トップインタビュー

大塚清氏

三菱化学メディア
代表取締役社長

大塚 重徳
Shigenori Otsuka

先進的な技術をコアに
一味違う魅力的な商品を
送り出し続けていく

大容量記録に対する注目度が高まる中、世界初の片面二層DVDの発売で技術力の高さを強力にアピールした三菱化学メディア。独自開発の素材を採用した同社の記録メディアは信頼性の高さで内外の市場で高い評価を獲得。価格下落が急速に進むDVDメディアの世界で、技術力の高さを活用した差別化商品の投入で利益重視の事業展開を推進している。本年4月、新たに同社の社長に就任した大塚重徳氏に事業戦略とブランド戦略を聞いた。

インタビュアー ● 音元出版社長 和田光征


技術による価値の増加に対して
それなりの価格を
つけていただくべきだと思います


先進的な技術を核にして
一歩先の商品を提案していく

―― 社長ご就任おめでとうございます。最初に大塚新社長のご経歴から聞かせてください。

大塚 重徳氏 大塚 私は団塊世代のピークの昭和22年に生まれました。学校では基礎技術を勉強しましたが、学校を卒業してから有機系材料の機能的な性質を様々なエレクトロニクス機器に使うといったような基礎技術中心の仕事に携わってきました。
三菱化学ではいろいろな新しい分野への進出を図る中で、様々なテーマに取り組んできました。その中で私はオフィス用のコピー機やレーザープリンターなどに使われる感光材を中心にした研究開発にあたってきました。
メディアとの関わりでは、CD―Rの全盛期だった1997年に当社はシンガポールに光ディスクの製造工場を作りました。その時に技術・製造担当として、3年間ほどシンガポールで仕事をしました。その後、日本に戻って、半導体関係などいろいろな事業部門を担当してきました。

―― 事務機と記録メディアの違いはありますが、光を使った記録との関わりという点では共通ですね

大塚 アゾなどの色素は私の特に得意な分野です。ですからその点での違和感はそれほどありません。私にとってこれから一番勉強していかなければいけないことは、コンシューマー・マーケットです。三菱化学が関わっている事業全体の中で当社は唯一のコンシューマー・マーケットに関わる仕事です。これは私にとってまったく初めての分野ということで、挑戦のしがいを感じています。

―― 新社長としての抱負をお聞かせください。

大塚 当社の基本的な位置付けは販売会社ですが、ただの販売会社ではありません。先端の技術をしっかりとキャッチして、自分達の技術に基づく製品を販売していきます。
当社の記録メディア事業はもともとデータ用から出発したことから、国内・海外ともにデータ用の分野では高いシェアを持っています。海外を中心に展開しているバーベイタムブランドとあわせて、昨年度はDVDディスクの販売で世界シェア第1位のグループになりました。
ただ、AVの分野では市場参入が最後発だったことや、三菱化学グループがそれまで取り組んでこなかったコンシューマー分野であることなどから存在感はまだまだ十分ではありません。その中でいかにして存在感を出していくかが大きな課題です。

―― 強力な先発メーカーと対抗していくためには、商品面での明確な差別化が求められると思います。

大塚 当社では、「Something Difference」と「Something a Bit Advanced」をテーマにしています。
「Something Difference」では映画のフィルムをイメージさせる盤面のCine―Rや、内径の深いエリアまでインクジェット・プリンターで印刷できる「美・画・創」などのように、他社さんの製品と一味違う楽しさを提案しています。
「Something a Bit Advanced」は、技術面で他社よりも一歩先の商品を実現するということです。たとえば高速化、高容量化、2層化などが具体的な例です。
当社の最大の強みは技術力です。市場にいろいろなブランドの商品がある中で、その強みを活かした商品を送り出してきましたが、今後も技術的に特長のある製品を出し続けていきたいと思っています。


デジタルメディアでも
品質面での差異化は可能

―― DVDレコーダーの普及が急速に進んでいるにもかかわらず、ハードメーカー、メディアメーカーともに収益面で大変苦しんでいます。

大塚 この業界に入って一番驚いたことは、単価下落のスピードの速さです。DVDでは画質などハード、メディア双方の品質は非常に高められてきています。にもかかわらず価格は対数で下がってきています。
業界が利益を享受できる期間が短くなったというよりも、なくなってしまったようにすら感じます。値段が安くなることによって普及するという側面があるかもしれませんが、技術の価値の増加に対して、それなりの価値を付けていただくべきではないかと思います。

―― これはメディアに限らずデジタル製品に共通の問題です。

大塚 例えば半導体を開発するにはものすごく苦労しますが、いったん作ってしまえばどんどん安くなっていきます。さらに技術が進歩するとあっという間にコストが大幅に下がってしまうという怖さがあります。
メディアの場合はこれほどまでではありませんが、いかにしてこれを断ち切るかを真剣に考えないと、事業をやっていく意味が薄れてしまいます。

―― 付加価値の源泉は差別化ですが、価格の下落が激しいDVDメディアの世界で収益を出せるようにしていくためには、スタンダード商品だけでなく、より高品位な記録が可能なプレミアムゾーンの市場を創造していくことが必要ではないでしょうか。

大塚 次世代DVD規格としてBDなどの提案もなされていますが、本格的に普及するのはまだまだ先のことです。その間DVDは伸び続けていくことが見込まれますが、今のような値下がりが続くようでは事業として成立しなくなってしまいます。
製造原価を下げるにも限度があります。既にほぼ限界に近づいてきました。このような状態が続いていけば、利益なき繁忙になってしまいます。その中でいかにして差異化された製品で、急激な価格低下に巻き込まれないようにしていくかが重要なポイントになります。
当社ではCine―Rや二層型などといった、他社と一味違う楽しさや先進的な技術で差異化を図っていますが、プレミアム市場を創っていくための製品開発にも取り組んでいきたいと思っています。

―― デジタル製品では性能面での差別化が難しいということがよく言われます。本当にそうでしょうか。

大塚 デジタルではフォーマットで規定されている規格の中にあるわけですが、信頼性やエラーレートなど、差異化できる要素があります。デジタルといえども、これらによって音質や画質に明らかに影響します。耐久性の問題もあります。市販されている商品の中には、長期間、経過することによって、記録内容が劣化するような商品もあります。


高い技術力で他社に先駆けて
二層型DVDの商品化を実現

―― デジタル・メディアでもAV用では綺麗な画といい音が望まれます。そのためなら、多少高くても良いものを使われます。そこがPC用のメディアとAV用のメディアが決定的に違います。

大塚 これはAV用だけに限らないことですが、お客様が本当に求めているものは、ただ安ければいいということではありません。特にAV用では一回きりの映像を記録する場合がよくあります。ビデオカメラでお子様の記録を取る場合や放送の録画などがそうです。その時に使われるメディアには、値段の安さよりも信頼性や品質の高さが求められます。
アメリカのテレビ放送の画面は、決して綺麗ではありません。それでも平気でみています。これに対して日本人は画や音に対して非常に敏感です。画質や音質面で明確な差異化ができれば、お金を出していただくことは可能だと思います。

―― 光ディスクの分野で、御社は素材を含めて様々な先進技術をもたれています。特にDVD―Rは、御社の素材抜きには商品カテゴリーそのものが存在できないといってもいいほどです。

大塚 当社の技術面での大きな強みのひとつが素材を持っていることです。ライトワンスから始まって、MO、CD―R、RW、そしてDVDと、すべてのタイプのディスクを揃えていることも当社の大きな特長です。
当社が光ディスク事業を始めたのは80年代で、光ディスクを製造している会社の中で最も長い歴史を持っています。この間、多くの技術とノウハウを蓄積してきました。当社では2層型のディスクを商品化しましたが、2層型ディスクを作るためには非常に高度な技術が必要だからです。これを他社に先駆けて商品化できたことは、当社の技術力を示すひとつの例です。
これ以外にも先進的な商品を開発するためのたくさんの技術が社内にあります。素材を含めた様々な先進的な技術を持っていることによって、新しいディスクの規格作りの場で発言できることも当社の大きな強みです。


互換性と信頼性の高さは
DVDメディアに必須な要素

―― 製品の展開範囲が非常に広いDVDでは、互換性の高さが特に求められます。一部のメーカーの製品には問題があるものもあるようですが。

大塚 DVDで性能面以上に大きな問題になるのが互換性です。これをきちんととって出すことは、メーカーの大きな責任です。ところが価格の安さを売り物にしている製品の中には、いい加減な製品もかなりあります。ただこれはお客様が購入される段階ではわかりません。
当社は多少コストは高くなっても信頼性や互換性の高いディスクを供給するようにしていますが、悪貨は良貨を駆逐する典型的な世界になってきています。ただ、安ければ売れるという側面もあって、互換性の低い製品やブランドの淘汰がなかなか簡単に進みません。

―― 御社が他社に先駆けて商品化した二層型は、新しい商品分野だけに互換性の確保が気になりますが。

大塚 二層型のDVDに対応した録画機がパイオニアさんから出ました。今後、他社さんからも出てくると思います。その時に互換性などが現実の問題として出てくる可能性があります。2層型DVD+Rディスクは複数の会社から発売されるようになりましたが、われわれがテストをしてみると、互換性を考慮していないような製品もあります。
自社製品の互換性を高めるには、業界のデファクトのベースになるディスクをいかに早く作れるかということが重要です。他社に先駆けて商品化を実現することによって、今後発売される様々なメーカーの様々なドライブは、当社のディスクでテストされて出荷されていくことになるからです。二層ディスクでは他社に先駆けて当社が商品化できたことによって、実際に当社のディスクが互換性を確認するためのデファクト・スタンダードになっています。


付加価値の高い商品で
利益重視のビジネスを図る

―― AVメディア事業におけるブランド戦略を聞かせてください。

大塚 重徳氏 大塚 当社ではシェアを競うのではなく、利益重視のビジネスを図っています。利益が出ないような事業では、やっていく意味がありません。これは海外についても同じです。そのためにきちんとした商品を送り出しています。
当社ではすべてのタイプとグレードを取り揃えた幅広い商品ラインナップで、様々なお客様のニーズをフルサポートしています。しかも2層型ディスクなど他社に先駆けて商品を市場に投入しています。信頼性の高さも当社の製品の大きな特長です。
三菱化学メディアは、販売店さんの棚に並んでいるブランドの中では新参者です。ですから三菱化学メディアの特長を明確に打ち出せないと、先行メーカーと戦っていくことはできません。先進的な技術に裏打ちされた信頼性と品質の高さを核にして、高付加価値ブランドとしての位置付けを明確にしていきたいと考えています。

―― そのための最大の課題は何でしょうか。

大塚 マーケティング力の強化です。 当社の技術や製品の優位性をお客様にきちんと伝えきれているかというとまだまだです。当社のメデイァビジネスはデータ用からスタートしたことから、一部のPCマニアの間では、三菱化学メディアというブランドは認知されていますが、AVではテープの時代から商品を出されてきたTDKさんやマクセルさん、フジさん、ソニーさんなどに比較するとブランド認知度はまだまだです。この点を強化するために人の採用も含めて強力に取り組んでいきたいと考えています。

―― 最後に販売店の皆様方へのメッセージをお願いします。

大塚 当社はAV用の記録メディアの世界では後発ですが、光ディスクでの世界では最も長い歴史を持っています。他社さんとは一味違う先進の技術をコアに、一味違う魅力を感じていただけるような商品を送り出し続けていくことがこの会社の最大の使命だと思っています。販売店の皆様方には、ぜひとも私どもの将来性を買っていただきたいと思います。

◆PROFILE◆

Shigenori Otsuka

1947年9月生まれ。大阪出身。72年3月 東京大学光学系大学院物理工学研究科修士課程卒業。72年4月 三菱化成鞄社。72年6月中央研究所研究開発室。95年6月 情報電子カンパニー情報機材事業部グループマネージャー。98年2月三菱化学インフォニクス社副社長。00年6月三菱化学鰹報電子カンパニー オプトエレクトロニクス事業部長兼化学システムサービス事業部長。02年4月情報電子カンパニー規格管理部長。04年6月執行役員 情報電子部門長兼記録メディア部長。05年4月三菱化学且キ行役員 三菱化学メディア椛纒\取締役社長に就任。現在にいたる。