本田統久氏

お客様を獲得する重要な要素
「わかりやすさ」の表現が課題
(株)デノンコンシューマーマーケティング
代表取締役社長
 
本田統久氏
Motohisa Honda

市場のさまざまな変化の中にあっても、絶えず国内ピュアオーディオ市場をリードし、大きな存在感を発揮してきたデノン。既存のお客様はもとより新たな層も掘り起こして、オーディオ活性化の実現を目指す。7月に社長に就任された本田統久氏にその意気込みのほどを聞いた。

 

需要を掘り起こし、お客様を育成するため
大きな情熱で音へのこだわりを表現する

どんな状況でもゆるがない
強固な経営基盤を築く

── このたびは、社長ご就任おめでとうございます。まずは本田さんのご経歴からお聞かせください。

本田氏本田私は1982年、昭和57年に入社しました。それ以来国内営業一筋で27年間やっております。学生時代、よく北海道に一人で旅行に行ったものですが、特に厳冬期が好きで、ユースを泊まりながらの旅を毎年繰り返していました。凍結したサロマ湖を徒歩で渡り流氷を見に行ったりもしたのです。そんなことを入社試験の面接で話したところ、「面白い奴だ」ということで採用されたということのようです。

ピアノの講師をやっている姉の影響で私も幼少時に習わされたりしましたが、あまり上達もしなかったせいか演奏より音楽を聴くことが好きでした。オーディオにはもともと興味がありましたし、学生時代はよく自由が丘にあるJAZZ喫茶に通っていました。ですから自然と就職時期にはこの「音・楽」の業界にと考えるようになったのです。

私が入社した年はCD発売の年に当たります。その前年はLDが発売され、大きく再生メディアが変わる時期にありました。その後CDを搭載したミニコンが急激に伸び、ミニコンの販売に際して我々は当時後藤久美子さんを宣伝キャラクターに起用していましたが、他社さんも中森明菜さんや、早見優さんなどの人気アイドルを起用していましたね。業界全体は非常に活性化していましたし、オーディオユーザーの裾野が一気に広がったという感じでした。 

九州の営業時代にはCDプレーヤーの大ヒットモデルだったDCD-1100、1300、1500という商品が発売されました。当時私は長崎におりましたが、そこでも大変なブームで、割当てをもらうのが大変だったと記憶しています。

その後1988年に秋葉原に転勤し、専門店様を中心に様々な販売店様を担当させていただきました。当時、当社では専門店様が望むセパレートのCDプレーヤーをなかなか出せず、オーディオフェアにモックアップサンプルを毎年参考出品していたところ、「いつ商品ができるんだ」と大きな期待が寄せられるようになっていました。丁度その時に発売されたのがDP-S1、DA-S1で、これが大変ご好評をいただく結果となりました。

こうした第一線の営業時代の経験が、私にとって本当に大きな心の支えになっています。その時の販売店様との関係や商品との関わりにおいて、素晴らしい経験をさせていただくことができ、本当に恵まれていたと思います。

その後は、営業本部で販売企画、商品企画にも携わりました。その頃はホームシアターへの流れも大きくなり、ドルビーデジタル、DTSなども大きな話題となっていました。企画に携わった頃はDTS-ESとルーカスフィルムのTHXとのコンビネーションによるAVC-A1SEというAVアンプなども出し、発売イベントのためにルーカス、ドルビー、DTSの3社の関係者を海外から呼んだこともあります。あるいはNHKさんに何度も頼みに行き、将来のデジタル放送への流れとAACについての講演を依頼したことなどもありました。

こうしてタイムリーにいい商品に巡り会え、常にいい経験をさせていただきました。そういった経験を、このポジションにおいても活かしていかなければと思っております。


── 社長にご就任されてからの手応えはいかがですか。

本田2001年以降、弊社は日本コロムビアからデノンになり、またマランツと経営統合し、共同持株会社D&Mホールディングスの中核組織となるなど、いくつもの大きな変化を経験してきました。そんな中で私は、高付加価値商品への展開、コストの見直しなどというさまざまな改善を前社長の横間と二人三脚でやって参りました。

常に一歩一歩前進して参りましたが、昨年にはリーマンショックがあって大変な苦労を強いられました。それらを踏まえ、いかなる状況にあっても収益性を保ち、ゆるがない経営基盤を築きたい、という抱負を持っています。

さまざまな環境の中でも、デノンのブランド価値をさらに上げ、お客様の支持を得、それらを維持するために自信を持って活動できる環境というものを必ず確立したいと思っております。それが一番の思いです。


お客様がステップアップできる
階段状の商品カテゴリーが必要

── オーディオの商品が様々な変遷をたどる中で、御社はハイコンポについても多大な功績があります。10年以上も前に市場を形成したハイコンポですが、その流れは今に通じるものがあり、御社のCXシリーズというのは、“スーパーハイコンポ”にカテゴライズされるものと考えます。
以前私は横間さんに、CXはスピーカーを含むセット販売を強化するべきだと申し上げました。客単価が上がりますし、それこそお客様の求められる商品の形だと思います。

本田氏本田秋葉原の営業をやっている頃、ポイントコンポという商品を送り出しましたが、その後和田社長に応援いただいてハイコンポというカテゴリーが確立されました。当社ではプレスタ、エフ、ラピシアなどといったシリーズを投入し、最近ではCXやF107といった商品がご好評をいただいています。

ハイコンポのターゲットであるお客様にとって、さまざまなアイテムからお好きなものをお選びくださいというアプローチでは迷ってしまわれます。むしろ完結型として全てのアイテムをご提案した方が、売り場では分かりやすいと言えるでしょう。専門店様でしたら、トークで単価アップにつなげるということをお任せしていますが、量販店様では時間的な効率性が求められます。アンプ、プレーヤー、スピーカーとのセットのかたちでご呈示してお薦めする分かりやすい手法は、大いにありますね。

メーカーとしても、お客様を育て、またその先へとステップアップしていただけるよう、階段となるような商品づくりやアプローチを行っていかなければならないと思っています。そこではミニコンポやハイコンポがターゲットになるわけですが、ハイコンポの中でもF107からCXへというような、流れが必要です。ネーミングや宣伝活動、商品企画なども含め、さらに検証していく必要があると思います。

さらに、新たなお客様を掘り起こすということも大変重要です。お客様の音楽に対するニーズの中に、いい音で聴きたいという要望は必ずあるわけですから、そこに対してきちんとした商品でお応えしていくということがこれからのオーディオ業界に必要なことだと思います。

ただ最近のお客様のニーズは、こだわりということに対して希薄になっているようにも感じます。音質に対するこだわりというものをもっと引き出せるよう、我々が努力していかなくてはなりません。ですから我々自身ももちろんそういうことに対する熱意、パッションを出していかなくてはならないと思います。

音のよさというのは、どう表現するかが難しい部分があります。それを払拭して「わかりやすさ」を加味し、どう提案するかが問題です。何故音がいいのか、どういう点でお薦めなのか、見た目にもわかりやすい訴求というのが新規ユーザー層へのアプローチとして必要だと思います。これをメーカーとしてやり続けていかなくては、お客様はどんどん離れてしまう一方だと思います。

効率性は大変重要な要素となりますが、大手の家電メーカーの営業さんとは一線を画したオーディオ専業メーカーの営業らしい活動を行わなければなりません。営業自身が能動的に活動するということが、絶対に必要であろうと思います。

 

つくる、伝える、熱意を抱く
3つの要素を遂行し前進する

── D&Mにおける機構改革について伺いたいと思います。今回さまざまな機能が集約され、非常に風通しのよい組織になったという印象です。

本田風通しのよさは、いろいろな面で反映されていると思います。企画立案においても、いろいろ現場の意見を取り上げていこうという風潮が強くなり、それは実際のアクションとして現れています。

たとえば設計・企画グループが実際の商談に参加したり、商品企画に関しても我々の販売組織のメンバー、あるいはディーラー、あるいは店頭に立っている我々の応援者、そういうメンバーとのミーティングを行うということを実践しています。そこからいろいろな意見を抽出して、現場の意見を反映していこうという流れができているのです。

それは大きな力になると確信しており、今後その成果が具体的な商品、販売手法として出てくると思っています。

私は社長に就任した際、社員に向けて3つのことについての要望を出しました。まずは新製品をキッチリと提案し、発売し続けていこうということ。もう1つは、音質はもちろんのこと、プラスアルファの良さをしっかり伝えようということです。音質のいいものを提案するのはオーディオメーカーとして当たり前ですが、それにプラスして「わかりやすさ」というものをどう打ち出すか、ということを考えてくれと頼みました。お客様がこの商品を購入していただいたことで何が変わるのか、どう豊かで便利になるのかがわかるように伝えて欲しいということです。そして最後に、それらを伝えるための営業のさらなる熱意を要望しました。

特に1番目に挙げたものづくりは、最大の課題だと思っております。音のいいもの、お客様が要望するものを、オーディオメーカーとしてきちんと企画し提案し続けていくことは何よりも重要なことと思います。ましてやグループ全体として、伸張する中国市場やその他の新興国に目を向けていかなければなりませんし、ホームシアターの北米市場は経済的なダメージが残るといっても重要視していかなければなりません。世の中がグローバル化する中で日本市場の存在感を如何に上げていくのか、そのことがデノンの国内営業部隊であるデノンコンシューマーマーケティングの重要な役割と考えています。 

日本市場が望む商品はどうあるべきか、経営基盤を確立し、それをきちんと伝えていくことです。AがあるからこそBが売れる、また日本市場特有の多様なユーザーニーズに応える意味においても、そしてお客様を育てるという意味でも、ステップアップの商品構成は失ってはいけないファクターと感じています。

 

ホームシアターの拡大へ
体験できる環境づくりが急務

── ホームシアターについても、インストーラーの支持はデノンに集まっていると感じます。今エコポイント制度の追い風で40インチ以上のテレビが売れていますが、そうなると100インチクラスのさらなる大画面に対する志向も出てくると思います。大画面テレビを買う絶対人数が増えていますから、ホームシアターに対する志向も必ず増えてきます。100インチ画面に合うAVアンプやBDプレーヤーに対するニーズが出てくるはずです。


本田氏本田薄型テレビの普及率がこれだけ伸びていながら、シアターシステムの同時購入、付与率というのは10%くらいとまだまだ少ない状態です。薄型テレビ市場はまさに価格競争の最たるジャンルですから、それに対する付加価値アップは単価アップにおいても、顧客満足度アップにおいても非常に重要なポイントになってきます。また一般ユーザーのニーズが高まってくると、その中で「さらなるこだわり層」が増えてきます。その流れの中で我々は、ユーザーにわかりやすい、満足度の高いシステムアップを提案していきたいと考えています。

ホームシアターは二極化しており、ただテレビの音がよくなるだけでいいという方と、インストーラーを介してもっとハイグレードのものが欲しいという方がいらっしゃいます。そういったニーズに向けての提案というのは、メーカーとして販売店様とともに二人三脚やっていかなくてはいけないと思っています。

前者に対してはオーディオコーナーばかりではなく、映像コーナーでの展開も重要であり、映像商品の販売に携わる方々が売りやすい環境をいかにつくっていけるか、そのために販売店様には取り扱っていただけるメリットを明らかにしなければならないと思います。システムで最高のエンターテイメント性をお見せすることは、お客様に対しての最高のプレゼンテーションではないでしょうか。

もうひとつ重要なのは、売り場での人づくりです。お客様にお声かけする際の手軽な販売ツールや違和感無く接客できる環境づくりといったようなことも、営業マンが一緒になって提案していくことが必要だと思います。

片やインストーラーの方々には、付加価値の高いホームシアターをより具体なかたちで提案していかねばなりません。まだまだ敷居が高いと思われているユーザーも多く、視聴できる体験の場をより多くインストーラーの皆さんと創り上げていきたいと考えています。

もう三年以上になりますが、ピュアオーディオに関しては我々も銀座音楽倶楽部など定期的なイベントを実施しており、ホームシアターの最高の環境を味わっていただく場を今後どうつくるかが課題です。販売店様や関係団体の方々とのタイアップも含め、検討していかなくてはならないと思います。


── インストーラーの育成や、構築したホームシアターのデータベース化も必要だと言えるでしょう。ホームシアターはお客様とインストーラーでつくった作品で、お客様にとっては幸福家族の文化基地です。それをデータベース化することによって、新たなお客様がそれを見て、自分の環境と照らし合わせることができれば、具体的な注文に結びつけることがスムーズになります。

本田ホームシアターはよほど広い部屋でないとできないと思っている方が、まだたくさんいらっしゃいます。6畳間でも手軽にできるのだということを、メーカーとしてもっと訴えていかないといけません。まだまだお客様へのアプローチは足りないのです。それが今の業界の厳しさに象徴されていると思います。ホームシアターに対する啓蒙活動はきちんとやっていかなくてはならないと感じています。

日本の市場にはまだまだ豊かさが残っていると思います。ただお金を何に使うかということにおいて、「音」「音場感」というものに対しあまり執着心が無い、というよりは「知らない」。それ故に、そこに投資しようという気にならない。しかしその良さがわかれば、そこに投資される方もまだまだいらっしゃるはずです。メーカーの工夫と体感の場が重要

 

オーディオメーカーとして
リーダーシップを発揮する

── 最後に、販売店に向けてメッセージをお願い致します。

本田オーディオの業界を活性化させるには、お客様に対するオーディオの価値を上げなければいけません。より高く評価していただくことが趣味の商品として非常に重要です。そのためにはどうしたらいいか。決して量の販売でもないし、展示数の拡大でもありません。やはりその価値を理解いただける方を、いかに増やしていくかが大事だと思っています。販売店の皆様と二人三脚で共に歩んでいく姿勢を、今後も大事にしたいと考えています。

毎年度、いくつかの社内目標、スローガンを呈示していますが、一貫して掲げ続けていることは、ブランドを大切に育てていこうということと同時に、我々はオーディオメーカーの質的なリーダーになろうということです。デノンと付き合っていてよかった、さすがデノンの営業だと言われるよう、リーダーシップを業界で発揮していきたいと思います。

 

◆PROFILE◆

本田統久氏 Motohisa Honda
1982年日本コロムビア(株)入社。1996年販売企画部 コンポ担当主幹。2001年東京中央電機営業所所長。2006年(株)デノンコンシューマーマーケティング 営業本部 営業部部長。2007年営業本部 本部長 2009年代表取締役就任。趣味は音楽・映画、熱帯魚飼育。51歳。