トップインタビュー

(株)ソニー
業務執行役員
ホームエレクトロニクスネットワークカンパニー
オーディオ事業本部本部長

山本喜則 氏
Yoshinori Yamamoto

 

いい音が加われば
さらに高まる
大画面の迫力と感動



お客様に立脚した発想で昨年見事に蘇生した新生「A&Vフェスタ」。2年目を迎える今年はホームシアターを充実し、強力に訴求するとともに、入場料の全面的な無料化により幅広い層をターゲットに来場者増を狙う。市場の活性化へ向け将来のA&Vファンの拡大を図る同フェスタ開催まで1ヵ月を切った。実行委員長を務めるソニーの山本喜則プレジデントにフェスタの抱負とソニーのオーディオ事業の展開を聞く。

インタビュー ● 音元出版社長 和田光征

今後の日本のオーディオにとって
いかにしてホームシアターを
盛り上げていくかが最大の課題です

今年のフェスタではホーム
シアターを強力に訴求する

―― 新生A&Vフェスタの第二回目がまもなく開催されます。実行委員長としての意気込みと今年のテーマを聞かせてください。

山本 昨年の新生A&Vフェスタは、成功裡に終えることができました。一昨年の休催を挟んだことで、大きくジャンプできたという側面もあります。今年がA&Vフェスタとしての本当の実力を問われていると思っています。
今回のA&Vフェスタのテーマはホームシアターのあるライフスタイルです。単に商品が並んでいるということだけではなくて、こういう生活をしてみたいと思っていただけるような提案をしていきます。
販売店の店頭で商品を見ることはできますが、自分の生活空間の中にホームシアターが綺麗に入っているシーンまではなかなか提案できません。今回のフェスタではそれを提案することによって、ホームシアター市場の拡大につなげていきたいと思っています。

―― 今回、入場料を全面的に無料化しました。これはオーディオ&ビジュアルファンを拡大していく上で大きな効果が期待できそうですね。

山本 フェスタの目的はこれで商売をしようということでなく、オーディオ&ビジュアルの楽しさを一人でも多くの人に知ってもらうことです。できるだけ大勢のお客様に来場していただいて、オーディオ業界を盛り上げていこうということで入場料を無料にしました。
ホームシアターは個人の趣味というよりも、家族で楽しむことが中心になります。一人分の入場料であればそれほど大きな負担にはならないかもしれませんが、二人分や四人分になると大変です。今回、入場料を無料にしたことによって、家族と一緒に来場していただけることを期待しています。できるだけ多くの方に来場していただきたいと思います。。

―― 会場の中央でスピーカーの工作教室を予定されているようですが。

山本 スピーカーの工作教室は以前からあったもので今回が初めてではありません。ただどこでやっているかわかりにくいという問題があったので、今回のフェスタでは会場の中央に大きな場所を用意しました。
オーディオファンの方々の多くは、子供の時や若い頃にスピーカーなどを自分で作った経験があると思います。その時に感じたオーディオの喜びを、今の子供たちにも是非体験していただきたい。そしてそれをきっかけに、将来のオーディオファンを一人でも多く増やすことになればと思います。

分散開催されているA&V
展示会の一本化を目指したい

―― 大画面テレビが人気を集め、地上デジタル放送の開始で5・1chのコンテンツも身近になってきました。にもかかわらず、ホームシアター商品がなかなか伸びていません。

山本 最大の問題はホームシアターに対する認知度がまだまだ低いことです。大画面の魅力は簡単に理解してもらえますが、そこにサラウンド音声が加わることによって、その迫力や感動が2倍にも3倍にも高まるということまでは、なかなか気付いていただけません。
映画館で見る映画の迫力は、画面の大きさのせいだけではありません。体を包み込むようなサラウンド音声が加わることによって迫力や感動が高められています。サラウンド音声の重要性や効果を、今回のA&Vフェスタで体験していただきたいと思います。
もうひとつの問題はホームシアターを自宅に持ち込む際の心理的な抵抗感です。ホームシアターを自宅のリビングに持ち込んでみようとする時に、部屋の見栄えが悪くなるのではないかということと、使い方が難しいのではないかという2つが心理的な抵抗感になっています。これに対して綺麗に室内に収めることができ、しかも使い勝手も簡単だということも今回のA&Vフェスタで示していきます。

―― 今年はフェスタとほぼ同時期に有楽町でインターナショナルオーディオショウやハイエンドショー東京などが開催されます。

山本 ハイエンドも含めて、オーディオ&ビジュアルにかかわる様々な商品をひとつの会場で見たいという声が大変強くあります。ただ残念ながら、過去の経緯から一本化できていません。
今回はたまたますべてのオーディオの催し物が同じ週に開催されるということで、まさにオーディオウイークということになります。会場は離れていますが、できるだけ協力しあってやっていきたいと思っています。
私は以前のように一箇所ですべての商品をカバーできる展示会を開催できることがベストだと考えています。その実現に向けて関係者と様々な点について話をしているところですが、一緒にやっていくことが嫌だと言う人はいません。ただ、過去の経緯からすぐにはできないということだけです。会場の問題もありますので少し時間はかかりますが、いつか必ず一緒に開催できると信じています。

システム商品にワイヤレス
リアスピーカーを全面投入

―― 次に最近の国内のオーディオ市場についての話を伺わせていただきたいと思います。

山本 世界全体でのオーディオマーケットはそれほど大きく落ちていません。ただその中で日本市場は大きく落ち込んでいます。その最大の理由は、海外のオーディオ市場がピュアオーディオからホームシアターに変わりつつある中で、日本はそうなっていないということです。
もちろん熱心にやられているファンはいらっしゃいますが、広がりという点でなかなか進んでいません。日本の今後のオーディオにとって、ホームシアターを盛り上げることが、最大の課題だと思っています。これはソニーだけでなく、他のオーディオメーカーさんや販売店さん、さらには雑誌社さんなど、業界に関わっている皆さんも同じではないでしょうか。

―― 日本市場でホームシアター市場を盛り上げていくためには、どんなことが必要でしょうか。

山本 世界のホームシアター市場で、日本のメーカーは主導的な役割をはたしています。その意味では、自分たちが海外でできていることを日本でもやらなければいけないということです。
ただ、海外と日本とではホームシアターを楽しむための条件が違います。日本では、例えば家の狭さや音漏れの問題など、いろいろなことがあります。日本市場の特性にあわせた解決策を提案していくことが、市場を拡大していくためのキーになります。

―― そのためには商品面での工夫も必要になると思います。

山本 日本でホームシアターを普及させていく上での最大の障害は、遮音とリアスピーカーへの配線にあるという認識を持っています。そこで、ソニーではこれから発売するすべてのホームシアターのシステム商品に、光デジタルワイヤレス伝送によるサラウンドワイヤレススピーカーを搭載していきます。
これはデジタルオーディオ用にソニーが独自に開発した伝送システムです。DAV―DS1000で商品化していますが、ICの値段が非常に高いことが問題でした。今回そのローコスト化に成功したことから、様々なグレードの商品に搭載できるようになりました。

―― 光デジタルワイヤレス伝送方式を選んだ理由はなぜでしょうか。

山本 ソニーが独自に開発した赤外線方式のメリットは、信頼性の高さと高音質です。高周波を利用したワイヤレス伝送では、電子レンジや携帯電話、PCなどから発信される妨害電波によって音声が途切れることがあります。これに対して当社の赤外線による光伝送方式では、これらの影響を受けることがありません。   さらに発光部を多数持たせることによって、部屋の中を人が歩くくらいで音が途切れる心配もありません。
音質の高さもこの伝送方式の大きな特徴です。DVDの音声はもちろん、スーパーオーディオCDの広帯域な音楽信号にも余裕をもって対応しています。フロントスピーカーに比べて音量の小さいサラウンドスピーカーにも、できるだけ高音質であることが望まれます。信頼性の高さと音質の両面から、われわれの光デジタルワイヤレス伝送システムはホームシアター用に最適な方式です。

―― それによって部屋の美観を壊すことがなくなるということですね。

山本 以前のリビングルームは絨毯が一般的でしたので、絨毯の下にスピーカーケーブルを隠すことができました。しかし、最近人気のフローリングでは、特別な工事を施さない限りスピーカーケーブルは室内に露出してしまいます。これは見栄えが悪いだけでなく、掃除の邪魔になるということもあって非常に嫌がられます。こういったことも含めて、リアスピーカーへの信号伝送は、ワイヤレス化の方向にいくべきだと考えます。

―― 残る課題は電源ケーブルだけということになりますね。

山本 ソニーでは以前から様々のショーや展示会で、完全ワイヤレス方式のリアスピーカーを出品してきました。今回のA&Vフェスタではこれを搭載した初めての商品も出展する予定です。
これはサラウンドスピーカーに高効率のデジタルアンプと充電式のバッテリーを内蔵させることによって、電源コードも含めてサラウンドスピーカーを完全にワイヤレス化したものです。是非こちらにも期待してください。

ネットジュークを将来の
大きな一本の柱として育てていく

―― 先日ネットジュークの名称で、ネットワーク対応のシステムコンポを発表されました。その開発の狙いを聞かせてください。

山本 オーディオの世界では、LPからCDになってコンテンツがデジタル化してきました。アンプもアナログからデジタルへの切り替えが始まっています。
そういう流れの中で、次の課題はネットワーク化です。ただ、その時にネットワーク化の進展によって、PCにネットワークオーディオを取り込まれてしまうのではないかという危惧があります。オーディオをやっている身から見ると、これは非常に寂しいことです。そこで、それを食い止めたいという思いで開発したオーディオ製品が、ネットワークを介して希望の楽曲をネットワークからのダウンロードで購入できるネットジュークです。
ダウンロードによる楽曲購入は、欲しい曲を一曲だけでも買えるということや、欲しい時にいつでもどこからでも買えるというユーザーメリットがあります。また、音楽業界から見ると、違法コピーをされないというメリットがあります。これは非常に大切な問題です。ソフトの制作に携わっている業界を維持し、今後も音楽ソフトの供給を受け続けていくためには、セキュアーな方式によるダウンロードでの販売比率を高めていくことが必要です。

―― ネットジュークの市場性をどのように見ていますか。

山本 ブロードバンドの登場によって、瞬時に楽曲のファイルを送ることができるようになりました。世の中のあらゆる分野がネットワークの方向に進んでいます。その大きな流れの中で、PCを介さずにオーディオ機器だけでネットワークへの対応を実現したものが、ネットジュークに対応しているエニーミュージックです。ネットジュークに内蔵しているハードディスクには、最大で約2万曲の楽曲を収納することができ、その検索も非常に簡単です。
今はまだこのような商品の存在を知らない人が大半ですが、そういう時代がいずれ必ずきます。今でこそハードディスク内蔵のビデオレコーダーは大ヒットしていますが、導入当初は大変苦労しました。ネットワークオーディオでも同じような状況がくることは間違いありません。
今すぐ大ヒットするというわけにはいかないとは思いますが、オーディオ業界の皆様方と協力して粘り強くネットワークオーディオを立ち上げていきます。今回の商品は1号機ですが、2号機・3号機と続けて、この方向を今後のオーディオの一本の柱として大きく育てていきたいと思っています。

―― 販売店さんに対するメッセージがありましたらどうぞ。

山本 市場ではフラットパネルディスプレイやDVDレコーダーの急速な伸長に目を奪われて、オーディオは多少影が薄くなっています。しかし、サラウンド音声を再生できるホームシアターシステムと組み合わせてこそ、大画面の迫力と素晴らしさを満喫することができます。
日本でもホームシアター市場のポテンシャルには大きなものがあります。ホームシアターを販売していくための環境は着実に整ってきています。ホームシアターは一台売れると、それを見た周りの人たちが必ず欲しがる商品です。フラットディスプレイやDVDレコーダーを販売する時に、是非ホームシアターも同時に売っていただき、ホームシアターの市場を広げていただきたいと思います。

◆PROFILE◆

Yoshinori Yamamoto

1949年5月14日生まれ。神奈川県出身。1973年ソニー(株)ステレオ事業部入社以来、テープレコーダー、カセットデッキ、DATフォーマットを立ち上げ、システムステレオなどホームオーディオビジネスを一貫して歩み、99年HNCホームオーディオカンパニープレジデント、03年業務執行役員に就任。現在に至る。趣味はオーディオ鑑賞、コンサート観劇、ゴルフ。