稗田氏

(株)マッキントッシュ・ジャパン
代表取締役社長

稗田 浩
Hiroshi Hieda

マッキントッシュブランドの偉大な価値や人間性の魅力を
製販一体の力で強くアピール

ピュアオーディオの最高峰に位置付けられるブランド、マッキントッシュが、D&Mの日本法人マッキントッシュ・ジャパンとして今年4月に再スタートを切った。オーディオファイルだけにとどまらない、さらに幅広いファン層の獲得に向け、意欲的な展開を図ろうとする同社。人間性あふれるオーディオブランド・マッキントッシュの魅力を伝えるための新たなる取り組みを、同社代表取締役社長の稗田氏に伺った。

インタビュアー ● 音元出版社長 和田光征

「いつかはマッキントッシュ」、と思っていただける人たちを育てたい
それが何年か先に必ず形となるはず

―― ご就任おめでとうございます。あらためまして、マッキントッシュ・ジャパン設立の経緯をご説明いただけますでしょうか。

稗田 米国のMLI(マッキントッシュ・ラボラトリー・インク)は、2003年3月にD&Mグループのブランドのひとつとなりました。
日本ではマッキントッシュがD&Mグループに入る1年前に、日本の輸入代理店として同ブランドを扱って来られた(株)エレクトリ様が5年間の契約更新をされ、2007年3月末の契約満了までの間、従来通り輸入販売業務を継続していただいていました。この間、過去27年の長きにわたりマッキントッシュを日本のオーディオ市場におけるトップブランドのひとつにまで大切に育て上げていただきましたエレクトリ様、並びにご販売店様、関係者の皆様には深く感謝申し上げます。
今回MLIの日本法人として設立された経緯の中で、我々としてはマッキントッシュの会社にあらためて入社した気持ちでおります。

―― 日本においてマッキントッシュが製販一体となり、一気通貫でやりやすくなるのではないでしょうか。 

稗田氏稗田 設立発表会でMLIのチャーリー・ランドール社長が言っておりましたとおり、日本市場はマッキントッシュの全世界展開にとっても非常に重要なポジションにあります。MLI社にとっては、自身の会社を設立してやっていけるということで、従来以上のレスポンスと、ものづくりのやりとりができるということになります。

―― こうした変化の中で、マッキントッシュは何が変わって何が残るのか、というところをお伺いします。

稗田 変えていいものと、いけないものがあります。我々は昨年、音楽愛好家の方たちに大勢集まっていただきグループインタビューを行いました。音楽が好きな方々であるにもかかわらず、マッキントッシュというブランドをご存じの方は実に半数しかいらっしゃらず、8割の方は実際に音を聴いたことがないとのお答えでした。
マッキントッシュが偉大なブランドである、ということは、我々がオーディオ関係者であるから理解していることで、一般のお客様からすればそうではない、という認識をまず持たなくてはいけません。我々が変えなければならない部分はそこです。マッキントッシュというブランドに対する認知度、目を向けていただける人たちを増やす、マッキントッシュファンを増やすということです。
マッキントッシュのターゲットは全国推定1万人といわれるオーディオファイルの人たちですが、そこだけのアプローチでは、やがて終わってしまいます。推定1500万人と言われる音楽愛好家方の方たちの、たとえ1%でもいいですからオーディオに目を向けていただければ、オーディオファイルの実に15倍の潜在需要マーケット層が生まれます。
そう考えていけば、我々が会社を設立するにあたってやることはたくさんあります。お客様に、今マッキントッシュを買っていただけなくてもいいのです。いつかはマッキントッシュ、と思っていただけること、それがいずれ形になってくるはずです。その流れを我々はつくっていきたいということです。
 変えない部分というのは、ブランド戦略そのものです。マッキントッシュという類い希な歴史と伝統を持つブランドの打ち出し方として、チャネル政策を変えて、全国に販売店をどんどん拡大して量販するようなやり方は、我々が目指す方向ではありません。またラインナップを一気に拡大して、低価格なものまでメニューを増やしていくということもやるべきではありません。そこが、変えない部分です。

―― ユーザーを増やす可能性があるということですが、そこに対してどういう方法でのアプローチをお考えですか。

稗田 業界や、ご販売店が独自に開催されているようなイベントを積極的に活用するのは当然のことですが、我々自らも、ぜひそういうことをやりたいと思っています。マッキントッシュ主催の体験の場というものを、地場の販売店様のご協力を賜って、スケジュールを組んでいきたいと思います。また、マッキントッシュを実際に使っておられるユーザーの方々の組織化も図っていきたいと思います。

―― 中期計画について、5年間での具体的なテーマ、目標などをお聞かせいただけますか。

稗田 マッキントッシュとして、ワンブランドでハイファイ、単品コンポーネントの10%をとりたいと思っており、5年間の計画では、現在の倍となるようターゲットを据えて考えています。オーディオマーケット全体は下がっていますが、単品コンポーネントは反転して上がっています。我々が努力していけば、全体を持ち上げることにもつながるのではないかと思います。

―― マッキントッシュ・ジャパンが設立され、商品を直接お取り扱いされるということになり、ご販売店さんの反応はいかがでしたでしょうか。

稗田 有り難いことに、我々の意図する方針、方向というものを大変ご理解いただきました。外から見ると、D&Mグループというのは商品のレンジが広く、そこにマッキントッシュもあてはめられていくのではないか、と捉えられていた方もいらっしゃったようです。
しかし我々は、ブランドのポジショニングは最も重要なことと考えています。今回方針発表会をやらせていただきましたのもそういうことであり、ご出席いただいた方々から、よく理解できました、という言葉をいただき、大変よかったと思います。
そして、今後は無店舗販売や通販、ネットオークションといった対面販売でない販売は排除していきたいと思います。それは、マッキントッシュというブランドの価値や、製品のプレミアム価値がそういった売られ方に合わない、ということであって、通販という売り方自体を否定しているのではありません。
今、価格競争は異常と言うべきところまできています。マッキントッシュのご販売店様、特に専門店の皆様が、仲間となって共存、共営できる市場環境をつくりたいと発表会で申し上げましたが、叶わないことではないと思います。現在スタッフがご販売店を一軒一軒回って、その方針を説明させていただいています。これだけのことは、今のように大きな変化の時でないとなかなかできません。

―― 今回、製販一体となる一番大きなメリットはそこだと思います。本来は、商品の価値が値付けのポイントとなるべきものです。それは結果として、マッキントッシュの製品を選ばれた方に、未来にわたって満足感をもっていただけることになると思います。

稗田氏稗田 マッキントッシュは、音を聴く装置、というだけの価値観ではないのです。ブラックガラスパネルに浮かび上がるブルーのメーターが聴く人に語りかけてくれるような、ヒューマンなところがあるのです。色々なオーディオ製品がある中で、マッキントッシュというのは唯一それを持っているような気がします。そういうことをアピールすることに相応しくないことは、今回排除したいということです。
あるご販売店の方がおっしゃっていました。今のオーディオは、機械のアピールばかりしている。それに対して、ソフトの方を訴えたいと思うけれど、それをどう形にしていけばいいかが見いだせない。それはメーカーも、業界全体も同じでしょう、と。
ソフトというのは、音楽ディスクのことだけではなく、今申し上げたようなことも含めた様々なことです。たとえば植物がクラシックを聴かせるとよく育つ、といった効能のようなこと。また子どもの情操を高める、ということ。オーディオはそういうところにも貢献できるはずなのに、いつまでもハードのことばかり言って、女性や子どもに疎われる。イベントやショウもそういう環境になっていて、来られる方は男性ばかりです。そういうことに対するやり方を見出したい、と言っておられたことに対し、私は大変共感しましたし、マッキントッシュというのはそれに一番近づけるオーディオだと思います。

―― 先日の発表会では、スネルのスピーカーを組み合わせておられました。その素晴らしい音に、我々も感激しました。

稗田 スネルは、アメリカのハイエンド専門のスピーカーブランドで、1976年に会社が設立され、95年にボストンアコースティクスの傘下に入りました。そして2005年にD&Mに入ったのです。マッキントッシュのチャーリー・ランドール社長が、スネルの社長を兼務しております。アメリカの中でも専門店でしか展開していないブランドですから、日本でもマッキントッシュ・ジャパンの中で扱うのがチャネル政策としても一番好ましい、ということになりました。マッキントッシュのアンプとともに、スネルのスピーカーを組み合わせた形で、日本デビューを図りたいと思います。
スネルの日本での認知度はマッキントッシュと正反対で、ゼロのところからスタートする展開になります。スピーカー市場で、すばらしい人気ブランドであるB&Wや、3年前まで全く無名でありながら今大変ご好評いただいているダリというブランドを扱っているD&Mとしても、非常に楽しみにしています。
スネルもマッキントッシュも共通しているのは、すべてハンドメイドだということです。マッキントッシュの工場に行ったときは、その様子に感激しました。長年勤め上げているという人たちがたくさんいて、日本では考えられないような工法でハンドメイドを極めているのです。
マッキントッシュの製品は確かに高額ですが、工場を見た後では、むしろリーズナブルだと思います。作っているところを目の当たりにしますと、一台一台につくり手の気持ちがこもっているということがよくわかるのです。そういう工芸品のような製品を扱えるということは、我々は大変幸せなことです。

―― メンテナンスについては、どのようなお取り扱いになりますか。

稗田 これについては、マッキントッシュの修理専用の工房を横浜に新しくつくり、優秀なスタッフを選んで、何度もアメリカのマッキントッシュの工場に通わせました。修理についてはその工房一ヵ所に集約させて、専任の技術者が一台一台丁寧に見させていただくことにしました。私としては、米国のMLIでやっていることと同じことを、横浜の工房で実現したかったのです。過去何十年もマッキントッシュの製品を使ってこられた方にも、これから先買われる方にもご安心していただきたいと思います。

―― 記念モデルについての詳細をお聞かせいただけますか。

稗田 日本限定の「MA6900G」というインテグレーテッドアンプで、もっともマッキントッシュらしいフィーチャーが入った「MA6900」をベースにしたモデルです。今回、スピーカーターミナルを上級機種と同等のものにグレードアップしたり、シャーシー部分をゴールドのステンレスにし、さらなる音質のリファインを重ねました。
そしてトップパネルに、チャーリー・ランドール氏みずからがひとつひとつ直筆でサインを施します。直筆ですので一つとして同じものはありません。150台の限定生産ですべてに通し番号を、これもチャーリー氏の直筆で入れます。全国で絞り込みの戦略を図りましたので、希少価値を持たせました。

―― 最後に、マッキントッシュ・ジャパンの社長になると決まったときのご感想と、今後の抱負を聞かせていただけますか。

稗田 最初は驚きました。若い頃毎日のようにジャズ喫茶に通って感動しながら聴いていたのがマッキントッシュでしたので、マッキントッシュというブランドにずっと憧れを持っていました。今は一人でも多くの方々にマッキントッシュを知っていただき、体験の場を増やしたいという気持ちです。使うことの喜びと、所有することの誇りを感じていただけるマッキントッシュブランドの発展に邁進していきたいと思います。

―― 本日は素晴らしい話を伺いました。有り難うございました。

◆PROFILE◆

Hiroshi Hieda

1956年7月福岡生まれ。80年慶応義塾大学商学部卒。同年日本コロムビア(株)入社 大阪営業所勤務、85年より名古屋営業所勤務。88年赤坂本社勤務 電機営業部 コンポーネント担当。99年大阪営業所長就任、03年本社営業本部販売企画部長。07年3月 (株)デノンラボ 代表取締役社長就任。06年4月(株)マッキントッシュ・ジャパン代表取締役社長に就任、現在に至る。趣味はJAZZ演奏、音楽制作・コンサート鑑賞。