大瀧正気氏

新たな需要喚起が必要条件
AVとPCの価値融合を図る
オンキヨーマーケティングジャパン(株)
代表取締役社長
大瀧正気氏
Seiki Ohtaki

昨年12月よりスタートしたオンキヨーの新たなグループ体制の中で、販売会社として設立されたオンキヨーマーケティングジャパン。オーディオとPCを両輪として事業展開を図るオンキヨーグループは、業界の一大テーマであるネットオーディオをけん引する存在として大きな注目を浴びる。新たな価値創造に向って躍進する同社の取り組みを、代表取締役社長の大瀧氏に聞く。

 

新たな価値を伝えるための
縦割りでない店頭展開が必要

2chの展開を強化
新しい需要を喚起する

── 大瀧さんが社長に就任されたオンキヨーマーケティングジャパンは、グループ再編により新設されました。まず概要をご説明ください。

大瀧 昨年の12月1日に、会社分割を行い持株会社体制に移行し、4社を設立しました。AV事業のオンキヨーサウンド&ビジョン、PC事業のオンキヨーデジタルソリューションズ、OEM事業のオンキヨーディベロップメント&マニュファクチャリングの3社が事業会社であり、もうひとつが当社オンキヨーマーケティングジャパンで、AVとPCの国内販売事業に携わっています。

国内営業所は東西に2つ、リソースを減らす一方でマーケティングの強化を図っています。PDCAサイクルやABC分析、SWOT分析といったことを全員であらためて勉強し直し、きっちりとものにしました。販売店様訪問時は、「オンキヨーならこれができる」というソリューションを必ず持っていくということです。

AVについては、「伸びない市場で稼ぐ」ことを考えなくてはなりません。そのため顧客創造とブランドの構築、そして収益力の強化といったことに注力しています。特に顧客創造については主力方針としており、自らお客様を取り込む、新しい需要を喚起するということを積極的にやっていこうと思っています。

── 昨今の取り組みはいかがでしょうか。

大瀧 新しい需要を喚起するということで、具体的にはまずPCオーディオ、ネットワークオーディオということになるでしょう。またテレビ関連ならばホームシアター、さらに顧客創造という意味ではピュアオーディオについても別の切り口があると思います。当社は昨年末に「P-3000R」「M-5000R」というセパレートアンプを出しましたが、これを皮切りに今年「ピュア元年」として2ch商品の展開に注力していきます。新しい価値提案をしてお客様をつくり、自らのブランドを構築するということです。

私どもはオーディオメーカーでありたいという強い思いがあります。オーディオメーカーらしく、なりふり構わずオーディオを復活させなくてはなりません。目的としては、抜けている部分の中間価格帯をやっていくということです。

今オーディオは二極分化の状況になっています。当社には「FR」というコンパクトシステムがあって、累計で100万台以上というロングラン商品になっていますが、そのお客様が次に買うためのアイテムがありません。セットで5万円〜7万円といったFRの次は一気にセパレート、単体で20〜30万円の世界になってしまうのです。店頭においても、専門店様は下の価格帯のものは扱わず、量販店様は手離れのいいiPodまわりなど2万円前後のものを中心にやっておられます。そういう風に上下に分化していて中間がないという現状に対して当社はそこを狙い、この夏からピュアの2チャンネル商品のラインナップを強化していきます。

地デジ化の宴が終わったら、いよいよ次は音です。PC、ネットワークオーディオもこれからどんどんやっていかなくてはなりません。当社は2007年にいち早くオーディオPCを発売しましたが、このリソースが今一番活きるだろうと思っています。こうした方向性と時代の流れがまさに同期してきたという実感がありますね。

── 当社でも「ネットオーディオ」という雑誌が非常に好評ですが、「ネットオーディオ」という大きなジャンルにPC/USBオーディオもネットワークオーディオも包含するという考え方です。まずこうしてジャンルをつくらないと、市場が拡がっていきませんからね。

「radiko.jp」に手応え
ネットオーディオを推進

大瀧 大きな手応えがあったのは「radiko.jp」です。先日「TX-8050」というネットワーク対応のレシーバーを発売しましたが、これで「radiko.jp」が聴けます。エアチェック世代に受けて、非常に好調に推移しています。これでネットワークオーディオの大きなスタートを切ったと思っています。

昨年末に「DAC-1000」という単品のDACを出した際、これは特殊な商品で一部のお客様向けではないかと私も思っておりましたが、非常に好評です。昨今のお客様のリスニングスタイルは明らかに変わっているわけですね。手持ちのオーディオにDACをつないで、既にPC音源を楽しまれているのです。コンテンツを貯めて引き出すという文化は、ここに脈々と受けつがれているわけです。

「ネットオーディオ」という言葉はジャンルとして一般的になりつつありますね。新しいものをお客様に訴求するにはまず整理して、伝える手段として雑誌メディア、そして店頭戦略。しかし店頭はまだ体験していただくための仕掛けが十分にできていません。各法人様でトップの方々に私もいろいろな提案をさせていただいておりますが、あらゆる店頭に浸透するのはまだまだこれからです。AVもPCも熟知した強みを活かし、当社こそ価値融合させることができると思っています。

── 昨年はテレビの販売台数が2600万台と言われ、まだ地デジ化していないものが4000万台あると言われています。テレビが一気にデジタル化されますと、次は音に期待が集まりますから、テレビシアターへもつながる多くの潜在需要を掘り起こし、取り込んでいかなくてはなりませんね。すでにAVアンプが活況ですし、いい傾向です。ここでも、お客様と接する店頭でうまく展開できないといけません。

若い世代は、新しいものの価値を瞬時に判断して取り入れる能力が高いですね。膨大な情報の中から自分に必要なものだけを上手にすくい出して活用する。AVも、そういう感性にぶつけられるようなジャンルづくりが必要かもしれません。

チューナーアンプは年配にしか受けないという傾向があるようですが、かえって若い世代にとって新しいジャンルとして認識させることができそうです。AVアンプも非常にマニアックなところでの展開となっていますが、これも同様です。

大瀧  その名称は、「次世代ハイコンポ」とするのがいいでしょうね。そうしたコーナーが店頭にできれば、いろいろな手が考えられそうです。

オンキヨーならではの強みで
PCとAVの融合を図る

大瀧正気氏── PCの展開についてはいかがでしょうか。

大瀧 ここでは今回の震災の影響がますます大きく出ると思われます。重厚長大なもの、電力消費が大きくバッテリー寿命の短いものが一気に敬遠されるようになりました。デスクトップとノートでは、もともと8割の構成比がノートではあれ、デスクトップもそれなりに存在価値があったのです。しかし震災の後デスクトップはますますシュリンクする傾向にありますし、ノートもさらに軽く小さく、バッテリーの長寿命が求められています。また今後企業の在宅勤務が増えてきますと、シンクライアントやクラウド化も進み、PCの概念自体が変わっていくと思います。

昨年当社は国内メーカー初となるWindows7をOSとした「スレートPC」を出しました。これからの商品ですが、いろいろなお客様に対応し市場を育てる意味でも重要なカテゴリーだと思っており、これを核としてPC市場における上位のポジションを獲得したいという思いがあります。

また、オールインワンPCにおいて圧倒的な音のよさを打ち出したモデルを展開しておりますが、この店頭展開は非常に難しいですね。昨今ではPCとAVがいよいよシームレスになってきていますが、量販店様の組織ではPCとAVが縦割りのままとなっています。ここに横串を通した展開ができなければ、PCの展開もそうですが、ネットワークオーディオにおいても訴求が進みません。

たとえばセンターはスレートPCでパッケージメディアもメモリーカードもWEBコンテンツも扱え、圧倒的に音がいいというような商品をご提案したとしても、ご販売店様にとってはどこの売り場で扱うのだ、AVとPCのどちらの売上げになるのだということになってしまうのです。私としては、新たな組織をつくっていただきたいという思いです。ネットオーディオはブレイク直前のせっかくのチャンスを迎えているというのに、店頭でお客様の体験の場を作れなければ意味がありません。これからは特にPCとAVを隔たりなくやっていくのが大テーマであり、それを主張できるのは当社しかいないと思っているのです。

またテレビの音ということについても、音の専業である我々にもチャンスが大いに広がってきます。エコポイントで取得したポイントを、いい音で聴くということに使っていただきたい。そういうことに役立つのであれば、オーディオシステムがテレビ周辺機器として扱われてもいいと思っています。お客様の関心が高いテレビの音という切り口で、オーディオシステムをテレビコーナーでも展開していただきたいということです。そしてホームシアターにおいてももっとネットワークの色合いを出し、先を見据えた訴求をしなくてはいけませんね。

体験の場を拡げていき
売り場は変わらなくては

── 昨今のAVアンプは特にネットワーク対応を強化してきましたが、やはり売り場でそれが訴求できていません。「AVアンプ」としての機能説明に精一杯で、ネットワークまで手が回らないといいます。大瀧さんのマーケティング手法で、ぜひ業界を変えていただきたいですね。

昨今では専門店さんがネットオーディオにかなり注力してきました。テレビまわりでもApple TVを含めてネットワークに取り組んでおられます。このあたりが功を奏して、オーディオにPCのお客様も入ってきて、年配のオーディオファンもネットオーディオに着手し活性化してきました。しかし、やはりここでも新しい若い世代はまだ取り入れられていませんね。ここに一番アプローチできる存在がオンキヨーさんではないかと思っています。

大瀧 オンキヨーマーケティングジャパンとしては、顧客創造という主力テーマにおいてPCとAVの価値融合をしなければ存在の意味がないと思っております。チャネルにおける組織の縦割りの問題があるにせよ、当社としては市場に居場所をもって時代を先取りし、PCとAVの双方をうまく結びつけるような商品を出すというマーケティングをしていかなくてはいけないという思いを徹底させています。そうでないと、市場は今伸びていないわけですから。

AirPlayについても展開をじっくりとにらんでおり、やるということになればなりふり構わずの勢いでやらなくてはと思います。お客様のリスニングスタイルが変わってきた今、AirPlayはひとつのキラーコンテンツだと思います。

また当社グループではロックバンドクイーン≠フハイレゾ音源を世界で初めて配信し、店頭ではそのデモ音源を流しています。ソフトを絡めた手法というのも重要ですね。あの手この手でお客様を引き寄せることが必要ですし、何よりもお客様に体験していただく場づくりが必要です。

これから売り場は変わっていかなくてはならないと思います。今販売店様では成長戦略は混沌としており、太陽光発電やオール電化、リフォームもある中で何をすればいいのかと必ず言われます。お店はどんどん売り場が広くなり今や1000坪規模ですが、商品で埋め切れなくなっているのです。

そういう時、オーディオを使ってくださいと申し上げています。お客様がレコードを持ち寄っての試聴会でもいい、楽しくイベントをやればいいのです。気軽に来て、音を楽しめるスペースをつくってみてはと提案しており、やろうと言う声もいただいています。また、音を語る講習会なども始めておりますが、そういう地道な活動も大事だと思います。お客様の体験の場を増やし、市場を刺激してきたいですね。

◆PROFILE◆

大瀧正気氏 Seiki Ohtaki
1947年8月生まれ、長野県出身。2008年10月オンキヨー(株)国内営業部長に就任。10年12月オンキヨーマーケティングジャパン(株)代表取締役社長に就任。現在に至る。

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