木村 純氏

テレビやモバイル機器を使い誰もがいつでもどこででも手軽に楽しめる環境をつくる
松下電器産業(株)
eネット事業本部 本部長
木村 純氏
Jun Kimura

デジタルテレビ“ビエラ”で、テレビの新しい楽しみ方を提供するテレビポータルサービス「アクトビラ」にいち早く対応してきたパナソニック。HD画質でのビデオ・オン・デマンド・サービスも展開している「アクトビラ」についての経緯と、ますます拡がるネットワークサービスの可能性と将来像を、松下電器産業 eネット事業本部の木村本部長に語っていただいた。

テレビの開発からサーバーまで
エンドtoエンドの開発を進め圧倒的な高画質を実現した

デジタルテレビに向けた 新しいインターネットサービス

―― アクトビラがいよいよ本格的な展開を始めました。あらためてこれまでの経緯も含め、現状までのお話しを伺いたいと思います。

木村アクトビラがサービスをスタートしたのは、2007年の2月からでした。もともとは当社の薄型テレビ「ビエラ」向けに2003年5月から始めた「Tナビ」というサービスがその前身ということになりますが、デジタルテレビ向けのインターネットサービスとして内容にもっと拡がりをもたせようと、3年程前からさまざまな手段を講じて参りました。

まず規格統一を実現するために、メーカーや関連業界の方々にご参加いただき、パナソニックAVC社と共に、「デジタルテレビ情報化研究会」を立ち上げました。そこでだいたいのめどがつき、これを機会にテレビのネットワークサービスをデファクト化していこうということで、2006年夏頃から当社と、ソニー、シャープ、東芝、日立の各社様の技術とテレビ事業担当の皆様にお集まりいただきました。そしてデジタルテレビ向けのポータル事業を共同で行うアクトビラを立ち上げたのです。
木村 純氏
アクトビラは当初動画対応ではなく、静止画でのサービスで始まりました。コンテンツはインターネットのニュースや天気予報、株価情報、ショッピングといった内容で、パソコンとの差別化が難しい状況でした。しかしパソコンでブラウザを立ち上げるのとは違って、リモコンひとつでテレビを見ながら受けられるネットサービスは手軽であり、デジタルデバイドをなくします。そういう意味でネットへの新たなアクセス手段をご提供できたと思います。

現在は当社のほか7社のテレビメーカー様が手掛けておられますが、アクトビラ対応のテレビはレンジが拡がっており、これから接続数がますます増えていくことが期待できます。

アクトビラのサービスを始めてからは、やはり動画再生が可能になったことが一番大きなインパクトになりました。昨年の9月からコンテンツを300タイトル揃えてストリーミングによるビデオ・オン・デマンドのサービスを始めました。当初の時点では当社の商品を含め一部のテレビにしか動画対応ブラウザが搭載されていませんで、限られたお客様にしかご覧いただけない状態でしたが、この反響は非常に大きかったのです。

ネットで動画というとパソコンでのサービスというイメージがあり、画質などもそのレベルを皆様が想像されていたようですが、テレビを手掛けている私どもとしては、絶対に高画質でという思いがありました。アナログ放送から地上波デジタル放送に移行して、お客様に一番喜んでいただけるのは画質がきれいなことだと思います。ですからこのときも地上波デジタルの画質に近いレベルを目指し、テレビの開発からサーバーまで、お客様の回線まで含めてエンドtoエンドでクオリティを保証するため開発を進めたのです。

昨年の9月に、ようやくそれに応えられるものが実現できました。H.264のコーデックを使い、狭い帯域で高画質が実現できていますし、画が途切れるなどのトラブルもほとんどありません。光ファイバー回線を使った映像配信でテレビでの高画質な再生が実現できたということに対して、放送局やコンテンツ・プロバイダーの皆様からも非常に高い評価をいただきました。

サービスの提供は メーカー間の垣根を超えて

―― アクトビラのコンテンツは、これからも次々に増えていきますね。

木村コンテンツを追加していくためには、さまざまなプロバイダー様にこのプラットフォームにご参画いただく必要があります。中でも大変力強かったのは、この6月から開始したTSUTAYAさんによるビデオ・オン・デマンドのサービスです。ほとんどの作品がH.264、すなわちHD画質で見られます。パッケージとしてはBDがHDのコンテンツメディアですが、レンタルとしてはまだ限られたタイトルしかリリースされていません。しかしこちらのサービスではかなりのタイトルが用意されていますから、私どもとしては力強い味方です。

アクトビラはあくまでプラットフォームであり、自らコンテンツをつくることを目的にしているのではありません。各コンテンツ・プロバイダー様に参加していただき賑やかになっていくことで、お客様がアクトビラにアクセスすればテーマパークに行ったようにさまざまな楽しみを味わっていただけるということ、それを何度でも体験していただきたいということを目指しているのです。

多くのプロバイダー様にコンテンツをご提供いただくための最大の強みは、アクトビラ仕様でコンテンツをご提供いただくことで、アクトビラに対応したどこのメーカーのテレビであってもお客様に見ていただけるということです。例えば携帯電話の音楽配信サービスなどは、その端末でしか再生できない、サービスが機器にバインドされている、という状態です。しかしメーカー間を乗り越えて、デジタルテレビであればどんなサービスでも共通して楽しんでいただけるというのがアクトビラのポイントです。

今、動画対応のビエラに対するアクトビラへの接続率は40%ほどもあります。やはりお客様が望まれていたのが高画質の動画配信サービスであること、ほかにはまねのできないサービスであるということで自信を深めております。お客様がテレビに対して求められているのは、ネットであれ放送であれ、高画質でクオリティの高い作品ということです。だからこそ40インチ、50インチの大画面で再生をしても十分に耐えうるコンテンツを提供しないと意味はないと思っております。

―― また御社を始め、参画メーカーから動画対応のテレビがいよいよ出揃いました。

木村私としては、2009年度中にこの5社のほぼすべてのデジタルテレビにアクトビラのブラウザが標準搭載されると希望も含めて予測しています。そうなるとお客様がこのサービスの面白さにいかに目覚めてくださるかということがポイントになります。ですから、この1年は魅力的なコンテンツを揃え、ユーザーインターフェースももっと使い勝手よく改善し、全テレビアクトビラ対応時代に備えていきたいと思います。

将来的には、メーカー間を乗り越える一方、端末機器のジャンルも乗り越えていきたいと思います。家の中にあるテレビを離れて、どこででも使いたいサービスというものがあるはずです。たとえばアクトビラのサービスがカーナビや携帯電話でも見られるようになる。そうすると機器に対応していたサービスから、機器に拘らない個人に対してのサービス、パーソナルバインドのサービスということが実現できます。

たとえば携帯電話で購入したものを、テレビでもカーナビでも見られる、というようなことを実現するのが私の夢です。テレビも携帯電話もカーナビも全部手掛けているパナソニックとしては、機器もサービスもプラットフォームとして共通化していくことによって、お客様本意のネットワークサービス、コンテンツサービスを実現していきたいと思っているのです。今はまずそのスタートラインとして、デジタルテレビのネットワークサービスが実現したということです。

パナソニックでは、“ビエラリンク”というパナソニックの機器間による連携はありますが、もう少し大きな意味でのネットワークサービス、端末に関係なく利用できるようなサービス環境を作っていきたいと思っています。

システムを様々に応用して 家電ならではのサービス提供へ

―― Tナビの頃からいろいろなお話しを伺ってきましたが、デジタルの時代になってテレビという機器そのものが変わりました。それに伴ってどんなサービスが生まれてくるのかという期待は業界全体にありましたが、アクトビラが見事にそれを形にしたということですね。

木村 放送・通信の融合といわれますが、アクトビラ機能のついたテレビはそれを具体化したものであり、しかもお客様が簡単に使えるということも実現しました。パソコンはパソコンが得意とするサービスもあると思います。しかしビデオ・オン・デマンドのようなコンテンツを比較的リニアに楽しむというようなことは、テレビの方が適していると思います。

木村 純氏 またお客様にしてみれば、コンテンツはネット経由であっても放送経由であっても関係ないことです。お客様が地上波やCS、BSデジタルチューナーを搭載したテレビでご覧になる際、どこの放送ならば見る・見ないということはないですね。そこに光ファイバーからくるコンテンツが加わっていくということなのです。

また放送局さんというのは巨大なコンテンツメーカーでもありますから、つくったコンテンツを放送にのせるだけでなく、さまざまな手段でご提供いただくということができると思います。

―― アクトビラは個々のテレビごとに認証されるシステムですから、さまざまなことに応用できそうです。

木村例えばピザの注文もリモコンで簡単にできます。機器が認証された郵便番号から、近辺のお店などを簡単に検索できるのです。これはテレビが家の中で動かないからこそ可能ですが、逆に携帯電話やカーナビなど移動するものに対して、その利点を活かした家電メーカーらしいサービスができないかと検討しているところです。
また、これをマーケティングに応用することも可能です。例えばパナソニックのテレビを使っていただいている方だけに情報発信するとか、登録していただいた郵便番号から特定の地域の方だけに情報発信するなどということです。今後これをうまく活用していければと思います。

―― 2011年のアナログ放送停波に向け、テレビの需要は爆発的に増えていきます。

木村やはりテレビは2011年が大きな買い替えのチャンスとなりますから、そのタイミングに向けて皆様に喜んでいただけるようなコンテンツを準備していくこと、ユーザーインターフェースをさらに改良していくということを積極的に進めていきたいと思います。あとはいかにお客様につないでいただくかということで、しっかり対応して参ります。2010年頃には光ファイバーも2000万世帯に普及するというようなことが言われており、環境は徐々に整ってきます。またPLCなどホームネットワークの新しいシステムの登場はアクトビラにとって追い風になりますし、リビングのテレビをネットにつなぐための色々な手を打っていきたいと思います。

北京オリンピック商戦でテレビが大いに盛り上がりますから、オリンピック商戦後は間髪を入れずにアクトビラのプロモーションを活発化させていきたいと考えています。もちろん商戦の間も、高画質コンテンツを手軽に楽しめるということで、アクトビラはビエラの訴求にひと役買っています。かつてはインターネットというだけで難しいと敬遠されがちでしたが、ようやくここまで来たという思いです。

―― アクトビラの可能性が拡がり、ますます楽しみになって参ります。本日はありがとうございました。

◆PROFILE◆

木村 純 氏 Jun Kimura
1973年松下電器産業(株)入社。1997年パナソニックデジタルコンテン(株) 代表取締役社長、2000年松下電器産業(株) ネットワーク事業推進本部欧州事務所 所長、2001年同eネット事業本部 ハイホービジネスユニット BU長を歴任した後、2003年eネット事業本部 本部長に就任。現在に至る。