石井 晃氏

地デジ完全移行へ受信相談から経費支援まで
“お困りごと”解決の強力な助っ人
総務省
テレビ受信者支援センター(デジサポ)
統括本部 本部長
 
石井 晃氏
Akira Ishii

2011年7月24日、地デジ完全移行の実現へ、残された時間は2年を切った。残り4割、およそ2000万世帯の地デジ化はハードルもますます高くなる。地域密着で地デジ化促進を目指す「総務省テレビ受信者支援センター」、通称「デジサポ」(※)では、受信者の“お困りごと”解決に様々な支援活動を展開している。これまでの活動から見えてきた新たな課題や今後の活動方針について、同センター統括本部本部長・石井晃氏に話を聞く。
※デジサポは(社)デジタル放送推進協会(Dpa)により運営されています

 

情報を提供していくことが
話しを進めるきっかけになる

地デジ説明会を
年度内に7万回開催

── デジサポの現在の活動体制、組織についてお聞かせください。

石井昨年10月に全国11箇所で稼働を開始し、今年2月の段階で全都道府県51箇所に拡充しました。アナログ終了リハーサルを行う石川県珠洲に設けた支所を合わせると52箇所になります。民放、NHK、メーカーからの出向者で運営されていますが、今年度の追加補正予算により十数名の増員となり、9月からは330名強の体制となります。実際の業務にあたっては、さらに、受信相談、調査や共聴対応、説明会を委託している事業者が加わり、約4000名がデジサポの業務を行っています。


── 地デジ化促進への様々な活動を展開されています。全国各地で行う「地デジ説明会」は年間7万回の開催予定とお聞きしています。

石井7月には5995回を行いました。立ち上げが6月ですから、平均すれば月7000回となり、これからさらにペースを上げていく必要があります。町内会などのエリアごとに、公民館や集会所で開催しています。

地デジ説明会

地デジ説明会は、町内会などのエリアごとに、公民館や集会所で開催。7月には全国で5995回を開催した


開催する地域には、場所や日時などの開催案内と地デジの説明を入れたDMを前月に配布していますが、これを、全国5000万世帯すべてに順次送付していく予定です。自治体との連携、協力関係が一番のポイントになると考えています。


説明会までわざわざ足を運ばれるのはかなり意識の高い人で、参加される最大の目的も「私の家はどうすればいいのだろう」ということなのです。そこで、地域のケーブル連盟加盟社にもお手伝いいただき、説明会が終わった後には受信相談や実際にお宅へ伺うなどきめ細かな対応を行っています。

受信相談会


地デジ説明会の後には個別の受信相談会も実施する

現在、平均の参加者数が20名前後ですので、もっと多くの方にご参加いただける周知活動がこれからの大きなテーマになります。


── 地デジの移行に関連した詐欺まがいの事件なども見られますし、そうしたものとの混同を避ける上でも重要な活動ですね。

石井説明会に参加できない高齢者や障がい者の方への戸別訪問を並行して行っています。今年度は90万世帯に伺う計画ですが、進捗状況が芳しくありません。都会でも田舎でも、見知らぬ人が高齢世帯を訪ねて行って、そう簡単には受け入れていただけないのが実情です。今後は地元の顔馴染みの方やご近所の電気屋さんに顔つなぎしていただきながら、進めていこうと検討しています。


進捗が芳しくない
ビル陰共聴のデジタル化

── 実際に活動を進めていく上で、誤算も少なくないということですね。

石井氏石井共聴施設のデジタル化の推進では、「集合住宅」と「ビル陰による受信障害」とがあります。特にハードルが高いのがビル陰共聴です。

ビル陰共聴は、アナログ時代にビルの電波障害のために設けられた共聴施設で、その所有者(施設管理者)と受信者への説明が必要になります。しかし所有者には、デジタル時代にはもう必要はないという意識が強く、一方、受信者の側では、自分が今、どのようにしてテレビを見ているのか、どのビル陰が原因で設置された共聴施設を利用しているのかよくわからないといった問題が見受けられます。そのような中で、地デジ化を進めていかなければなりません。


地デジになるとビル陰障害が減り、かなりの部分で個別受信が可能になると言われていますが、それでは「地デジになったから個別に受信してください」という説明を誰が行うのか。「なぜわざわざアンテナを設置するのか」という不満も出てきます。また、デジタルになっても受信障害が残る場合に、誰が経費を負担して、地デジの改修をするのかという問題もあります。総務省では、共聴施設の所有者と受信者の当事者同士で話し合うという見解を示していますが、具体的に、誰かがその間をとりもって話を進めない限り、状況は進展しません。


デジサポでは施設管理者を訪問して、地デジ化へのアドバイスを進めていますが、昔からの施設で管理者がわからないケースもあり、ビル陰による約5万の共聴施設に対し、現時点で5000施設しか回れていないのが実情です。さらに、改修が必要なところに対し、助成金の申請を進めていかなければなりませんが、これが全国でまだ3件の申請しかありません。助成制度そのものの周知活動もさらに徹底していく必要があります。


── 総務省が発表した3月末の調査では、全国の約5万施設(約606万世帯)のうち、デジタル化は約1割しか進んでいません。

石井いわゆる辺地共聴などでは組合組織があり、当事者意識がありますが、ビル陰の場合は、受信者側がなかなかまとまらないというのもひとつの課題となります。また、施設管理者と受信者がデジタル化に向けての経費負担など、相談を持ちかける場がありませんでした。そこで、各地域において第三者(弁護士など)により、無料で相談・あっせん・調停を行うためのスキーム(受信障害対策紛争処理)づくりも現在進めているところです。


── 来年4月くらいまでには何らかの結論を出していかないと間に合いません。

石井助成制度があることをどれだけ多くの人に伝えることができるかです。これまでの活動でわかったのは、待っていてもほとんど相談には来てくれないということ。こちらから案件を掘り起していかなければなりません。


説明会の会場でも、地域の電波環境や共聴環境がどうなっているのか、情報をできるだけお伝えしています。例えば、ビル陰共聴の対応をする際にも、「お宅のビル陰ではほとんど地デジが受信できます」「やはりむずかしそうです」といった情報が提供できれば、話を進めていくきっかけになります。単に「デジタル化をお願いします」では、何をすればいいのかわかりにくいですね。


そのためにも、受信環境の調査が重要で、クルマにダイバーシティ受信機を積んで走らせ、受信状況の調査(通称“パパッと調査”)を進めています。定点でポールをあげて調査するのとほぼ同じ結果が得られることも確かめられています。

パパっと調査


ダイバーシティ受信機を積んだ車を走らせ、受信状況の調査“パパっと調査”を進めている。地図上に色分けし、説明に活用する

道路上(地図上)に、地デジが受信できるところは青や緑、やや心配なところは黄色、受信できないところは赤と色分け表示できます。この調査結果を示して、共聴の施設管理者への状況説明や、「自分の家では受信できるのだろうか」という説明会出席者のニーズにお応えしていきたいと思います。デジサポのホームページにも掲載していく方向で検討を進めています。


── 販売店に地デジテレビを買いに来られたお客様が、店頭でデジサポのホームページを見て、自分の住んでいる場所で地デジが映るのかどうかを確認できるようになれば、販売店にとっても重宝しますね。

石井販売店でも、地デジテレビの販売に際しては、地デジが受信できるのか、できないのかまできちんとフォローしていただきたいですね。高齢者世帯など、自ら確認することが難しい世帯もあります。受信できない場合にも、単にテレビのセッティングの問題なのか、電波そのものが来ていないのか。そこまできちんと確認していただき、地域の情報としてもフィードバックしていただけると助かります。販売店にとっても、そうした取り組みが、顧客満足やお客様からの信頼につながっていくと思います。


また、デジタルの場合には、ビル陰でも9割は受信できると言われており、昔のアナログの感覚で、単純に「ここはビル陰なので受信できません」といった対応では普及は進みません。アンテナを回して確認してみる必要もあります。そういう地域事情や受信の仕方を販売店自らがきちんと学んでいくことも大切なテーマだと思います。


東京を中心とした南関東などVHFアンテナだけで個別受信しているお宅が多い地域では、デジタルテレビの販売時に、UHFアンテナの説明やセット販売、また、UHFアンテナがついている場合は良好受信のための方向調整に、さらに力を入れていただきたいと思います。


── もう一方の集合住宅についてはいかがですか。

石井全国に約200万施設、1900万世帯あります。総務省の調査では3月末時点ですでに約7割が対応済みです。ビル陰共聴に比べれば順調ですが、ここでも最後に残るのは、比較的ハードルの高いところになります。管理組合や管理会社を訪問して、説明をさせていただいていますが、単に「やってくださいよ」ではなく、「ここはできている」「これはできていない」ということをきちんと把握してターゲットを絞り、危機感を募るような説明が必要だと感じています。


また、集合住宅の場合は、管理組合の総会で議決しなければ話が前へ進みません。工事そのものより、手順を踏む分、そこに至るまでの時間がかかります。総会も年に1回というケースが多く、来春に総会をやるところでは、今から話し合いを開始し、見積もりを取っていかないと間に合わなくなります。

 

行政の積極姿勢が
鍵を握る今後の進展

── 簡易チューナーの話など、間際になればどうにかなるだろう、といった気持ちが障壁になっていることはありませんか。

石井氏石井地デジに対する認知度も高まり、「何かしなければいけない」という意識は確実に高まってきています。すでに地デジ化されている人も、2台目、3台目をどうするかという課題がありますから、そうした意味から、簡易チューナーに対してはみなさん興味があります。説明会でも、「いつごろ、いくらくらいで発売されるのですか」といった質問もお受けします。この件については、デジサポが直接かかわるテーマではありませんが、説明会などでも、あわせてお話しはしていきたいと思います。


現在、進められている弱者支援向けの5000円以下のチューナーができれば、市場にも投入されるわけで、できるだけ手軽に手にできるように、コンビニや書店でも、ビニールに入れてぶら下げて、販売してほしいですね。


「今のテレビはまだ十分に使える。買い替えるのはもったいない」という高齢者も多く、チューナーを実際につないで、放送を見ていただいた上で、その次には「もっときれいに見られる薄型テレビが欲しい」という流れが出てくればいいのではないでしょうか。


── これからは、もっと行政が中心になって動いていく必要がありますね。

石井全国で行っている説明会も、都道府県別に進捗状況に差が見られます。島根県のように、すでに50%近くに達しているところがありますが、その原動力は自治体のやる気です。「次はここ、その次はあそこ」とむしろ自治体に引っ張ってもらっています。地域ごとの説明会の状況を分析して底上げを図っていきますが、各地域の自治体にもっと協力的、積極的に動いていただくためにも、総務省・総合通信局からの働きかけが大きな鍵になると思います。


── また、これからますますハードルが高くなっていくわけですから、販売店などサポートしていく側に対するインセンティブも検討していただきたいテーマだと思います。

石井最後に残る1割ないし2割は、相当ハードルも高く、ビル陰や小さな集合住宅など、放っておいたらなかなか前へ進みません。そこで話をまとめていくわけですから、サポートしていただく方に対する何らかのメリットがないと、実効も上がっていかない気がします。


われわれの仕事も、委託事業者が進めてくれていますが、地デジ化が進展した場合など何かインセンティブのある仕組みができないか検討しているところです。汗をかく人のやる気が高まらないと、前へ進まない。相手がむずかしくなればなるほど、積極的にアクションを起こし、進めてもらうために、サポートする側がメリットを感じる仕組みは必要になってくると思います。


── 啓蒙活動にもさらに力を入れていかなければなりませんね。

石井7月末に補正予算関連の追加事業について、国から採択を受けました。補正予算により約140億円がデジサポ関連の追加事業となりました。これまではビル陰のデジタル化改修だけでしたが、新たに、集合住宅の地デジ化改修や、ケーブルテレビへの移行、ビル陰が変わったときの共聴新設に対しても助成ができるようになり、8月17日から申請受付をスタートしています。地デジ移行まで2年を切りましたが、これまでお話してきた様々な活動にさらに力を入れて、受信者の皆様の困りごとをしっかりとサポートして参りたいと思います。

 

◆PROFILE◆

石井 晃氏 Akira Ishii
1978年日本放送協会入局、主に送信技術を担当。技術局計画部統括担当部長、技術局送受信技術センター長を経て、本年6月からデジタル放送推進協会に出向し現職。