パイオニアマーケティング(株)
代表取締役社長

校條 亮治
Ryoji Menjou

特別金賞連続受賞の栄誉を
次の提案へと力強くつなげたい

ビジュアルグランプリ2007で、パイオニアのフルHDプラズマディスプレイ「PDPー5000EX」が特別金賞を受賞した。これは、今年夏のビジュアルグランプリ2006SUMMERでの特別金賞受賞に続く連続受賞となる快挙だ。価格に左右されない付加価値とその普遍性が評価された同製品は、今後のパイオニアの指針となるビジネスモデルを提示した。受賞への思いを、パイオニアマーケティングの校條亮治社長に聞く。

―― PDP―5000EXは、ビジュアルグランプリ2006SUMMERに引き続いての特別金賞連続受賞となります。誠におめでとうございます。

校條 この商品についてはじっくりと浸透させていく構えでやっておりますから、今回の受賞は格別の喜びです。私どもがどんな価値をご提供できるかという意味で、それなりの役割を果たすことができたのではないかと思っております。前回の受賞の際は、このサイズのフルハイビジョンPDPが世界初ということでご評価いただきましたが、このような商品は奇をてらって次から次と出していくものではなく、新しい価値をご提案していくものです。この商品を出すことによって、市場の活性化や、新しいビジネスモデルへつなげるということを狙っておりましたから、今回はそこをご評価いただいたことが、前回にも勝る喜びです。

―― 前回お話を伺った時は、チャネルなど思いきった対応をされたとのことでしたが、時間を経てどのような成果が見られるでしょうか。

校條 5000EXやスピーカーのS―1EXの訴求では、価格ではなく、パイオニアの真骨頂である新しい価値をどうお客様にストレートにご評価いただくかというシナリオをつくり、そういう意味でチャネル政策もかなりセグメント化しました。それは私どもがチャネルを選ぶということではなく、私どもの価値を理解していただける相手様との関係を築くというのがモットーであり、政策はあくまでもマルチチャネル政策。これは何十年来変えておりません。5000EXも1EXも、基本的に私どもが提案する価値をご理解いただける相手様とウィンウィンの関係を結べたということをご評価いただき、お店のビジネスモデルとしていただいているということだと思います。こういうことに昨年から取り組んで参りましたが、今年いよいよこの方針でドライブをかけられる自信も持てました。

パイオニアは本来、ちゃんとお客様を包括したマーケティングをやってきたはずですが、プラズマを手掛け、これが意外に早くコモディティ化してしまいました。DVDレコーダーについても同じようなことが言えると思います。好んでこうなったわけではないのですが、残念ながら市場の動きに巻き込まれ、その影響を受け過ぎてしまったのです。この整理に少し時間がかかりましたが、結果的にパイオニアの不変の哲学である「ターゲットマーケティング」に再びフォーカスをすることができました。昨年や夏の受賞時と違うのは、ようやく内外にこのことを明確に言える時期に来たということで、今後の私どもの経営方針に据えられるものと思います。そして考え方だけでなく、当然それに基づく事業戦略や商品政策があり、いよいよ来期からそこに本格的に着手します。

―― 今年度の決算も好調ですね。

校條 恐らく各社さんともこの第一、第二四半期は好調だったであろうと思います。ただこれから最大のヤマ場である年末商戦に向かって、このままいけるとは思っていません。価格下落が想定より速いスピードで進むことは予測せざるを得ませんし、下期は再度気を引き締め、私どもとは異なる政策に惑わされることなくいきたいと思います。

それは端的に言えば、マスマーケティングでなくターゲットマーケティングだということです。量の追い方一辺倒ではない、私どもの価値をわかっていただける方にしっかりとご提案するということ。最終価格はお客様が評価されることですが、私どもは自らが価値をそれに取って代えて競争するということは致しません。できればこの年末も、私どもの価値を十分ご理解いただけるような店頭展開をしたいのです。せっかくこういう賞をいただいたわけですから、なぜ受賞したかということをご理解いただけるようなやり方をしたいと思います。

プラズマにしてもスピーカーにしても、広いカテゴリーの中に包含されれば埋没してしまいます。プラズマはテレビジョンであることは間違いないのですが、私どもは、その中でも極めてクオリティの高いコンテンツを楽しむ方にアピールするコーナーづくりを提案して行こうと思います。薄型テレビが主流になり、量販店さんを中心に量やラインナップをもって売り場構成をされる状況にシフトされています。私どもはそうではなく、商品が埋没しないよう価値をアピールできるコーナーづくりをさせていただきたいと思います。

単なるラインナップ、価格の提案ではチープな競争でしかありません。今申し上げたようなことが本来のパイオニアの価値ですので、恐らく量販店さんでもご利用、ご活用していただけるところがあるだろうと思っています。取引先様とディスカッションしながら、これからやっていくつもりです。

―― 私は巻頭言にも書きましたが、5000EXは、プラズマの初期モデルを買った方々の買い替えとして、画面の大きいものへのシフトということに加え、ハイクオリティな画面へのシフトという新しいスタイルを提案したことも、大変評価致しております。

校條 50インチをフルハイビジョンにしたのが私どもの意志です。パイオニアの今の技術力からすれば大型サイズでフルハイビジョンをつくることはいつでもできますが、50インチでつくる方が遥かに難しい。しかし私どもがやる上において、あえてそこで高精細なものをきちんとつくって価値をお客様に提案することこそ、とりわけ日本のような価格状況の中では重要ではないかと思うのです。

特異性のある企業としては意志が必要であり、継続性を持って提案することが重要です。そしてその次は当然もっと大型、もっと小型と、両方が我々の検討していくべき材料です。今年お取引先からは、パイオニアはなぜ60インチを出さないのか、という声も聞かれましたが、50インチを今年6月に出し、じっくりと使っていただく。半年や1年で替えるものではないというスタンスでないとお客様に失礼だと思っていますし、またそういう商品であると自負しております。現場で見ていただいたり、パブリシティで表現したりして、ようやく認知が高まってきたと思います。

ビジュアルはさらに磨きをかけて、マスマーケティングでなく、ターゲットマーケティングによってパイオニアのフルHDワールドという世界を展開していきます。そこでは当然音は避けて通れないと思っており、今回プリメインアンプも出しました。パイオニアはオーディオを忘れたのかと言われていましたが、何とかボーナス商戦に間に合わせようと頑張りました。

そして来年はリソースをもう一度再編します。今分散しているリソースを川崎に集結させ、そこでパイオニアが提案する新しい研究開発に着手します。ここをベースに続々と世に問うて行こうと思っております。

―― 来年、御社はスピーカー作り70周年となりますね。

校條 そうです。来年はプラズマ開発でも10年となるアニバーサリーな年となります。ご期待いただきたいと思います。オーディオは本業ですから、次々に企画していきます。今回賞をいただきましたS―PM300にしてもシリーズで極めてきたもので、大切にしていこうと思っています。S―1EXにつながっていくビンテージといわれるものもこれから企画していきます。

オーディオも2つの路線を進めないといけません。我々メーカーは、どうやったら新しい市場を構築できるかということを使命としなければならないと思います。そこで1つはデジタルオーディオ、携帯オーディオを楽しんでいる方々にどうやってホームオーディオとのリンケージがとれるようにしてあげられるかということ。我々は、圧縮された音源を再度エクスパンドすることにより高音質で楽しめる「サウンドレトリバー」と言う技術を持っています。そういうところを切り口にし、親和性を含めてやっていこうと思います。つながるだけではなく、先進的な技術で音をもっとよくするというところにオーディオメーカーの使命がありますから、そこに軸を立てます。そしてもう1つは、オーディオを生活に取り入れてこられた団塊の世代の方々に、もう一度いそしんでいただくようにすることが責務だと思います。

本来ならハイファイオーディオのトップクラスのハイエンドのところもやらなくてはならないのですが、今申し上げた2つの課題の部分は急がなければならないと思っているのです。これが輸入オーディオと私どもの違いです。今回のA―A9でそこのところをきちんと、市場として再構築できればと思います。それができれば、新しいビジネスモデルとしてご理解いただけると思います。その上に当然ハイエンドも追求していきます。

―― “シスコン”時代からのパイオニア魂がようやく復活したように感じます。LDの時のDNAが大きいですね。

校條 テレビ市場は世界の家電の王様です。正直申し上げて、企業や事業規模を拡大したくなる誘惑というのもあるのです。拡大させること自体は悪いことではありません。

しかし忘れてはならないのは、何のために大きくなるかということです。それでさらに新しいお客様に価値提案ができるのか、新しい利便性をもたらすことができるのか。できるのなら、大きくなってしかるべきです。しかしそういうことだけではない、というのが私なりの信念なのです。

大きくなることではなく、いかなる価値をご提案できるかというところが焦点となるわけです。価値をご提供するためというのなら、大きくなることも、資本や技術の提携という選択肢も考えられます。これまでも拡大するチャンスはたくさんあったと思いますが、そうならなかった理由はそこです。それがパイオニアのパイオニアたる所以です。パイオニアのDNAであり、創業者の理念です。

今回社長の須藤がつくったビジョンをご覧いただければおわかりのとおり、全員がプロフェッショナルであり、イノベーターであり、それはお客様発だ、と言っております。それをもういちど磨き直そうということです。今私が申し上げたとおり、お客様へ向けての価値をつくるということ、それが我々の信念です。

新しい価値提案を、パイオニアは70年間やり続けてきました。だから生き延びてきたのです。規模や陣取り合戦に加われば、パイオニアの生命線はそこで絶たれることになるのです。そこに収れんすることに、ここ1〜2年は時間を費やしてきました。

プラズマでも、つい3〜4年前とは状況が変わりました。我々は何も軸足を変えていないのですが、努力不足でわかっていただけていなかったところがあります。だから5000EXを出したということです。専門店様からは評価をいただいていますし、他社さんがいろいろと出されても今もって発想を微動だにせず、価格なりの価値があるものと確信してやっております。そういう意味で、新しいビジネスの在り方として一石を投じることができたと思います。

プラズマはまだまだ進化しますし、オーディオも、アナログ、デジタルアンプ、伝送技術などを磨かなくてはなりません。さまざまな技術をベースに商品を作り上げ、仕上がったものでいかにお客様に感動を共有していただけるかということです。技術はあくまでも手段であり、最後に商品化したとき、お客様からすばらしいと自然に言っていただけるような商品作りができればいいと思っております。

―― 今後も期待しております。有り難うございました。