トップインタビュー

エプソン販売
常務取締役
コンシューマ事業部長

清水久司 氏
Hisashi Shimizu

 

アテネ五輪で大きく飛躍
生活シーンとの連携高め
市場拡大のスピード加速

価格競争も激しくなる中で、今は、
いかに手間隙をかけて利益をとるか
その工夫をすべき時だと思います。



液晶プロジェクター「ドリーミオ」を投入してホーム市場に本格参戦。拡大するカジュアルスクリーン市場を大いに盛り上げるエプソン。20万台、30万台市場も時間の問題と、課題の売り場づくりを含め、フルパワーの展開を見せる。4月1日の組織変更で、常務取締役 コンシューマ事業部長に就任し、同社コンシューマー市場の指揮を執る清水久司氏に、2004年度の意気込みを聞いた。

インタビュー ● 音元出版社長 和田光征

コンシューマー事業の
3本柱をさらに強力にする

―― 4月1日付けで組織変更を行われました。その狙いからまず、お聞かせいただけますか。

清水 エプソン販売ではこれまで、営業は営業本部、商品企画からプロモーションまではマーケット本部という形で色分けしていました。それを、コンシューマ事業とビジネス事業という、2つの事業に大きくくくった上で、それぞれの事業部の下に営業本部をはじめとする各組織を位置付けました。会社トータルでの商品開発、市場開発により利益を出していこうというのが、今回の組織変更の一番のポイントになります。

――清水常務が事業部長をつとめるコンシューマ事業では、昨年は「ドリーミオ」という強力な市場創造型の商品も加わりましたが、どのような商品構成になりますか。

清水 3つの柱があります。メインとなるのが、ワールドワイドで強さを発揮しているインクジェットプリンター「カラリオ」です。その周辺商品として、スキャナーや、最近話題を集めているデジタルカメラなどがあります。当然ながらプリンターですから、インクをはじめとする消耗品も欠かせない商品となります。
2番目が映像の世界。ホームプロジェクターの「ドリーミオ」です。ホームプロジェクターの世界の中で、ひいては映像の世界の中で、怎Gプソン揩ニいうブランドイメージをどれだけつくりあげていけるかが、ここでの大きなポイントになると認識しています。
そして3番目の柱として、ビジネス周りの商品があげられます。販売チャネルの構成比が、ここに来てぐっと変化してきています。ここ2、3年の間で、レーザープリンターやビジネスプロジェクターなどのビジネス用途の商品の価格が下がり始めたことで、カメラ量販店や家電量販店での販売構成比が急激に高まっています。新製品のA3タイプのカラーレーザープリンターLP―9000C/7000Cシリーズでは、2、3月の販売実績で、約3割がコンシューマーのチャネルで購入されています。そうした市場の流れに合わせて、強化していきたいと考えています。

「カラリオ」には市場創造へ
向けた戦略商品を投入

――3つの柱について、もう少し詳細にお伺いしていきたいと思います。まず、カラリオでは、先日新商品の発表もありました。

清水 3月に発表した新商品は、コンパクトな怎Jラリオミー揩d―100と、ビデオデッキスタイルのPM―D1000の2つ。何れも、新しい市場を創っていくことを強く意識した戦略商品になります。
カラリオミーE―100は、社内の女性を集めた商品プロジェクトのもと、20代・30代の主婦やヤングママをターゲットにして、デザインから機能に至るまでの商品企画を行いました。家事をしながら気楽にプリントアウトしたり、若い女性の方がケータイからプリントアウトしたりといった、新しい使用スタイルを提案していきます。取っ手がついて持ち運びも簡単で、プリンター需要の裾野をもっと広げていけると考えています。
一方のPM―D1000ですが、エプソンでは従来、プリンターをパソコンにつながる世界の中で展開してきましたが、一昨年くらいから、PCレスを謳いはじめています。PM―D1000は、本格的にテレビにつなげていく商品になります。ビデオデッキのように、テレビの下にあるラックの中に入れて、デジタルカメラで撮った写真をテレビに映して家族みんなでワイワイ騒ぎながら、その中からお気に入りのものをプリントアウトする。プリンターを家庭にあるテレビとどんどん融合させて、今までの、パソコンの横というイメージに加え、家庭の茶の間に置いておくものというイメージを定着させていきたいと思います。

――これはお客様にとっても魅力的な世界ですね。店頭がどれだけ柔軟に対応できるかですね。

清水 PM―D1000では、テレビ売り場にいかに陣取ることができるかが勝負になりますが、お店に対して、かなり説明していかなければならないと思います。プリンター売り場に置かれても、何のイメージも沸いてこない商品ですから、是非、プラズマや液晶テレビの売り場にまず置かせていただいて、その上で実際に実演をし、お客様によさをわかっていただきたいと思います。
一方のE―100も同様に、携帯電話やデジカメ売り場での展示・実演、また、若年層中心の商品ですから、我々がまだ本格的に対応していないチャネル、例えば、ショッピングモールの中のスーパーやデパートなどでもアピールしていきたいと考えています。新しい販路を開拓していく商品にしたいですね。

――訴求の仕方いかんで、かなり大きな市場性のある商品だと思います。例えば、今のテレビ売り場ひとつ見ても、テレビラックの中は、空っぽだったりカタログが入れてあったりと、有効に活用されていませんからね。

清水 E―100のような商品がもっと価格が下がってくれば、携帯電話1台にひとつあってもいい商品だと思います。友達でファミリーで、デジタルフォトライフをもっと楽しめる提案に、さらに力を入れていきたいですね。

今後の成長が見込まれる
SOHOマーケット

――続いて、3番目にあげられたビジネス商品についてお聞かせください。

清水 国内でも5年くらい前からSOHO市場が注目されていますが、最近はその市場の広がりを特に実感しています。サーバーも5万円を切る商品が発売され、個人のビジネスや、数名規模の会社の間に広がっています。この点は、パソコンメーカー各社も強く感じていらっしゃるのではないかと思います。
エプソンでも、それらの層が購入できる10万円台前半のプライスゾーンにA3のカラーレーザープリンターを発売しました。すると、この3月にはひとつきで1万台というこれまでにない販売台数を記録しました。しかも、その内の3割が、先ほど申し上げたように量販店さんで売れています。レーザーが売れれば、トナーも売れる。販売店にとっても、ソリューション型の利益のあげられるビジネスになっていると思います。
ところが、販売店店頭を周ってみると、レーザープリンターにしてもビジネスプロジェクターにしても、商品は置いてあるけれども、「あれっ」というくらい隅っこに追いやられています。これだけ伸びているのですから、「どういう使い方をされますか」といった用途提案のところから、販売店と一緒になって強化し、さらなる市場の活性化を図っていきたいと思います。
これからは、対象商品もレーザープリンターやビジネスプロジェクターに止まらず、サーバーまで含め、SOHOのコーナーをきちんとつくり、展開することが、量販店における、成長のひとつのキーワードになると思います。それに対する販売員の技術レベルのアップももちろん必要です。エプソンでは売り場づくりを含め、このテーマにおける店頭強化のお手伝いをしていきたいと思います。

生活シーンと連動した
体験型売り場が必要

――さて、2番目にあげられたプロジェクターですが、御社「ドリーミオ」の本格参入もあり、完全に市場が立ち上がってきました。勢いが感じられますね。

清水 エントリー層向けに投入したEMP―TW10では、実際に20代・30代の会社員の方を購買層のピークに、これはもっと広がっていくぞという確かな手応えを実感しています。ホーム用のプロジェクターは、昨年は約4万5000台、対前年比で130〜140%と推測していますが、20万台、30万台という世界に入ってくるのも、時間の問題ではないかと思います。
一部に、大型の液晶テレビをライバル視される見方もあるようですが、私は完全に済み分けができると思います。プラズマや液晶テレビは日常的な世界で、ニュースを見たりすることもありますが、プロジェクターは一種独特な雰囲気がある、非日常の世界の商品です。価格も、10万円を切る形で提供できるようになれば、さらに輪をかけて、週末や休みを利用して家族や個人でプロジェクター&スクリーンの映像を楽しむ世界がどんどん広がっていくと思います。

――市場が拡大していく過程において、特にこれから需要を膨らませていく上で期待される大型量販店を中心に、売り場づくりにはまだまだ課題が少なくなく、合格点は与えられないですね。

清水 プロジェクターといっても、マニア向けの商品からエントリー層向けのものまであります。例えば、EMP―TW10というのは、一般の方に気楽に使ってもらいたいと考え企画した商品です。ですから、部屋を真っ暗にしなくても見ていただけるように、輝度が1000lmあります。一般のご家庭では、なかなか真っ暗にはできないし、小さなお子さんがいると、危険なこともあるわけです。それで、少し薄明かりでも見ていただけるように明るくしました。
ところが店頭では、どのプロジェクターも同じ場所で投射しています。それでは、TW10の意図したところをお客様にまったく伝えることができません。そうした細かな点を、今年は店頭できちんと提案していけるようにしたいと思います。
EMP―TW500にしても、こちらは逆に、ホームシアターシステムときちんと組み合わせて音とトータルで提案していただきたい商品ですが、そこがまたしっかりとできていないケースが少なくないですね。さらに中間層の商品ともなると扱いがごちゃごちゃで、しかも、ビジネスプロジェクターまでごちゃまぜになっている売り場も少なくありません。

――体験型の商品ですし、しかも、ただ体験させるだけでなく、自分の生活シーンとの連動性がなくてはなりませんね。

清水 是非、生活シーンに合わせた形で展示、提案をしていただきたいと思います。また、そうしたハードの売り場があるにも関わらず、ソフト売り場との連携がほとんどとれていないのではないでしょうか。まったく別の売り場になっており、とてももったいないと思います。

――よく指摘されることですが、商品の仕入れと売り場とがバラバラなんですね。これだけ商品が複合的になっているのに、流通の現場だけがいつになっても変わらないというのは、おかしな話だと思います。

アテネ五輪商戦は
需要拡大の絶好機

――薄型大画面テレビでは昨年、ひとつの課題として、ホームシアターシステムが予想外に低迷しました。テレビの代替商品化していく中で、店頭では、付加価値として、音の部分まできちんと提案することができなかったのがその理由のひとつだと思います。
しかし一方では、ボーズの3・2・1に代表される、背面にスピーカーを配置したり、スピーカーコードをはいずりまわすことのないフロントサラウンドシステムが注目を集めています。これからの商品提案や店頭でのアピールの仕方が大いに問われてくると思いますね。
これまでのホームシアターシステムは、何れも薄型大画面テレビの成長を見込んで提案されたものでしたから、今後は、市場の膨らむカジュアルスクリーンとの組み合わせを考えた商品の展開も期待できるのではないかと思い、楽しみにしています。

清水 手間隙かけないで売れる商品というのは、どこも条件は同じですから、その分、価格競争も激しくなり、絶対に儲からない仕組みになっています。今は、いかに手間隙をかけて利益をとるか、その工夫をすべき時だと思います。
今年はアテネオリンピックも開催されます。サッカーをはじめ、スポーツは大画面で見ると迫力がありますからね。プロジェクター&スクリーンの映像やサラウンドシステムを含めた世界を体験していただくまたとないチャンスとなります。一層力を入れて、市場創造を実現していきたいと思います。

 

◆PROFILE◆

Hisashi Shimizu

1952年6月6日生まれ。1977年早稲田大学工業経営学科卒業。85年エプソン入社。00年4月コンシューマ営業本部長、00年6月取締役、02年4月販売推進本部長、03年4月マーケティング本部長、04年4月常務取締役コンシューマ事業部長就任、現在に至る。趣味はゴルフ。