新  晶氏

大型サイズとフリースタイルで
液晶テレビの新しい価値を提案
シャープ(株)
執行役員 国内営業本部長
新 晶氏
Akira Atarashi

7月24日のアナログ停波後からテレビの販売台数が落ち込み、家電業界は大きな転機を迎えている。ここでどんな舵を切るかが将来を大きく左右する今、シャープは国内営業に新たなリーダーを迎えた。薄型テレビ市場をリードしてきた同社の戦略を、新氏に聞く。

 

営業の基本に立ち返り、
全力で取り組む

現場重視でわかりやすく伝える
そんな営業スタイルを貫く

── 新本部長は今回本誌に初めてご登場いただきました。ご経歴をお聞かせください。

 入社以来、国内営業の第一線を歩んできました。2008年8月から直近までは、健康・環境システム事業本部で、プラズマクラスターをはじめとしたマーケティングや冷蔵事業を担当しました。元来、商品そのものや商品を販売することが大好きです。単に商品を売るのではなく、新しい生活シーンを提案していくことが大切で、そのためには様々なツールを用い、お客様にわかりやすく伝えることが重要だと思っています。「自分の思いを何とか形にして、相手に伝えたい」。これが、私の一貫した営業スタイルです。また、営業はどんどんモノ作りに参画すべきだと思っています。

── AQUOSも売りの現場を重視することで生まれてきたのですね。

 当社はブラウン管を自社生産していなかったため、テレビ事業を進めていく上で厳しい時代を経験してきましたので、オンリーワンの液晶技術を使って、なんとか新しいテレビを作りたいと全社一丸となって取り組んできました。その思いが結実し、2001年1月に液晶テレビAQUOSを発売致しました。価格は13インチ8万8000円、15インチ15万5000円、20インチ22万円でした。

当時の国内営業は、お客様に商品を提供するというより、夢を提供するという思いで取り組んでいました。AQUOSで生活シーンを提案していきたい、だからサイズも豊富でなければならないし、壁にも設置できるようにしたい。さらに、誰でも使えるように操作も簡単でなければならない。

当時、テレビ、レコーダー、ラックと、それぞれの機器にひとつずつリモコンがあることに疑問を持つ声が寄せられました。事業部と営業が一緒になって、ひとつのリモコンでテレビ、レコーダー、ラックを操作できるようにしました。それが「アクオスファミリンク」の誕生した背景です。その頃から、現場重視の考え方で、営業と事業部が一体となってモノづくりに取り組むことは、当社のモノづくりを進めていく上で欠かせないものになってきています。例えば、デザインの優れたテレビを使いたいという女性のお客様のリクエストに応える形で、AQUOSのカラーバリエーションも生まれました。

今こそ、地道に一歩ずつ取り組む
営業活動が求められている

── 健康・環境システム事業にも携わっておられましたね。

  プラズマクラスターのマーケティングに携わりました。これは本当に大変な時期でした。商品は既に商品化していましたが、再び販売強化に取り組むという号令が社長からかかりました。最初の商品は、高さ約30pの3万円するイオン発生機でした。

市場では、同じ3万円で12畳向けの加湿空気清浄機があり、商談で比較されるなど苦戦していました。私はプラズマクラスターの認知度を上げようと、技術者を連れて北海道から沖縄まで全国20ヵ所で技術説明と売り方の講演をしました。当時リーマン・ショックの影響が日本にも来るとわかっていて、売上げが10%ダウンする懸念がありました。そんな中で3万円の価格が手頃な価格だと言っていただけるご販売店様もいました。例えば、月商3億円のご販売店様で10%ダウンと想定すると、仮に3万円の商品を毎日30台強売ればカバーできる、うってつけの商品だと言っていただけました。

また、プラズマクラスターイオン発生機を売るための演出として、その効果を見える形でどのように訴求するかには、本当に苦労しました。空気が綺麗になることで、ウィルス性の風邪等にかかりづらくなった等の効果に関するお声は多くいただきましたが、プラズマクラスターの認知度を一気に広めることはなかなか難しい状況でした。

その状況を克服したきっかけは、私の娘からのひと言でした。「イオン発生機を首から下げて歩いてみたら」。この言葉で、忘れかけていた自分の営業スタイルを思い出しました。始めは、恥ずかしいという気持ちもありましたが、新ジャンルの製品の認知度を拡げる思いで、プラズマクラスターイオン発生機を首から下げてみました。お客様にご挨拶するとほとんどの方が驚いて、「それは何ですか?」と疑問を持たれるとともに、興味を持っていただけました。これで一気にお客様の心をつかみ、商品の説明に入ることができました。

さらに、見てわかりやすいツールを活用したプラズマクラスターイオン発生機の販促活動として、アンモニアを吹きかけた金魚すくいのポイ≠イオン発生機にかざし、臭いがとれるという演出も店頭で実演しました。「エボナイト棒」と「はく検電器」といった理科の実験ツールを使って、プラズマクラスターイオンの効果で、静電気をとる実演もしました。静電気を帯びたエボナイト棒を検電器に近づけると、「はく」が開きますが、今度はエボナイト棒をプラズマクラスターイオンにかざすと「はく」は反応しない(図1参照)。そうやって、営業はいろいろなツールを使って徹底的に店頭でデモをしました。このような営業活動を地道に続けて、少しずつ認知度を拡げていきました。新しいジャンルの商品は、特に、わかりやすく丁寧に説明して、市場を切り拓いていくことが大切です。

一方で私は、プラズマクラスターイオン発生機を年間通して売れる商品にしなくてはならないと思っていました。浮遊ウイルスの作用を抑える、静電気の発生を抑えるということで、冬場の商品と認識されると、2月、3月の花粉シーズンの後は、売り場から撤去されます。せっかくつくった売り場を覆されるのはもったいないと思い、ご販売店様に、季節品の壁を破りたい、プラズマクラスターイオン発生機を年間通して売れるように取り組むので、売り場を保持して欲しいとお願いしました。

賛同してくださったご販売店様は半分ほどでしたが、その年の春にウイルスが流行した影響もあってか、結果的に大変好調な販売に繋がりました。他社の空気清浄機は既に店頭から引き上げられている状況の中、当社の商品だけが残り、結果的には花粉シーズン終了後も継続して販売を伸ばしていきました。プラズマクラスターの勢いが始まったのはこの時期からで、いまだに空気清浄機は、高いシェアをいただいております。

さらに、中国、フィリピン、シンガポール、マレーシア、ベトナム、ドバイ等と海外にも展開しました。売り場をつくって実演し、講演会も開催して、国内同様に市場の開拓ができました。お客様目線の日本流の営業、日本流の売り方が世界でも通用したのだと思っています。プラズマクラスターを売るために、いろいろ苦労してきましたが、新しい商品、まだお客様に知られていない商品を、わかりやすく説明するためには、地道なやり方が、実は一番の近道になると確信しました。

これが私のやり方で、徹底的に実売に繋げるためにツールやグッズも使います。今こそこういうことが必要とされている時だと思います。

新  晶氏新たな商品と店頭づくりで
チャンス到来となる

── まさに今、業界は大変な時を迎えています。

 これから、テレビの市場規模は減少が見込まれています。しかし、テレビはなお家電の顔≠ナあり、大きな需要があることは間違いありません。今のお客様が抱えているニーズに的確にお応えする提案ができれば、売上げを伸ばすチャンスがあると捉えています。

まず、60インチ以上の大型テレビのご提案です。テレビは日本人にとって大きな娯楽ですから、アナログ停波で50インチのテレビを購入され、大画面のよさを知った方に、もっと大きいサイズの楽しさを訴求します。ゆとりのある年配のお客様には年齢に応じ、「60歳以上の方は60インチのテレビを見ませんか」という訴求をしたいと考えています。その際、AQUOS模型(カイト)の出番です。60インチと40インチを比べて、こんなに大きさが違います、こんなスペースに置けます、といったことが実感できるアイテムで、訴求力がアップします。

もうひとつの戦略は、フリースタイルAQUOSです。例えば20インチのフリースタイルAQUOSは手軽に設置できるので、普段は棚の中にしまっておいて見る時だけ取り出すということができ、子供部屋にも今までにないご提案ができます。アンテナ線もいらず、部屋の中にテレビラックを置く必要もなく、部屋がすっきりします。

当社は、こういう価値提案ができるテレビを持っています。価格は少し高い。だからこそ、ご販売店様の単価アップに繋がります。お客様の生活シーンを変化させます。もっといい生活、もっと楽しい生活のために、お客様にお金を払っていただく。そして、AQUOSでどんな生活ができるかを説明するために、私たちは、常に新しい提案を行っていきます。

プラズマクラスターイオン発生機やヘルシオといった商品は、従来にない商品でした。それを当社は世の中に拡げ、お客様の生活シーンを変え、楽しく演出してきました。次は、大型サイズとフリースタイルで、液晶テレビのある生活を変えていきます。これからも様々な生活提案を行う当社の営業マンが全国を走り回ります。

── 今後の店頭が楽しみですね。

 フリースタイルAQUOSの店頭展示では、いろいろなご提案があります。洋服のように何枚も吊り下げたり、ただ壁に掛けるだけでなく設置棒を使って少し飛び出させたりすることで、薄さを実感させたり。フリースタイルAQUOSは何台ではなく、何枚売った、何枚展示してきた、と表現していきます。スペースやご予算にゆとりのある方には、大きいサイズのフリースタイルAQUOSをお選びいただきます。場所も選びませんし、壁に掛けることもできます。11月にはテレビコマーシャルも導入して、店頭を大いに盛り上げていきたいと思います。

これまでアナログ停波前の駆け込み需要や、エコポイントの支援もあり、そういう中で営業は少し工夫が足りなくなっていると感じています。だからこそ、プラズマクラスターを訴求した時のような、地道な営業活動が必要です。テレビに関して、これからもっと新しい、単価アップが出来るような提案を図っていきたいと思います。このために基本に立ち返った営業に改めて取り組んで参ります。

営業の真髄は商品を好きになること。商品を好きになる営業マンは、モノが売れます。お客様に対して、自分の言葉で「これはいいですよ」と伝えられる。我々が元気に市場を活性化すれば、「またシャープが新しいことをやってきた」とご販売店様にも喜んでいただけると思います。

日本のマーケットに魅力的な日本製品を入れて、多くの人たちに買ってよかったと思っていただきたい。そんなモノづくりを事業部と一緒にやっていきたいですし、営業として、その商品の魅力をお客様にしっかり届けたい。そういうこだわりを持ち続けて営業活動に取り組んでいきたいと思っています。テレビ売り場に元気を蘇らせるのは、当社の重要な役目だと思っています。

◆PROFILE◆

新 晶氏 Akira Atarashi
1974年3月シャープ(株)入社。2003年6月シャープエレクトロニクスマーケティング(株)常務取締役 西日本広域第二統轄就任、2005年4月同社専務取締役 西日本広域第一統轄就任、2008年8月シャープ(株)健康・環境システム事業本部 副本部長 兼 国内営業統轄就任、2009年10月同副本部長 兼 冷蔵システム事業部長就任、2011年10月シャープ且キ行役員 国内営業本部長就任。

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