シャープ(株)
AVシステム事業本部
液晶デジタルシステム第1事業部

出野 忠男
Tadao Ideno

ひとつひとつの強みを重ねお客様の期待にお応えしたい

液晶事業にいち早く着手し、その優れた開発力をもって、液晶テレビ「アクオス」で国内薄型テレビナンバーワンの座を勝ち取ったシャープ。ビジュアルグランプリ2007では、アクオスのフルハイビジョンモデル2機種が金賞を受賞、そして液晶テレビ事業に対する取り組みがビジュアルグランプリ大賞を受賞した。液晶テレビをリードするシャープが、これから目指していくものは何か。AVシステム事業本部の出野副事業部長にお話を伺った。

―― 液晶テレビアクオスの52型と46型がビジュアルグランプリ2007で金賞を受賞されました。誠におめでとうございます。

出野 本当に有り難うございます。シャープと致しましては、お客様のご期待に添えるようなテレビをつくっていくというのが目標ですが、ようやく皆様にお認めいただけるようになったかという思いが致します。

―― 金賞モデルはアクオスの2機種ですが、御社は70年代から液晶事業に取り組まれ、液晶テレビの文化を創り上げてこられました。同時に亀山ブランドに代表されるような事業の進め方で成功されており、そういった総合的な経緯に対して「ビジュアルグランプリ大賞」という特別な賞が授けられました。

出野 1998年は、放送がデジタルに、ハイビジョンに変わるという時期であり、ちょうどそのタイミングで町田社長が「2005年にはテレビを全て液晶にする」と宣言しました。新しい事業には、苦戦や苦労がつきものですが、薄型テレビのメリットは、リビングに置いたときにその価値がきちんと伝わるもの、どこでもいつでも使っていただけるテレビにしようということを目標にスタートしました。当初は13型や20型といったサイズからでしたが、その頃から大画面テレビという構想も持っており、スタートの時から先を見た商品戦略、事業戦略をベースにしていました。

―― アクオスフルハイビジョンのラインナップは幾つもありますが、これから主力になるサイズのモデルをしっかりと評価させていただこう、ということで今回は2モデルを選ばせていただきました。液晶テレビを御社が手掛けられて、出される製品の経緯をずっと拝見していますが、技術の進化を毎年感じます。「ビジュアルグランプリ大賞」は、そういった流れに敬意を表してのものです。

次の審査会では、フルハイビジョンの放送コンテンツだけでなく、次世代の新しいソースであるハイビジョンのパッケージソフトをどう表現できるか、ということがテレビやプロジェクターに対しての審査の基準となってきます。

出野 今回、受賞させていただいたアクオスには、今おっしゃったような次の世代に向けての要素が詰め込まれています。例えば、映画の表現力では、コントラストの向上が必須です。またお客様の周りには、放送以外でも、デジタルカメラ、ビデオカメラ、ゲームといった、ハイビジョンと同等クラスの高画質なコンテンツがたくさんあり、それらを忠実に再現できるように商品化しています。

テレビはお客様が直接インターフェースできるアウトプット機器ですから、これを取り巻くさまざまな環境がはっきりしてきますと、そこに焦点をあてて作りこんでいく必要があります。モノ作りのコンセプトとしては、2001年に発売したアクオス第1号機から変わっておりません。

―― もう一方で、ファミリンクに対しても評価させていただきました。HDMIのリンクで使いやすくするということに加え、事業部の違う製品同士を統合させていくことの難しさを克服されたということが評価につながりました。

出野 実は、デジタルメディア事業部副事業部長の喜多村は、アクオスのデビューのときは、私と一緒に商品企画を手がけていました。当時から、今のような全体構想は一緒に描いていました。2001年2月に、60GBのHDDを搭載したBSデジタルチューナーを商品化しましたが、それがその後の技術進化の基礎になったと思います。液晶テレビを手がけた当初から、将来、放送はデジタルに、ハイビジョンになることを見据え、そういう機器は絶対に必要だという思いで進めて参りました。

―― HDDが今ここまで広まった、その元をつくったのは御社ですね。ハードディスクをテレビの中に入れる、という考え方のメーカーさんもありますが、そうではなくファミリンクにされたという意味は何でしょうか。

出野 デジタル機器は進化のスピードが速いので、全ての機能が欲しいというお客様がいらっしゃる一方、今は必要不可欠な機能だけを望んでいるお客様もいらっしゃいます。アイデアとして一体型という選択肢もありますが、現時点ではファミリンクであると判断しました。

―― 御社が液晶でテレビを薄型化し、そこにデザイン性というものを取り入れられ、さらに高画質フルハイビジョン化、ファミリンクで使い勝手を向上、と言う風にテレビを新しく進化させてきました。これから先は、どういった方向性をお考えでしょうか。

出野 もしかしたら、テレビという呼び方は要らなくなるかもしれません。当社はインターネットアクオスなども提案しており、テレビは様々な情報を映し出す機器でもあると考えています。テレビは完結型の商品ですが、それがモニターにもなり、ディスプレイでもあり、スクリーン化もしていきます。この4つの要素を兼ね備えるものになってくるのではないかと考えています。そういう中で具体的にどうするかというと、スクリーン化するにはもっと大画面でなくてはなりません。またディスプレイ化ということではメガコントラスト液晶、モニターでは4K2Kなどの技術開発を進めています。

このテレビの4つの用途は、分けてしまえるものではありません。そこを実現しようとすると、テレビの裏側に映写機やパソコンといった機器がついてくることになります。しかし当社では部門間を越えて開発ができますから、実現はそう遠い未来のことではないと考えています。

―― 出野さんが液晶テレビの企画をご担当されたのは、いつ頃のことでしょうか。

出野 1998年の4月のことです。1年かけて液晶テレビのマーケティングをして、1999年に全体のビジョンをまとめ、「アクオス ビッグバン計画」としてスタートしました。そして、2000年12月にアクオス第1号機の記者発表会を行いました。演出の1つとして、記者席を丸テーブルにして、そこに1台ずつ13型アクオスを置きました。「こんな使い方ができるのか」といった記者の反応を見て大きな手応えを感じました。

―― 液晶テレビのサイズは、これからどうなっていくでしょうか。

出野 当社はコンシューマー商品を作っていますから、家庭に設置されることを前提としなくてはいけません。昨年65型を発売しましたが、家庭用テレビとして65型まではいけると考えています。またディスプレイ、モニター、さらにスクリーンとなるともっと大画面でなくてはなりませんから、そういう方向での準備もしております。また今回金賞をいただいた52インチこそ、ぜひ家庭で使っていただきたいと考えております。このサイズでこそ、ハイビジョンの良さを実感いただけ、面白味がより伝わると確信しています。

―― 御社は液晶テレビのマーケットリーダーとしてスタートされましたが、昨今では世界的にも各社が競合してきました。御社の今後の強みというものは何でしょうか。

出野 当社では1969年から液晶の開発をしており、お客様のニーズを汲んだ、顧客志向の考え方が根付いています。テクノロジーの幅も広くなってきましたが、当社ではオンリーワン商品の開発、緊急プロジェクトの対応など総合力を発揮した開発体制に柔軟に対応できます。またどこよりも早く第8世代の工場をつくり、稼働させることができました。それらを支える技術の進化が常時あります。そのひとつひとつが、お客様に驚きをもたらすことができます。これらの集大成が成果として現れていることが強みであり、今後もさらに力を入れていきます。

そしてテレビ、モニター、ディスプレイ、スクリーンという4つの用途について、一つ一つの課題解決に向け、きっちりと取り組んでいきます。そのために今後も他社の先を行くマーケティングを実践していきます。今回の亀山第2工場デビューを振り返っていただくとおわかりだと思いますが、いわゆるトータル・マーケティングの成功と考えています。いいところを一つ一つ強化していけば、お客様には必ず喜んでいただけるものと確信しています。

―― デジタルAVもここまで伸びてきました。これから先の発展へのキーは何でしょうか。

出野 今の段階で言うと、液晶の表現能力は、放送コンテンツより高くなっています。また、放送以外のところでも、コンテンツ環境はこれから変わります。我々はそれらもウォッチしていかなくてはなりません。インターネットアクオスを提案させていただいた理由もそこにあります。またアーカイブ化されたコンテンツがこれから公開されていく環境になったとき、過去のコンテンツの画質をテレビサイドで補うといったこともできると考えています。

まず取り組んでいくべき課題は、2011年にかけてのテレビの供給です。今年の年末で、液晶テレビの世帯普及率は35%と言われていますが、日本では1億数千万台のテレビが稼動していますから、アナログ停波となる5年後までにまだ数千万台のデジタルテレビが必要です。まずこの課題にきちんと取り組むことが、液晶テレビNo.1メーカーとしての責務です。画質とサイズ、周辺機器との連携などをビジネスチャンスと考えると、テレビは大きなマーケットです。ご販売店様もぜひ、付加価値をご理解いただきたいと思います。

―― 今回受賞された商品を始め、ご販売店についての対策などはいかがですか。

出野 当社では、ご販売店様向けに研修会、勉強会、ご提案会といったものを9月の中旬頃から毎日のようにさせていただいています。おかげさまでファミリンクについては、スタート当初からいいご反応をいただきました。

今の日本のお客様は、価格が高くとも納得さえしていただければ、いい物を買われます。それは日本製品のよさに、たくさんの方が気づかれたからだと思います。他のカテゴリーを見ても、掃除機や洗濯機など、高額商品であることの付加価値を認めていただき、受け入れられています。そういった本流志向に、私どもの「亀山ブランド」はマッチしていると考えています。だからこそ、日本では薄型テレビの文化はどこよりも早く普及したと考えています。

―― 次は、それを世界にどう発信していけるかですね。

出野 そうです。しかし商品の変化は凄いスピードで進んでいます。画面サイズは過去5年間で5倍に、コントラストは10倍になりました。それまで1年かかっていた開発期間を、3〜4ヵ月でしなければなりません。業界全体で、そういう仕組みやお客様にお伝えするコミュニケーション手法もスピードアップしなければなりません。世界が相手となると、もっと難しい。そのためにはブランド戦略をますますきちんとやらなくてはなりません。今回、身に余る賞を頂戴しまして、大変励みになりました。今後も頑張って参りたいと思いますので、どうぞご支援のほどよろしくお願い致します。

―― 今後とも期待しております。有り難うございました。