栗田伸樹氏

ネットワーク機能を中心に
テレビ需要を再喚起する
ソニーマーケティング(株)
代表取締役 執行役員社長
栗田伸樹氏
Nobuki Kurita

急拡大したテレビ市場において、3D、4倍速などの高付加価値訴求で大きな手応えをつかんだソニー。2011年は、デジタルイメージングや新カテゴリーの電子書籍リーダーとともに、ネットワーク分野に注力していく。大きく広がっていくソニーマーケティングの展望を、栗田氏に聞く。

 

テレビを核にネットワーク時代のリビングルームを提案

テレビの価値訴求に手応え
3Dで6割強のシェアを獲得

── 2010年を振り返っていかがでしたか。

栗田 いろいろと記憶に残る一年でした。お客様ともっと近く、直接結びつきをもたせていただこうとソニーストア名古屋をオープンさせ、また、お客様にソニー製品をよりご活用しご愛用いただくためのマイ・ソニー・クラブを立ち上げました。

またデジタルイメージングは特に多くの新製品を出すことができ、ハイビジョン動画が撮れるサイバーショットWX5や、ミラーレス一眼のNEX-5、トランスルーセントミラー・テクノロジー搭載のα55、動画再生機能付きフォトフレームのDPF-XR100やレンズ交換式のカムコーダーNEX-VG10など、次々に投入致しました。

テレビでは3D対応の〈ブラビア〉を導入させていただきましたし、ブルーレイ、ハードディスク搭載の一体型商品も出しました。そして12月には新たなカテゴリーとして電子書籍リーダーも出しました。

新しい商品をこんなに続々と出せて、しかも好調なセールスを実現できて大変よかったと思います。そして何より、今までもこれから先もこれほど大きな需要に遭遇することはないと思われるエコポイントの盛り上がり、これは本当に凄いものがありました。

昨年7月、8月から続いたエコポイント需要の盛り上がりの中で、2010年度のテレビ需要は2000万台を超えて昨年の倍にも達する勢いで、10月?12月だけでも800万台から1000万台といわれています。その中で私どもはマーケットシェア20%獲得を目指し、8月、9月の段階からプロジェクトを始動してビジネス拡大に取り組んでおります

特に32インチ以下の動きは大きく、ここは手をかけるまでもなく売れたという見方もありますが、40インチ以上の高付加価値商品はエコポイントの恩恵だけで売れたわけではありません。3Dテレビのカテゴリーではブルーレイ一体型も含めて商品力を訴求するべく集中した結果、11月末の時点で3Dレディ機も含めて6割強シェアをとることができました。またソニーで初となったブルーレイ一体型も、導入以来ご評価をいただきました。コンセプトがわかりやすく客単価アップにつながる商品だと、販売店様にも注力していただいています。

テレビは年間を通じて多くの新商品を導入し成功裏に導き、エコポイントの盛り上がりで大爆発となった中、ソニーとしてはやれることはやったという満足のいく1年でした。

地デジ後の落ち込み見据え
次のチャレンジはネットワーク

── ソニーらしさ、ソニーの強さをほうふつさせる商品が数多く出た年でした。

栗田 そう言っていただけるのは嬉しいですし、カテゴリーの中ではそういうものが出せたと思います。しかし新しいカテゴリーを切り開くまでには至っていません。それは2011年に向け、事業部を含めた挑戦だと思っています。

今年の7月25日以降、市場が厳しい状況になるのは間違いなく、この年末までの盛り上がりはここの需要の先食いという見方が正しいと思います。今年度、テレビのマーケットは急拡大していますが、2011年度は1000万から1200万台くらいに落ちると見ており、それに伴って我々のビジネスも厳しいものになるでしょう。

しかし日本人の平均収入や可処分所得が下がるわけでも、リーマン・ショックのような新たな不景気の波が押し寄せてくるわけでもありません。ただ、テレビに使われていたお金がレジャーや医療、スマートフォンなどほかのカテゴリーで使われる可能性の中での減少という捉え方が正しいと思います。

我々は新しい商品や新しい提案の中で、AV・ITの業界でお客様を呼び込むチャレンジをしていかなくてはなりません。たとえば録画機の地デジ化を考えると、ブルーレイが今後重要なカテゴリーになると思いますし、DI(デジタル・イメージング)もまだまだ伸びる可能性があります。また、テレビ自体でも落ち込みをカバーするべく展開していかなくてはなりません。そういう思いの中で、ネットワーク機能を中心としたテレビの需要をもう一度作り出したいですし、また新カテゴリーを創造するべくリーダーを発売しました。

2011年はインターネットテレビやタブレットPCなど、開発中の新しい商品がいくつかあります。そういう新カテゴリーの市場創起と、ブルーレイやDIの分野で自ら需要をつくっていこうと思います。この盛り上がりの中で事業部にも日本市場をしっかりと見る雰囲気が醸成され、その大切さが再認識されました。

家庭内でも、また外出先のモバイル環境においても、ブロードバンドの普及は、日本が世界を完全にリードしています。ネットワーク対応機向けに欧州でサービスをスタートしたキュリオシティ≠国内に導入するにしても、日本のネット環境下での成功例をしっかりとつくりあげることが大切だと認識されつつあります。その中で商品力が強化され、テレビ需要が落ち込む業界をどこまで上げられるか、2011年は挑戦の年になります。

ネットの訴求が急務
グループ挙げて取り組み強化

栗田伸樹氏── ソニーに対する期待は大きいですね。

栗田 特にネットについてはそうだと思います。ネットの環境が整ったときどんなことができるかということを、販売店様の店頭で実演することが今はなかなか難しい状況にあります。まずは販売店の皆様と一緒に、ネットに繋げたときの楽しさを訴求できるような売り場提案を展開し、新しい需要につなげていければと思います。

今のテレビ購入者のネット接続率は10%程度ですが、3Dテレビを購入された方では35%から40%くらいになります。テレビのネット接続は徐々に現実的なものになっており、需要の喚起、買い替えサイクルの促進につながると思います。それと同時にネット回線も店頭で売れるわけですから、新しいビジネスへの活路が開けてきます。ここはソニーショップも含めてしっかり訴求し、新たなテレビの楽しみ方を提案していきたいと思います。

2011年は、家庭の中心であるリビングのテレビをネットにつなげて新しい世界をどう作るかというところがチャレンジになります。たとえば〈ブラビア〉をネットにつなぐと、ネット上に保管してあるオンラインアルバムを遠方の両親宅の〈ブラビア〉に送ることができる〈ブラビア〉ネットフォトをお楽しみいただけます。また〈ブラビア〉ネットチャンネルを通じてYouTubeなどの動画コンテンツも楽しめます。

2011年モデルでは対応機を拡充し、ネットという切り口で、テレビを通じてこれまでとは違う楽しみ方を提案していきたいと思います。また我々はキュリオシティ≠ニいう新しいネットのプラットフォームを国内に導入して、リーダーやプレイステーションのコンテンツも含め、使いやすいネット配信のシステムを構築し、コンテンツビジネスに参入したいと思っています。

── 2011年にテレビメーカーが取り組むべきはネットです。システムがクラウド化していく中で、テレビやテレビのリモコンがコンテンツの取り出し口になるというイメージだと思います。しかし3Dを購入されるようなアーリーアダプターはネットに抵抗はありませんが、その恩恵をもっとも受けてほしい方々への訴求は難しいですね。

栗田 まずネットにつなぐと何ができるのか、それがいかに簡単にできるかというところをわかっていただかなくてはなりません。これから高齢化社会になると、ネットにつながれたテレビはコミュニケーションの手段としても有効な存在になると思いますし、その訴求については、ソニーグループの中でも連携をとりつつ取り組んでいけるのではないかと思います。

我々はすでに、ソニーミュージック、ソニーピクチャーズ、ソニーエリクソン、So-net、ソニーコンピュータエンタテインメントなどと様々なコラボレーションをしています。たとえば最近では、ウォークマンでマーケットシェア50%獲得を実現するべく、ソニーミュージックのYUI、清水翔太、JASMINEの3アーティストを起用したウォークマンのコマーシャルイベントを開始しました。またマイ・ソニー・クラブの会員数は現在、700万?800万人ほどですが、プレイステーション3の出荷台数が500万台を超えており、これらユーザーを合わせるとネットワークでつながりコミュニケーションができるお客様を1000万人以上も確保していることになります。さらにソニー生命やソニー銀行といったところも含めるとソニーグループ全体ではもっと大きなパイがあり、そうしたお客様が加わるとまた違う世界が広がるかもしれません。それらをも取り込んでソニー総合戦略展開をしていくのも我々の新たなチャレンジかと思いますし、そういうものも駆使しながらセールスの引き続きの拡大をしていかなくてはなりません。

新カテゴリー“リーダー”など
さまざまなチャレンジを図る

── 新カテゴリーへのチャレンジであるリーダーがいよいよ発売されました。

栗田 第一弾商品は読書家のためのデバイスとしてご提案しました。私自身が欲しいと思う商品でもありますし、おかげさまでオーダーも予定数をしっかりといただいております。このビジネスを成功させるためには、まず、読者の方々が読みたい本をどれだけ用意できるかが重要です。

個人の好きなものは多様化していますから、どれだけ自分の好みにマッチしたものを選べるか、それは電子書籍配信やビデオ配信のポイントでもあります。コンテンツがテレビ画面で選べるとか、自分の過去の履歴から関連性のあるものを選べるということになると、思いもよらないコンテンツとの出会いが広がっていくと思います。そうして文化の広がりにも貢献できたら嬉しいですね。

また世の中を変えるという意味では、昨今のDI商品もかなり貢献していると思います。ミラーレス一眼のNEXやトランスルーセントミラー・テクノロジー搭載のα55などの商品です。α55は、この値段で1秒間に10コマ撮影でき、しかも随時オートフォーカスで対応しています。これらの商品は今までの考え方ではない、パラダイムシフトがしっかりと行われた主張のあるモデルだったと思います。この方向性をもっと進められれば、「カメラはソニー」というような総合戦略を2011年にもっと追求できると思います。

昨今デジタルカメラは、女性やシルバー層の方々に数多くご活用いただいており、我々もそういうニーズに合致したものが出せたかと思います。買い替えサイクルも早まっていますし、2台目需要もあって、カメラの市場は奥深く幅広いですね。色々なチャレンジを2011年に開花させていきたいと思います。

◆PROFILE◆

栗田伸樹氏 Nobuki Kurita
1979年4月ソニー(株)入社。99年 Sony de Mexico プレジデント。03年 ソニー蟹T&モバイルソリューションネットワークカンパニー・e?ビークルカンパニー プレジデント。05年 オーディオ事業本部・車載機器事業部 事業部長。06年 Sony Electronics Inc.(米国)Consumer Product Marketing, EVP。08年4月 ソニーマーケティング 代表取締役 執行役員副社長。09年7月1日代表取締役 執行役員社長に就任。

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