坂章雄氏

新しいビジネスの可能性を拡げる基点
生活を豊かにする「WiMAXワールド」
UQコミュニケーションズ(株)
代表取締役社長
野坂章雄氏
Akio Nozaka

付加価値ビジネス創造の大きな鍵を握るキーワード「ネットワーク」。しかし、加速度的に環境が整っていくのとは対照的に、ユーザーに対する啓発には多くの課題が残されている。「いつでも」「どこでも」「あらゆる端末で」、真のモバイル・ブロードバンドの世界の創造を目指すUQコミュニケーションズ・野坂章雄社長に、事業の進展、そして、デジタルネットワークのこれからについて話を聞く。

 

街の電気店なども、これからは
もっと注目される存在になります

強みを明確にアピール
年度末200万加入達成へ

── データ通信カードを取り巻く環境も、イー・モバイルとの2強時代から、一気に戦国時代へ突入しました。近況の加入状況や展望についてお聞かせください。

野坂 2010年12月にNTTドコモさんの「Xi」(クロッシー)が登場して約1年になります。「高速モバイルデータ競争元年」と言わせていただいてきましたが、ソフトバンクさんからも「ULTRA WiFi」が出るなど、まさに三つ巴、四つ巴の関係となり、競争は非常に複雑になりました。

UQ WiMAXへの加入者数は、12月末に150万、3月末に200万の目標を掲げています。今、人気タレント・嵐のプラスワイマックス(+WiMAX)の宣伝が始まっていますが、+WiMAXを搭載したスマホが、京セラさんに続いて富士通東芝さんからも出てきますので、前年の加入者増のペースに、この+WiMAXスマホが加わることで、年度末の200万加入へは手応えを掴んでいます。

12月9日にはWiMAX内蔵ガラパゴスも発売されました。イー・モバイルのワイファイ・タイプや、また、タブレットには他にも強力商品がありますので、その中で、差別化ポイントを明確に打ち出していきたいと思います。2011年10月の加入者純増数では、携帯電話とデータカードとのスケールの違いがある中で3位に入り、ここでも200万加入へ向けての弾みがついた気がします。

12月1日には、新たに2回線利用時に料金が割引となる「ファミ得パック」の提供を開始しました。UQ直販でも、今後の加入動向を占う意味からも重要な初日に数多くの申し込みをいただき、その後も順調に伸長しています。WiMAXも自分専用だけでなく、自宅でも奥さんが同時に使用するといったシーンにまで広がってきています。ファミリー層への拡大にも狙いをつけ、ご家庭のホーム・ゲートウェイとして最適なホームルーター「URoad-Home」も併せて新発売しました。高速通信対応機器は、他社の機種数がまだまだ少ない中で、当社は商材も豊富ですし、この勢いで、年度内の加入者200万を実現していきたいと思います。

快適環境の実現へ邁進
お客様満足度1

── 競争環境も複雑になってきましたが、イー・モバイルと2社のときにも、受信エリアはじめ、後発のご苦労があったかと思います。

野坂 現在では、人口カバー率は77%、東名阪主要都市(東京23区、名古屋市、大阪市)に限れば99%になります。立ち上げ当初は「使えたら速いワイマックス」(笑)などと揶揄され苦労しましたが、それもなくなりました。今回、お客様満足度で1番をいただいたのも、「エリア」「料金」「デバイス」「スピード」の各要素が評価されたからに他なりません。

社内では、誰よりも先に考え、実践していく大切さについてよく話をします。例えば、通信エリアひとつとっても単純ではなく、強くするはずが逆に干渉を起こしてしまうケースもある。大変複雑ですが、そこをうまく知恵を出してやっていくことが必要なのです。

11月末に開催した事業説明会では、アンテナ利得と送信出力の向上についての効果を、それぞれメガホン(=アンテナ利得)と声の大きさ(=送信出力)に例えて説明を行いました。つながらない圏外の場所や電波が弱い場所で接続性がなぜ向上するのか。むずかしい話が大変わかりやすかったと好評をいただきました。

UQは「派手さはないが地道によくやっている」という評価をいただくのですが、それがユーザーさんの間にも広がってきているように感じています。ウェブでもいろいろ書かれましたが、最近は「WiMAXが山手線でも切れなくなったぞ」など、若い人は大変よく観察されていて、ネガティブな声も期待感の裏返しに変わってきています。

── エリアで注目しているのが地下。東名阪を中心に、モバイルを持ち歩いている人は地下鉄での移動が非常に多い。そこへの施策を真っ先にやられました。

野坂 「わざわざ地上に上がらないと使えないワイマックス」などとも言われ、これは悲願でした。都営地下鉄駅構内でのWiMAX無線設備の工事を11月28日から着手しましたが、東京都交通局様からは指向性が強いワイマックスの特性を高く評価いただきました。これを契機として、3Gでも新たな施策を検討されたり、大阪など他都市へも影響が出るなど、刺激効果もあるのではないかと期待しています。

── 料金については、契約期間の縛りがないことに好印象を抱いているユーザーが多いのではないでしょうか。

野坂 各社間での違いは段々なくなってきています。「UQ Flat年間パスポート」も1年間の縛りがあることは事実ですが、導入を決意したきっかけは、「契約期間を縛ってもらって構わないからもう少し安くしてほしい」という声を数多くのお客様からいただいたからなのです。安くするからには何か条件を変えなければならない。そこで、1年間という期間を設定させていただきました。

解除料で数万円も取られることもなく、お客様自身に縛られている感覚がないようです。新しい商品が出た場合にも、2年だと長く感じられますが、「1年くらいなら」というのがユーザー心理です。1年経つと更新の検討をされるわけですから、本当は2年、3年と長い方がいいのですが、UQを総合評価していただいているわけですし、今後、2年縛りでもいいから安くしてくれという声も自然と大きくなってくると思います。

── デバイスについては、いろいろなメーカーがWiMAXを搭載した商品を出しやすい環境にありますね。

野坂 モバイル機器にワイファイ機能が搭載されていれば、あとはモバイルルーターがあればいいわけですが、WiMAXが内蔵されてデザリングができれば理想的です。今、スマホがそういう方向性を強めていますので、これから先、モバイルルーターではどう棲み分けを図れるかがひとつのテーマになると思います。

また、これからウルトラブックがどんどん出てきます。厚さ15oで重さ1sといったイメージで、これまでモバイルパソコンといえばB5サイズでしたが、ここまで薄く、軽くなるとA4サイズでも苦にならなくなります。将来的にはスマホとタブレットに収束されるという声もありますが、タブレットにわざわざ外付けキーボードを付けて使っている人も少なくありません。画面サイズが10インチから13インチの主要メーカーのノートパソコンでは、すでに8割近くにWiMAXが搭載されていますが、今後、ウルトラブックにもWiMAXを搭載していきたいですね。

これからどんどん小さくなるモバイルルーターと、タブレットやノートパソコン、ウルトラブックへのWiMAX搭載の二刀流で、オープンデバイスにより徹底して品揃えを追求していきます。

野坂章雄氏付加価値の啓発へ
商機を掴む議論も必要

── 加入者の獲得はもちろん、さらに、WiMAXを搭載した商品のメリットやつながることでの楽しみ方や利便性の拡がりを訴えていく上で、販売店の役割はますます重要になってきます。

野坂 家電量販店さんにはMVNO(仮想移動体通信事業者)になっていただき、ISP各社さんも、その存在を強く意識されているように思います。地デジ化を終え、皆さん、次にはこうしたテーマを手の内に入れていかなければならないと相当意識して取り組まれています。

── お客様が何をしたいのか。それに対し、ユーザーベネフィットをより高められる商品やプラットフォームの的確な提案が必要になりますね。

野坂 現在はまだ、お客様に対して十分に説明しきれていないのが実情ですね。デジタル商品やネットワークについても敷居が相変わらず高く、高齢者や女性の方にはとてもわかりにくい。店頭で聞いても、専門用語を並べて説明されてしまうと、怖くて逃げ帰ってしまいたくなります。

こうした点についてもう一度、きちんとした議論が必要なタイミングに来ているのではないでしょうか。これから、ホーム・ゲートウェイを誰が何でとるのかという競争になってきます。「URoad Home」もそうした思いも入れて導入したものです。

テレビについては、いくらインターネットにつないでコンテンツリッチにしても、そこを入口にしていくのはむずかしいと考えています。スマホやタブレットを使って外で見ていたものが、家ではテレビの大きな画面で見られる、まずは、そうした流れからになるのではないでしょうか。テレビのザッピングの中で、インターネットでユーチューブを見られることが普通になる、ということではないように思います。

── テレビ、レコーダーなど、無線LAN機能を内蔵する商品が増えています。今後、加速度的に増えてくることが予想されますが、簡単に使えることが大前提となる商品だけに、ハードルもぐんと下げていかなければなりません。

野坂 無線LANはこれまで、若い人やリテラシーの高い人のものでしたが、だんだん裾野が広がってきました。ごく普通のお客様に対して、いきなり、何と何がつながるかとか、どうやってつなぐのかなどと説明してもわかりません。例えば、こんな楽しみ方もできるとか、こんなコンテンツが見られるなど、「あっ、それいいな!」「これやってみたい!」と、お客様から共感を呼ぶようなことを、まず、伝えていくことが大切ではないかと思います。

CATVなどは、設置するときにはお客様の家に上がりこみ、お茶までいただくこともある商売ですから、本来、もっと広がりのあるチャネルのはずです。今後、アンドロイド対応機器を自宅のSTBに挿せば、同じものがシェアリングできるとか、新たな映像の楽しみ方の進化や発見は、そうしたところから出てくる予感もあります。街の電気店なども、これからはもっと注目される存在になります。

さらに、これからはスマートメーターをどのように発展させていくのかといったテーマも迫ってきています。その入口となる商品を抑えること。そして、家の中のソフト的な中心点に立つところを結び付けていくことも、これからの大きなビジネスになると確信しています。

◆PROFILE◆

野坂章雄氏 Akio Nozaka
1956年3月29日生まれ。島根県出身。1978年4月 国際電信電話(株)(現KDDI)入社。2000年10月 KDDIアメリカ上級副社長。2005年4月 KDDI(株)ブロードバンドコンシューマ事業企画本部長。2007年4月 KDDI中国総代表。2009年10月 KDDI(株)理事(現在に至る)。2010年6月 UQコミュニケーションズ(株)代表取締役社長(現在に至る)。好きな言葉は「遠山の目付」(宮本武蔵の言葉。高校時代の恩師で剣道七段の先生から頂いた言葉。目は相手の顔面を捉えるが、その一点を凝視するのではなく、遠い山を見るように相手の身体全体を視野に入れること。物事の本質は、一つのことだけに着目するのではなく、却って周り全体を見渡した時に理解できたりすることなどを意味する)。

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