久保田孝一氏

不況や市場不振は
一時的なものと受け止め
長いスパンでしっかりと取り組んでいく
セイコーエプソン(株)
映像機器事業部事業部長
 
久保田孝一氏
Koichi Kubota

ホームプロジェクターの2009年新商品を発表したエプソン。ハイエンド機を含めたホームシアターモデルと、裾野を広げるDVD一体型機の2カテゴリー展開で、リーディングメーカーとして市場を力強くけん引する。販売店対策も強化し、万全の構えで年末商戦に臨む同社の久保田事業部長に、意気込みのほどを聞いた。

 

販売店様と我々との距離を、
もっと縮めていかなければ

ハイエンドと一体型
2段構えで市場を拡げる

── 今年もプロジェクターの素晴らしい新商品が発表されました。

久保田氏久保田今年の新商品は、昨年モデルからさらに進化を遂げ、より作り込んだ洗練された画づくりになっているものと自負しております。

まずハイエンド機である「EH-TW4500」は、コントラストを大幅に向上させ、人の肌の質感など画づくりにも大いにこだわりました。

また昨年の商品のユーザー様にアンケートを実施致しましたところ、DVDプレーヤーはもちろん、まだアナログの再生機器を使用されている方などもおられ、必ずしもHDではないコンテンツをご覧になっているケースが意外にあることがわかりました。そこで、古いコンテンツをそのまま見たいというニーズにもお応えするため、テレビにも採用されている「超解像」という技術をこの商品に搭載しました。これは新しいお客様に向けて、非常に大きな意味をもつと思います。 

「EH-TW4500」につづく「EH-TW3500」では、新規のお客様開拓をさらに意識した内容になっています。リビングルームにも対応する明るい画づくりにして、価格も25万円前後というお手頃なところに設定致しました。新しいお客様に、少しでも身近に大画面のよさを感じていただければと思います。

 

── 一体型の新商品についてはいかがでしょうか。

久保田私どもがDVD一体型モデルを出してから早4年が経過しましたが、その間商品は年々進化してきました。使っていただいたお客様の声を常にお聞きして、新しい商品に反映させてきたのです。今年の新商品では、持ち運びに便利なハンドル付きのモデルを2機種用意しました。

エントリーモデルはこれまでの流れの延長線上にあるものでハイビジョン対応ではありませんが、解像度を540pに上げております。明るさはこれまでの1200ルーメンから2000ルーメンになっており、音についても前機種からさらに広がり感を向上させています。

また、お客様が使用環境によって明るさを変更できるということをご存じないケースが多くあり、新商品では明るさを自動で検出して調整する機能を入れております。たとえば昼間から夕方になりだんだん部屋が暗くなってきますと、それを検出して自動でモードを変える、というものです。せっかくいろいろな機能を搭載していても、使っていただかなければ意味はありません。プロジェクターの操作に明るくない方でも使っていただくための商品ですから、そのような形でどなたにでもメリットを享受していただけるように進化させました。

さらに上位機種は、ハイビジョン対応にこだわりました。それをいかに手頃な価格でご提供するかというところが課題でしたが、WXGAという、720pより少し高めの解像度を実現しました。明るさも2500ルーメンとしています。もっと解像度が欲しいという思いでおられた方にも、満足いただける内容になっていると思います。それぞれスクリーンとのセットもご好評にお応えして昨年同様に展開致します。また天井投写キットも標準装備いたします。

これら一体型モデルについては、家庭内に限らずいろいろなところで使える商品かと考えます。簡単にセットアップできすぐ写せるということは、いろいろな方にとってメリットになります。たとえば学校などでも、プロジェクターの大きなニーズがあるはずです。

プロジェクターはまだ認知度は低いですが、これが学校に入ることによってもっと身近な存在になることも期待できます。日本では学校の教室の数に対するプロジェクターの浸透度は10%ほどですが、海外の普及率が高い国では50%を超えています。学校でプロジェクターが身近になることによって家でも使ってみたいということになれば、需要拡大のひとつの流れになるのではと思います。

お客様からの声を見てみますと、プロジェクターを使うと、テレビを見ながらいつも騒いでいる子どもも静かに見ているという事例がありました。またご年配の方や小さなお子様連れですと、映画をみたくともなかなか映画館まで行けないというケースがありますが、プロジェクターを使えばどなたでもご家庭で気軽に楽しむことができるのです。

さらに、プロジェクターを手に入れてから映画をみる回数が増えた、というコメントを数多くいただき、大きな可能性を感じます。これこそが、ホームプロジェクターの本質だと思います。使われなくなれば機器は廃れてしまうものですが、プロジェクターについては、一度使っていただくと使用頻度がどんどん高まっています。そしてまた幸いなことに、当社の一体型プロジェクターをご購入いただいた方の7割以上が商品を身近な方にお薦めくださっています。

正直なところ、今は消費者の方々のテレビに対する興味が高まりすぎていると感じます。これはあと2年に迫った地デジへの移行ということを考えると、政府からの働きかけもありある程度仕方のないことです。しかしそれはあくまでも一時的なものであり、2011年以降はまた状況は変わると考えています。また、地デジ対応の大画面テレビを購入された方は、さらなる大画面に対する興味も抱かれるのではと思います。

── エコポイント制度のフォローもあり、40インチ以上のテレビがよく動いています。従来は小さいサイズを買っていた若者層も大画面にシフトしていて、そのうちの何割かはいずれプロジェクターとの「2WAY」へ進んでいく流れになると思います。さらに音響メーカーが、テレビまわりのサラウンド商品に大変注力しています。一般の消費者の認知度もこれから高まっていくでしょう。

久保田ホームシアターという形で消費者の方に体験していただく場を設けていくことは大きな課題です。場所を確保することは難しいですが、ウェブで体験談を公開するなどの取り組みを徐々に進めています。業界全体で体験の場作りを進めて行こうという雰囲気が出て来ますと、我々にとってもいい機会となります。

 

── 新商品は、ハイエンドのところのホームシアター専用機と、プロジェクターの裾野を広げる一体型モデルの2つのカテゴリー構成ということですね。

久保田久保田 プロジェクターのよさとは何かということをつきつめていくと、その両方の訴求が必要だと考えます。大画面で映画館以上の画質を実現できるということ、そして大画面を低価格でご提供でき、かつ気軽に楽しんでいただけるということ。これはテレビにない魅力であり、そこを活かすにはハイエンド機だけでなく、10万円以下という価格で一般の方にアピールできる商品にもこだわっていきたいと思います。


また将来、プロジェクターの形がどうなっていくか長いスパンで考える必要はあります。そこを底上げし、市場を拡大していくということにもこだわっていきたいです。

年末商戦に臨み
販売店対策を一層強化

── これら2つのカテゴリーでは、ユーザー層も販路も異なると思いますが、どのように展開されるのでしょうか。

久保田氏久保田当社のプロジェクター商品の販路ということでは、比較的量販店様に多くお取り扱いいただいています。けれども専門店様につきましては、特にハイエンド機を通じた対策をどう手厚くしていくかがこれからの課題です。

私どもが数年前に民生用のプロジェクターを立ち上げ、本格的な展開を図ろうとしたとき、販路を広げようとあえて量販店様のお力をお借りしたところはあります。プリンターですでに築いていたチャネルでもありますが、それをプロジェクターのためにさらに開拓したという自負もあります。ありがたいことに量販店様には暗室をつくっていただいたり、キャンペーンを展開していただいたりと大変なご協力をいただきました。

一方、我々がハイエンド機を展開していなかったということもありますが、専門店様対策は遅れ気味だったところがあると思います。それでこのたび、新たに専門店様に十分に対応できるようエプソン販売での営業の体制を強化しました。

従来から専門店様に対しては、卸の業者さんを経由して商品をお取り扱いいただいておりました。販売ルートとしてそういうステップを踏むメリットはありますが、お店様対策という部分もお任せになってしまった反省があります。今後は、エンドユーザー様に直接販売していただいているお店様の声を我々の営業スタッフが直接お聞きする。そしてプロモーションをうったり視聴会を行ったりして認知度を上げて行く、ということもやらなければならないと考えております。

ご販売店様と私どもとの距離を、もっと縮めなければいけないと思っています。そうすることによって、販路の最適な分け方、あるいは商品の特色の出し方ができてくると思います。

 

── 昨今の専門店では、店主の世代交代などをきっかけに変化を遂げるケースも多く見受けられます。従来の敷居が高い構えではなく、お客様の目線にあった展開をする店が増えて来ています。インストーラーの職能団体である「CEDIA」の日本支部を音元出版の「ホームシアターファイル」誌で立ち上げましたが、そこには専門店の若い二世たちが名を連ねています。店はもはやかつての雰囲気ではありません。専門店だからといってマニア層を相手にするだけでなく、初心者に対して量販店では説明しきれないところをフォローできる場面もあるのではと思います。

久保田「EH-TW4500」のようなハイエンド商品になりますと、半数以上の6割ほどが買い替え需要ということで、新規に買っていただくというケースは3〜4割と少数です。安定した一定の需要があるという意味では喜ばしいことですが、このままでいいのかというのは非常に気になるところです。そういう意味で、ハイエンドユーザーの方々を大事にしていきつつも、新しいお客様を開拓することが必要だと考えます。ご販売店様のお力を借りて、ここを広げていきたいという思いです。

一時的な状況に惑わされず
長期的視野で着実に展開

── 今後プロジェクターについては、どのような展開が考えられますか。

久保田たとえば一体型商品では、DVD搭載というだけでいいのかというところです。コンテンツはネット経由も考えられれば、当然ブルーレイということも考えられます。とはいえ、何でも取り入れようとしてしまうと、お手ごろな価格帯でのご提供は難しくなってしまいます。値ごろ感のある中でいかに大画面の楽しさ、簡単さをアピールできるかにこだわっていきたいと思います。

上位モデルへの対策も含め、この先ユーザーの皆様がコンテンツをどのような形で入手されるのかというところは見極めていかなければなりません。ディスクは案外消えないとも思えますし、悩みの深いところではあります。コストや使い勝手とのバランスをどうとるかが問題です。

 

── マイクロプロジェクターといったアプローチはいかがですか。

久保田ああいったものは、我々も従来から研究開発をしておりますが、現時点では本当にお客様に喜んでいただけるものなのかどうかということに疑問点があり、商品化には至っておりません。やはり明るさが足りないというところが大きな問題です。

とはいっても、我々もプロジェクションのいろいろな可能性を研究しておりますので、十分な明るさをもち、使う場所を選ばないといった条件を技術的にクリアすることができれば面白い商品であり、出して行きたいとは思います。

 

── 昨今のプロジェクター市場についての見通しはいかがでしょうか。

久保田プロジェクター市場は前年に比べかなり落ち込んでおり、これからどうすべきかというのは現状の大きな課題です。金額はもちろん、台数でも落ちたのは近年久しぶりのことです。しかしあまりじたばたしてもしょうがない、一時的なことと受け止めます。

とはいっても、我々もプロジェクションのいろいろな可能性を研究しておりますので、十分な明るさをもち、使う場所を選ばないといった条件を技術的にクリアすることができれば面白い商品であり、出して行きたいとは思います。

 

── いよいよ年末商戦が始まります。

久保田ハイエンド機は画質も一段と進化し、昨年モデルを超える力作になったと自負しています。これはご覧いただければわかっていただけるはずですので、そういう機会をぜひ増やしていただければと思います。一体型も明るさが倍になるという画期的な進歩を遂げており、いろいろなことに使えるモデルとしてご期待いただきたいと思います。

不況は続いてはおりますが、我々は今後も全体を盛り上げるための積極的な活動をして参りたいと思います。販売店様には、ぜひともご協力をお願い申し上げます。

 

◆PROFILE◆

久保田孝一氏 Koichi Kubota
1959年、長野県生まれ。1983年3月京都大学卒業。1983年4月エプソン(株)(現セイコーエプソン株式会社)入社。PC・各種プリンターの海外営業部門・CS部門を経て、2003年から液晶プロジェクターの営業部門であるVIマーケティング部に。2003年 VIマーケティング部長、2008年7月 映像機器事業部長に就任し、現在に至る。趣味は「外で遊ぶこと」、絵画鑑賞。