英 裕治氏

音楽を聴きたいという想いに
こだわりをもって応えていく
ティアック(株)
代表取締役社長
英 裕治氏
Yuji Hanabusa

ハイエンドオーディオのエソテリック、システムオーディオを展開するティアック、そして音楽制作用機器のタスカムと、3つのブランドでさまざまな展開を打ち出すティアック株式会社。iPodとの親和性を全面に打ち出したハイコンポやPCMレコーダーなど、高い提案性をもつ商品で市場に元気を与える同社の活躍ぶりを英社長にお伺いした。

ユニークなもの
他に無いもので勝負する

国内市場に向けた
ティアックの新たなチャレンジ

── 英社長にはこの度初めて本誌にご登場いただくこととなりました。まずはご経歴からお聞かせください。

英氏 私は1985年の入社で、ティアック一筋25年という経歴です。私自身楽器を演奏しますが、学生時代にタスカムのレコーダーを使ったり、ティアックのカセットデッキに出合ったりしたことが、当社に入社するきっかけにもなりました。

入社後はタスカムの国内営業からスタートし、企画、販売、マーケティング、マネージメントを経験して1992年から2年ほどヨーロッパに駐在もしました。帰国して2004年にタスカムの総責任者という位置付けになり、その翌年に当時のエンタテイメント・カンパニーのプレジデントを経て、2006年から現職となっています。

ティアックは今年創業56年目にあたり、現在4つの事業部を展開しております。

音響関連事業が2つです。その1つがコンシューマ機器事業部で、ティアックブランドのオーディオ製品とエソテリックというハイエンドオーディオ製品を統括しています。もう1つが昨年新設したプロフェッショナル機器事業部です。タスカムというブランドでプロ用の市場に向けた製品を扱う業務用機器部門と、楽器店で販売されるような製品を扱う部門で構成されています。

残りの2つは、情報機器事業部と周辺機器事業部というBtoB事業です。前者は、データレコーダーなどの計測機器やコールセンター市場に向けた通話録音システムなど、ソリューションの提供を主体とした事業を展開しています。後者は、フロッピーディスクやカードリーダーの他、オプティカルドライブを主体として、CDーROM、DVDーROM、DVDのマルチ録音/再生機などを扱っております。

── 御社のオーディオ事業について、詳しくお聞かせください。

エソテリックは、ハイエンドの世界で非常に高い評価をいただいています。一昨年頃、高級オーディオへの人気が高まる兆しを見せる中で、国内オーディオ市場に商機があると判断しました。ティアックは、ここしばらくReferenceというシリーズで欧州を中心に事業展開をしていましたが、“ティアック”としてもう一度チャレンジすべく再参入したという経緯があります。

ティアックはiPod対応のシステムなど比較的低価格な商品を出し、アメリカを中心に好調でしたから、当初はこれを国内に導入し、今でも継続しています。そこに昨年から、中級機であるReferenceシリーズの国内販売を新たに開始したという流れです。

── Referenceシリーズは、御社のアーネストシリーズ以来、およそ10年ぶりとなるハイコンポであり、我々も非常に注目しています。最上級クラスのReference600とミドルクラスのReference380、そしてエントリークラスのReference200と3つの機種を投入されました。

380と200は海外で展開していた、10万円以下のシステムの最新モデルです。それに対して600は、レシーバーアンプとCDプレーヤーがそれぞれ12万6000円という価格で、部品を含め素材にこだわりをもたせて新たにつくりました。エソテリックと同様のエッセンスを持ちながら、ティアックからリーズナブルな価格帯で売り出すことは、我々にとっての新たなチャレンジであり、今年全世界で販売をスタートさせたところです。

── 昨今ではハイコンポクラスのシステムにもiPodに対応するドックや端子が搭載されてくるようになりましたが、このReferenceシリーズこそ、国内で最も早い時期にドックを搭載したハイコンポですね。

iPod対応という点では、アメリカで先行してご評価をいただいてもいましたし、我々は先駆者的なところがあると思います。その市場がアメリカで急激に拡大していたこともあり、早い段階からmade for iPodのライセンスをとりました。iPodまわりのノウハウもわかっておりますし、この強みを引き続きティアック製品のテイストとして、600にも取り入れたということです。

── 今のオーディオ市場は、ハイエンドとiPodまわりのエントリークラスとに商品が偏り、生活空間で気軽に楽しめるミドルクラスのカテゴリーが薄くなっています。我々は、そこに応えるものがハイコンポであり、オーディオ市場に新しいお客様を呼び込むために、今こそハイコンポというカテゴリーづくりが必要だと考えます。
御社がReferenceシリーズで提案されている形は、まさに現代のハイコンポにふさわしいものと思います。iPod対応をはじめとする新しい要素、今のニーズに応える要素を取り入れて、しかも求めやすくデザインもすぐれており、もちろん音もすばらしいものです。

今こそ求められるハイコンポ
Referenceシリーズ

これだけiPodやポータブルオーディオが普及してきますと、かなりのお客様が、ご自分でお持ちの音楽素材をその中に入れて持ち歩いていらっしゃると考えられます。それなのに、家に帰ったときだけまったく違うシステムを使わなければならないというのも手間ひまがかかることです。

Referenceシリーズでは、iPodを挿すだけで家の中でも多くの音楽データを手軽に楽しむことができますし、堅苦しくなくインテリアにおさまりがいいといったニュアンスを求めています。ハイコンポのコンセプトと共通していますね。リビングに置いても、ベッドサイドに置いてもいい。オーディオを経験したことのないお客様にも、アピールしやすいのではないかと思います。

── ピュアオーディオ市場がこれだけ縮小した中にあっても、iPodで音楽を楽しまれている方はたくさんいます。このユーザーにオーディオの楽しさをアピールし、ピュアオーディオ市場に誘導することは緊急の課題だと考えます。

御社はオーディオの事業において、ティアック、エソテリックなど複数のブランドを持ち、商品構成もエントリークラスからハイエンドまで多岐にわたっています。それぞれ販路もターゲットユーザーも違うわけですが、実はiPodまわりのエントリークラスのところから、エソテリックのハイエンドオーディオまで段階を経てお客様を誘っていくことこそが、オーディオ市場にもっとも必要とされていることだと思います。

英氏

まったくそうですね。iPodまわりの商品を手がけた当時、ラスベガスでiPodやそのアクセサリー類が自動販売機で売られていたのを見て、iPodがそこまで市民権を得ているのかと驚きました。iPodはますます生活の中に入り込んでくるだろうという認識で、思いを新たにReferenceシリーズに取り組んだ次第です。

エソテリックは子会社化してティアックとは別の展開を行っており、そこでは専門店様としっかり組ませていただいた販売の仕方をしているのですが、ティアックは比較的自由な販路で、いろいろなお客様の目につきやすいところで展開しているという状況です。

これらを補完するという考え方のひとつとして、たとえば当社では、アナログレコードのコンテンツをCDやカセットに録音するという機械を出して、通販や一部のレコードショップの店頭といった特殊なルートで販売させていただき、非常に好評をいただいている状況です。ピュアに聴きたいということだけでなく、昔大事にされていた音楽の財産をアーカイブしたいというニーズがあるのです。

── 新しい存在をアピールすることにおいて、販売店の存在は欠かせません。ただiPod関連の商品となると、専門店さんはあまり積極的な取り組みはされていないように感じられます。特にReference600は専門店さんでお取り扱いいただくに相応しい商品だと思いますが、どのようなアプローチをされているのでしょうか。

我々自身はiPodを否定していませんし、iPodへの取り組みを隠すつもりもありません。ですから、そういった当社の考え方をご理解いただける専門店様にお取り扱いいただくということになるかと思います。

また量販店様の店頭でも、まだiPod関連商品とピュアオーディオ商品との売り場の関連性が薄いといったような状況が見受けられるように思います。これをしっかりつなげていくということが今後の課題のひとつと考えますし、そういう中で私どもの商品が橋渡しになればと思います。

こだわりをもちつづけ
ユニークな商品で勝負

── 録音機についても、御社は積極的な取り組みをなされています。

 タスカムでは、MDや、カセットとCD-Rのコンビネーション機、CDとMDの複合機などを扱っています。たとえば結婚式場などでお客様が音楽を持ち込むとき、どんなメディアを持ってこられるかわかりませんから、あらゆるメディアに対応するこういう市場が大きく存在します。業務用はもちろん、コンシューマ用にもベースが同じ物を応用して展開しています。

── ポータブルデジタルレコーダーの市場も、昨今ではかなり広がってきました。

非常に大きな市場であるという感触を得ています。DR-1からスタートしてDR-07、DR-100と3機種を出していますが、おかげさまで非常に高い評価をいただいています。

もともとのICレコーダーとリニアPCM録音のレコーダーを合わせると、国内だけでも年間100万台くらいの市場があると言われています。その中でも我々は、レコーダーメーカーとしていい音で録るということを大前提に、こだわりの商品を投入してきました。録音して再生するだけでなく、トレーナーというシリーズをベースに楽器を練習する方のための機能を付加していたり、オーバーダビングという機能を搭載していたりしますので、こういう部分もお客様にご好評いただいていると思います。

また生録の需要も結構大きく、録音機やマイクの性能が追求されるということで、そういう部分にも配慮して商品をつくってきました。今後は筐体の小さいものも追求していきたいと思います。

── 国内のオーディオマーケットは、いわゆるオーディオブームの頃と今とでは様変わりしています。昨今の市場の規模をどのようにご覧になっていますか。

iPodなどのポータブルプレーヤーを含めて市場がクロスオーバーしていますから、捉え方によっては大きな市場があると思いますし、コンポーネントに限定すると縮小しているとも言えます。しかし音楽を嫌いな方はほとんどいないでしょうし、どんな時代であっても音楽を聴きたいというニーズは同じようにあると思います。ただ、時代によって音楽を再生するかたちというのは変わってきています。アナログからデジタルへの変化で技術も変わり、コストも変わりました。ニーズの全体数というのは変わってはいないと思いますが、かたちや単価の問題が変化してきたために、市場規模が変わったのだと考えます。

ティアックで日本に再参入する際、ブランドの認知度調査をしたことがあります。その時、ティアックという名を知っている、商品をもっていると答えた方は年齢層が高い方でした。オープンリールのティアックということで認識されている方が非常に多く、今でもファンの方はたくさんいらっしゃるようですが、一方で若い方は知らないというブランドになっている部分もあります。

そういう若い方を取り込むために、やはりiPodがいい手段になると思うのです。そことの親和性を出すことで、若い方が新たにティアックに触れてくださる機会が増えるのではと思います。

またタスカムの商品も、ポータブルレコーダーを出したことでいろいろな方に接していただく機会が増えました。ティアックやタスカムという名前が、さらに浸透すればと思います。

── 御社は今後、オーディオ事業についてどのような展開をされますか。

国内では多くのオーディオメーカーさんがすでに活躍しておられます。我々はそういったメーカーさんと、真っ向勝負をするつもりはありません。むしろターンテーブルCDレコーダーや、iPodと親和性のあるシステムなどユニークなもの、他には無いものでこれからも勝負していきたいと思います。

同じものを大量につくって、安く売ったものが勝ちという世界はティアックには合わないと思いますし、こだわりをもちたいと強く思っています。ユーザーインターフェースについても、機能をつめこんでマニュアルが分厚くなってしまうというような商品は、メーカーのエゴが出てあまり好ましくありません。どなたにでも使っていただけるような、やさしい機械にこだわっていきたいと思っています。今後も、こだわりを大切にした商品を提案し、それを理解していただけるようお客様にアプローチしたいと思っています。

◆PROFILE◆

英 裕治氏 Yuji Hanabusa
1961年生まれ。1985年成蹊大学工学部卒業、同年ティアック(株)入社。2001年2月タスカム部長、2004年6月執行役員 タスカムビジネスユニットマネージャーに就任。2005年5月執行役員 エンタテイメント・カンパニープレジデント、2006年6月代表取締役社長に就任、現在に至る。