遠水 清氏

今こそ価値訴求の基本にもどる時
さまざまな角度からお客様の動向を?む
(株)ヨドバシカメラ
販売本部 店舗企画担当
遠水 清氏
Kiyoshi Tomizu

「地デジ化」が終わった。AV業界全体が、テレビ販売に大きな軸足を置いたこれまでの姿勢から、次なる付加価値を訴求できる体勢へと方向変換を迫られている。販売の最前線である店頭はどう動くのか。ヨドバシカメラ全店でAVの店頭づくりを担う遠水氏を直撃、次のステップへ着々と準備をすすめる昨今の状況を伺った。

 

パソコンが苦手、わからない、では
これからのオーディオは売れない

 

カテゴリーの融合はお客様目線で
よりよいアプローチをとり入れる

大型テレビにシアター
リビングのイメージで訴求

── 「地上デジタル放送完全移行」が実施されました。今後のAV商品の展開についての戦略、店頭がこれからどのように変わっていくのかお聞かせください。

遠水 テレビ販売ということでは、中・小型の買い替えがさらに進む上、大型の買い替えもあって大きく落ち込むことはないと思われます。年末に向けしっかりと売っていきたいのは当然大型サイズ、じっくり構えて展開し、3Dも仕切り直して積極訴求したいですね。
新しい売り場展開へは、8月から着手していきます。そして9月〜11月と熟成させ、年末商戦を迎え撃つというシナリオです。試行錯誤しながらいいものをあたためていかないと、お客様を動かすのは簡単ではありません。またさまざまな角度からのアプローチを考えないと、テレビは難しいと思います。

しかしお客様の方では、新しいことのできるテレビを欲しがっています。プラズマテレビ、液晶テレビの初期モデルを買った方の買い替え時期に入ってきました。当初50インチのプラズマテレビを100万円でお買いになった方にとって、今値ごろ感のあるいい商品がたくさん出てきています。あとはメーカーさんとどれだけしっかり手を組んで、売り場提案や販売戦略を構築していけるか。そこが大事ですね。今こそ基本にもどる一番いいタイミングだと思います。

店頭では、たとえば3D対応となる大型テレビの上位機種にホームシアターを絡め、リビングを想起させるイメージで見せる。さらにDLNAネットワークを絡めるということが理想的な展開だと思います。こういう展開は中・小型サイズのところでは無理がありますが、メインテレビの大型サイズを中心として、富裕層をターゲットにいろいろなコンテンツのいろいろな楽しみ方をトータルでご提案していきたいと思います。

3Dはメガネスタンドを立てた店頭提案も話題になりましたが、その段階は終わりました。今はとにかくコンテンツの拡張をお願いしたい。ハードではLGさんも提案するパッシブタイプが出て来ましたし、まだ広がる余地があります。それなりのコンテンツを見せ、3Dはどう違うかというアピールができなくては。展示の仕方もインチアップにつながる、メーカー間の違いを分かりやすく見せるといったやり方を取り入れていくべきと思います。そして「3Dテレビは一番性能のいいテレビ」といったアプローチをさらに強化していくことですね。

── リビングを想起させる売り場というのは、これまでなかなか実現できませんでした。

遠水 これは、仕掛けていきますよ。リビング・ネットワークの雰囲気が十分に出るようなものを考えております。そこでのホームシアターとのコラボは非常に重要ですね。3Dコーナーにホームシアター、ホームシアターコーナーに3D、と双方から引っ張ります。楽しみ方をどんどん増やしていくという考え方です。

テレビ売り場ではフロントサラウンドもラックシアターも定着してきましたから、次はサブウーファーのついたもう一つ踏み込んだシアターシステムに注力し、テレビコーナーで大きくアピールしたいと考えています。そこでバータイプのシステムは有効です。本来はそこから段階を踏んでAVアンプまでもっていきたいところですが、現実的な落としどころをつくるのが肝心です。いろいろなパターンのホームシアターを用意し、それぞれ体感できるようにしておきます。

── シアターシステム以前に、テレビの音を聴きやすくする外付けスピーカーも大きく訴求したいアイテムです。

遠水 これはいけると思っています。売り場では、音をよくしたいが難しいからホームシアターはいらないという方もたくさんいらっしゃいます。まだそういうご要望に対応できる商品は非常に少ないですが、こういう需要の多さを各メーカーさんにもお話ししていますから、これから期待できますね。こういう商品も、お客様の音に対する関心度を高めるきっかけのひとつになります。

── シアターシステムの最終形はAVアンプです。今年はネットワーク対応が進んできて、マルチサーバーという様相になってきました。

遠水  いいことだと思います。さらにUSB DACも入れて欲しいとメーカーさんに要望しています。ただあんなに大きな筐体ではなく、日本の家庭事情に則したコンパクトなサイズ、女性に受け入れていただけるようなデザイン性が必要ですね。現状では、女性は一目みて敬遠します。メーカー各社さんは色々と努力されていますが、女性に響くかという意味ではまだまだだと思います。もっとダウンサイジングして、薄く、幅を狭く、iPodもつなげるドックがついているようなもの、それくらいのところを実現して欲しいです。

── AVアンプは、ネットオーディオの範疇に入りませんか。

遠水 もちろん入ってくると思います。ただ店頭でそこをあまり強調すると、AVアンプ本来の機能や魅力がぶれてしまう恐れがありますので、ネットオーディオのコーナーにはあえて入れていません。AVアンプはあくまでもホームシアターを構築するアイテムという考え方です。

── DLNAの展開については、いかがでしょうか。

遠水 部屋をまたいでコンテンツを楽しめるということで、どういうものなのかというような問い合わせが少しずつ増えています。店頭では、まずこれをわかりやすく紹介するようなところから始めていきたいと思います。店内ではWiFi環境をそこら中につくってしまうと混線しますから有線で、そして分配器も必要です。ネットワークは特に体感しないと伝わりませんから、YouTubeでもアクトビラでもまず興味をもっていただいて、そこから拡げて全体を見せられるようにしていきたいと思います。これからは接客時間にも余裕ができてきますから、大型は特に時間をかけてじっくり説明して、単価アップにつながるいいものを訴求したいと思います。そうして勢いをつけて12月につなげたいですね。

ネットオーディオに手応え
若者層も動き出した

── ネットオーディオをマルチメディアAkiba店、マルチメディア京都店を皮切りに積極展開されています。昨今の状況はいかがでしょうか。

遠水 これまで試行錯誤をしながら店頭を変化させてきましたが、方向性が見え、ネットワーク系、USB系と分けたアプローチを取り入れています。業界にはネットオーディオは難しいという先入観が随分ありましたが、決してそうではなく、使い方さえわかれば楽しいですよ。我々はまず入り口からのアプローチに注力し、まずPCに入っているファイルを楽しむというところから表現しています。昨今ではその上でハイレゾ再生に対応したDACが動く傾向にあり、若い方が購入されています。単品コンポは10万円以上のものでないと、という感覚の方ですね。

── ネットオーディオに最初に反応を示されたのは、どちらかというとこれまでオーディオに親しんできた年配の方々が中心で、若い方は価格面から敬遠されていると聞いていましたが。

遠水 昨今ではむしろ若い方の方が多いと思います。ヨドバシカメラのオーディオコーナーはエントリー層へのアプローチに力を入れているということもありますが、特に若い方の動きが顕著です。

また年配の方は、アナログの音源のよさをわかっておられ、CDも理解しておられ、さらにUSBオーディオもやってみようという方が多いですね。こうした層の方々はネットオーディオへの取り組みも早くから始めているケースも多く、インターフェースの頃からやっていたという方も結構いらっしゃいます。知識のレベルも非常に高いですね。

このように年齢層が幅広くなったとともに、出て来る商品の価格帯も幅広くなって、さらにオンキヨーさんやラックスマンさんなど国内メーカーがUSB DACに参入されて、一気に盛り上がったと言えます。

メーカーさんに対してはDACを早く出してくださいと以前からお願いしておりましたし、マランツさんやヤマハさんがネットワークプレーヤーに参入されたことにより、ネットワークも盛り上がりました。マルチメディアAkiba店ではこうした動きを受けて、LANでつながるコーナー、USB DACでつながるコーナーをつくったのです。またケーブルだけをひとところにまとめたりもして、コーナー全体をゆったりと使った展示を行っています。

入門クラスとして初めてUSBオーディオをやってみたい、雑誌を読んではみたもののどれを選べばいいのかわからない、といったお客様がいて、比較的若い方が多いですね。問題意識も高く、いいものを求められます。

またさらに上のクラス、ひととおりネットオーディオをやってみて、ハイレゾ再生が楽しくてしょうがないというハイエンド寄りの方々がいて、この二手に分かれている感じですね。そしてその境目がだんだんなくなってきています。用途によってインターフェースを使う、またはDACを使うというような感じです。お客様自身が何を使ってどうしたいかということをよくわかっておられます。

また一方で、USBオーディオをやるためにまずPCを買うという方も増えています。PC売り場で購入したものをそのままオーディオ売り場にもってきて、システムを組んでほしいとおっしゃる年配の方もいらっしゃいました。

── オーディオ売り場ではPCにまで踏み込んだ対応をしなくてはならなくなりますね。

遠水 今や我々もそうでなくてはならないと思います。これからは、オーディオを売っていくのにパソコンが苦手、わからないでは通用しないでしょう。FLACとかWAV、ASIOドライバーといった言葉を聞いた時にすぐ応えられるような勉強をするのは当たり前。今はUSBケーブルの音の違いまで訊かれるようなところに来ていますから。

── そういったところは、個人の技量に任せておられるのですか。

遠水 社員にはまず雑誌を読めと言っていますね。興味をもっている者も多く、若い社員は吸収も早い。日頃からパソコンに親しんでいる人間が増えていますから心強いです。そしてネットで店の評価を見て、さらに闘志を燃やすわけです。ありがたいことにネットでもご評価をいただいていることもあって、当店はお客様に理解していただけているのかと思います。

遠水 清氏品揃えに緩急をつけつつ
全店で体感の環境を整備

── 全店規模でのネットオーディオコーナーの進捗状況はいかがでしょうか。

遠水 マルチメディアAkiba店、マルチメディア京都店でスタートし、マルチメディア川崎ルフロン店、マルチメディア仙台店は完成しました。今マルチメディア横浜店を手がけており、さらに新宿西口本店をもう少し拡張していきます。そういう流れで基本的には全店で訴求する予定でおり、直近ではマルチメディア札幌で仕掛ける予定です。

マルチメディアAkibaやマルチメディア京都で試行錯誤して、ベースの展開がわかってきましたので、それを各店に降ろしていきます。そういう中で、旗艦店と中・小規模店では品揃えに変化をつけていきながらやっていきます。単品コンポと同様の展開ですね。旗艦店のようなマニアックな品揃えは中・小規模店ではうけません。それよりも国産のメーカー、特に普及価格帯を中心に身近なところで品揃えを拡げて浸透させていきたいと考えています。

間口を広く、そして体感できる店頭づくりというのは全店共通です。ネットワークにつなげて音を出すところまでもっていくのが理想ですが、まずはリッピングしたコンテンツを再生するところから。ディスプレイにジャケット写真が出て、PC音源が鳴っているというところをお見せすれば、お客様は十分ついて来てくださると思います。

ネットワークのところはLAN環境を整えて、しっかりやっていこうと思います。一方でDLNAのネットワークについても大分浸透してきました。ネットワークへの取り組みはまだまだですが、そんな風に少しは広がってきたというところです。

お客様に対峙してこそ
求められる売り場ができる

── オーディオ全体がこれから盛り上がりそうな予感がありますね。

遠水 オーディオ熱の高まりには期待しています。ネットワークオーディオを始め秋からいろいろな商品も増えて、勢いが広がってくると思います。そうなるとアンプやスピーカーも動きます。またオーディオイベントのシーズンになれば、そうしたところの盛り上がりにも期待したいですね。

── イヤホン、ヘッドホンの手応えはいかがでしょうか。

遠水 これは相当先まで安定して動くと見て、強気でやっています。ただ、ヘッドホンのお客様とピュアオーディオのお客様は、明らかに違いますね。ここの橋渡しは難しいと思います。最寄り品として売れる価格帯のお客様に対しては、ドックスピーカーというようなアプローチもできますが、マニアとして高額ヘッドホンを収集されるような方は、単品コンポやシアターのお客様に近い感覚です。けれども、こういう方がオーディオの方に行くかというとそうではないですね。

さまざまなタイプのお客様がいらっしゃるからこそ、売り場を広くとっていろいろなことをやらなくてはいけません。ヘッドホン、イヤホンそのものの品揃えもそうですが、イヤーピースひとつとっても重要です。昨今ではスマートフォンのコーナーでもイヤホンを展開していますし、多角的なアプローチでやっていく必要があります。

── 昨今は商品がカテゴリーの垣根を超えて、売り場でどんどん融合している状態です。販売員さんも多くのスキルを要求されますね。

遠水 ネットオーディオによって、当初の予測より早い段階からオーディオ売り場にPCが入ってきたわけです。さらにiPadやスマートフォンがよりオーディオに近いところにきていますし、こういう傾向はさらに広がりますよね。

そういう中でも販売員は、商品知識をもっていて当たり前という考えで取り組まないとお客様に対応できません。本当は自分で買って試すところまでやって欲しいくらいです。それでも、御社の出しておられるような雑誌を読むだけでも、かなりの知識はつきますよ。

PCを買って、ネットワークをこれから構築するというお客様に対しても、やはりオーディオをやられるからにはオーディオの売り場が対応するべきです。RADICOひとつとっても、パソコン売り場ではなかなかその魅力を説明できません。USB DACもパソコンの売り場ではなく、オーディオの売り場で説明する商品です。

売り場の融合も、いろいろと試行錯誤しながら、よりその商品や用途に合う売り場でアプローチするような状況に自然に変わると思います。MP3のポータブル機やDACは当初パソコンの周辺機器として扱われていましたが、ヨドバシカメラでは川崎店のオープンの頃にそれをオーディオコーナーに入れて、オーディオとしての売り方を展開することにより拡大できたのです。

アプローチをかけて見極め、あわなければ戻す。そうして拡げていくのです。売り場に入ってお客様の動向に対応していれば、自ずといちばんいい流れがわかるのですから。

◆PROFILE◆

遠水 清氏 Kiyoshi Tomizu
1954年生まれ。'78年(株)ヨドバシカメラ入社。'81年東口店カメラ売り場責任者、'83年西口本店AV売り場責任者に。'85年西口本店副店長、'90年横浜駅前店店長を歴任、'94年仕入れ担当に就任。2001年販売本部 店舗企画担当に就任し、現在に至るまで全店AV売り場の店頭づくりを手掛ける。

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