加藤修一氏

いつもシンプルな考え方で
上手く行っているのです
(株)ケーズホールディングス
代表取締役社長
加藤修一氏
Shuichi Kato

エコポイント制度の追い風もあり、2010年度は大幅増収、増益を続けているケーズデンキ。反動が予想される2011年度は出店を拡大してオペレーション効率を上げ、ゆっくりと着実に前進する…。家電販売の転換が予測される今年の「がんばらない経営」を、加藤社長に聞く。

 

地デジ移行の大きな変化で
いろいろな需要を喚起して
お客様の要望にお応えする

「エコポイント」の効果は
テレビの次の喚起へ

── 2010年は業界全体が大きく伸長しました。御社の昨今の状況をお聞かせください。

加藤 当社では2010年度通期の売り上げ計画7000億円を、第2四半期の段階で7500億円に上方修正しましたが、下期序盤はさらに上向きになりました。エコポイント効果と猛暑が奏功した結果ですね。想定を超えた伸長だったため、2010年オープンを予定していたうちの3店を繰り越しました。今年は全部で40〜50店のオープン、売り上げ規模で15%程度の拡大を見込んでいます。2011年の国内の業界全体の需要が前年比15%落ちくらいで止まってくれれば、当社も横ばいが維持できるかもしれません。

昨年10月は当社で前年比172%、11月は222%となりましたが、この水準は同業他社に比べてもかなり大きいものです。その理由を考えますと、ケーズデンキは日経ビジネスの2010年アフターサービスランキングや、平成21年度JCSI(日本版顧客満足度指数)調査でそれぞれ家電量販部門の1位をいただいており、それが功を奏したのかもしれません。またエコポイントの対象商品がテレビとエアコン、冷蔵庫と生活に密着したものであり、お客様の住居に隣接した郊外型の店として有利だったことも考えられます。

── エコポイント制度の影響について、手応えはいかがですか。

加藤 今回のエコポイント政策というのは、業界に大変大きな効果をもたらしたと私は思っております。家電は新しいカテゴリーの商品以外、ほとんど10年くらいの買い替えサイクルで需要が成り立っており、通常は古くなった、壊れたという段階になって買い替えられます。ところが地上デジタル放送への移行、エコポイント制度の実施ということになって、お客様がまだ3年先、5年先まで使えそうな商品の買い替えに踏みきることになったのです。10年に1度という需要からすれば、それが早まった分だけトータル需要が増えたかたちになり、家電業界に潤いをもたらしたと捉えられます。

2011年は当然エコポイント商品の売り上げ台数が少なくなるでしょう。ただお客様が家電に使うためのお金が減るわけではありません。テレビの売り上げは半分になるかもしれませんが、他の商品が代わりに伸びるのではと思います。またテレビも2010年ほどでないとしても、一昨年頃の1000万台くらいの水準には達するかもしれません。

── エコポイントが終了し、地デジへと完全移行した後、テレビの需要は落ちますが、アナログ放送・ブラウン管テレビから、デジタル放送・薄型大画面のネットワーク3Dテレビというように、テレビの価値観も大きく変わり、そこに活路が見い出せそうです。

加藤 そういう大きな変化があることで、デジタルレコーダーも大きく動くことになりますし、それに伴ってDVDやBDソフトも動くでしょう。いろいろな需要がどんどん喚起されます。基本はいずれにせよ、お客様の望むものにお応えするということですね。

不況の時には拡大図る
生きた在庫を数多くもつ

加藤修一氏── 御社は以前から好況充実、不況拡大という姿勢で昔からやってこられました。

加藤 いつも売り上げを平らに伸ばそうとしてやって来たことです。エコポイントの終了で売り上げが落ちるなら、新しく店を作っておくのです。2011年の40〜50店という出店規模から見ますと、社員も800人ほどの新規採用が必要です。しかしほかの店から少しずつ人をまわして400人を確保できれば、新規は400人ですみます。そうすれば売り上げに対する人件費率がぐっと下がり、売り上げが伸びなくとも利益減にならない可能性が高まります。

また、売り上げが横ばいだとしても、新しい店の分が相当加わってメーカーさんからの仕入れは伸びます。するとメーカーさんにとっては、売り上げダウンの基調の中でケーズデンキだけは伸ばしてくれるということになり、期待が高まりいい条件を出して下さるかもしれません。

── これまで着実にやられてきた実績はどこのメーカーに対しても安心材料を与えておられ、生きた商品も集まりやすい状況になります。いい商品は積極的に在庫をもつ方針でおられますね。

加藤 エコポイントの駆け込み需要では、これが効きました。テレビの在庫があるかないかで売れ方が違ってきますから。アナリストの皆さんは効率を考えた見方で過剰在庫うんぬんと言われますが、経営の視点ではそれが机上の理論となることが多いのです。在庫が多いといけないというのは商品が陳腐化してしまった場合のことであって、生きた商品なら在庫があればあるほど売り上げが上がります。そしてせっかくお客様が買ってくださったのに在庫がないとあとからお届けすることになりますが、あればお客様がその場で持って帰ってくださる。コストも全然違ってきます。

またアナリストさんによく質問される坪効率という問題がありますが、これもただ売り上げと面積だけの問題ではないのです。都市型の店が郊外型と比べ坪あたりの売り上げが10倍だったとしても、坪あたりの家賃が20倍だとしたら、効率は1/2となるわけです。そういう計算もなく手を講じようというのは、人間の身体に例えると、検査の数値をよくするために薬を投与してよくしようというようなもので、それで健康になるとは限りません。人間の身体が体質によって違うように、店も都市型、郊外型では出てくるデータが違って来ます。それを横並びにして判断するのは間違っていると言えるでしょう。

ノウハウを各社に浸透させ
全国展開をすすめる

── 全国展開に向けての状況をお聞かせください。

加藤 ケーズデンキはもともと全国展開をする気がなく、北関東で展開する中で他社さんが頑張ってこられ、そこで負けないように生き延びていただけなのです。そんな中で、他の地域の会社がFCにして欲しいというので、ノウハウやシステムを提供し、大きくなってもらえるよう育ててきました。また、大手のお店さんが全国展開したために成長が難しくなったお店がケーズデンキとやりたいといって、一緒になったお店もいくつかあります。さらにFCのお店の規模が大きくなり、上場に際して株式交換の上で当社の子会社になることを選んだというケースもあります。そうして結果的にケーズデンキは全国展開することになったのです。

たとえば九州は鹿児島の指宿からスタートして、南から北へ伸ばしているところですが、ランチェスターの法則にあるように“攻撃”するときは一番端から。中心地から行こうとすると、競争が激しいのですぐにやられてしまいますから、田舎からじっくりとやっていくのです。そして、競合店があろうとなかろうとうちの店がないところには出していきます。ケーズデンキに期待しているお客様がいるという考え方です。

── 私は今年「黄金の2013年」論を説いていきたいと思っています。家電業界にはエコポイントの恩恵がありましたが、世の中全体ではリーマン・ショックの影響が残っており、企業はこの3月までにはその名残を払拭しようとしています。

そしていよいよ2011年度から2013年度の間は「攻め」の期間となるのです。各企業の中期計画も2011年度に始まり2013年度での達成を目指すものが多く見受けられ、勢いを感じます。御社も売り上げ1兆円達成がみえてきますね。

加藤 うちはゆっくりとやるつもりで、今年は横ばいでいいと思っています。1兆円にはあと4年くらいでしょうか、目指しているというより、だいたいそれくらい行けばいいという考え方ですが。しかし、経営は終わりのない駅伝競走であり、成長に終わりはありません。ゴールがないからゆっくりやっているのであって、ゴールがあるのならもっと速く駆け抜けて表彰台に上がるところですね。ずっと続けなければなりませんから、あまり急いで大きくしない方がいいというのが当社の考え方です。

日本が少子高齢化で家電の成長は横ばいと言われています。しかしケーズデンキはまだ日本全国の半分以下の地域でしか商売をしていません。つまり我々から見たら、日本の人口がこれから2倍になるということです。そうなるとやることはたくさんありますし、売り上げは簡単に増やせるのです。

ただケーズデンキではお客様に親切にするなど、基本的なことをちゃんとやりましょうと日頃から言っており、それがこれだけの売り上げを後押ししたとも言えます。私もどうやって売るかということを若い頃色々と勉強しましたが、そうして学んだことは悪い言葉で言うと、結局どうやってお客様をだますかということに近いものだと思います。そうではなく、お客様がのぞむことにどうお応えするかというのがケーズデンキで50年来行っていることなのです。

その考え方は子会社となったところにも浸透していて、今年第2四半期の経常利益率をみますとデンコードーは昨年の1.4%に対して4.5%、ギガスは2.3%に対して3.4%、関西ケーズデンキは激戦区にいますので1.4%に対して1.5%ですが、ビッグ・エスが3.4%に対して4.3%、北越ケーズが3.4%に対して4.8%、九州ケーズデンキが0.1%に対して3.7%と皆大変よくなっているのです。これはそれぞれの会社がそれぞれに健闘している結果です。

がんばらない、けれど
強い会社にするために

── 「がんばらない経営」が浸透していますね。まず従業員を大事にされる姿勢が、人の強さを引き出します。

加藤 そういうことです。働いている人たちの労働時間が少なくなるので、納得してもらえるわけです。それまでより楽に仕事ができて数字が上がればそれでいいのです。当社では従業員が一番、取引先様が二番、お客様が三番です。気持ちの上でそうしておかないと、すべてを大切にすることができません。お客様を大事にするあまり、従業員を安い賃金でこき使っていてはだめです。また会社の評判がよくなれば、社員にも不安感がなくなります。戦国時代もそうだったようですが、戦う人の気持ちが組織によりそっていないと難しいですよね。

「がんばらない経営」は無理なことをしないということです。しかし私はケーズデンキを強い会社にしたいと思っています。業界内でケーズデンキを他の会社と比べるとあきらかに違い、郊外にしか展開しません。都市型の駅に近い場所にある店というのは、電車に乗って遠方からもお客様が訪れるような百貨店と同じような位置付けにあります。お客様の家の近くに郊外型の店ができればお客様はそちらに行ってしまい、駅に近い店には将来性を感じられないということです。駅前の店は常に新しいものを求めていないと、売っているものが郊外型と同じではお客様をそちらにとられてしまいます。安定性が難しいのです。百貨店も大商圏型商売であり、チェーンオペレーションができませんから、地方に出店した百貨店は上手くいきませんね。

当社は商売が上手くいくように人の住んでいる地域にしか出店しませんし、ポイントも採用せず現金値引をしています。そのようにシンプルにするとコスト構造が低くなり、その分商品価格が安くなって、お客様に喜んで買っていただけるわけです。ポイントがあるから選ばれるということではないのです。

私はずっとこんなことを言っていますが、数字もそれに伴っていますよね。この業界で41年やっていますから、ある意味こうしたらどうなるかということが経験上予測できる部分があるのです。失敗は若いうちに皆やってしまいました。それこそコンサルタントの先生から教えられて、いろいろなテクニックを使いましたよ。しかしそれらは皆長続きしませんでした。先生が言うことは、目の前の対策向けで、長い目でみてやってはいけないことばかりなのです。

たとえば血圧が上がったら、ただ下げる薬をのんで治そうとするようなものです。本来は血圧が上がる原因をつきとめて、食生活を改善したり運動したりして健康になろうとしなくてはいけないのです。原因を放ったらかしにしておくと、今度は脳梗塞になり、血栓を溶かす薬をのむということになる。コンサルタントの言うことは、例えるならそういうことですね。本来は根本的に会社を健康的にするよう、手を講じなくてはいけないのです。

業界の中ではよく、会社の業績が悪くなると店別の損益を調べて赤字の店を閉め、利益を出そうとすることがあります。でもそれでは絶対にだめですね。赤字というのはすべてのつながりの中で発生しているのです。赤字の店を閉めるのはいいですが、その店も含めて広告を作っているとしたら、その売り上げが下がった分だけ広告の費用が上がります。広告1枚あたりのコストが上がるのです。また仕入れが減って仕入れコストが高くなる、ということもあります。すると今迄黒字だった店まで赤字になる可能性があります。

出店密度の高い地域の中で、商圏の小さい店があったとします。その地域を含めて広告をしなくてはならないとしたら、その店は広告費がゼロと考えられ、赤字でないということもあるのです。人間のからだと一緒で、悪いところだけ切り取ればいいかというとそうでない部分もあるということです。広い視点でみて、どうしたらどういう結果になるかがわからなくてはいけません。

シンプルに思考し
ゆっくりと成長する

── 店舗運営理念として掲げられている「Keep Super Price」「Keep Super Service」「Keep Super Quality」についてあらためて聞かせていただけますか。

加藤 これは社名の由来にもなっており、ご存じのように当社の基本姿勢そのものです。 当社がなぜ売り上げをずっと増やしつづけて来たかというと、好況のときは忙しいので新しい店をつくっていられない、しかし不景気になると人員が余るので新しい店をつくってそちらで多少吸収する。不況であれば家賃も人件費も少なくすみますし、それで利益も出せるのです。

会社というものは不況だからといってじっとしているだけでは、売り上げは下がるし人件費率は上がる。経費高になって商品を安く売ったのでは利益が出なくなってしまいます。ケーズデンキの場合は売り上げをいつでも平らに伸ばそうとしているので、2011年の状況が難しいなら店をたくさんつくってそこに人を移動し、従来の店では1割くらい少ない人数で商売すれば、売り上げが5%〜10%減ったって利益は変わらないということです。それでいつも増収増益で来られるのです。

2011年は市場がどのくらい下がるのかがまだ見えませんが、10%程度に止まるのであれば当社もまだ伸びる余地があると思います。しかしいろいろ考える時に邪心やずるい考え方が入るとだめですね。当社はいつもシンプルな考え方で上手く行っているのです。

◆PROFILE◆

加藤修一氏 Shuichi Kato
1946年4月7日生まれ。茨城県出身。69年3月東京電機大学工学部卒業。同年4月(有)加藤電機商会入社。73年9月(株)カトーデンキ代表取締役専務、82年3月よりカトーデンキ販売(株)代表取締役社長。01年4月からは日本電気大型店協会(NEBA)の副会長を4年間務めた。“人”を尊重する企業風土と無理・無駄・ムラのない「がんばらない経営」で安定的な成長を続ける。

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