久保田孝一氏

ユーザー分析を通じ、様々な顧客層の
ニーズを捉え市場活性化を図る
セイコーエプソン(株)
業務執行役員 映像機器事業部長
久保田孝一氏
Koichi Kubota

エプソンが発表した2010年秋のプロジェクター新製品、同社初となる反射型テクノロジーの採用で、専門家をもうならせる高コントラストを実現するハイエンドモデルが加わった。頂点から裾野までのきめこまかなラインナップを武器に、プロジェクター市場をけん引していくセイコーエプソンの久保田事業部長に話を伺った。

 

最大の課題は体感の場づくり
販売店様とともに取り組んでいく

家庭用プロジェクター市場は
もっと拡大できる

── 久保田さんは今年、新たに業務執行役員に就任されました。

久保田 あらためて業務執行役員としての責任の重さを感じています。当社はここ数年、厳しい業績が続いていました。その中で、プロジェクターを中心とした映像機器事業部は少しずつ売り上げを伸ばしてはいますが、まだまだ足りない。ホーム市場、中でも特に日本のホーム市場は期待通りに伸びていません。しかしこれは、言い換えればまだまだチャンスがあるということです。

プロジェクターは市場自体が発展途上の状況下にあり、我々はシェアを伸ばしてきたとはいえ、まだ全世界で20%を超えたにすぎません。ひとつひとつしっかりと現状分析をしながら、着実な対応で売り上げを伸ばして参ります。また売り上げを伸ばすということは、お客様が望んでおられる商品を提供すること。多様な顧客層がある中、お客様にテレビ以上の大画面の楽しさをいろいろなかたちで伝えていくということを、あらためてやっていきたいと思っています。

── 昨今のプロジェクター市場の状況についてお聞かせください。

久保田 この1年から2年間は変化の激しい年でした。2008年の後半からはリーマン・ショックで一気に売り上げが低下し、そこから前年比マイナスの状況が2009年度の上期までずっと続いていましたが、同年下期になって急激な回復をしました。一番効いたのは、各国政府の経済刺激策です。日本でも補正予算が組まれましたし、アメリカではオバマ大統領が就任早々に施策を講じるなどほとんどの国で対策がなされました。特に学校向けプロジェクターの導入に各国が注力してくれたのが、我々にとって幸いだったと思います。昨年度下期からの急激な回復に一時は業界全体で供給が追いつかないような状態でした。

今年度上期は市場全体が2ケタ伸長しましたが、家庭用市場では残念ながら台数ベースでほぼ前年並み。中でも日本は前年比で減少率2ケタとかなり厳しい状況であり、家庭用の市場はなかなか回復しないというところです。しかし内訳では全世界共通でフルHDの比率が上がっており、経済的に厳しい状況が続き個人消費もなかなか思うようにいかない中で、予想以上に販売が落ち込まず心強い限りです。

高コントラストを追求した
反射型の新製品を投入

── 御社の今年の新製品は、素晴らしい出来だと思います。横並び状況が続く国内プロジェクター市場で、ラインナップを増やした狙いをお聞かせください。

久保田 家庭用プロジェクターは、本来こんな市場サイズではいけないという思いが根底にあります。残念ながらテレビに押されて思い通りに伸ばせない部分もありますが、そうであってもいろいろな方向で商品を出していかなければますます悪循環に陥ってしまいます。我々はお客様をさまざまな角度から分析し、それぞれの顧客層のニーズに見合った商品をコンスタントに提案するという方針でおりますが、今年は画質にこだわるハイエンド層のお客様にフォーカスしました。従来からそれなりのものを出してきたという自負はありますが、今回はさらに高コントラストなものをというご要望にお応えしています。ネイティブコントラストで数万対1というレベルを目指して反射型という選択をし、パネルの開発を3年ほど前から始めてデバイスを吟味してきました。

また透過型モデルについても現行のEH−TW4500を継続すると共に、新製品も投入します。反射型はケタ違いの高コントラストが望める反面、光学系が複雑になり筐体が若干大きくなります。一方の透過型は比較的小型で明るさに対して優位性があり、リビングシアターに向いていると言えます。我々が従来得意としていた高いコストパフォーマンスで明るさを追求したモデル群に今回の反射型新製品が加わって、ラインナップの広がりを実現できました。今後もそれぞれのお客様ごとに技術を上手く使い分け、ラインナップの充実を図りたい考えでいます。

── 新製品は、使い勝手もよくなりました。

久保田 特に注目いただきたいのは、設置性のよさです。奥行きは他社様の反射型モデルより10p以上短くなり、本棚など色々なところに置けるようになりました。また、短焦点・高倍率レンズの採用により、8畳間での100インチ投影も可能です。さらに、電動ズーム、フォーカス、レンズシフト機能の搭載はもちろんのこと、レンズシフト幅もクラス最大級で、その設置性は非常に優れています。さすがエプソン、こういうところも気を使っているな、と思っていただきたいですね。そしてまたエプソン商品を選ぼうというお気持ちになっていただければと思います。

── 3Dモデルについてのご計画をお聞かせください。

久保田 3Dはプロジェクターの大画面でより迫力をもって楽しめます。我々としても当然追いかけていかなくてはならないジャンルですが、本当にご満足いただける状態で3Dをお届けしたいと思っています。すでに3D映像が見られるというプロジェクターはありますが、制約事項があるものが多く、必ずしもどんなコンテンツでも楽しめるというわけではありません。テレビを含めて、3D関連商品には明るさなどまだ克服するべき課題が残されていると思います。そういった課題にしっかりと取り組むために少し時間をいただいて、エプソンらしい3D対応プロジェクターをご提供したいと思います。

── DVD一体型の今後の方向性はいかがですか。

久保田 当社がDVD一体型モデルを発売してから5年が経過しました。その間、お客様からさまざまなフィードバックもいただいておりますが、昨年はその前のモデルより明るさをほぼ倍にしたということでひとつの壁をクリアしたと思っています。そこでの完成度がかなり上がったこともあって、今年新製品のリリースは見送らせていただきました。次のタイミングでは解像度を上げる、また内蔵プレーヤーはDVDでなくBDにするか、といったところが焦点になってくると思います。

ただし、問題はコストパフォーマンスで、こういう商品はある程度値ごろ感を出せないと販売は思うようにいきません。さらに昨今のコンテンツ供給の流れもしっかり見極めていく必要があります。すでにそういった議論を社内で展開しており、次の商品開発の準備は進めているところです。

これからがチャンス
販売店とともに積極展開を

小谷 進氏── 教育関係などの機関に対するアプローチも継続強化されるのでしょうか。

久保田 日本では学校に対するプロジェクター導入はまだあまり進んでいません。世界で一番学校にプロジェクターが普及している国はイギリスで、教室数との比率で7割を超えています。日本では昨年補正予算を組まれた段階で1割、現状で2割ほどになったようなイメージです。

一方で地デジ化はここにも当然波及しており、テレビが入ってきています。50インチクラスの大型テレビもかなり導入されたようです。しかしたとえ50インチであっても、普通の教室で見るという分には正直まだ小さいと言えるでしょう。何十人という生徒さんが見るという状況ではやはりプロジェクターが適していますし、ここにも浸透させる余地はまだまだあると思っています。またここに浸透すれば、子ども達にとってもプロジェクターは非常に身近なものになり、ここから家庭用プロジェクターに対する流れも生まれてくるはずです。エプソン販売でも教育現場を重視して、さまざまな提案活動や調査活動を行っています。これをさらに浸透させていきたいと思っています。

── 昨年から御社は専門店対策を強化されましたが、その進捗状況はいかがでしょうか。

久保田 専門部隊を置き、重点化と集中化による開拓、全国専門店様へのアプローチを進めています。それによりこれまであまりエプソンとは接点のなかったお客様にもこちらを向いていただける状況になりました。おかげさまでフルHD機のシェアも1位となっておりますが、これも専門店様のご協力の賜物と思っています。

── 量販店ではここ数年間ずっとテレビ販売におされてプロジェクターがシュリンクしてきてはいますが、地デジ移行後は伸長のチャンスが生まれてきます。

久保田 この先もう一度プロジェクターをという話に乗ってくださる量販店様もおられると信じています。またPCやITの機器と違って家電・AV商品というものは、期待にお応えできる性能であれば高価であっても購入していただけるものだと思います。今回の新商品のような高性能機もぜひ、量販店様での展開にチャレンジさせていただきたいと思っています。現状では暗室コーナーも縮小傾向にはありますが、逆にこれからがチャンスだと思います。販売店様も今、地デジ化や家電エコポイント制度の後押しもありテレビが爆発的に売れる中、その反動を懸念される部分もあるかと思います。

テレビの需要が一段落した時、もっと大画面へというお客様の志向は必ずあるでしょう。その点で販売店様と我々の気持ちは同じだと思います。まだ多少の時間はありますので、いろいろなご意見を伺い、こちらからも提案をさせていただきながら次の仕掛けを探っていきたいと思っています。我々の商品展開もそうですし、売り場の展開を含めたことにもなります。

やはり最大の課題は、大画面の迫力を体感していただく場を設けていくこと。ぜひこれを販売店様と一緒にやらせていただきたいと思います。これさえできれば、かなりの人がプロジェクターというもののコストパフォーマンスの高さを理解してくださると確信しています。多少の時間やエネルギーはかかると思いますが、ぜひここにチャレンジしていきたいと思います。

従来の発想を転換し
お客様の発掘を図る

── 写真愛好家への訴求も有効です。カメライベントでプロジェクターのデモをした際、「こんなにきれいなんですね」という方が何人もいらっしゃいました。おそらく80年代頃に写真用のスライドプロジェクターなどでポジフィルムを投影された経験があり、そこで写真をきれいに見られないという印象をもたれてプロジェクターから離れてしまった方は結構いらっしゃると思います。

久保田 プロジェクターの用途も従来の発想を変えた方がいいようですね。たとえばビジネス用途でのプロジェクターのホスト機はノートパソコンでしたが、これからはもしかしたらスマートフォンかもしれません。そしてカメラもそのひとつではないかと思います。 プロジェクターは大きい、高い、暗い、接続や調整が大変というネガティブな先入観をもたれている方も、最新のものをご覧になると印象が変わります。我々は対象となるお客様をまだすべてつかみきっているわけではなく、思わぬところにいるお客様を発掘することも行っていくべきだと考えます。また、プロジェクターの大画面映像はオーディオ機器と組み合わされてさらに感動が大きくなりますので、そういったアプローチも必要かと思います。そして、もっともっと多くのお客様にアピールして、市場を活性化させていかなくてはなりません。

コアの技術ということであれば、高いコストパフォーマンスを実現するものから高性能なものまで、我々は全て手に入れています。これらを使って多様なお客様のご要望に応える様々な商品を作り出し、販売店の皆様と一緒に今後も積極的にアピールして参りたいと思います。

◆PROFILE◆

久保田孝一氏 Koichi Kubota
1959年、長野県生まれ。1983年3月京都大学卒業。1983年4月エプソン(株)(現セイコーエプソン(株))入社。PC・各種プリンターの海外営業部門・CS部門を経て、2003年から液晶プロジェクターの営業部門であるVIマーケティング部に。2003年VIマーケティング部長、2008年7月映像機器事業部長に就任。2010年6月業務執行役員に就任し、現在に至る。

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