トップインタビュー

ソニー(株)
業務執行役員

ホームネットワークカンパニー
ホームオーディオカンパニー
プレジデント

山本喜則 氏
Yoshinori Yamamoto

 

もっといい音で聞けば
大きなディスプレイは
さらに素晴らしくなる



横浜という新しい場所で再スタートを切った新生「A&Vフェスタ」。お客様に立脚した発想と、“A&Vフェスタならでは”というショウの体験要素を明確に打ち出し、市場の信頼を完全に取り戻した。2年目を迎える今年は、ホームシアターやカーオーディオの提案を強化。入場料も無料とし、さらに幅広い層へのメッセージ発信が期待される。同フェスタの実行委員長をつとめるソニー・山本喜則プレジデントに抱負を聞く。

インタビュー ● 音元出版社長 和田光征

将来的には住宅メーカーとも協力し
“家”という空間が、映像と音により
いかに楽しくなるかを伝えていきたい

入場無料化でさらに多くの
お客様へ情報発信できる

―― 昨年、横浜を舞台に一新して開催されたA&Vフェスタが多くの来場者を集め、成功を収めました。今年は、山本さんが実行委員長にご就任されました。

山本 昨年の開催は1年休みを入れたことで、コンセプトを見直し、皆で議論できたというよい面がありました。反面、各社の出展に際し、これまで毎回出ていたところでも出展するかしないかから再検討するところもあるなど、当初は、かなり厳しいスタートになりました。
しかし、普段、販売店で見られるような次元のものではなく、A&Vフェスタに来て、初めて見られるようなものを多くしようという、ショウのコンセプトは明確に打つ出すことができました。参加見直しを図ると言いつつも、各社からは非常に大きな期待をいただき、やはり、旧態依然とした従来のやり方ではいけないという我々の危惧を、どこも認識いただいていたわけです。その結果として、予想以上に多くのところに出展していただくことができました。
手放しで大成功と喜べるかどうかはともかく、お客様のアンケートを見ても、我々が期待していた以上の盛り上がりになりました。新生A&Vフェスタ2年目となる今年、気を緩めることなく、しっかり取り組んでいきたいと思います。

―― ユーザーの心を完全に取り戻した感じがします。今年は入場料も無料化されるとのことで、首都圏の高校や大学へも積極的に情報発信し、学校として来てもらうようなこともあっていいですね。

山本 本当にひとりでも多くの人に足を運んでもらいたいというのは、出展するメーカーのどこもが強く思うことです。例えば、カップルがいて、彼は行きたいのだけれど、彼女は乗り気でない。もし、これが有料なら、2人分の入場料を払ってまで来場するケースはほとんどないと思います。そういう意味からも、無料化したことで、カップルや家族でもっと来てもらえるようになると思います。ショウの主旨は、できるだけ多くのお客様に来ていただくこと。そこで、興味を抱いていただき、実際の収入は、商品をご購入いただいて賄うというのが、本来の考え方ではないでしょうか。

―― チケットの制作コストや会場での販売費用まで考えると、有料化してもそれほど大きな収益になるとは言えないのではないでしょうか。

山本 おっしゃる通りなんです。ゼロということはないですが、トータルで見れば、収入面の貢献はさほど大きくない。入場料収入でフェアの費用を賄うというよりも、できるだけ大勢の人に来てもらうことの方が大事なんです。ああいう場所へはひとりで行っても面白くない。好きな人が友達を連れていって、それでその友達が「あぁ面白い」と思っていただければいい。そういう効果が非常に大きいと思います。奥様がサイフのひもを握っているケースも多いわけですから、こういう場に家族で来て、奥様に実際に体験してもらえるならば、それこそ実売への効果は計り知れないと思います。

―― 会場も広くなりますね。

山本 無料化による来場者増も予想して、1年目の7000uから1万uに拡大します。「視聴室をもっと増やしてほしい」という要望が、出展社や来場者のアンケートからもありましたので、1年目の7室を12室に増やします。さらに希望が多いようなら、17室まで増やすことが可能です。

今年のフェスタはホーム
シアターを強く打ち出す

―― 今年は9月開催ですから、発売前の新商品をいち早く会場で体験できますね。専門誌や雑誌、インターネットで情報を収集し、A&Vフェスタの会場で実際に目にして体験し、そして、販売店でお求めになる。ひとつの流れができますね。遊離していたフェアが、再び有機的に連動するようになりはじめました。

山本 出展各社にお願いしたいのは、A&Vフェスタでないと見ることができない、A&Vフェスタ向けのコンセプトモデルを用意して欲しいことです。「こんなものが出て来るのか」「こういう技術があるのか」という驚きや感動を多くの人に感じていただきたいと思います。

―― 昨年末から地上デジタル放送が開始され、開催直前の8月にはアテネオリンピックもある。オーディオでもSACDなどのマルチチャンネルが確実に定着しはじめてきています。

山本 今回は特にホームシアターを前面に打ち出していきたいと思います。昨年もホームシアターコーナーを設けました。そんなに広いスペースではなかったにもかかわらず、たくさんの人が集まり、大好評でした。
日本のホームシアターは、海外に比べるとまだまだ市場が小さいですね。欧米では国民性なのか、映画の好きな人が大変多い。日本は逆に、映画人口がどんどん減り続けていたのですが、先日、2003年の日本の映画興行収入が過去最高の2032億円を記録したというニュースが取り上げられていました。シネコンなどで、映画館や映画を見にくる人の数も増えています。ホームシアターを盛り上げていく上でも、大きなチャンスが巡ってきていると思います。

―― 昨年の来場者アンケートの結果でも、「見たいと決めてきた機器」「ご覧になった中で最も印象に残った機器」として、プラズマや液晶テレビ、DVDレコーダーを抑え、ホームシアターがトップにあげられていますね。

山本 そのホームシアター市場が今、踊り場にあると言われています。大型のフラットディスプレイがあれだけ大きく伸びたのに、それに連れて成長すると考えられていたのが、もうひとつ伸びが足らない。確かに、両者は関連性の高い商品ですが、フラットディスプレイは高額ですから、一遍にはホームシアターシステムの購入にまで結びついていないのだと思います。つまり、購入に時間差がある。ですから、慌てずに準備を整え、きちんと提案していく姿勢が大切です。大きな画面にはよい音が欠かせないことを、A&Vフェスタに代表されるショウの場において、きちんとアピールし、体験していただくことが、これからの市場拡大には欠かせないと思います。
大画面で映画を見る素晴らしさは、説明するまでもなく、誰もが想像がつきます。ところが、それをいい音で聞くと、もっと素晴らしくなる。これは知らない人の方が圧倒的に多い。映画館ではそれを知らず知らずのうちに体験していますが、映画館のスピーカーの存在は一般の人には分かりにくいですからね。

ホームシアター空間が
オーディオを復活させる

―― DVDレコーダーが大きく伸長しています。ここで私は、録画・保存をするDVDメディアにおいて、データ用メディアの延長線上の発想ではなく、大事な記録を残すものだからこそ、「高画質・高音質」という別の山を創るべきであると提案しました。

山本 DVDの中にはいい音といい映像が入っています。それを取り出すことができるかどうかですね。最近のテレビ放送では、コマーシャルを含め、マルチチャンネルの放送が随分増えていますが、かなり臨場感がありますよね。

―― そういう空間ができれば、映像だけでなく、それは必ず音楽を聞く空間へと変わっていくと思います。

山本 市場でも大きく期待されているスーパーオーディオCDでは、音がいいことだけではなく、マルチチャンネルであることが最大の特徴のひとつです。ホームシアターを楽しむ環境があれば、特別な出費をせず、音楽も楽しむことができるわけです。ピュアな音楽を気持ちよく楽しむ、そうした音楽の楽しみ方もこれからは復活していくと思いますね。

―― そうしたストーリーを明確に描いて、多くの人に伝えたいですね。

山本 A&Vフェスタでもうひとつ強化を図りたいのがカーオーディオなんです。昨年も非常に高い関心を集めました。3日間で25万人も集めてしまう「オートサロン」という車関係のショウがあり、車の外装や内装、オーディオなどが、今大変注目されています。車という狭い空間ですが、こうしたブームは、家という空間にも置き換え、家の中でホームシアターやオーディオをやろうという動きにも必ず結びついてくると思います。
また、米国では「CEDIA EXPO」というショウが非常に盛んです。ホームオートメーションなど、家まるごとという部分がひとつの特徴です。A&Vフェスタにも、将来的にはCEDIAのような要素を盛り込み、こんな楽しい家になりますというところまでアピールできるようになればと考えています。

―― ホームシアターを備えた住宅展示場も最近では見られますし、住宅メーカーにも参加していただきたいですね。

山本 メーカーの音響試聴実験用の視聴室のようなものをつくってもしようがないですからね。こんな部屋で楽しめますというライフスタイルが提案できなければ意味がない。かつての全盛期のオーディオがそうでしたが、人に自慢できるようなものができてはじめて、市場は盛り上がっていくのだと思います。

―― インターネットでの情報発信も、「来場したい」と気持ちを動かせるくらいにもっと工夫できると面白いですね。

山本 駅から徒歩15分かかるアクセスの問題も指摘されていましたが、この点は、みなとみらい線の開通で、駅から徒歩3分と各段と便利になりました。

アンプのデジタル化で
オーディオも波に乗る

―― オーディオに対する御社の取り組みはいかがですか。

山本 日本の景気回復の担い手としても、現在デジタル家電が大きく期待されています。その中心にあるのがホームシアター関連で、オーディオも取り残されてしまうのでなく、一緒に売れていくと考えています。技術面では、オーディオの最後に残ったアナログ技術と言われていたアンプが、ここに来てデジタル化の軌道に完全に乗りつつあります。小型で大パワー、デザイン面での自由度も高まります。しかも、省エネ、ヒートシンクやファンがなくて済む材料削減という環境への貢献を実現できます。
ソニーでも、「S-master」という独自のフルデジタルアンプ技術で、音をよくしようと貪欲にチャレンジしていますが、市場でもその信頼性と高音質化に高い評価をいただいています。アナログアンプを追い越せとまでは言わないまでも、TA―DR1では、それがどこまで近づいたかを世に問いました。何十年もやっているものではありませんので、これからはさらによくなります。
ヘッドホンやテレビなど、アンプは色々なものに入っています。それらをすべてデジタル化していくことで、商品展開にも色々なバリエーションが生まれてきます。ですから、オーディオのデジタル化は、今回のデジタル家電の波に乗ってさらに拡大していけると確信しています。

―― セットステレオの分野でもDVD搭載が進んでいます。先ほどもお話にあったマルチチャンネルの環境が浸透していく過程で、若い人へのよい音のアピールや、かつてオーディオをやっていた団塊層の取り込みなど、重要な役割を担っていると思いますが、御社のListenが大変高い評価を獲得しているようですね。

山本 恆蜷lのために生まれた音揩ニ銘打ち、これまでのセットステレオ商品とは一線を画しました。S-masterを活かしたデザイン、DVDやスーパーオーディオCDのマルチチャンネル再生に対応するなど、単に音楽や映像を聞く、見るだけでなく、その奥にある、ピュアオーディオやマルチチャンネルの世界へ関心を抱いていただける商品です。また、そうした世界にすでに関心をお持ちの方が、十分に納得いただける品質を備えたのがこのListenの大きな特徴です。

―― この春からは、エニーミュージックという新しい取り組みも始まります。

山本 ブロードバンドにつながった対応のオーディオ機器に、直接音楽をダウンロードすることができるというもので、これまでの音楽配信に必要だったPCが不要となります。FM放送を聞いていて、「いい曲だなあ」と思ったものを購入できるなど、サービス面も充実していきます。ダウンロードした音楽は、ポータブル機器に転送して外出するときに外で聞いたり、また、家の中でもホームサーバーのようにして、リビング、自分の部屋、さらにはトイレの中など、家中で楽しめる。新しいミュージックスタイルを提供するものとして、是非、期待していただきたいですね。

―― 今年は業界のさらなる飛躍が期待されますね。

山本 企業として競争していく部分はもちろん、それと同時に、手をつないでやらなければならないところもある。A&Vフェスタについては、改めてメーカーの事業責任クラスが集まり直すことができたことが、成功への大きな要因のひとつになりました。お客様満足という目標にきちんと焦点を当てて、2004年も、市場を大いに盛り上げていきたいと思います。

 

◆PROFILE◆

Yoshinori Yamamoto

1949年5月14日生まれ。神奈川県出身。73年ソニー潟Xテレオ事業部入社以来、テープレコーダー、カセットデッキ、DATフォーマット立ち上げ、システムステレオなどホームオーディオビジネスを一貫して歩み、99年HNCホームオーディオカンパニープレジデント、03年業務執行役員。現在に至る。趣味はオーディオ鑑賞、コンサート観劇、ゴルフ。