市川 博文氏

(株)ディーアンドエムホールディングス執行役
デノンブランドカンパニープレジデント

市川 博文
Hirofumi Ichikawa

ハイファイのブランドとして
お客様の感動のシーンをこれからも提供し続けたい

ハイファイオーディオ市場のさまざまな局面の中で、その魂を変わらず貫き通してきたブランド、デノン。新提案のオーディオコンポーネントCXシリーズや、次世代オーディオフォーマットに対応したAVアンプの新シリーズなど、気鋭の商品を送りつづけているデノンにおいて、デノンブランドカンパニーのプレジデントであり、D&Mホールディングスの執行役に新たに就任された市川氏に、デノンブランドの取り組みについて伺った。

インタビュアー ● 音元出版社長 和田光征

DAPや音楽配信の普及は
新しい可能性を与えてくれるもの
あとのことは、我々の努力次第

―― このたび市川さんは、D&Mホールディングスの執行役に就任されました。D&Mホールディングスの組織について、また市川さんが担当しておられるデノンブランドカンパニーについて、あらためてご説明いただけますでしょうか。

市川 D&Mは、その業務目標を明確化したマトリクス制の組織をとっております。まず私の担当するブランドカンパニーというグループは、それぞれのブランドの商品の企画・開発とグローバルな視点でのブランドトータルのビジネスの責任を持ちます。また、日本を含めたアジア・パシフィック、ノースアメリカ、ヨーロッパの3つの地域に区分された、販売のスペシャリストからなるリージョナルセールスカンパニーがあります。
ブランドとリージョンセールスカンパニーの共同作業により商品の企画開発・販売というプロセスが実現するわけですが、これらのグループ組織の土台には統合化によって業績向上に効果のある、生産・製造サプライチェーンを受け持つマニュファクチャリングカンパニーと人事総務、経理などのコーポレート本社部門があります。D&Mのブランドカンパニーとしては、現在、デノン、マランツ、マッキントッシュなど全部で8つの組織が独立して存在します。私は、その中でD&Mとしてはもっとも大きなデノンブランドを担当しております。

―― D&Mホールディングスがスタートして5年目、デノン、マランツともにいい形になったとお見受けします。中でも、市川さんのモノづくりは非常にすばらしいものがありました。

市川 博文氏市川 私個人というより、チーム全体の成果として認識いただければ有難いです。私自身は日本コロムビアの時代に回路設計技術者として入社し、当時からずっとオーディオ部門の企画・開発畑を歩いてきました。その後、会社自体も、日本コロムビアという日本における音響機器・レコードの老舗の会社からデノンとして分離し、そのあとマランツと経営統合されるという歴史を歩んできたわけですが、その中で私は、常に我々が開発して商品にするのは、あくまでもオーディオという趣味・嗜好性の高い商品群であるということを意識して来ました。
簡単に言えばオーディオが好きで入社したのだから、自分でも欲しいと思えるものをつくりたいと言うことでしょうか。それはコロムビア、デノン、D&Mを通じて変わっていません。また、企画・開発という業務を通じて、常にデノンブランドのあるべき方向性についても意識してきましたが、今もデノンというブランドが存続しているのは、結果的に我々のブランドとしての志向を受け入れていただけるお客様が多かったということかと思っています。

―― とりわけ印象に残っておられる事象は何でしょうか。

市川 やはり「コンポルネッサンス」ですね。当時は、会社がちょうどコロムビアからデノンとして分離する直前で、オーディオ業界がどんどんシュリンクしていった時期です。ハイファイオーディオのビジネスから撤退されるメーカーさんが多い中、デノンの取るべき方向性についての議論が社内的にかなりありました。当時は経営的にも転機を迎えていましたので、非常に真剣なものであったと思います。  
そして結果的に我々はハイファイオーディオのブランドだからこそデノンであり、だからこそ我々のビジネスが成立しているのだ、という認識を社員みんなが持ちました。業界は厳しいけれど、良いものをきちんとつくっていけば、それを受け入れていただけるお客様はいると。そこで「コンポルネッサンス」と称して、あえてハイファイのコンポーネントシステムを専門店、量販店に向けて展開したのです。その後徐々に我々の業界も回復基調になり、成功事例のひとつの例になっていると思います。これは私としても印象に残っている内容ですね。

―― 生産の拠点は白河工場ですね。

市川 白河工場は、83年に設立され、もうすぐ25年になります。工場設立後すぐに円高の厳しい時を迎え、多くの日本のメーカーが生産拠点を東南アジアに移しましたが、我々は、デノンのハイファイの商品は白河工場でつくるのだという姿勢を守り抜きました。当時は私も設計者として白河におりましたが、我々の製品のバリューは、企画、開発、生産この全てのプロセスに存在すると考えております。企画段階から始まる商品のつくりこみ全体の完成度を上げることによって、より良いものをお客様に届けることができるのだと。エンジニアのそばに製造ラインがあるということをメリットと考え、守り抜いてきたということです。
それが我々のひとつの財産になり、今白河工場にいるベテラン社員は、設計者のマインドを知って商品をつくりあげているわけです。これらの過程を経てオーディオ製品のつくりこみのノウハウを確立し、一昨年には中国にもD&Mの生産工場を設立しました。

―― デノンのモノづくりは、昔から非常に徹底していますね。

市川 デノンは歴史的にみると、放送局用の機器を開発・製造していたということもあり、レベルの高い製品を作るという使命感、プロフェッショナリティー、これを先輩達が培ってきました。いい意味での我々の技術的バックボーンがあり、これが我々のこだわりを持ったものづくりへの姿勢として脈々と息づいてきました。職人気質、クラフトマンシップが長年にわたって培われ、それを後輩も大切にするという中で、差別化のできるものづくりの社風のようなものができてきたのだと思います。
私の業務の中で商品の企画決定をするための会議がありますが、商品企画のプロセスや決定に至る判断というのは、一貫したものがなければいけないと思っています。繰り返しになりますが、デノンとはどういうブランドなのか、その商品のあるべき姿は何かということです。コンポーネントハイファイ製品もあれば、ホームシアター製品もあり、形態はさまざまですが、企画決定の判断基準というのは常に明確にし、決定に至るプロセスの中で説明・確認を繰り返し商品づくりに携わるもののベクトルをひとつにしていかなくてはならないと思います。その結果が、今日のデノンの商品の評価としてあらわれるのだと思います。

市川 博文氏―― デノンは非常にまじめな製品づくりをされていますが、ともすればマニアだけをターゲットにした難しい製品になりかねないところを、ユーザーフレンドリーということを目指した企画で、誰にでも楽しめる製品づくり、お客様の層を拡げていくという意図を感じます。

市川 ユーザーフレンドリーということをあらためて意識したのは、ここ数年だと思います。エンジニアのこだわりで製品をつくるということを私自身も目指して来ましたし、ブランドのメンバーもそう思って造ってきました。しかし、一方で我々の製品はコンテンツを楽しむためにお客様に買っていただけるのであり、我々の商品だけで付加価値を提供できるものではないのです。
コンテンツを楽しむためのモノであるハードウエアが、その存在のみを主張しても意味がない。その存在価値とはむしろ、もっとお客様に感動を与えられるようなシーンを提供できること。すなわち、音質・画質が良く、コンテンツに含まれた感動を引き出すことができるからこそ我々の製品がお客様に受け入れられるのだと、特に最近そう意識をしています。また、今日のようなコンテンツが多様化し、製品が複雑化した状況下では、その製品をお客様が使いこなしてくださるユーザーインタフェースを持たないと、付加価値を提供できないということも考慮しなくてはならないと考えています。
我々は他社とのコラボレーションにも積極的に取り組んでいます。昔なら自前の技術で対応することに意味があったのかもしれませんが、最近の多様化するコンテンツへの対応は、既存のデジタル・アナログ、オーディオ・ビデオ技術だけで対処しようとしても結果は限られます。デノンが培ってきた技術をより高めていくと共に、他社とのコラボにより技術を補うことも容易にする。最新のテクノロジーをきちんと精査したうえで、最適な技術を選択し、必要な時には他社とのコラボを行い、より高いレベルの製品をつくる。その結果として、お客様へのデノンの商品の真の付加価値が想像できる。テクノロジー・マネージメントということですね。自分たちの持つ技術だけに囚われるのは、逆に言えば製品の可能性を否定してしまうことになりかねません。この優先順位を間違えてはいけないと、常に自分にも、自分のチームのメンバーにも言い聞かせて、積極的に外部の良いものを取りこむから我々の製品がより良くなるのだ、と肝に銘じています。

―― その延長線上では、特にCXが大変印象深い商品ですね。新しい基軸を出し、ハイコンポからさらに進化したスタイルを表現していたと思います。

市川 そうですね。例えばCXは、恬ヌい音楽揩知っている方が、家に帰って音楽をリラックスして聴きたいというシーンで、ハードウエアの存在は意識させたくないから、デザインは洗練されたもの。そんな発想の中で生まれたものです。あのサイズの中で、デノンとしてのアンプやCDプレーヤーを実現するとなれば、今までの技術をブラッシュアップさせて、きちんとした音が出る回路や、もっと薄型で静粛な完成度の高いメカニズムを実現しようということになるわけで、そこにクラフトマンシップが生きます。手前味噌ではありますが、デザイン面、性能面でも、また回路、メカニズムともに胸を張ってデノンの製品だと言えるものができました。それが販売店様やお客様に受け入れられて、非常にありがたいことだと思います。

―― 現状の国内マーケットをどうご覧になりますか。

市川 非常に面白い状況ではないかと思います。ダウンロードコンテンツが普及し、ポータブルオーディオプレーヤーなどで、日常的に多くの人が音楽を聴いています。オーディオの歴史から見て、平均的には質の高い音源に多くの人が接している状況とも言え、潜在的には、良い音で音楽を楽しみたいという需要はたいへん多いと考えられるわけです。
このトレンドは、我々の業界に新しい可能性を与えてくれているのではないかとポジティブに考えています。この次のステップとして我々のコンポーネント製品に対する需要につなげていけるかは、メーカーである我々の努力次第でもあります。

―― 一方でAV、ホームシアター系の製品もあります。薄型テレビの価格が下がって、40インチ以上の大画面がかなり普及しました。すると一般ユーザーの購入資金がテレビに移動してしまい、ホームシアター系が苦戦を強いられるという状況にあります。しかしこれも、峠を越えると現象が変わると思います。

市川 新しいメディアの登場は、常にひとつのビジネスチャンスになると思います。そこに大画面テレビが加わることで、ひとつの世界が構築されます。DVDが登場して高画質・高音質の時代になり、放送のデジタル化も実現。さらに、BDやHD DVDなども普及が加速しつつあり、ダウンロードコンテンツももうすぐHD化が実現されようとしています。このように高音質・高画質メディアの多様化と映像の大画面化促進の相乗効果が期待できる状況の中で、映画などのコンテンツを大画面でかつ、より良い音で楽しむということの感動にお客様が気づいていただければ、我々のホームシアター製品の需要拡大につながるのではないかと思っています。
デノンは今年を「HDオーディオ元年」として位置付け、AVセンターをフルモデルチェンジします。BD、HD DVDのメディアに搭載されるドルビーやDTSのHDフォーマットを再生できる商品を発売します。ここにはデノンが提唱するホームエンターテインメントネットワークとしての提案機能も搭載しています。
我々は、ハイファイもAVも、常に積み重ねの中で製品をつくっています。日常的に社内では、非常に厳しいやりとりをしています。企画会議など、もし外部の方がご覧になったら驚かれるだろうと想像しますが、厳しい意見交換のためのディスカッションがあり、エンジニアも妥協せずやっています。ですから、画質にしても音質にしても、胸を張って良いと言えるものができるのです。その延長線上で開発された商品に触れていただけることで、お客様にデノンというブランドを理解していただく結果に至っていると思っています。

―― アンプはHD対応されましたが、プレーヤーの方はいかがでしょうか。

市川 一つの方針として、我々は、商品のユニバーサル化ということを打ち出しています。つまり、できるだけ我々の商品がコンテンツを選ばないということです。コンテンツを選ぶのはお客様ですから、製品がお客様にコンテンツを選ばせるようなことは、我々の意図に反するということです。その観点からいいますと、BDとHD DVDのメディアとしての分離には迷いもあります。ただ、現実的にデノンファンのお客様に、新しいメディアに対応した商材を提供しなくてはいけないという使命もあります。時間はかかりますが、デノンとして音質・画質・信頼性に胸を張れる製品を開発しています。近い将来に製品提案を致しますので、ご期待いただきたいと思います。

◆PROFILE◆

Hirofumi Ichikawa

静岡県出身。1981年 日本コロムビア(株)入社。設計部にてデノンの民生機器の企画、開発を担当。1985年初のAVアンプ「AVC-500」を開発。その後数々のオーディオ、AV機器の開発に携わる。2001年 商品企画部長を経て(株)デノン、D&Mホールディングス設立後の2004年にデノンブランドカンパニーのプレジデントに就く。2007年 D&Mホールディングス執行役に就任。