トップインタビュー

シャープ
取締役AVシステム事業本部長

奥田隆司 氏
Takashi Okuda

 

応答速度の問題を解決
市場の大爆発に向けて
残る課題はコストだけ



日本で初めてテレビを商品化したシャープ。同社ではオンリーワン技術の液晶を用いたテレビを開発。長年の夢とされてきた薄型テレビの市場を創出し、市場の拡大を牽引してきた。さらに今年1月には世界初の液晶パネルから大画面液晶テレビまで一貫生産できる亀山工場の稼動を開始。液晶テレビの盟主としての同社の液晶テレビ事業戦略やAQUOSを中心とした今後の周辺機器戦略について取締役AVシステム事業本部長の奥田隆司氏に話を聞いた。

インタビュー ● 音元出版社長 和田光征

AQUOSの周辺機器も
フラットアプライアンスに
マッチしたデザインにしたい

市場の特性にあった商品で
さらに液晶テレビ事業を強化

―― 前期決算では創業以来最高の売上げと利益を記録されました。その立役者になったのが液晶テレビのAQUOSでした。そのAQUOSを中心とした、最近のAV事業の状況から聞かせてください。

奥田 お陰さまで2003年度は液晶テレビを全世界で約148万台(前年比約1・7倍)販売することができました。ほぼ計画通りですが、中でも亀山工場の稼動が原動力となり、大型液晶テレビが好調に推移し、売上げでは約1740億円(前年比約2倍)となりました。
今年、液晶テレビは倍増の年間300万台を目標としています。需要拡大と共に価格競争は一段と厳しくなっていますが、台数ベースでは今年度も滑り出し順調です。併せて、DVD需要も旺盛です。
総需要も確実に拡大しており、今上期目標は達成できる見通しです。

――市場はこれからまだまだ伸びそうですね。

奥田 テレビは買い替え需要に支えられた商品です。全世界の年間テレビ需要は推定で約1億3000万台、液晶テレビの2004年度年間世界需要予測は750万台ですので、僅か6%に過ぎません。市場はまだまだこれからです。
国内を例にとりますと、2011年に既存の地上アナログ放送が停波しデジタル放送に切り替わる予定ですので、それ迄に年間1000万台近くの新規需要が生まれる可能性があります。現在、全世界的に薄型テレビの流れがトレンドになっています。地域にフィットした性能と価格ゾーンが合えば爆発的な市場を生み出せると見ています。

――薄型テレビや録再DVDは海外でも好調ですね。

奥田 2003年度は薄型テレビが全世界で約390万台弱(前年比約2倍)、録再DVDは約370万台(前年比約2・7倍)と大きく伸びました。国内外を問わず、デジタルAV商品が世界の潮流となって需要を押し上げています。この2つはブラウン管テレビやVTRからの置き換え商品であり、ここ数年大きく伸び続けるでしょう。それだけに、色々な国、様々な業界からのプレーヤーが増え、予想以上のスピードで商品開発と価格競争が激化しています。

――その中でシャープではクオリティを最大の差別化要素として戦っていこうという戦略でしょうか。

奥田 当社は日本、米国、欧州、アジア、中国など全世界に液晶テレビを販売しています。そしてこれまで、液晶テレビのトップブランドとして、高品位な画質、音、デザイン、薄くて軽いスタイル、環境特性に優れた液晶テレビ作りを基本に、デジタル放送やネットワークなどの新しいインフラにいち早く対応してきました。従ってクオリティは最大の差別化戦略です。しかしながら、海外市場が急速に拡大しており、プラスアルファとして地域性を充分に取り込んだ戦略を展開して参ります。
日本はハイビジョン放送が進んでいます。それだけに画質をはじめクオリティに対しては非常に厳しい見方をされます。しかし、欧米の生活空間、テレビ視聴スタイル、放送環境は日本と異なります。これからは画質一つとっても、単なる高画質ではなく、地域に好まれる画質、恪D画質揩ナあるべきだと思います。
フルスペックハイビジョン放送から全世界のSD放送に至るまで、全ての放送に対して高(好)画質、しかも好音質、好デザイン等、地域特性を吸収するプラットフォーム開発と松竹梅の商品作りを進めていきます。

技術革新と生産革新を
促進する亀山工場の稼動

――シャープの液晶テレビ戦略の中で亀山工場の存在が大きいですね。

奥田 亀山工場は様々な関係者の協力のもと垂直立上げを行い、1月末の立上げから2〜3月までの実質2カ月で約10万6000台を出荷することができました。4月以降も順調に生産を続けています。
7月からは45V型の生産がスタートします。大型テレビ需要が拡大する中、まさに25V型から45V型までの大型液晶テレビを量産できる亀山工場は、液晶テレビの戦略の原動力です。
また、今やお客様より、AQUOS Gシリーズが亀山ブランドとしてご指名を頂くほど、工場がブランドイメージアップにも貢献しています。引き続き、最高で最強の液晶テレビAQUOS創出に全力を尽くしていきます。

――液晶テレビではパネルも含めて自社開発、生産されています。亀山工場の稼動によって、そのメリットがさらに高まっていくことですね。

奥田 45V型の商品化プロジェクトは昨年の夏頃からスタートしました。亀山工場稼動までは実パネルがなく大変苦労しましたので、1月末の亀山工場稼動がなければ、本当に夏に量産に乗せることは難しかったと思います。
大画面になれば目立つ階調間の境目を滑らかにする10ビット階調を新規に採用し、MPEG特有のモスキートノイズを削除するデジタル画像処理エンジンも進化させました。また応答速度、視野角の改善も行いました。これらいずれも、亀山工場に液晶技術とテレビ技術が集結し、融合した総合力の成果です。毎月度、液晶パネルとテレビ部門が戦略ミーティングを行い、次の開発要素と進行状況を確認しています。今後、さらにパネルの技術者と液晶テレビ技術者の協業度合いが高まり、技術や生産の革新が進み、従来のパネルとテレビ回路という境目概念がなくなるのではないでしょうか。

音の良さが注目される
アクオスGシリーズ

――先日発表された45V型が好調のようですね。

奥田 1920×1080のフルハイビジョンテレビ45V型のAQUOS LC―45GD1はオンリーワン商品として発表後大変ご好評をいただいています。全国各地で合展や個展を行っていますが、8月1日の発売前の段階で多くの予約注文をいただいています。
一般的にいって、大画面テレビの場合、大きなインチサイズを発表すると、ワンランク下のサイズの需要が高まります。今回も45V型を発表したことによって、37V型のウエイトが高まっていますが、当初の予想以上に高い比率で45V型の受注を頂いています。それだけお客様が大画面に対して関心をもっておられるということです。
フルスペックハイビジョンで表現できる45GD1では、液晶の弱点と言われてきた応答速度や視野角も大きく改善を図りました。残る課題はコストです。今年は8月にアテネオリンピックがあります。フルスペックハイビジョンの最高の画質を是非視聴していただきたいものです。映像の美しさを堪能できると同時に、ハイビジョン放送が消費者の皆さんにとって一気に身近な存在になることは間違いありません。

――液晶の大型化によってプラズマとの棲み分けが不明確になってきたように思います。この点についてはどう思われますか?

奥田 国、ユーザー、或いは住環境によって、それぞれ求める画面サイズや、液晶・PDPの選択肢も変わりますので、簡単に棲み分けることは難しいと思います。
大画面といえば日本は37インチでしょうが、欧米では42インチクラスが中心でしょう。アメリカンフットボールをもっと大きな画面で楽しみたいという人は50インチや60インチのリアプロを選択することでしょう。
今後の価格次第で棲み分けも変わりますが、大枠は、40V以下は液晶、40V〜50Vは液晶とプラズマが共存し、50インチ超はリアプロ、フロントプロジェクターという形に棲み分けられていくのではないかと見ています。

――快進撃が続くAQUOSですが、商品面での今後の課題は何になりますでしょう。

奥田 薄型テレビは需要拡大と相まって市場価格が急速に下がっています。この傾向は欧米で顕著です。しばらくは売価ダウンが進み、一方で需要が急拡大すると予測しています。
これまで1インチ1万円が普及のための一つの目安価格と言われてきましたが、これからはもっともっとバーを高くして本格普及に向けたコスト取り組みをしていく必要があります。もちろん価格だけではありません。地域特性にマッチし、好まれて評価される画質、デザイン、性能が必要です。多種多様化する要求へのスピーディな対応がより重要となります。
もう一つ重要なことは、AQUOSは常に新しい技術を搭載し、用途を広げる提案をしながら、ブラウン管テレビから薄型テレビへのトレンドを築いてきました。今後は薄型テレビとしての次のオンリーワンとしてのトレンド作りです。これによって新たな差別化をしたいものです。

ハイビジョンにこだわって
AQUOSと周辺機器を開発

――先日、録再DVDを一気に5機種発表されました。AQUOSを取巻く周辺機器についてはいかがでしょうか。

奥田 当社はDVDでもオンリーワンにこだわり、ハイビジョンをそのまま録画、再生できるDVDハイビジョンレコーダーを商品化してきました。今回発表したDV―HRD200は400ギガバイトのハードディスクを搭載した、HRD2/20の上位バージョンです。既にハイビジョンレコーダーは3世代目となりました。
当社ではAQUOSでもいち早く地上・BS・110度CSデジタルチューナーを搭載したモデルを昨年6月に商品化しましたが、AQUOSとハイビジョンレコーダーをセットして、ハイビジョンで見る、録る、楽しむをオンリーワンとして提案しています。
今回はこれに加えて、ボリュームゾーンのHDD付きモデルのDV―HR400/450シリーズを8月より市場導入。そしてHDDとVTRとの3in1モデルのDV―HRW30は既に7月よりデビューしています。DVDには今後力を入れます。テレビコマーシャルも入れ、これら商品を一気に拡売していきます。

――デザイン面では中央の四角い液晶表示部が印象的ですね。

奥田 HR400/450シリーズはデザイン的には薄さと見やすい中央の四角い液晶表示部が特長です。ただし、今のDVDは未だVTRの名残りを色濃くしたデザインを引きずっているように思います。
テレビは薄型になりながら、DVDはVTRのスタイルのまま。アンバランスです。やはり、AQUOSにマッチしたフラットアプライアンスなデザインに変えていきたいという思いを強く持っています。早くそうしたいですね。

――テレビが薄型になりデザインが一新されていく中で、DVDレコーダーでも新しい時代を感じさせるインパクトの高いデザインを打ち出していきたいということですね。

奥田 そうです。私は2001年にブラウン管テレビの事業部長に就任しました。当時はハイビジョンのブラウン管テレビを作っていましたが、いくら顔を変えてもハイビジョン放送を楽しく観るテレビにはならず、余り売れなくて何時やめようかばかり考えていました。そこに大型AQUOSが登場して、テレビのイメージが一新しました。嬉しかったですね。安心して止められました。薄くなって大画面化した液晶テレビは分かりやすいですよ。だからユーザーに口コミで拡がったのではないでしょうか。
DVDでも同じです。オーディオも同じかもしれません。新しい時代を感じさせる、ユーザーに分かりやすく、受け入れやすいデザインが必要です。

オンリーワン商品を核に
市場を盛り上げていく

――シャープのオンリーワン技術には1ビットオーディオもあります。これについてはどのような展開を考えられていますか。

奥田 1ビットはオンリーワンの要素技術です。オーディオ商品の1カテゴリーとして進化させると同時に、AQUOSを中心に1ビットを組み込んで、1ビットのユーザーファンを増やしていきたいと考えています。
AQUOS Gシリーズをお買い上げいただいたお客様から、購入前に比べて一番評価が上がったポイントは1ビットの音でした。地上デジタル放送が始まり、5・1chの放送が増え、テレビを楽しむ上で音は重要な要素になりつつあるのではないでしょうか。
その他、DVDプレーヤーと融合したHXシリーズ、PXシリーズは1ビットパネルシアターとして商品化しています。今後もこうした展開を進めていきます。

――AQUOSの中心としたシアター商品の展開についてはいかがでしょうか。

奥田 AQUOSを中心に1ビットAQUOSシアターを手掛けていきます。システム型とオールインワン型が考えられますが、結線の煩わしさやインテリア疎外感を無くすことが重要です。また将来は一つのリモコンで簡単に操作できるものにしたいですね。
シアターとして重要なことはデザインです。DVDオーディオ部分はお客様の用途に合わせて自在な方向にセッティングできるなど、AQUOSと調和がとれたフラット感あるものにしたいですね。

――液晶AQUOSを中心としたシャープのこれからの展開を聞かせてください。

奥田 液晶AQUOSは、45V型の液晶テレビを核にして豊富なラインナップをベースにブランドイメージアップを全世界的に展開します。
特に欧米を中心に価格ダウンのスピードが加速化しています。2006年が薄型テレビ市場の一つのターニングポイントになると予測されていますが、要素技術開発とプラットフォームの世代交代のスピードアップ、ボリュームゾーンの海外生産の拡大を図り、コストダウンを進めながら同時に液晶テレビトップブランドとしてのオンリーワン商品作りとを進め、今年度も年間販売倍増を目指します。
またAQUOSを中心にAQUOSにフィットするハイビジョンレコーダーやデジタルオーディオシステムをはじめとする周辺機器を開発し、便利で面白く、スマートでSOMTHING NEWな、AQUOSのような『トレンド』を作る商品作りを展開していきます。

◆PROFILE◆

Takashi Okuda

1953年8月19日奈良県生まれ。名古屋工業大学大学院修士課程 工学研究科卒業。1978年4月シャープ株式会社入社。1996年4月国際資材本部国際資材部長。1997年11月シャープ・エレクトロニクス マレーシア取締役国際購買本部長兼シンガポール支店長。2000年12月シャープ株式会社AVシステム事業本部資材 品質統括。2001年6月AVシステム事業本部映像機器事業部長。2002年4月AVシステム事業副本部長兼映像機器事業部長。2003年5月AVシステム事業本部長。2003年6月取締役AVシステム事業本部長。現在に至る。趣味は音楽鑑賞。