日本ビクター(株)
理事 ILAセンター長

作間 俊哉
Toshiya Sakuma

ひとりでも多くのお客様に本格シアターの感動をお届けする

日本ビクターのD―ILAプロジェクターが2年連続のビジュアルグランプリ金賞を受賞した。本格的ホームシアターの感動をできるだけ多くのお客様に届けたいという、同社の熱い想いが込められた受賞モデル「DLA―HD1」。画質はもちろん、使い勝手から価格設定まで、さらに一段、高みを目指す強力商品として仕上げられた。フロントプロジェクター市場創造へ意欲を見せる同社ILAセンター長・作間俊哉氏に話を聞く。

―― D―ILAプロジェクター「DLA―HD1」がビジュアルグランプリ2007の金賞を受賞しました。昨年のDLA―HD12Kに続く、2年連続の金賞受賞になります。

作間 ありがとうございます。ビクターでは早くからフルハイビジョンのプロジェクターを手掛け、この商品が3代目になります。今回は特に、各社からもいろいろな商品が出てくることもあり、ビクターらしさを訴えられる商品として、全社あげてのプロジェクトとして開発に取り組みました。かなりの自信作ですが、このような形で改めてご評価をいただき、大変ありがたく思っております。

―― 御社ではILAを永年やってこられましたが、この商品には、次のステージに入ったぞ、という強いメッセージが感じられますね。

作間 われわれはデバイスから開発しておりますので、セット側の要求するデバイスを作り込める、垂直統合の強みがあります。今回は新しい第2世代のD―ILAデバイスで、プロジェクションテレビをベースにして、全く新しい技術を追加しました。デバイスだけで2万対1、従来比で約4倍のコントラストを実現しています。これに、今まで使っていたガラスプリズムに代わって採用した光学系のワーヤーグリッドなどの組み合わせで、製品としてネイティブで1万5000対1のコントラスト値を実現しています。

コントラストの改善については、これまでもさまざまな工夫を行って参りましたが、どうしても越えられない壁がありました。コンテンツを楽しむときには、その世界に入り込まないと分からないところがある。そこへ到達し、その映像を見て、開発者自身が得た感動を、どうにかして世に出したい。それが我々の使命だという強い気持ちにより、ようやく壁を乗り越えることができました。

昨年金賞をいただいたDLA―HD12Kの下に11Kという商品があり、最廉価モデルで定価が約160万円です。今回は感動の世界をひとりでも多くの方に楽しんでいただくために、価格的には半額以下という大胆な設定を実現できたことも、大きな特長のひとつです。プロジェクションテレビで培ったデバイスを共通化していくことと、別筐体になっていたプロセッサー部と本体を一体化したことが、大きな要因となっています。これまで、フルハイビジョンの画面をお楽しみいただけなかった皆さんにもぜひ、楽しんでいただきたいと思います。

―― こだわりを実際に形にされていく上で、どのような点にご苦労されましたか。

作間 1997年に、最初は業務用としてスタートしたD―ILAですが、安定生産を実現することで、民生用を実現し、さらに、2004年からプロジェクションテレビでの展開を始めることができました。今度は反対に、プロジェクションテレビの技術をフロントにもって来る。ただ、それを安定して生産・供給できるレベルにまで引き上げることが、やはり苦労した点と言えますね。

―― 一年前とは市場環境も変わってきました。昨年まで、三管の受け皿という考え方でもよかったのですが、今年末は液晶も含めてフルハイビジョンの製品が増え、価格もより手頃になってきました。価格とクオリティのバランスという点では、どのようにお考えですか。

作間 フルハイビジョンを楽しむ上で、三板の液晶方式なら、かなり手頃な価格で商品が手に入ります。しかし、コントラストを主体とするわれわれの商品の性能差は、価格差以上の価値があります。フルハイビジョンだからこそ、映画を楽しむにしても、これまで以上の感動をご家庭で味わっていただきたいと思います。そのために、ずば抜けた性能をご提供ていきたいと私どもでは考えています。

DLA―HD1の79万8000円という価格は、高性能ハイエンドプロジェクターとしては非常に魅力的な設定だと思います。しかし一方で、当社はプロジェクションテレビを商品展開しています。今回の技術をプロジェクションテレビにも展開し、より高性能なものにしていくことが必要ですし、また、プロジェクションテレビの安定性、生産性の高いものをフロントプロジェクターに展開していくことで、さらなるコストダウンによる、お求めやすい価格の実現にも力を入れていきたい。2つの商品をうまく融合して、よりよい方向に進めていくというのがわれわれの考え方です。

それぞれの商品内容についても、フロントプロジェクターを、もっと手軽に、身近なものにしていきたいと思いますし、一方、プロジェクションテレビでは、テレビとしてのさらなる大画面化や高コントラスト化を追及していきたいと思います。今でこそ、フロントとプロジェクションテレビとに分かれていますが、その境界線は、今後徐々にオーバラップしていくように思いますし、そうした使い方提案を行っていけたらと考えています。

―― フルHD化や大画面化という市場の流れの中で、DLA―HD1のセールスポイントを改めてアピールしてください。

作間 人は大きな画面を体験すると、もとへは戻れなくなります。しかも、フロントプロジェクターは、極端な言い方をすれば、無限大とは言えないものの、ご家庭で許す限りの大画面を追求することができます。本格的なホームシアターの世界を啓蒙していく商品として、まずは改めて、D―ILAの良さを知っていただきたいと考えています。

まず、コントラストにおいて圧倒的な差があるということです。それから、反射式のメリットは、開口率が高く画素が目立たないということ。映画を見るときなどは特に重要なポイントになります。これは、視聴距離を短くとっても、視野角が広くとれますから、ご家庭のリビングルームなどでも、家族皆で楽しめることを意味します。あらゆる面において、メリットを兼ね備えたデバイスであると我々は考えています。

また、ターゲットユーザーを拡大するという観点から、前作との相違点として、設置性や使い勝手の面で進化しています。まず、前面吸排気にしました。前面から吸って、前面から出す。そうすると、後ろがぴったりとつけられるので、インストーラーさんからも好評です。レンズシフトの量も、上下80%、左右34%としましたので、部屋に梁が出ているとか様々なケースがありますが、そのほとんどの場合に設置が可能です。

―― 今回、外装にホワイトを採用されたのにはどのような背景がありますか。

作間 実は、技術面とはまた別に、苦労した点でもあります。マニアの方がホームシアターの専用のお部屋で使用するということなら、これまでのように黒という選択になると思います。しかし今回は、本格的なホームシアターの世界をできるだけ多くの方にアピールしていきたい、もっと裾野を広げたいという思いがあります。

例えば、リビングルームで使用されるとなると、天井や壁は白系が多く、インテリアに違和感なく溶け込むためには、やはり白がいいと判断しました。なお、黒をご要望のお客様にもお応えできるよう検討中です。

―― 高画質化や大画面化という中で、SD画質のスケーリングの問題があげられますが、この点についてはいかがですか。

作間 フルハイビジョンの環境が整ってきたといっても、実際に、DVDがまだ大変多いですよね。それを大画面で見ると画質があまりにも耐えられないというのでは、なんのための大画面かということにもなります。プロセッサーも十分吟味して、SD画質を良く見せるということには大変気を使いました

―― これからの展開についてお聞かせください。

作間 デバイスについては、ひとつの新しいステップのものになりますので、さらに改良改善していいものにしていきたい。もちろん、プロジェクションテレビへも展開していきます。共用化することで、コストメリットも生まれてきます。共用化については、デバイスに限らず、光学エンジンや電気回路といった部分でも進めて参ります。フロントプロジェクターにつきましては今後、現在、三板の液晶でやられているような価格に近いものを、作っていけるのではないかなと思います。

―― フロントプロジェクターのユーザーの間には、映画館で使っているものを、プロが選んで採用しているものとして、憧れを感じるようなところが強く見受けられます。そうした観点から、D―ILAについても、業務用のマーケットにおいてさらに存在感を打ち出されていくことが、延いては、コンシューマーの心を動かすひとつの鍵になるのではないかと思いますが、いかがでしょうか。

作間 デバイスの特長として、D―ILAは非常に高解像度にできるのが強みです。現在、業務用では、または民生でないところでは4K、2Kの解像度を持つプロジェクターをご提供しています。これは、DLPにはない解像度です。D―ILAのホームシアターというのは、そこからの流れにあるのだということを、もっと声高に訴えていかなければならないと思っています。

―― 現在のプロジェクターのマーケットをどのように見ていらっしゃいますか。また、今後、家庭用のフロントプロジェクターがどの程度広がっていくかという見通しをお持ちですか。

作間 ホームプロジェクターの市場としては、04年から07年で年平均18%の伸長を予測しています。07年度は全世界で60万台、国内で8万台の市場と見ています。私どもの50万円以上の価格帯に限ると、全世界で4万3000台ぐらいと見ています。ここでシェア3割はとりたいですね。

―― 予想を上回る伸長を期待したいですね。

作間 これから、フロントとプロジェクションテレビの垣根というのも曖昧になってくるでしょうし、いろいろな使用環境、設置条件に応えることができる生活シーンに合わせた提案を我々がすることによって、この世界はもっと広げていけると思います。

来年のワールドワイド市場は60万台の予測ですが、例えばプラズマや液晶テレビの需要層に対し、プロジェクターという商品を定着させることができれば、それを100万台に膨らますことも可能だと思います。まだまだ工夫の余地がたくさんありますよ。

ビクターにはデバイスがありますし、フロントプロジェクターとプロジェクションテレビの双方を持っています。お客様に訴えられる独自性を備えていますので、そこをうまく融合させながら、提案を行っていきたいと思います。

―― もうひとつ、ホームシアターという視点からは、御社には高度な音の技術があり、映像と音とをトータルで提案できる強みがあります。

作間 映画館での感動を形成する要素には、大画面、視野角、没入感、それに音場があります。市場への提案はもちろん、社内的な刺激という面からも、DLA―HD1に匹敵する音の提案も行っていきたいと思います。そうした意味を含めて、この商品を、我が社のホームシアタービジネスの成長ドライバーにしていきたいと思っています。

―― 今後の家庭用プロジェクター市場創造へ向けての決意をお願いします。

作間 裾野を広げていくことが大切になりますから、そのための方策をいろいろ考えているところです。販売店においては、なにより実際に見て、感じていただくことが大切になりますので、ひとりでも多くの方に実際に体験していただけるよう、売り場づくりや体験会などにも力を入れて参ります。