トップインタビュー

ソニーマーケティング
執行役員専務

竹内寿一 氏
Juichi Takeuchi

 

市場への迅速な対応と
アテネ五輪効果で
売上2桁アップを目指す



強力な商品の投入と意欲的な営業活動の展開によって、薄型テレビやDVDレコーダー市場で一気に存在感を高めたソニー。ソニー商品の国内販売を担当するソニーマーケティングでは、宮下体制2年目を迎えた4月、さらなる成長を目指して大幅な組織の改革を実施した。4月1日付けで同社の執行役員専務に昇任し、販売活動の指揮を執る竹内寿一氏に新組織の考え方と今年度の見通しを聞いた。

インタビュー ● 音元出版社長 和田光征

お客様に対する親切な対応、
最新の商品の展示、そして
独自のサービスが繁盛店の条件です。

新たな組織とシステムで
市場の要求に迅速に対応

―― 4月1日から新しい組織をスタートされました。まずその狙いから聞かせてください。

竹内 今回の組織改革の最大の狙いは迅速に市場に対応できるような体制を確立することです。 昨年は、営業組織を大幅に集約・再編して、12営業本部23支店体制としました。しかしながら、非常に速いスピードで変化する市場に対応するには、まだ不十分でした。3月までは6つの地域別の営業本部と6つの量販営業本部がありましたが、今回の新しい組織ではこれを7つのエリア担当の営業本部と1つの量販営業本部に改編しました。全国規模で広域に店舗展開され、首都圏に本部を持たれている法人さんは、量販営業本部が担当します。 比較的限られたエリアで店舗展開をされている法人さんは、それぞれのエリアの営業本部が担当するようにしました。これは、店舗展開規模やエリアの実情に合わせて、きめ細かく素早い対応を行うことを狙っています。 各エリアの営業本部の中には、営業推進を目的とした営業部を新設しました。量販店さんから地域店さんまで各法人さんごとに個別の戦略立案から販促提案までさらにきめ細かい対応をとれるような営業体制にしました。

――マーケティング本部の体制についてはいかがでしょうか。

竹内 営業体制に加えてマーケティング体制も大幅に刷新しました。従来は、11のマーケティング部がありましたが、AV商品とIT商品のマーケティング機能を統合して、3つのネットワークプロダクツマーケティング部と3つの専門マーケティング部に再編しました。 これは、シンプルなマネージメント体制を敷いて、マーケットの変化に対して、迅速な判断を行えるようにしたものですが、あわせて、専門性の強化とともに商品カテゴリー間のシナジー効果を高めていくことを狙っています。

――ハイスピードで変化している家電流通マーケットに対して、宮下体制をさらに進化させたということですね。

竹内 マーケットの変化に対応するには、営業組織やマーケティング体制の変革だけでなく、ワークスタイルそのものを変えていかなければいけません。ソニーマーケティングでは、「CLOVER」という新しいDCM(Demand Chain Management)システムが稼動し始めました。これはご商談の進め方から始まり、その後の受注から物流、請求にいたるまでのオペレーションの仕組みを全面的に刷新するものです。これによって、販売店さんとソニーの双方の生産性向上とコスト削減に寄与するものと思います。

量販店対応力を高める一方で
ショップへの支援体制も充実

――量販店の大規模化が進む一方で、生き残りをかけた量販店同士の合従連衡も急速に進んでいます。これについてはどのように見られていますか。

竹内 家電量販店業界では様々な形での合従連衡が進んでいますが、今後もこの流れが続いていくと思います。家電流通業界は変化のスピードが非常に激しい世界です。 ここ数年の間だけでも、かつて家電量販業界で大きなシェアを持っていた法人さんが消えていきました。理由はいろいろありますが、この業界の競争の厳しさをあらわしていると思います。

――ソニー商品の流通チャネルには、量販店と並んでソニーショップもあります。この部分へのサポート体制についてはどのように考えられていますか。

竹内 ショップさんの販売構成比率は以前に比べて落ちてはいますが、ショップさんを売上構成比率だけで語るわけにはいきません。ソニー専門店としてやってきていただいたご努力や実績に敬意を払っていますし、今後もソニーと一緒に発展してもらいたいと思っています。当社ではショップさんをサポートするために、支店の中にショップさん担当を置いています。合同展示会の開催や創業祭での販促のご提案、「e―ソニーショップ」の展開による新しい販売への取り組みなどさまざまな支援策もとっています。

――量販店の店頭売価が地域店の仕入れ値と同じか、むしろ安いというケースもありますが。

竹内 量販店と地域店との価格差の件については、いつも話題にのぼるところです。販売価格は、各法人さんがそれぞれの経営判断の中で決定されていることですから、当社が軽々しく口を出すことはできません。ソニーとしては公明正大な取引を心がけているつもりです。

新しい魅力的な商品に
いかに目を向けていただくか?

――高齢化社会が進展していく中で、地域店の商売のあり方をどのように見られていますか。

竹内 若い人はフットワークがいいし、新製品情報も自分自身でパソコンや雑誌など様々なメディアから集めます。彼らにとって電気屋さんは、最終段階での購入の場と割り切っているのかもしれません。 これに対して、フットワークや情報収集の面で限度がある高齢者にとってはそうではありません。しかもこの世帯の人たちは子供の教育にお金がかからなくなっていることもあって、資金的にもある程度の余裕をもたれています。豪華なレストランで食事をされたり、海外旅行を積極的に楽しむなど自分の生活を満喫されています。このような方々にとって、家の中での最大のエンターテイメントであるテレビを大画面で楽しめる液晶やプラズマは大きな魅力のはずです。 例えば相撲の好きな人にとっては、デジタルハイビジョンの映像は、国技館の砂被りで見ているような気にさせてくれます。それが年間6場所、90日もあります。そういういうことを町の電気屋さんが情報としてお客様に教えてあげればいいわけです。

――要は自店の商圏のお客様をいかに囲い込んでいくかですね。

竹内 これは地域店に限らない問題ですが、大切なことは自店の商圏のお客様に対してのストアロイヤリティをいかに高めていくかです。 売れている販売店さんでは、様々な努力をされて、お客様を呼び込まれています。たとえば、液晶テレビやプラズマテレビの画像を実際に見ていただくと、多くのお客様が、その薄さと画面の美しさに必ず驚かれます。壊れたテレビの買い替えを勧めるのではなくて、新しい魅力的なテレビをいかにしてアピールしていくのかという知恵が必要です。

――量販店では店舗のスクラッ&ビルドが頻繁です。この点でも地域店ならではの強みを発揮することができるのではないでしょうか。

竹内 地元に根ざした地域店は、長く同じ商圏で商売をしています。一方、競争の激しい量販店では、確かにスクラップ&ビルドがあります。
たとえば、量販店が撤退した後に、以前そのお店で商品を買われたお客様がお持ちの商品のメンテナンスをどうするかという問題が出てきます。その意味で地域店には街の電気のお医者様としての役割も担っています。

――量販店と共存していくうえで、ショップに求められることはどういうことでしょうか。

竹内 ショップが繁栄するための条件のひとつに、お客様に対して親切な応対をできるかどうかということがあります。商品説明から配送、設置はもちろんですが、VAIOなどネットワーク商品については、接続環境の構築や設定、ソフトなども絡めたご提案にいたるまで、お客様の望まれるようにできないと、量販店には勝てません。 店頭に最新の商品が展示されていることも大切です。お客様がテレビを探しにお来店された時に、目当てのテレビが展示されていないようでは話になりません。3つ目は、お店独自のサービスが提供できることです。そういうノウハウを持っているお店が地域で支持されています。

アテネ五輪をきっかけに
堰を切ったように需要が爆発

――市場で人気の大画面テレビは、単体で販売されているケースがほとんどです。オーディオなどを含めた付加価値販売が必要だと思いますが。

竹内 大画面テレビが売れたことだけで喜ぶのではなく、ホームシアターと組み合わせて臨場感を出したり、DVDレコーダーの「スゴ録」などで番組を録画するという提案をすることが大切です。それによってお客様の楽しみがさらに広がるからです。画面サイズでもそうです。当社の液晶テレビでは、今度42V型が出ました。お店の人の中には、42V型を見せると価格が高いといってお客様が躊躇するのではないかということで、一回り小さな32V型を薦めようとする方もいます。でも42V型をすすめないと、お客様はなぜこんないいものを薦めてくれなかったのと後で怒る方もいるそうです。その場限りの売り易さや手離れの良さだけを考えた売り方では、最終的にお客様からの信頼を得ることはできません。特に高額商品である薄型大画面テレビをお買いになるお客様に対しては、その魅力を最大限引き出せるような提案をすることが求められます。

――今期の見通しはいかがでしょうか。

竹内 総じていうと、AV・ITを含めて非常に好調です。あとは夏のオリンピック商戦をばねにして、当社の国内売上は前年比2桁アップを見込んでいます。

――3月決算では好決算の会社が多く見られます。雇用環境もよくなってきています。そこにオリンピックが開催されます。これからが楽しみですね。

竹内 様々な明るい要素が出てきています。今までも実はみんなお金がなかったわけではありません。先行きの不透明さから、消費に回さずにタンス預金になっていただけのことです。ただお金を使わないで何年も我慢してきましたので、そろそろ我慢しきれなくなってきているのではないでしょうか。オリンピックをきっかけに堰を切ったように消費が動き出す可能性があります。
ソニーに限らず、全メーカーともにオリンピックということで、広告や販促活動でテレビやDVDレコーダーを中心にマーケットをどんどん盛り上げていきます。アテネオリンピックでは陸上、野球、柔道など多くの種目で日本選手の活躍が期待されます。またアテネと日本との時差の関係で、ビデオデッキのDVD録画機への買い替え需要が高まることは間違いありません。アテネオリンピックは本当に楽しみです。
アテネで盛り上がった後は、年末商戦に向けたいろいろな商品が出てきます。ソニーにとってだけでなく、04年度はAVとパソコン業界全体にとって非常にいい年になると思います。

 

◆PROFILE◆

Juichi Takeuchi

1944年8月4日生まれ。1970年11月ソニー商事鞄社。73年ソニーインターナショナルハウスウエアーズ梶A76年3月ソニー商事梶B79年11月ソニーマグネテープセールス梶A89年7月 取締役に就任、91年10月常務取締役に就任、93年10月ソニーネットワーク販売且謦役東京第1営業本部本部長、97年4月ソニーマーケティング鞄結梠2支社支社長、99年4月 執行役員に就任、00年4月 関西支社支社長、01年4月執行役員常務に就任、コンスーマーAVビジネスセクターVP、02年4月コンスーマーセールス担当に就任、現在に至る。03年11月取締役に就任、現在に至る。04年4月執行役員専務に昇任、現在に至る。