野島広司氏

お客様にとってよりよい商品を
コンサルティングで満足を引き出す
(株)ノジマ
代表執行役社長
野島広司氏
Hiroshi Nojima

神奈川県下・首都圏を中心に歩みを進めるノジマ。前期決算でも大きな伸長をとげ勢いにのる。その勢いを支えるのは、販売員の質の高さ。コンサルティング・セールスを重視する手法でお客様満足を引き出していく。同社の近況を、野島社長に聞く。

 

日本メーカーは従来の強みを生かし
もっと存在感を発揮して欲しい

販売員の高い能力が
不況時でも威力を発揮

── 御社は2010年3月期の決算で大きな前進を遂げられました。振り返っていかがでしょうか。

野島 売り上げとしては20%強伸びており、当期純利益の増減率で76%となりました。この結果は要するに、それまで縮めていたバネを伸ばしたようなものです。前期は閉店が1店もない状態で、出店は20店舗でその内16店は新規、4店がスクラップ&ビルドによるものです。前年比で売り場面積は31%伸びていますが、これによってノジマの売上金額も伸長し、売り場面積の伸び以上の売上増を達成することができました。

ただし従業員数は1.5倍となっていますから、従業員比を伸ばしていくのがこれからの課題となります。そこでまずは若手従業員の教育を強化し、先輩たちと同じ生産性を上げられるようにしていきたいと思います。当社ではメーカーさんからの派遣販売員はもともと10%程度でしたが、それも昨春すべてやめました。これは2年計画でやっておりましたが、ちょうどいいタイミングで実施することができたと思います。

このことによって人件費は上がりましたが、売り場では統一感が出たと思っておりますし、おかげさまで多くのお客様や取引メーカーさんからもノジマは販売員がしっかりしているとお褒めいただいています。また当社はパートやアルバイトの方でも能力があればそれだけの処遇をしていきますし、従業員ともども数は増えております。

── 昨年の売上増については、エコポイントも大きく貢献したのではと思います。

野島 従業員数の増加、売場面積の拡大、そしてエコポイントの3つが昨年の売り上げを伸ばした大きな要因と言えるでしょう。昨今は消費者動向にも変化が起きて、一昨年のリーマン・ショック以来お客様はお金を非常に大切に使うようになりました。すると親切な接客や、良いものを見る目というものが強く求められるようになってきます。そういう時に、従業員の質の高さが求められてくるわけですから、そういった意味でも当社の強みが生きてくるのです。

また景気の悪い状態だと、店舗物件も条件のいいものが出るようになりますし、いい人材を採用しやすくなります。当社はこのように以前から世の中の景気が悪い時に店舗を増やし、いい人材を採用してきたという経緯があり、今回の不況でもそこが奏功したと言えるでしょう。財務面では、私も心配性なので借入はあまりしません。前期末で有利子負債を抑えていますし、ファイナンスやリースも行っていないのです。

── エリア戦略として、御社はドミナント戦略をとられています。同業他社が全国展開を進める中で御社は明らかに視点が違いますね。

野島 当社の体力で全国展開はもちません。まだ首都圏でも、神奈川県内でも出展していない地域はいくつもありますから、まずはそこからですね。店の規模も小さいですから、大きな商圏でなく近い地域を対象にしているのです。そして、地域のお客様を厚く濃くとっていこうという考え方です。投網でなく、じわじわと一本釣りをしていくということですね。

今若い人は車に乗りませんし、比較的近くでものを買う傾向にあります。これから先はまだどうなるかわからないですが、もしその傾向が続くとしたら、新しい郊外型の大きな店とは一線を画すことができる可能性があると考えます。

私がみる限り、売り場面積と人の配置については、当社と大型店とはだいぶ違います。当社は販売支援の方もいませんから、従業員だけということだとさらに何倍も違うということになります。先日オープンした店でも130坪に30から40名います。この計算で他社に当てはめると、2000坪では400名が必要であり、これではビジネスが成り立たないですよね。

日本メーカーの影響力低下
グローバルでの存在に危機感

野島広司氏── 昨今の家電をとりまく状況は好転のきざしを感じますが、野島社長はどのようにご覧になりますか。

野島 私は毎年アメリカのCESに行かせてもらっていますが、今年のCESほど衝撃的なことはなかったと思います。3年前とはまるで違い、日本企業の衰退、凋落といいますか、韓国、台湾、中国勢の台頭が一気に進んだと感じました。米国における総合デジタル企業のブランドイメージや、TVのブランドイメージでこういう傾向が一気に進んだことに対して、日本人として強い危惧を感じるのです。

日本のメーカーには、ぜひ頑張ってもらいたいと思います。お金目当ての事業や値段が安ければいいというようなやり方はして欲しくないですね。昨今の大きな話題と言えばアップルの「iPad」が挙げられますが、こういうものの登場で任天堂やソニーのゲーム機も存在感を大きく脅かされるのではと思っています。

日本企業は白物家電ではまだ存在感を出していますが、PC、ゲーム、AV、携帯といった分野で、どんどんポジションを落としていると感じます。オーディオでも日本のメーカーさんが弱くなっていて、これが非常に心配ですね。海外でもどこへ行ってもオーディオがシュリンクしてきており、仕方のないこととは思います。ピュアオーディオは今、どんどん携帯オーディオに置き換わってしまっていますし。

── 本来オーディオでは、日本企業が世界を席巻してきました。それがアジア勢に追いかけられ、今や白物家電の方が海外に強いという形になっています。

野島 米も日本メーカーの炊飯ジャーで炊くとおいしいですよね。こういうものをつくれるのが日本のモノづくりの極意ですが、すでに韓国勢や台湾勢がこれらを真似してきて、その開発費がなくなった部分でディスカウントしてきます。技術者も海外に流れていますし、開発費もおさえられているのが現状です。日本は特許やブラックボックスをつくって、技術をホールドしながらいくしかないかもしれません。我々としてはそういうことを応援したいという思いです。

韓国ではリーマン・ショックのときに不況をチャンスと捉え、企業が一気に海外に乗り出しましたが、日本企業の場合は開発費からおさえにかかりました。これはオーナー経営者とサラリーマン経営者の違いかもしれません。身体を張れるか張れないかということで、ここはなかなか根が深いところです。私も時々日本メーカーの社長さんに失礼なことを言ってしまいますが、ぜひとも頑張っていただきたいとの思いなのです。

つい最近発表されたGFKの予測では、全世界のデジタルテレビの市場は今年130%伸びると言われています。国内市場では150%見てもいいと私は思いますが、そういう規模でみる人はいませんね。

── 韓国や中国はほとんど国家絡みでテレビ販売をバックアップしています。

野島 日本でも車や電機は基幹産業ですからね。今度菅さんに替わって経済がどう動くかはまだわかりませんが、韓国では景気が悪くなったらウォン安にかならずなります。しかし日本では景気が悪くなるとアメリカから必ず円高にされて、投資もしづらい環境になります。日本の状況を振り返ると、拓銀や山一證券がつぶれた1995年から2000年くらいの間から悪くなってきたと思います。ありがたいことに、そういうときに当社は伸びやすいのですが。

── 御社はお金儲けという以前に、お客様を大事に、スタッフを大事にという考え方でおられますが、これは御社の志である「デジタルGS4」に集約されていると思います。詳細をお聞かせください。

野島 これは、商品だけを販売してお金を儲けるということではなく、サービス、サポートが大事という考え方。商品(Goods)は、コモディティよりも上の存在なのです。当社は商品がプライスだけで売れていくというよりも、お客様にコンサルティングしてよりよい商品、お客様に合った商品を選んでお薦めしようという姿勢をふまえています。新しい商品になれば、ソフトやコンテンツ、使い方などいろいろな説明を要するポイントが出て来ますから、これをまとめてお客様にご提案したいということなのです。

また新しいものはもちろんですが、オーディオや単品コンポもお客様がいる限り継続していきます。速い物や遅い物、儲かる儲からないにかかわらずです。オーディオは社長の趣味だからと社内では認識されているようですが。

── 御社は新しいものへの取り組みを積極的に展開してこられました。新しい物には説明が必要ですが、それをわかりやすく行うという独特のDNAが存在するように感じます。たとえばホームページ上で動画を使って展開されている環境への取り組みのプロモーションも、非常にわかりやすい表現ですね。

野島 新しい商品が出てくればいち早く取り入れておりますし、当社は電球なども含め下取りをしたものを全てリサイクルしているのです。リサイクルに関して地道にしっかりと取り組んでおりますから、本当にわかる方にはわかっていただけていると思います。コストもかかりますが、これはあとから行うか最初から行うかの問題だと思います。最初にコストをかけてしまえば、当初は苦しくともだんだん楽になってきます。

またわかりやすい説明の実践というのを左右するのは、従業員の基本的な質と考え方だと思います。おかげさまで当社従業員の定着率は非常にいいですし、また採用の際にもレベルの高い人材を選出させていただいており、ありがたいことだと思います。

当社では今から建物に投資するよりも、人材に投資していきたいと考えます。オーディオなどは特に人に左右されますが、価格をつけておいたら売れるというものではありません。単品コンポなどは人で買っていただくものだと認識しています。

体制を整えなおし
ピュアオーディオに注力

── お客様によって望んでいるものは違いますし、メーカーさんもさまざまなものを提供されます。お客様の要望をお聞きしながらいかにいいものをお薦めするかが単品コンポのビジネスです。野島社長からご覧になって、これからのオーディオビジネスはどうなるでしょうか。

野島 まさにオーディオがコンサルティング販売の原点だと思います。安いからとお薦めしているだけでは、ほかと同じ競争になってしまいますから。

当社も単品コンポを含め、長い目でオーディオをやっていますが、やはり現状ではiPodと単品の間が抜けていると思います。そこにあたるセットステレオについては、当社もかなり頑張ったつもりでしたが、何とか維持していたものが落ちだしました。デジタルオーディオ、しかもポータブルの方へ流れていっていますね。当社としても、ポータブルもやりつつ、お客様がいる限りピュアオーディオをやり続けたいと思っています。

── 御社のピュアオーディオ展開の集大成であるオーディオスクエアについて、昨今の取り組みはいかがですか。

野島 現在、藤沢、相模原、横浜、越谷と4店を展開していますが、最近新しい体制にしてなんとか落ち着いたところです。ネット販売とあいまって売上げを追いすぎていたきらいがありますので、さらに販売の質を高めようとシステムの方だけノジマのネット通販事業である「いーでじ」と一緒にしました。オーディオスクエアの店の方は何とか100%を維持していますが、本来なら20〜30%伸びていなくてはならないところです。リーマン・ショックで景気が悪くなったとメーカーさんは言っていますが。

オーディオスクエアでは、単に売ると言うのでなく、常に試聴会を繰り返しながら啓蒙して、お客様をつくっていこうというスタイルでやっています。しかし計画以上にネット販売に力を入れた部分もあって、店の販売が下回ってしまいましたので、今それを少しずつ持ち上げていこうとしているところです。体制も少しずつ見えてきましたので、さらにもう少し整えて120〜130% の水準を目指したいと思います。

オーディオは商品の回転が、在庫に対して1/3などというところにあります。これをまず年間6回転までにはしていかないといけないですね。昔と比べるとモデルチェンジも非常にゆるやかになってはいますが、回転がゆるくなったらもう少し粗利が欲しいところです。

── 体験していただかないと、オーディオは始まりません。お客様がいらっしゃらないわけではないのですから。ハイエンドオーディオショウというイベントで私どもも出展していますが、多くの若いお客様が来られていますし、販売にもつながっています。

野島 当社でもオーディオスクエア、そしてサイトを整えて上向きにしています。何とかオーディオを盛り上げたい、原点に戻って取り組んで参りたいと思います。質で売り上げをあげれば長続きもしますし、皆がハッピーになれるのです。皆様から当社の取り組みを支持していただけるのはありがたいことと思いますし、その姿勢をさらに強化して今後もまい進して参りたいと思います。

◆PROFILE◆

野島広司氏 Hiroshi Nojima
1951年1月12日生まれ。神奈川県出身。1973年中央大学商学部卒業、4月有限会社野島電気商会(現株式会社ノジマ)入社、2000年8月執行役員、8月CEO、2003年6月取締役、6月執行役社長、現在に至る。

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