校條亮治氏

人間のあるべき姿を見つめ直すとき
よりよい日本流の価値を提案していく
日本オーディオ協会
会長
校條亮治氏
Ryoji Menjo

未曾有の大震災が消費動向に大きな影響を及ぼす中、AV市場にはエコポイント制度の終了、そして、来る地デジ化の終了で大きな転機が訪れようとしている。あらためて心の在り方、そして価値というものの在り方を見つめ直すときではないだろうか。こうした思いを礎に日本の家庭環境に相応しいホームシアター、オーディオの輪郭づくりへと一歩先を見つめての活動を始めている日本オーディオ協会の校條会長に話を伺った。

一般社団法人となった
日本オーディオ協会

── 4月1日から日本オーディオ協会は一般社団法人となりました。経緯をご説明いただけますか。

校條 数多い行政法人を見直し効率化しようという国の方針で、多くの条件が新たに公益法人に課せられることになりました。我々も公益事業を行う特定法人であることで財政的にメリットを与えられてきましたが、新たに求められるものに対してすべてに応えることはできないという結論に至り、一般社団法人として活動して皆様のお役に立とうということになったのです。昨年の総会で変更した定款を内閣府に提出し審議をしていただき、この2月にようやく内閣総理大臣の承認が下りたということです。

一般社団法人ですから、会社法と同じように新法により責任を問われます。つまり赤字の垂れ流しは許されず、理事は経営に対する全責任を負い、社会に対する弁済の責任も負うということ。新法は会社法の取締役と同義語の責任を理事に求めていますから、それで理事会が強くなったことは事実ですし、理事会が取締役会の決議と同じような役割をもっています。最高決議機関は総会であり株主総会と同じですが、理事会がすべての執行計画の責任をもつ。不祥事や赤字ということに対して理事会が全責任を負うということです。一方もともと公益法人で資産形成がなされてきたため、従来の活動は新法ではその資産を公益に還元しなさいという考え方です。何年かの計画で資産を公益に資するための公益事業計画を出さなくてはいけません。

そして一般社団法人としては、一般の会社と同様に投資をしたら回収し、健全な経営計画をつくるということです。日本オーディオ協会は日本の中でもめずらしい団体で、個人会員が約360人いらっしゃいます。普通こういうものは業界団体だったり個人加盟の個人クラブだったりするわけですが、我々のところは個人と法人が一緒になっていて、法人団体としての特性も要求されますが、一般の会員の期待にも応えなくてはいけません。

こうして一般社団法人に変わったものの、我々の目的は日本の文化たるいい音をどこまでも追求して、それを享受される消費者の方々に感動文化を長く継承していくことだと思います。公益と、一般社団法人としての事業もしっかりやるという二面性が要求されます。そこで今期中に中期経営計画として、ここ3年から5年くらいの事業計画を設定していこうと思っておりますが、来年6月に60周年を迎えるのでそれを見越した内容になると思います。

復興支援のためにも
イベントの火は消さない

── A&Vフェスタについておきかせください。

校條 これについては開催するということで合意しています。東日本大震災によって、さまざまなイベントが自粛される傾向にありましたが、現状で考えられることは被災地の方が必ずしもすべてに自粛を望まれているわけではないということです。自粛が過ぎて日本経済に影響を及ぼし、結果として被災地の復興支援ができなくなるのも困ります。やるべきことを粛々とやるということが、我々に求められていることだと思っています。亡くなられた方、被災された方に対するお見舞いの気持ちを忘れてはならないのはもちろんのことですが、経済産業省もここに来て、産業の基盤となる色々なイベントや啓発事業などを行うという方向になりました。

オーディオの4団体は、ハイエンドオーディオショウ実行委員会と真空管オーディオ協議会、輸入オーディオ協議会、そしてオーディオ協会ですが、ハイエンドオーディオショウ実行委員会と真空管オーディオ協議会とは、我々も直接話をしています。こういう状況下ですが、復興支援ということを御旗に立ててそれぞれのイベントをやるという合意ができていますし、輸入オーディオ協議会もやるという方向性を固められたと聞いています。復興支援とともに、オーディオイベントの火を消さないという気持ちでおります。

── スポーツなどさまざまなイベントが開催され、「皆で頑張ろう」という気運が高まっています。こういったイベントが、日本人の気持ちを前向きに高めていくきっかけにもなりそうです。

校條 イベントやお祭りごとというのは、本来そういうものだと思います。今、やはり心の在り方というものが問われているのだと思います。日本は高度経済成長以降ずっと突っ走って来ました。何でも1番であればいいという思いで、その勢いはややもすると浮ついたものになってしまったのではないかと思います。しかし震災が起きてそこから復興させなくてはいけないというとき、本来人間のあるべき姿をあらためてしっかり見つめ直すことが重要だと思います。そしてオーディオや音楽、文化というものも人間本来に求められるものだとすると、なくなっていいというものではないと思います。

日本流<zームシアターの
ガイドラインを定める

校條亮治氏── オーディオ市場の今後の展望についてはいかがでしょうか。

校條 2010年はオーディオ業界にとって非常にいい1年だったと言えるでしょう。カテゴリー別の台数、金額とも5年ぶりに前年をクリアするという結果になりました。その要因がいくつかあります。

ひとつはホームシアターシステム。薄型テレビの広がりに触発されて、AVスピーカーなどが爆発的に売れたということです。もうひとつの顕著な事例として、ヘッドホンの市場が高額商品にシフトしているということが挙げられます。いい音で聴きたいというニーズが増えたのは大変いいことですし、今後も期待したいと思います。

また、CDプレーヤーが一昨年に続いて昨年も前年比2桁近い成長をしました。ポータブルが据え置きと比較して圧倒的に台数構成比が高いのですが、伸張率は据え置きの方が高いのです。それはなぜかと考えると、世の中にはCDソフトが何億枚という数で出ています。CDはある意味代表的なフォーマットであり、音楽愛好家にとっては最大のコンテンツフォーマットなのだからでしょう。それを聴くためのプレーヤーとして、買い替えの需要が高まっているということもあります。また真空管アンプとCDプレーヤーとをジョイントしたアナログとデジタルの融合商品も出て、若い方々が新たな魅力を見いだしたことも貢献したようです。

このように見ると、今ユーザーはただ音を聞ければいいというところから、質のよさといったものを求めてシフトして来ている感じが致します。新しい分野ではいくつかのフォーマットも出て、ようやくにしてネットオーディオ、USBオーディオというところのコンテンツフォーマットが昨年一年間でも大分出てきました。そういうところに先行する方々が触手を伸ばしたというところもあります。

我々も3年ほど活動を続けて来たライブ録音のICレコーダー分野を見ると、ICレコーダーも大変高性能になって機器もかつてとは雲泥の差があります。これが120万台というところまで伸びてきました。また音楽愛好家が使われるPCMレコーダーも伸張しており、台数はおそらく37万台程度といったところですが、成長率が非常に高いものです。

たしかに昨年は大画面テレビというけん引力はありましたが、もう少し良く見てみるとこのようないくつもの芽があって、オーディオの有り様というところに少しずつ変化が見えて来たのだと思います。

そこで今年2011年以降はどうあるべきかということを考えますと、ただ従来のような市場が大きくなればいい、売れればいいということだけではなく、感性価値をもう一度理解いただけるような活動が重要になるのだろうと思います。

そのひとつはまずホームシアターです。日本にはなかなかホームシアターが普及しません。2500万台からの大画面テレビが売れたというのに、別売のスピーカー装着率はわずか3.5%程度といったところ。欧米との文化や住宅事情の違いもあります。しかしその要因は、日本流の映像と音の融合の在り方が確立されていないからではないでしょうか。我々自身がそれに対するこたえを出さなくてはいけない。質の高い画と音の融合したコンテンツをしっかりとユーザーに届け、ユーザー自身が取捨選択できるようにしなくてはならないと思います。

日本オーディオ協会の組織に「デジタル・ホームシアター普及委員会」というものがあって、これは日本流のホームシアターを普及させるための組織です。方向性の整理ができて、昨年からオーディオ協会からのライセンス発行もして、本当の意味での人材育成をやっています。昨年はそれを3回ほど行い、今年はもっと大々的に行っていくわけです。

テレビ販売ということでは、業界全体がエコポイントに触発されてただ売ればいいという状態でここまで来ました。その結果台数は飛躍的に伸びましたが、テレビ事業はどこの会社も赤字に陥ってしまいました。これではビジネスモデルとしておかしい。何もボロ儲けする必要はありませんが、やはり適切な利益があって次の投資につながり、その投資がユーザーへの還元につながります。

これまでの訴求の仕方にも問題がありました。ホームシアターシステムのデモはだいたい映画の派手なアクションシーンですが、お客様は大きな音で尻込みしてしまい、あれでは隣近所の迷惑になって家では使えないとおっしゃるのです。それは大きな間違いであるということを正さなくてはなりません。

協会では昨年1年間かけて日本の中でのホームシアターの設置事例を集め、日本流ホームシアターの設置の在り方についてのガイドラインをつくろうとしています。日本においてホームシアターを施工する場合、これなら映像の作者の意図が全部伝わる方向性のガイドラインです。そういったことで施工、設置する際の販売店や施工従事者の指針になれば、また日本のいい画、いい音の技術を消費者の皆様にしっかりお届けしようという思いです。

粛々と提案を続け
お客様の期待に応える

── 「第三世代オーディオ普及委員会」についてもご説明いただけますか。

校條 これはネットオーディオ、PCオーディオといった分野に関わるものです。コンテンツフォーマットは最終的にスマートフォンのようなところから供給されるようになる可能性が高いと見ております。画像もハイクオリティで送れる時代に来ています。そこに対応できるオーディオ機器はホームとモバイル、ホームとネット、あるいはそれらを総称してネットオーディオと表現されるようなものでしょう。今そこが百花繚乱の状態で消費者も混乱していますから、ここをある程度整理し、選択できる状態にしてさしあげたいと思っています。たとえば用語や技術ガイドなど、協会の中で整理したいということです。

昨年1年間で協会は、ブルートゥース中心にモバイル商品のコーデックと言われる規定値、レベルを測定して整理しました。そういうことをやっていくと自然に広がるピュアオーディオの世界、そこにも注力したいと考えます。ピュアオーディオ市場では総じて高額なものが推奨されていますが、お客様が実際に買われているのはそれほど高価な価格帯ではありません。高額で一部のマニアの方がよろこぶようなものばかりでなく、外で聴いていたモバイルプレーヤーを家の中で別のものにつないで気軽にいい音で聴ける。そんな風な、もう少し若い人たちに支持していただけるようなピュアオーディオを追求したいということです。

オーディオ協会では以上のような3つの軸を中心に展開していきたいと考えています。いずれにしてもそれらの骨子になっているのは「感動」ということです。この秋に行う予定のイベントもそこがテーマになります。

今国内にDAPが640万台?700万台出ています。かつてミニコンポが売れていた最盛期でも台数は200万台ほどです。当時ミニコンは7?8万円くらいの価格帯からありましたが、デジタル化を経て今や2万円台にまでなっています。こうして金額は落ちていますが、市場はなくなったわけではないのです。デジタル化技術が進んで価格が落ち、そこで市場がシュリンクしてきたと見るべきであり、台数が極端に減ったわけでも、ましてや音楽人口が減ったわけでもないのです。そう見ていけば、2013年までに市場を2500億円規模にするという見方(11頁の表参照)もあながち遠い話ではないと思います。

ただし出荷統計を見ますと昨年まで比較的好調にきていたところが、今年3月には震災とエコポイント終了の影響がありましたし、2011年の前半はかなりしんどい状況が続くであろうとは思います。ただ我々としては粛々と提案し続けていくということです。

これだけの大きな震災が起こってご販売店も大きな影響を受けましたし、被災された方にとってはまず生活必需品から確保するということになるでしょう。部品が東北方面に集中していたということで、業界全体がこれから影響を受けざるを得ません。ただこれが未来永劫だめなわけではなく、今年の下期頃にはある程度復活すると私は見ています。

そういう過程の中、消費者は本物を選ぶ過程に来ているのだと思います。そうした中で、我々のやっていることも間違っていないと思っています。

転機の2011年は
店頭訴求も変わる

校條亮治氏── 販売店の方向性も問われそうです。昨年はエコポイント効果でテレビ販売が大きく伸張しましたが、店頭ではテレビ単体を売るだけで精一杯、新しいデジタルテレビや関連する周辺機器との組み合わせによる価値を十分に伝えることができませんでした。

校條 昨年から大手量販さんの経営者の方々とお会いしてきた中で、さまざまなことが見えてきました。昨年はエコポイント、そしてそれを誘引している地デジの対応の材料があって、この2つで攻めに攻めた。もともとはリーマン・ショックをどう払拭するかというところから出て来た盛り上がりでしたが、その「宴」のあとはどうするのか、ということです。メーカーも消費者もとりわけ流通も。派手な宴が終わり、残ったのはゴミの山ばかりということではいけません。今年はそういうことを問われています。

エコポイント終了、地デジ化終了で、今年は転機が訪れます。震災があったからということではなく、宴のあとを考えなくてはいけない。テレビの後に面白い材料を探し、安易にオール電化、太陽光ということではないと思います。我々が本来生業とするのは、お客様にとって本当に必要な情報を付加して提供することです。それが猫も杓子もエコポイントで大画面テレビに群がっているようでは、本当の商売とは言えないのではないでしょうか、そういう話を流通の方々にさせていただきました。

皆さんやはりあるべき方向へ舵を切り直さなくてはまずいという思いでおられます。ようやく宴が終わり、ゴミの山を前にして呆然とするのでなく、本来の流通のあるべき姿をもういちど認識し直していくことは必要であると認識されています。そこで我々が提案するのは、大画面テレビを本当の意味で使いこなすということです。消費者にとってテレビの価格が下がったことはいいのですが、それを使いこなせなければ無用の長物と言われかねません。そうならないよう、デジタルテレビのメリットをちゃんとお伝えすることが流通の役割ではないでしょうか。

── テレビの価値、特に音については店頭でまだまだ訴求しきれていません。またネットワークという切り口も表現し切れていませんね。今はテレビに関連する商品がさまざまに広がっているのですが、店頭ではカテゴリー別の壁があって、それらを一堂に集めることがなかなか困難だという状況があり、まずそこから払拭していく必要がありそうです。

校條 売り場に行くとテレビの大画面だけがフォーカスされていますが、テレビがホームエンターテイメントの中心と捉えると、そこに何がつながるかという提案が現状ではまったくできていませんね。それは流通もメーカーもそうだと思います。

日本のメーカーは端末をつくるのは得意ですが、残念ながらそれらを集合体として整理し提案することは不得手です。流通も単品で幾らという売り方で、トータル提案を行う能力に欠けると思います。消費者の方々にさまざまな組み合わせによるよりよい価値を提案しないと、せっかくの技術が活きて来ない。我々はそれを日本での使われ方に則して整理したいと思うのです。そして流通とメーカー、我々のような第三者の目により提案していく、それが今年の大きな課題になると思います。いくつかの流通さんは宴の後に対する危機感をもっておられますから、私も大変期待しています。

地デジにより高精細な情報も送れて、公共電波を有効活用でき、非常にいいことだと思います。しかし、放送がせっかくデジタル化になっていても、画のよさばかりが取沙汰されて音の面が取り残されています。またBS放送があれだけ高精細で送られてきたとしても、チャンネルの7割くらいはショッピング番組ばかりになっているということは残念ですね。大画面で高精細、高音質ということですから、家にいながらにしていろいろな映像体験ができるのです。伝統芸能や芸術作品、名所風景なども臨場感をもって楽しめるはずなのに、そういうチャンネルは確立していません。またそういうものを楽しむにはもっと再生の際の音のグレードをあげなくてはならないと思います。

コンテンツメーカーの皆さんには、大画面高精細のテレビで見るものとして求められているものは何かを自問自答してほしい、報道ということに対して何を伝えるべきかということを考えてほしいと思います。高音質に対するニーズにも応えていただきたいですし、そして、できたコンテンツに対しては消費者目線でその面白さを享受するためのシステムをどう提案していくか、ということが流通の役割でもあります。それを我々第三者がいち早く展示会などで見せ、解説し、ガイドラインをつくるなどといった役割があるのではと思います。

◆PROFILE◆

校條亮治氏 Ryoji Menjyo
1947 年11月22日生まれ。岐阜県出身。1966年パイオニア(株)入社後、パイオニア労働組合中央執行委員長。パイオニア(株)CS 経営推進室長を経て04 年6月パイオニア(株)執行役員CS 経営推進室室長に。05 年7月パイオニアマーケティング(株)代表取締役社長に就任。2007年(社)日本オーディオ協会副会長を経て、2008 年6月11日現職に就任。2011 年4月1日 日本オーディオ協会は一般社団法人となり現在に至る。

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