松下電器産業(株) 代表取締役専務
パナソニックマーケティング本部本部長

牛丸俊三
Shunzou Ushimaru

テレビを中心とした
ハイビジョンネットワークが
ついに家庭の中で完成

ビエラを中心とした積極果敢な戦略で市場を快走するパナソニック。同社は2006年春にテレビのリモコンひとつで周辺機器を簡単に操作できるビエラリンクを提案。デジタルディバイドを解消し、より多くの人が快適で高質なAVライフを楽しめるようになった。松下電器の代表取締役専務で、パナソニックマーケティング本部の本部長としてパナソニックのブランド戦略を指揮する牛丸俊三氏に、2007年の見通しと戦略を聞いた。

インタビュアー ● 音元出版社長 和田光征

日本人には常にいいものを
作ろうという探究心がとうとうと流れています

―― 最初に2006年を振り返っての感想からお聞かせください。

牛丸 昨年、パナソニックは薄型テレビのビエラを中心に非常に好調でした。ブラウン管が薄型になり、ハイビジョンになり、さらに地上デジタルになり、なおかつ大型化してきました。ブラウン管の時代には32インチのアナログのCRTテレビが中心でしたが、今は地デジチューナーを搭載した42インチや50インチのプラズマテレビがどんどん売れています。
2004年年末より発売開始した65インチのプラズマの国内累計出荷台数が、すでに1万台を超えました。新聞では薄型テレビの販売に一服感が出たという記事が出ていたりしますが、そんなことはありません。ものすごいエネルギーを感じます。

牛丸氏―― 薄型テレビの登場をきっかけに、テレビの平均単価が大幅に上がってきています。

牛丸 2000年の業界全体でのテレビの平均工場出荷価格は、5・5万円でした。その時のパナソニックのテレビの平均単価は6・7万円でした。それが2006年上期では、業界全体で14・3万円と3倍近くになりました。パナソニック単独では、業界平均よりもさらに高い16・4万円になっています。
同じインチサイズでの比較では確かに価格は下がっているかもしれません。しかし、薄型化、地デジ対応、なおかつインチアップで、テレビの単価は大幅に上がっています。昨年はこのテレビが大きく牽引して、業界が活性化しました。

―― いよいよ2007年が始まりました。今年はどのような年になるとみていますか。

牛丸 2007年は非常にいい年になると思います。日本では地上波のアナログ放送が2011年7月に終わります。それまでに日本のすべての家庭に地デジ対応テレビを入れないといけませんので、とんでもないテレビの需要が残っています。その間には北京オリンピックをはじめ、いろいろなイベントもあります。
そして、ハイビジョンテレビにつなぐ商品が活況を呈してきました。ハイビジョンレコーダーやシアターシステムです。30万円近くする「ブルーレイディーガ」はすでに2万台以上も売れています。現在でも品薄でご迷惑をおかけしている状況です。そして、ここしばらく一服感が出ていましたムービーもハイビジョン化しています。そして、これらがビエラリンクによりものすごく使いやすくなっています。
白物も絶好調です。斜めドラム洗濯機や、お掃除ロボットのエアコンも大変好調です。素晴らしい商品がどんどん出てきています。しかもこれらはすべて日本が主導権をとっている商品です。こんなに幸せな業界はありません。

―― 人口の減少と高齢化が進んでいます。

牛丸 新年号ということで少し壮大な話をしますと、日本は2600年以上もの長い歴史を持っています。縄文時代から弥生時代にかけて、日本の人口は60万人でした。それが江戸時代の幕末には3000万人近くまでなりました。さらに明治以降、急激に増えて1億2700万人になりましたが、2005年になって初めて人口の減少が始まりました。
日本の長い歴史の中で人口が減ったことはありませんでした。ところが、ここでついに人口が減り始め、マスメディアは大騒ぎをしました。しかし、長い歴史の中で日本人の所得が減ったことはありません。人口は減ったかもしれませんが、今、日本はとても豊かになっています。
そして、日本では歴史上はじめて50歳代以上の人が人口のマジョリティーになります。2003年には50代以上が成人人口の半分以上になりました。その中で、われわれはいかに生活の質を高めていくかが重要です。

牛丸氏

―― 2007年は団塊世代が定年を迎える最初の年にあたります。

牛丸 これから団塊世代が大量にリタイヤされます。この世代の人たちは経済的なゆとりがあって、質の高さを求められています。第二の人生ではもっと豊かな生活をしたいと思われているその人たちが、もっと快適に生活できるような提案をし、普及させていきたいと思います。

―― 昨年、パナソニックが提案されたビエラリンクは、そのような背景から生まれてきたということでしょうか。

牛丸 私は、以前、「Senka21」のインタビュー取材で、日本のAVメーカーはアメリカのパソコンメーカーに絶対に負けないと申し上げました。当時はアメリカのパソコン派が勝つか、日本のAV派が勝つかというワンパターンな記事が新聞で騒がれていました。しかし、家庭内のネットワークではテレビの技術を中心とした日本のデジタルAV技術が、世界のリーダーシップをとっています。パソコンは個電であり、家電の中心はテレビです。
ここにパナソニックは昨年の春にリンクという概念を打ち出しました。つまり、ビエラリンクによって、テレビを中心とした、カンタンで便利で人に優しい生活を提案することです。そして今、われわれはテレビに繋ぐ製品をどんどん増やして、業界の活性化をさらに加速化していきたいという強い思いがあります。

―― デジタルディバイドを解消し、単体での使い勝手を高めるだけではなく、周辺機器との連携をいかに簡単にするかも大切だということですね。

牛丸 それがパナソニックが主張しているユニバーサルデザインです。以前、NHKで「冬のソナタ」が放送された時に、全国の電気屋さんがパニックになりました。DVDレコーダーでの録画の仕方がわからないということで、専門店さんや量販店さんに女性からの問い合わせが殺到したためです。
それが今では随分変わってきました。先週も年配の女性から、「私もDVDレコーダーで録画できるようになりました」という話を聞きました。ディーガとビエラをHDMIケーブルで繋げば、ビエラのリモコンひとつで、録画予約や今見ている番組の録画が簡単にできます。これほど簡単なものは今までありませんでした。

―― ビエラリンクはサウンドシステムとの連携も図られています。

ホームシアターで同じようなことがいえます。一昨年までは、ビエラでホームシアターを楽しむためには、いくつものリモコンを持ち替えなければいけませんでした。それがビエラリンクを使えば、ビエラのリモコンひとつで、ホームシアターを簡単に楽しめるようになりました。
昨年11月に発売したSDハイビジョンムービーでも、HDMIケーブルをビエラの前面にあるビエラリンク端子に繋ぐだけで、ビエラのリモコンでムービーの映像を簡単に楽しむことができます。まさに夢のリンクの時代が到来しました。

―― しかもそこにハイビジョンという要素が加わってきました。

牛丸 BDディーガとハイビジョンSDムービーの登場によって、ついにハイビジョンの世界が繋がります。これは世界で初めての出来事です。今までテレビはハイビジョンになっていましたが、これからは違います。「見る、撮る、残す」のすべてをハイビジョンでリンクできるようになりました。
このハイビジョンネットワークの輪には、さらにデジカメも繋がります。ルミックスはハイビジョン画質で16対9の画角です。ルミックスのSDカードをビエラに差し込むだけで、ハイビジョンの美しい画像で簡単にスライドショーが楽しめます。

―― 2007年はハイビジョンネットワークが、家庭の中で完成される年だということですね。

牛丸 ついにハイビジョンの世界を家庭の中で手に入れる時代になりました。レコーダーもムービーもカメラも全部ハイビジョンになって、しかもそれらはすべてテレビに繋がります。しかもビエラのリモコンひとつで操作できます。さらに全部SDカードにも対応しています。
これはいいものを手に入れたい、いいもので豊かな生活をしたいという日本の消費者の向上心とも合致します。お店にとってもこういう付加価値の高いものは喜ばれます。今年は、このハイビジョンネットワークを強力に推していきます。

―― SDメモリーカードを中核に進めてきた「イージーネットワーク」の世界が、ビエラリンクの登場によってさらに進化してきたということですね。

牛丸 NHKをはじめ、世界の放送局でもSDカードの利用が進んでいきます。アテネオリンピックでは、SDカードを使ったムービーが初めて使われました。その時の技術を活用して、「HDC―SD1」が生まれました。北京オリンピックでは、それがさらに加速していきます。
SDメモリーカードの世界は、どんどん広がり使いやすくなってきています。ハイビジョンSDムービーの「HDC―SD1」には4GBのSDカードを同梱していますが、今後、SDカードの容量をさらに上げていこうと思っています。価格ももっともっとお求め安くしていきたいと思います。
そうなれば、SDカードはアーカイブメディアとしても使われるようになるでしょう。2007年は、このSDメモリーカードの世界をもっともっと使いやすいものにしていきたいと思います。

―― 松下電器は非常に幅広い商品を作っていますので、リンクの効果が特に高いように思われますが。

牛丸 われわれは非常に幅の広い商品を作っています。選択と集中ができていないという人もいますがそれは違います。様々なカテゴリーの商品を作っていなければリンクなんてできません。そういう発想すら出てこないでしょう。
日本以外のアジアのメーカーは、ほとんどが単品売りです。日本メーカーは全部作っているので、それらを繋ぐことを一生懸命考えます。全部作っている強みを発揮したいですね。それによってお客様に貢献したいですし、業界にも貢献したいですね。

牛丸氏

―― 家電業界だけでなく、様々な産業で日本メーカーは提案力を武器に復活しはじめてきました。

牛丸 私は日本のインダストリーは非常に健全だと思います。たとえばテレビでは、小さな画面を大きな画面にするために一生懸命努力しています。ムービーでは、小さくしようとする努力の次に、ハイビジョンにしようという努力をしています。使い勝手の面でも、リンクという概念を入れることによって、テレビのリモコンひとつで様々な機器の操作ができるように努力をしています。これは松下電器だけでなく、業界全体が常に一生懸命考えていることです。
私はつくづく日本はもの作りの国だと思います。先日、一木作りの仏像展を見てきました。奈良時代にあれほど素晴らしい仏像を一木で彫りました。そこに日本人のものすごい美意識と向上心、それから物作りに対する精神的な高さを感じます。日本人には物を作ることに対する丁寧さや懇切さがあると思います。日本ほど無形文化財の多い国はありません。竹細工、陶磁器、織物、工芸などを、文化財のレベルにまで昇華させてきました。しかも倫理観を持っている。そういう人たちが製品を作っています。日本という国は素晴らしい国だと思います。

―― その日本の国民性が日本の製造業の強みを支え、育ててきましたね。

牛丸 常にいいものを作ろうという探究心が日本人にはあります。電気メーカーでも同じだと思います。常にいいものを作っていこう、平均単価が落ちたらもっと価値の高いものを、もっとみんなに楽しんでもらおう。そういうもの作りの精神がとうとうと流れています。
自動車メーカーも日本のメーカーは常に次々と提案を続けています。最近の例では世界に先駆けてハイブリッド車に積極的に取り組んでいます。あまり傲慢になってはいけませんが、日本はもっと自信を持っていいと思います。これから日本がまた見直されて、産業も活性化していくのではないでしょうか。2007年は日本復活の年にしたいですね。

―― 新年にあたって販売店様へのメッセージをどうぞ。

牛丸 過去数十年間、いつも日本を豊かにしようということで、みんなで一生懸命頑張ってきました。お客様の生活の質を豊かにし、それを通じて販売店さんに儲けていただき、われわれも利益を出せるという三方良しに貢献できるようにさらに努力していきたいと思っています。

―― 今後の御社のご活躍に期待しています。本日はありがとうございました。

◆PROFILE◆

Shunzou Ushimaru

1944年5月生まれ。長崎県出身。1968年入社後、海外を長く経験。国内事業部、およびカナダ、イギリスでは現地法人の社長を歴任。2000年より国内営業担当。2003年4月より松下電器産業(株)パナソニックマーケティング本部長 兼 松下コンシューマーエレクトロニクス且ミ長に就任。2006年6月より松下電器産業椛纒\取締役専務 兼 パナソニックマーケティング本部長に就任。趣味はオペラ鑑賞、映画鑑賞、スキューバダイビング他。