業界のトップがオーディオビジュアルの「今」を語る 「TOP INTERVIEW」

太陽誘電(株) 代表取締役社長

神崎芳郎
Yoshiro Kanzaki

信頼性と技術を武器に
常に一歩先を行くことで
市場の要求に応えていく

1988年に世界初のレコーダブル・コンパクトディスク「That's CD-R」を発表した太陽誘電。同社は追記型光記録ディスクの先駆者として、高品質にこだわる一方で、楽らく収納シリーズに代表されるユーザー視点に立った提案商品を送り出している。昨年2月に同社代表取締役社長に就任した神崎芳郎氏に、光ディスク事業の課題と同社の戦略を聞いた。

インタビュアー ● 音元出版社長 和田光征

光ディスクの外観は似ていますが
信頼性でも画質・音質でも
比較すれば明らかに違いがあります

That'sの強み
●材料を自社で開発する
●生産設備を自社で開発する
●最適に記録できる技術を自社で所有する

―― 昨年7月に光ディスクの累計生産枚数55億枚、月産1億枚を達成されました。最初にその感想から聞かせてください。

神崎 1億枚突破は販売店、ユーザーの支持をいただいた結果であることを素直にうれしく思っています。これまでの事業の進め方を含めて我が社の商品を認知していただいたと受け止めています。その延長として、今後業界がどんな方向を向いて光ディスクのマーケットを育てていくのかということに、私は非常に関心があります。

―― 社長に就任されて約1年になります。光ディスクビジネスの状況をどのように見られていますか。

神崎 光記録ディスクは利便性・信頼性が高いのにビジネスという意味では業界全体が大変苦しんでいます。メーカーは商品の開発に際し、大きな投資をし、できた商品を適正な価格で販売することで投資を回収し、回収した資金で次の商品を開発するというサイクルで動いています。このサイクルを守っていくために各社非常に苦しんでいるというのが正直なところではないでしょうか。その苦しみの原因のひとつとして、高速・大容量、しかも安いですよ、ということが前面に出すぎているように思います。でも、本来これだけではないのではないでしょうか。
光ディスクは世界共通の規格に則って作られる商品であり、まず規格を満たすクオリティーありきの品物です。まずきちんとしたクオリティーがあって、その次に価格がどうかという順序ではないでしょうか。
信頼性、互換性といった品質的な要素は実はあって当たり前と思っています。こんなに高速・大容量です。でも安いですよということだけではなくて、信頼性が高くて互換性もしっかりあって、しかも高速・大容量です。でも、この値段ですよというのが本来のはずです。

神崎氏―― ところが今の市場はそうなっていないということですね。

神崎 お客様は本当は品質の優れたディスクを求められています。特に日本のお客様は画質や音質に厳しい目を持たれています。安いよ、でも何枚か不良が入っている、ひょっとしたら書けない(記録できない)、書けたとしてもしばらくしたら消える(再生できない)かもしれないというものでは満足されません。
販売店の皆様やマスコミの皆様の努力のおかげもあって、最近はユーザーの意識も変わってきています。ディスクを購入する時に何を一番重視しますかという質問に対して、価格と回答される人の比率が下がってきています。いつでもきちんと再生できる、失敗がない、そういう要素が最近、上位に並ぶようになってきています。そういう意味ではユーザーがディスクの本来あるべき姿に気づかれてきたのではないでしょうか。

―― 日本の地上波がCPRMを採用したデジタル放送への移行を進めています。これはディスクの品質に対するお客様の関心を高める役割を果たすことになると思われますが。

神崎 今までは大容量や高速、安いといったような量で測れる価値だけが訴求されてきました。しかし著作権保護のためにデジタル放送で採用されているCPRMでは、一度コピー作業をすると元のディスクからはコンテンツが消去されてしまいますので、一度記録に失敗したら書き直しができません。ですから絶対記録で失敗しないということが最低条件になってきます。

―― 品質の高さを最重視している御社にとって、CPRMは追い風になると思われますか。

神崎 信頼性や互換性といった品質の高さを最も重視している当社にとって、記録の失敗が許されないCPRMは大きな武器になります。いくら安くても書き込めない(記録できない)とか、消えてしまう(再生できない)というようなことがあってはいけません。放送がデジタル化されることによって、品質という価値がますます重要になってきます。
われわれは「安心」という点で大きな強みを持っています。「使って安心」「失敗をしない」という価値をお客様に提供できる。この点がわれわれの最大の強みだと考えていますし、またお客様から期待されていることだと考えています。

―― 太陽誘電は品質面での差別化が最大限の強みとのことですが、その源泉はどこにあるのでしょうか。

神崎 材料を自社開発していること。生産設備も自社開発していること。そして最適に記録できる技術そのものを当社が持っていること。この三点が主なポイントです。
まず材料については、当社が開発したレシピで生産しています。設備を自社開発していることも、他社との大きな違いです。生産設備はノウハウの塊です。ですから、その部分を自社開発しているわれわれの作り方を簡単に真似ることはできません。
三番目の最適に記録できる技術そのものを当社が持っているという点。これこそが、われわれの最大の優位性だと実は思っています。ディスクはピックアップ、ライトストラテジーなどとうまくマッチングしていないと、ハード側ではきちんと書き込めません。その意味で記録技術そのものを当社が持っているということは、大きな優位性です。

―― フォーマット商品だからということで、誰が作っても品質は同じというわけではありませんからね。

神崎 光ディスクの外観はみな似ていますが、実際には似て非なるものです。材料は材料屋さんが持ってくる。設備はパッケージで設備屋さんが持ってくる。そういうやり方でも、ある程度規格に入るものは作れます。ただ、それで本当にハードとの互換性をきちんと取ることができるのかということです。
デジタルだからみんな一緒だとよく言われますが、ディスクはハードとの摺り合わせの世界です。信頼性も含めて、比較すれば明らかに品質は違います。材料だけでいいものが作れるわけではありません。設備によって、同じ材料を使っても全然品質が違ってきます。いかにその材料の特性を活かした作り方ができるか、さらにその材料とディスクの特性を最大限に活かす書き方をするためには、ハードはどうあるべきか。その3つが揃って、初めていいものができます。

牛丸氏―― 信頼性や互換性と同じように、画質や音質の面でも製品によって差が出ると思われます。この点についてはいかがでしょうか。

神崎 話はCDに戻りますが、CDはまさに0と1の組み合わせなので音質は変わらないと言われていました。ところが実際に聴いてみると製品によって差があります。たとえばプレスされたCDを一度CD−Rに焼いて、両方聴き比べると音が違います。手前味噌になりますが、私どものCD−Rに録音されたものでは、音像の立体感といいますか、楽器の位置感や奥行きがすごくはっきり見えるとの評価をいただいています。

―― DVD−Rでも同様の差が出るということですね。

神崎 画質でも同じです。私どもではハードメーカーさんとも協力しながらエラーレートが極めて低く、ノイズが少なくなるようにしています。ただ、差が出る要素はそれだけではありません。これはお客様にはあまり認知されていないことですが、ハードはギブアップすると書き込みを止めてしまいますので、記録することができません。非常に言い方が難しいのですが、ハードにとって書き込みやすいディスクと、書き込みにくいディスクがあります。当社のディスクはハードに対して、書き込みやすいという点でも優れています。これは非常に大きな訴求ポイントだと思っています。

―― 御社ではお客様が商品を買ったあとのサポートにも配慮されています。その代表的なものが楽らく収納シリーズです。これはどういうきっかけで誕生したのでしょうか。

神崎 光ディスクでバルク製品を最初に作ったのは当社でした。CD−Rは最初ジュエルケースに入ったものしかありませんでした。それでは面倒くさいという業務用のユーザーからの声に応えるためにスピンドルタイプの形を出したところ、一気に一般ユーザーも含めて世の中に広がりました。
ところが一般ユーザーにとって、スピンドルタイプは使いやすい形ではありません。スピンドルタイプを買われたお客様は記録したディスクをどのように保存されるのだろうかという疑問が、新たな発想を生み出すきっかけになりました。そこでスタート・ラボと共同で調査や議論を何度も重ねたうえで、可能性の高い順番にお客様に提案していこうということで、「楽らく収納シリーズ」が生まれました。

―― 品質の高さに絶対的な自信を持つ御社にとって、今後の経営課題と戦略を聞かせてください。

神崎 われわれにとっての課題は、先ほどからお話してきたような他社製品との違いをいかにしてお客様に分かっていただくかということ。そして、AV分野での認知度を高めていくことです。
PC分野では、おかげさまで非常に認知度も高く、大事なデータを記録するにはThat'sがいいという評価をいただいています。残念ながら、AV分野ではまだ認知度が十分ではないと思っています。しかし、最近の調査によりますと、AV用途でディスクを購入される女性ユーザーの商品選択基準は、「画質がよいこと」「記録に失敗しない」「耐久性があること」「原産国が日本製であること」などの比率が高いという結果となっていますので、チャンスは十分にあると思っています。

―― 「THE日本製」を標榜されているのは、品質の高さを象徴的に表そうということですね。

神崎 当社では以前、技術の差を一生懸命発信しましたがなかなかお客様にわかっていただけませんでした。そこで品質の違いをイメージで分かってもらおうと、「THE日本製」というメッセージを前面に押し出すことにしました。
太陽誘電は追記型光記録ディスクの開発メーカーです。その当社がコスト削減のために品質の劣る商品を供給するわけにはいきません。品質を維持しながら事業を維持し市場への供給責任を果たし続けなければならないと思っています。品質のポイントは、繰り返しになりますが、信頼性であり、互換性です。品質の高さこそが当社のベースであり宝です。

―― その品質の高さをいかにしてお客様にわかっていただけるかですね。

神崎 なぜディスクの品質が重要なのかとか記録のメカニズムはどうなっているのかなど、お客様にわかりやすく解説をした冊子を配布するなどの努力は行ってきています。この点をきちんと浸透させることができれば、われわれだけでなく、このマーケット全体がいい形になるように思います。当然当社もメーカーとしてユーザーの皆様に情報の発信を継続して行っていきますが、この点については、販売店、マスコミも含めて、業界の関係者にもぜひご協力をいただければと思います。

価格一辺倒の訴求を改めれば
メディア事業の将来は明るい

―― BDやHD−DVDが登場してきました。次世代ディスクの市場投入タイミングはいつごろでしょうか。

神崎 現在販売されているのは、無機色素を利用した商品です。弊社が現在、より高性能、高品質化が可能な有機色素を利用したBD−Rを開発中ですが、基本的な要素技術の開発はすべて終了しています。材料も既にできています。発売できる環境が整い次第、すぐに商品を出せるように準備を進めています。

―― 光ディスク事業の将来性をどのように見られていますか。

神崎 光ディスクビジネスは、まだまだ伸びていきます。われわれだけなく業界の関係者がキチンと対応していけば、ビジネスとしても十分成り立っていきます。市場に顕在化しているニーズだけを狙っての価格一辺倒の訴求ではなく、品質と価値を連動させることができる市場に育てることができれば、ディスクの事業は非常にいい形で発展していけると思います。

―― 販売店の皆様へのメッセージをどうぞ。

神崎 私どもも販売店さんが売りやすいような新たな価値を訴求できるような商品を出し続けていきます。ぜひ、われわれの想いを、商品と一緒にお客様に伝えていただきたいと思います。

◆PROFILE◆

Yoshiro Kanzaki

1943年3月16日生まれ、熊本県熊本市出身。65年熊本大学法文学部卒業。91年2月(株)日立製作所本社資材部副部長、93年2月太陽誘電(株)入社。93年6月取締役統合生産管理本部長、00年3月取締役事業本部物流担当、01年4月取締役兼上席業務役員IT・SCグループ長、02年9月常務取締役兼上席業務役員 C.Mグループ長、03年4月常務取締役C.M.グループ担当、04年1月常務取締役、04年7月取締役副社長、06年2月代表取締役社長に就任、現在に至る。