中野 宏氏

音へのこだわりをベースに着実にステップアップして新たな市場を構築していく
オンキヨー(株)
代表取締役副社長
中野 宏氏
Hiroshi Nakano

オーディオ市場で、専業メーカーとして揺るぎない地位を築いてきたオンキヨー。薄型テレビのシアターラック“AVゲート”や国内での早期取り組みで先んじたHDオーディオ対応AVアンプ、さらに新たな市場創りにチャレンジするオーディオPCなど、市場が縮小する中にあって次々と新たな提案を打ち出している。専業として新たな市場をつくるべく業界をリードするという同社について、新たに副社長に就任された中野氏にお話しを伺った。

シュリンクする市場で
オンキヨーがリーダーとなって
新しいジャンルを構築する

信頼性と独自性、そして音への大きなこだわり

―― このたびの副社長ご就任、おめでとうございます。ますますのご活躍ですね。あらためて中野さんのご経歴をお聞かせいただけますでしょうか。

中野以前の会社(編集部註:株式会社ケンウッド)で私は、役員になるまで海外畑におりました。その後社長室長を1年間務めてから社長になりましたが、1年間で辞めて顧問となり、その後当社に入ったという次第です。

―― 中野さんがオンキヨーに入社されて5年ほどになります。御社とは長い間おつきあいをさせていただいていますが、昨今ではマネージメントも盤石となり、積極的な展開を図られていると感じます。そこに中野さんが加わったことにより、御社はますます強い存在となりました。

中野 宏氏

中野当社に来て15年になる社長、大朏の経営に対する思想が会社内に徹底されていると思います。 大朏の考え方は、販売額を云々するより、いいものを提供してお客様に信頼されること、技術や販売などにおいて独自性を持つということを重要視しています。

いろいろなビジネスをして規模を拡大するというのもひとつの会社のあり方ですが、当社は規模を追いかけるというより、一歩ずつ確実にステップアップしていこうという考え方が社員の中に培われております。

ですから、どちらかというと冒険はあまりしない、技術も営業もPLも安全な手段で、確実な会社を目指していると思います。

また当社には音を決める役員がおり、その判がもらえない限り商品を市場に出せないというルールがあります。なぜこんなにと思うほどのこだわりを持ってお客様に満足していただける音を目指しており、そこは妥協できないのです。

そういう意味で、オンキヨーの音の血筋、DNAはずっと変わっていないと思います。そのDNAの中で音の改善というステップアップはあるとしても、オンキヨーの音そのものは変わりません。スピーカーの材質やエレクトロニクスの中身などにもこだわりを持った部品を使っていますし、他社様が真似をしようにも難しいであろうというものを出している自負があります。

―― 上場企業は株主からの要求はさけられません。そういう中でも、オンキヨーのペースで方針を変えず、結果的に株主の要求に応えることができる会社だと思います。

中野 株主の皆様も、オンキヨーが利益志向ではなく、商品という宝物をどうやって育てていくかに重点を置く会社だということを分かっていらっしゃいます。また当社は若干業績の芳しくないときでも配当は同じようにしており、その安定感を株主様も感じられているのではないかと思います。

私どもにしてみれば、株主様としてオンキヨーの株を持ち続けていただいている方に対しての信用を維持していくことが大事です。これも大朏が経営に携わってきた15年間のフィロソフィだと思います。

拡大する薄型テレビ市場でラックシステムを提案

―― この15年間というと、オーディオは非常な低迷期にありました。縮小してしまったマーケットですが、御社はそこを確実に押さえてシェアを上げてきました。そして、次のビジネスにおける一手を講じるやり方も見事だと思います。

中野 従来のオーディオは現在シュリンクしています。我々もそれだけに固執していますと、いくら残りものに福があるとはいえこの市場で食っていけなくなるという現実があります。ですから、オーディオというフィールドの中で、新しい商品の方向性、国別の市場の方向性を探り、検討しながら動くということを、企画を中心に皆真剣にやっております。

そういう中で薄型テレビがあり、DVDが出て、次のステップとしてホームシアターが出てくる。しかし国内と海外では環境も楽しみ方も違い、商品企画は区別する必要があります。

そこで当社はテレビ、スタンドにホームシアターシステムを組み込んだ「AVゲート」という商品で、シアターラック分野の先陣を切りました。これは日本の市場を考えた時、ラックにスピーカーシステムを入れてしまおうという営業サイドの発想が発端です。

私としては、これが売れればテレビメーカーさんが黙っていない、短期決戦だろうと思いました。先陣を切って3年くらいはいい思いもさせていただきましたが、今やまったくその通りの傾向になりましたね。次々に企画と営業でアイデアを出し合って先取りしていかないと、特に日本の市場は世界でも一番厳しいと思います。

一方、世界戦略としてAVセンターに注力するということになりましたが、当初国内では難しいという判断もあり、アメリカ、ヨーロッパの志向で企画、商品化されました。しかしやはり国内でも必要性を感じ、昨年「5シリーズ」というのを全世界一斉に出しました。すると私どもの国内営業でも驚くほどの反響があったのです。

―― AVアンプの市場は、今年後半に向けてもますます期待が持てる状況です。またホームシアターにおいて、御社はインストールビジネスにも力点を置かれていますね。

中野アメリカのインストーラー雑誌で、私どもの「インテグラ」ブランドがカスタムインストール業をやっておられる方からの支持を獲得しまして1位となり、堅調に推移しています。

カスタムインストールは、カーテンや照明に至るまですべてが自動コントロールできて、テレビは埋め込みで、スピーカーはインシーリングで外へ出さない、というような状態をつくります。

ここではデザイン料も付加価値となりますが、一番重要なのはシステム構築なのです。リビングルームで見たものの続きをベッドルームで見るといったような、お客様ごとのニーズに合わせて家一軒まるごとのコントロールソフトをどう組むかということが、インストーラーとしての価値なのです。そしてそれに合った品物を出せるメーカーが一番サポートされるということです。

中野 宏氏国内でもハウスメーカーさんの付加価値としてホームシアターがあるわけですが、当社の商品はおかげさまでモデルハウス1000棟ほどに採用されている状況です。ただ、家のことについて、いわば我々は専門外でした。日本の家は海外と違って隣の部屋との厚みが壁1枚しかないですから、スピーカーひとつ埋め込むのも大変なのです。いろいろ苦労がありましたが、今は知識と経験が宝物になりました。

縮小するオーディオ市場にPCで新たなフィールドを

―― 一方オーディオ市場で御社は、オーディオPCという画期的なコンセプトを打ち出されました。

中野 昨今iPodや携帯電話といったツールを通じてダウンロードミュージックが席捲し、従来のオーディオシステムがシュリンクしてきました。若い方は音に対するこだわりがあまりないのかもしれませんが、当社のDNAからすればいい音を無視して安い商品をつくるということは許されません。

そこで我々は、大朏自らの提案もあり、ダウンロードミュージックをいい音で聴けるような、オーディオのコンセプトでPCを作るという結論に至りました。当社は今年の9月1日にソーテックというコンピューター会社を吸収しますが、この方向をさらに強化していけるものと思います。

PCについては試行錯誤もあり、第一世代機はビジュアルに特化したものを出しました。第二世代機はオーディオメーカーとして静音対策を徹底させ、PCとアンプをセパレートさせたモデルになりました。今年発売した第三世代機はアンプも中に入れましたが、このために先行性のあるデジタルアンプを新たに開発したのです。出力も大きく、かなりのスピーカーも鳴らせるものとなりました。

しかしダウンロードミュージックはそもそも音源を圧縮していますから、ハードをいくら改善しても限界があります。当社はそこにもこだわり、配信ビジネスにも参入しました。現行のCDよりも幅広い24bit/96kHz音域、またそれに準じたCD並みの音域であるロスレスのコンテンツがダウンロードできます。

サイトを始める際、とにかくマスター音源から24bit/96kHzの状態で配信すればいいという思いがありました。しかし結局、録音した音源をミキシングする際、24bit/96kHzを意識した手段をとっていないとだめなのです。そこで当社の音源については、日本でも有名なミキサーの方にすべてやっていただき、配信するというかたちをとっています。

ただ残念なことに、このPCオーディオの市場を拡げていきたくても、今のところ当社しかこういう商品を出せないという状況があります。そうするとご販売店様でシマ展示ができず、なかなかお客様に浸透しません。そういう意味ではもう少しこれを長い目で見つつ、育てなくてはならないという思いです。

今後音に対するこだわりは両極端になり、非常にこだわる層と、ただ鳴っていればいいという層にお客様は分かれるのではないかと思います。しかし、いい音を聴くことによって目覚めるという状況は必ずあるのではないでしょうか。現状から何かを引き出していかないと、昔からのオーディオに固執していては市場は拡がっていきません。

特に国内オーディオ市場の中では、すぐには日の目を見ないものでも5年計画の中でフィールドをつくって行かなくてはいけないと思います。当社はいろいろなものを提案しながら、オーディオ、ホームシアター、PCなど、既存のものから1歩踏み出した提案をしていきたいと思っています。2チャンネルのフィールドから新しいものを育て上げていくというのは、オンキヨーの責任でもあるかと思っております。

―― 最後に、流通の皆様にメッセージをいただけますでしょうか。

中野 皆様にはオンキヨーの商品の信頼性を認めていただき、たいへんありがたいと思っております。我々も皆様にサポートしていただけるような商品を、これからも自信を持ってご提供していくつもりです。今までの思想を変えることなく、従来どおり安心して使っていただける、販売していただけるものを継続して出していくと約束させていただきます。

従来のオーディオのビジネスがシュリンクしている実態もあり、私どもは新しいジャンルを構築していくためのリーダーになっていきたいと思います。オーディオ業界の専門メーカーとして、流通の皆様の売上げを拡げるための工夫や提案をさせていただき、ご協力を賜りながらフィールドを拡げていきたいと考えております。今後ともぜひご期待ください。

―― 今後の展開も楽しみです。ありがとうございました。

◆PROFILE◆

中野 宏氏 Hiroshi Nakano
1971年4月 トリオ(株)(現:(株)ケンウッド)入社、1999年6月 同社取締役、2001年4月 同社代表取締役社長を経て、2003年8月 オンキヨー(株)顧問に就任。2006年4月 同社専務取締役AVC事業本部長、同年6月 代表取締役専務を歴任した後、2008年6月代表取締役副社長(現任)に就任。現在に至る。