トップインタビュー

ボーズ
代表取締役社長

佐倉住嘉 氏
Sumiyoshi Sakura

店頭での見せ方に語り方
いま求められているのは
売る為のマーケティング



ホームシアターシステムのビジネスが、ステージアップへ向けたひとつの曲がり角を迎えている。ボーズ・佐倉社長は、商品の持つ付加価値を店頭できちんとアピールすることができる、「売るためのマーケティング」の重要性を唱える。3・2・1の息の長いヒットは果たして市場に何を訴えかけているのか。益々多様化していくユーザーニーズに対し、同社の原点とも言えるスピーカーシステムを軸に据え、お客様のハートを的確に狙い撃つ同社の戦略に迫る。

インタビュー ● 音元出版Senka21編集長 新保欣二

「価格」と「性能」で勝負する
従来のマーケティングからは
もう切り換えていかなければいけない

シアターの伸び悩みは
数々の見込み違いの交錯

―― 年末年始商戦の動きはいかがでしたか。

佐倉 9月、10月に比べると、やはり動きも活発でしたね。その中心にあるのがホームシアターです。ハイファイ・オーディオの新商品も3モデルを発売しましたが、こちらもDVDを入れていましたので、ホームシアターの流れにもうまく乗った形になったと思います。 ただ、市場全体を見た場合には、手放しで喜べるような上昇傾向にあるというわけではなく、特に、柱となっているホームシアターも、2、3年前に描いていた目論みからは、多少外れているなという感覚を、メーカーも流通も感じているように思いますね。

―― もうひとつ伸長しきれない。その要因はどこにあるとお考えですか。

佐倉 ひとつには日本の住宅環境の問題。また、映画に対する思い入れも、欧米人と日本人とではまた違ったということですね。それから、商品の価格が一気に下がりすぎてしまったのもよくありませんでした。もっと時間をかけて下げていきたかったですね。ディーラーさんにも、安いからといって、その分、たくさん数が売れるかというと、そうはいかない。同時に、ホームシアターという商品の付加価値を伝えられない問題も出てきています。こうした数々の見込み違いがあったように思います。

―― 昨年、一昨年と薄型の大画面テレビが大きく伸びましたが、それに比べてホームシアターシステムは伸びきれていません。あくまでブラウン管テレビの代替としてのアプライアンスの要素が強く、本来、オーディオの趣味嗜好の世界に近いホームシアターとの関係が、混沌としてしまっているように思いますね。

佐倉 安いホームシアターのシステムを出したからといって、簡単に底辺層にまで浸透していく単純な図式ではないということです。

理想のホームシアターは
フロント2スピーカー

―― この有望市場をどうものにするのか。2004年の業界の大きなテーマとも言えますね。

佐倉 課題をクリアにさえすれば、ホームシアターの潜在ニーズはこんなものではありません。問題は、時間と技術だと思います。最終形としては、口幅ったい言い方をさせてもらえば、10年後のホームシアターは2スピーカーになると思います。後ろにスピーカーを配置するのは過渡の現象で、ハードの進歩とともに、スピーカーを前に持ってくる技術を競うことになると思います。手前味噌ですが、その点では当社は最先端をいっていると自負しています。

―― 3・2・1は絶好調ですね。

佐倉 新商品の3・2・1GS、FreeStyle投入の相乗効果で、発売からすでに1年以上になる3・2・1も、年末年始商戦も衰えるどころか、さらに活発な動きを見せています。売る方がやや飽きてきたようなところが見受けられましたが、お客様の関心は依然として大変高いという証しですね。

―― 御社の基本的な考え方として、マニアックな人は全体の中の数パーセントしかいない。それよりも大きな広い一般層をどうサポートしていくかという考え方がありますね。

佐倉 当社の社是は「コンサートホールの感動を、より多くの人により身近に」です。より多くの人に、より身近にという発想からしますと、頂点を極めた商品で限定された人に感動をあたえることが目的ではありません。

―― 先日、本誌の対談で、日本オーディオ協会の鹿井会長が「世の中に40Hzの出るスピーカーがほとんどないのに、ボーズの3・2・1はきちんと出している。あれは凄い」とおっしゃっていました。

佐倉 うれしいですね。3・2・1は音楽を聴くときも、映画を見るときも、音場を再現するにあたり、フロント5チャンネルの音楽再生でも、或いは2チャンネルでも、物凄い立体感なんですね。 今、なかにし礼さんを起用した広告を展開しています。メインコピーでは、後ろにスピーカーのある5・1chよりも、フロント2スピーカーの5・1chの方が音楽やオペラがより自然に聞けますよということを強く主張しています。信号処理された音で、例えばパーカッションが後ろから聞こえてきたらいかにも不自然ですね。これを前だけのスピーカーとしたことで、自然に音場として後ろに回ってくるのは、5・1chの5本のスピーカーより優れた点だと思います。 「オーディオは絶対になくならない」。昔からこう言い続けています。音楽は人間の歴史と一緒にあるわけですから、それを身近に持てる道具がなくなるわけがないんです。DVDやホームシアターというと、すぐに映画をイメージするひとが多いようですが、もっと音楽の中での臨場感というのを、商品開発の中でも大事にするべきだと思いますね。映像と音楽、それを統合的なハードウエアとしてどう扱っていくかですね。

―― 御社では様々な新しい提案をされていますが、競合メーカーからすぐ似たようなものが出てくるという現象も見受けられます。

佐倉 私どもでも、そういうことにはもう馴れました(笑)。競合メーカーが技術のリソースをどんどんシフトして、フロント2スピーカーのホームシアターテクノロジーの開発に向けられれば、そしてより優れたものを出してくれれば、全体のマーケットを広めることになると思います。同じことをやっていただくことは、むしろ望むところですね。

ボーズ商品戦略の軸足は
スピーカーに在り!

―― 昨秋は、ウエストボロウシリーズの新商品125を投入されました。御社は現在、どのような商品戦略で臨まれていますか。

佐倉 我々の会社はあくまで音だと考えています。ですから、音質の原点にあるスピーカーをないがしろにするわけにはいきません。常にスピーカーに基軸を置き、そこからより性能を高く発揮させるための方法論として、信号処理やエレクトロニクスがあるというのが基本的な考え方です。新商品の125は、スピーカーとしては快心の作品です。それに、システムとしてオーディオを聞いていただくためのセンターユニットをしつらえたわけです。 音の決定的要因はスピーカーが持っています。もちろん、アンプにもありますが、その比率からしたら、スピーカーの持つ要因がすべてを決めてしまうといっても過言ではないと思います。

―― お客様には様々なニーズがあります。高音質というキーワードを軸に、3・2・1のようなホームシアターの商品もあれば、一方では、ウエストボロウシリーズのような日本の従来のコンベンショナルなものも揃えられているということですね。

佐倉 125と3・2・1とでは構造も性能も異なり、スピーカーの性格がまるで違います。従来のスピーカー理論を追及したのが125。全体をシステムとして考え、5・1chをフロントで実現できるスピーカーとして開発したのが3・2・1です。3・2・1は確かに多くのお客様にご評価いただいていますが、マーケットのすべての方がその性能で納得してくれるかというと、決してそうだとは思いません。 また、AMS1―Vでは、センターレシーバーを用意したシステムというスタイルですが、我々としては、それはボーズのスピーカーラインナップをよりご利用いただくための方法論のひとつであり、あくまでスピーカーを買っていただいているという気持ちなんです。お客様にもいろいろな方がいらっしゃいますからね。

―― ホームシアター系でも、3・2・1と、スピーカー5本タイプのものと双方を展開されていますが、これはさきほどのお話しからすると、行く行くは3・2・1のスタイルに収束されていく方向にあるというお考えですね。

佐倉 ここ数年の内にすべての商品がそういう形になるというわけではありませんが、将来的な方向性としては、そちらにいくと思います。逆にそうならないと、ホームシアターが一般家庭に広く普及していくことは考えられません。

米国では直営店出店の
要望が相次いでいる

―― 流通では現在、付加価値販売が大きなテーマと言えると思います。そういう観点からも、3・2・1は、その特徴をいかにきちんとアピールして販売できるか。店頭での実力が問われる商品ですね。

佐倉 従来の3・2・1にプラスして、FreeStyle、3・2・1GSを発売しましたが、年末商戦ではさきほども申し上げましたように大変好調です。どれも商品の供給が間に合わず、航空便で4度も入れたのですが、現在もまだお客様の需要に追いついていないほどです。

―― 販売政策については、米国で100店以上出店している直営店を4店舗、雑誌を使った通販も展開されていますね

佐倉 私共の直営店は、その周辺のディーラーさんに対しても大きな販促効果を実証しています。来店客に必ずしっかりプログラムされたデモを行い、感動を得てもらう。その感動をお客様がどう価値付けるかですよね。 オーディオをはじめとする趣味嗜好の商品は、一般の生活の中で、無ければ無いで済んでしまうむものです。そこに付加価値を認めていただいたときに、お客様ははじめてお金を出して商品を購入される。しかし、付加価値を理解してもらうためには絶対に説明が必要なのですが、それが店頭ではなかなか十分にはできないんですね。その役割を担うのが直営店であり、米国では、直営店を近所に出してくれという要望が、ディーラーさんから相次いで出ています。 お客様も大変多様化しています。そんな時に、価格と性能で勝負するなんていう従来のマーケティングの発想からは、もう切り換えていかなければいけない時期にきているということです。大事なのは、メーカーの商品の開発ももちろんですが、さらに、商品に対する見せ方、語り方の開発です。売るためのマーケティングに対する投資をもっと行っていかなければいけない。

―― 商品が発売されて1年くらい経つと、単純に旧いと判断して価格を下げたり、ディスコンにしてしまったりする。そうした固定化した考え方も改めていかないといけないですね。

佐倉 売れない、売れないと言われている中で、アウトレットモールでは衣料や装飾品が物凄い売上げですよ。如実に消費者の心理を語っていると思います。要はお買い得感です。付加価値=お買い得感ですから、それが得られない商品は売れないという単純な図式ですね。決して値段が安いということだけではない。自分の思った価値よりも、その商品の値段をお客様が高いと感じるか、安いと感じるかです。安ければ買うんですよ。

売上一人1億円の
エクセレントカンパニーを実現

―― さて、御社ではこのほど組織変更を行われました。

佐倉 意図するところは、環境の変化のスピードに対応できる斬新性と柔軟さ、若さ、そして、総合力で会社を経営できる形態にしていきたいということです。会社の業績は、1に商品力、2に営業力、3にマーケティング力。この3つのバランスが大切だと考えています。

―― これから先の中期計画についてお聞かせください。

佐倉 「エクセレントカンパニーを創ろう」というのが目標です。エクセレントカンパニーというと、経営学的には色々と難しい定義があると思いますが、私の考え方は簡単明快で、年間の売上げがアルバイトを含む全社員数に1億円を乗じたものと定義しています。それがエクセレントカンパニーだと考えています。

―― それができている会社も多くないですね。

佐倉 組織と言うのは一人が一番効率的です。増えれば増えるほど無駄が多くなりますから、その意味からも、一人1億円の売上げを全社員規模で達成することは、エクセレントカンパニーに相応しいことだと思いますね。今年度中はさすがに厳しいですが、2、3年のうちには、実現できる目標であると確信しています。

◆PROFILE◆

Sumiyoshi Sakura

1959年3月東京外国語大学スペイン語科卒業。64年7月弱電製品の輸出商社、パン・エレクトロニクス株式会社設立。70年4月韓国の腕時計メーカー、エニカー社と協定。サムサンコーポレーション設立。76年1月マランツ商事株式会社設立、取締役副社長に就任。77年4月英研株式会社設立、会長に就任。78年8月米国法人ボーズ・アジアリミテッド代表取締役就任。84年5月ボーズ株式会社に改組、代表取締役就任。91年2月米国ボーズコーポレーション副社長就任。