トップインタビュー

パイオニア(株)
専務執行役員
ホームエンタテインメントカンパニー
バイスプレジデント
兼ディスプレイ事業統括部長

五月女 勝 氏

ディスプレイを中心に
ホームエンタテインメントの
総合提案型メーカーを目指す

プラズマやDVDレコーダーなどの新規成長商品をいち早く市場に投入し、市場を創造してきたパイオニア。ホームエンタテインメント分野での総合提案型企業を目指す同社では、プラズマやDVDレコーダーの商品力強化を図るとともに、オーディオにも意欲的な取り組みを見せている。同社執行役員五月女専務に市場の見通しと同社の今後の戦略を聞いた。

インタビュー ● 音元出版社長 和田光征

常に究極のものに
チャレンジしていくことが
われわれの夢であり使命です

海外でも急激な成長が
見込まれるプラズマ市場

―― 先日プラズマの新しいラインナップを報道発表されましたが、反応はいかがですか。

五月女 おかげさまで非常にいい反応をいただいています。報道発表に続いて販売店様向けの発表会も各地で開いてきましたが、発売前としては今までにないペースの受注をいただくことができて、ほっとしているところです。

―― 海外でもプラズマに対する注目度が高まってきているようですね

五月女 国内の記者発表と相前後してヨーロッパのジャーナリストやアメリカのお客様にも見ていただきましたが、彼らからも大変高い評価をいただきました。昨年まで、海外ではプラズマはそれほど急激な伸びを期待できないと見られていましたが、ここにきて様子が変わってきました。特にアメリカでは昨年から始まったデジタルハイビジョン放送が大きなインパクトになって、プロジェクションテレビの市場がプラズマへと急激に変わり始めています。今年は日本を追い越して、40万台規模まで届きそうです。新規商品の販売は常に日本発、世界着というのが私のポリシーです。日本で成功しないものは、海外でも成功しません。

日本で確固たるマーケティングを展開して成功したノウハウをアメリカやヨーロッパに展開していきたいと思っています。

―― プラズマは画面の美しさと薄型デザインが人気を集めている最大の要因ですが、今回の新製品ではさらに高画質化が図られていますね。

五月女 画質では当社は先行していると思っています。今回の製品ではフルデジタル画像処理やスーパークリアー駆動法など最新技術の搭載で、大幅に画質を高めました。従来の製品では4億5千万色といってきましたが、今回の製品では階調表現力を高めて、10億7千万色を実現しています。さらに、輝度を高める一方で、外光反射率の低減や色再現性を高め、それらのシナジー効果で明コントラストも約20%向上しています。「楽しさ」や「使いやすさ」を実現するための様々な機能も今回の大きな特長です。その中のひとつに「アドバンスドピュアシネマ」があります。ビデオ素材は毎秒60フレームが標準ですが、フィルム素材では毎秒24フレームが標準です。そこで、画面に映し出されている映像がテレビカメラで撮られたものかフィルムカメラで撮られたものかを自動検出して、ビデオ素材に対しては毎秒60フレーム、フィルム素材に対しては毎秒72フレーム(24コマ×3)にリアルタイムで画面表示を切り替えます。これは世界初のもので、フィルム素材の映像に対してもフィルムのコマ割りと完全に同期させることができますので、フィルム特有の質感を楽しんでいただけます。

美しいホームシアターを
意識したプラズマの新デザイン

―― 先日の発表会では消費電力の話をされましたね。

五月女 私はプラズマと液晶のどちらがいいとか悪いとかというようなことはあまり言いたくありません。ただ、消費電力などでプラズマが劣っているかのような話がありますので、そうではないということをはっきりさせる意味でお話させていただきました。社会環境への真剣な取り組みは当然のことで、当社でも企業ポリシーのひとつに掲げています。消費電力の低減はその中の大きな課題のひとつとして、徹底的に取り組んでいます。今回の製品では年間消費電力を大幅にダウンさせて、インチあたりの消費電力では、液晶テレビと同等もしくはそれ以下になっています。

―― 今回採用された新しい感覚のデザインは大変美しいですね。

五月女 今回のデザインで特に意識したことは、美しいホームシアターということです。たとえばスピーカーをディスプレイの下につければ、省スペースになりますし、左右につけると、ディスプレイとの間にできる段差が非常に斬新なイメージをかもし出します。また、当社のホームシアターシステムのHTZシリーズと組み合わせると、非常に美しいホームシアターの空間が生まれてきます。プラズマのような大画面テレビでは単体としてだけでなく、ホームシアターとして組み合わせた時の楽しさが必要です。

市場の急成長に対応して
生産ラインを大幅に増強

―― プラズマの販売では、家電販売店以外のルートも開拓されていますね。

五月女 プラズマの販売ルートの中心は家電販売店であることは間違いありませんが、新しいルートとして住宅産業や家具メーカーさんなどとのコラボレーションも今後伸ばしていきます。この分野の開拓には時間がかかりますが、徐々に成果が上がってきています。最終的な目標として、全体の売上げの1割以上を目指していきたいと思っています

―― 当初の予想を上回るペースで市場が急速に成長していますが、生産面での対応はいかがでしょうか

五月女 今年は新たに第3ラインが稼動しますので、20万台は作りたいと思っています。来年はこれがフル稼働して30万台の生産を見込んでいます。また、2005年の春に第4ラインが立ち上がってきますので年間50万台の生産体制が整います。さらに、新ラインの立ち上げと並行して第1ラインや第3ラインの改良を進めていくことによって2006年にはさらなる増産を計画しています。

ずいぶん控えめな生産台数に思われるかもしれませんが、当社では40V型以上に特化していますので、概ねこれくらいの台数を狙っています。

当社ではプラズマの世界市場は、2003年度は110万台、2004年度は210万台、2005年度は350万台と予測しております。当社はその中で台数ベースで2割のシェアを狙っています。現在の当社のラインナップは43V型と50V型ですが、50V型では世界で50%以上のマーケットシェアを持っています。将来的にはもっと大きなサイズのものも含めて、大画面の分野をさらに強化していきたいと思っています。

お客様が求めている以上の
提案をどんどん出していく

―― 前3月期の決算で、国内営業が黒字を出されました。ご感想を聞かせてください。

五月女 心から嬉しいですね。この10年間、国内は大変な苦労の連続でした。国内営業のスタッフも長い間苦労してきましたが、今回ようやく報われて本当に良かったと思います。何が苦労の原因だったかというと、ともかく安くなければ売れないという脅迫観念に支配され続けた結果、市場価格がどんどん下がり続けたことでした。それが、最近は付加価値を高めるという流れに変わってきました。

私は時々街に出て電気店だけでなくいろいろな店を回って自分自身の目でお客様の反応を見ていますが、価値のある商品のまわりには必ず人がいます。逆に価値のないところには人が寄り付いていません。今のお客様はものの価値を見分ける目が非常に肥えてきていて、ごまかしは効きません。価値がないと思えば、お客様はお金を払いませんが、逆にプラズマのように価格に見合うかそれ以上の価値があると思えば高くても買っていただけます。電気製品は常に安くなければいけないという考え方は絶対に間違っています。今後は自信を持ってバリュー戦略に邁進していきます。

―― ユーザーにとって価値の高いものを作っていくうえで、サポートセンターが果たしている役割も大きいようですね。

五月女 サポートセンターを作った当初は、不良問題やクレームばかりがくるのかと思いましたが、実際にやってみるとそうではありませんでした。たとえばDVD―RWでは、こういう使い方はどうかといったような前向きなご意見が多く寄せられています。それらは、商品作りやサービスを含めたお客様に対するサポート体制を強化していくうえで非常に参考になっています。

プラズマでスタートした365日のサービス受付体制もそうですが、お客様との交流をさらに深めていって、お客様が望まれている以上の提案をどんどんしていきたいと思っています。

オーディオはパイオニアの
アイデンティティー

―― プラズマとDVDへの選択と集中戦略を徹底されていますが、その一方で、ここにきてあらためてオーディオにも注力されてきましたね。

五月女 オーディオはわれわれにとっての生命線です。選択と集中と言っても、今まで積み重ねてきたものを捨てる気はさらさらありません。当社はスピーカーから出発してオーディオをずっとやってきました。その後LD、そして、プラズマとDVDへと選択と集中を進めてきましたが、オーディオで積み重ねてきた技術やノウハウが、常に新しい事業分野の中で大きな役割を果たしてきました。

われわれが売っているものは感動です。今回発表したプラズマでも、画質や機能などに加えて、音作りにものすごく時間をかけました。オーディオや音作りの技術があるからこそ、人を感動させられるプラズマもできるし、DVD―RWやホームシアターを展開できます。オーディオはわれわれのアイデンティティーとして、今後も大切にしていきます。

―― ホームシアターはまさにAVのシナジー効果が活きてくる分野ですね。

五月女 パイオニアの強みは、オーディオを含めた総合力です。われわれが目指しているものは単なるテレビメーカーではなくて、ディスプレイを中心としたエンタテインメント分野における総合提案型メーカーです。

営業面での付加価値戦略の大きな要素にホームシアターがあります。最近は販売店さんの売り方がずいぶん変わってきました。当社のプラズマの販売店さんでも、ホームシアターを提案していただいている販売店さんがすごく増えてきていますが、そういうお店ではきちんと実績が上がっています。

DVDレコーダーの新製品では
ターゲットマーケティングを徹底

―― 薄型大画面テレビと並んでDVDレコーダーも市場で急成長していますね。

五月女 昨年、DVDレコーダーは金額ベースでVHSを逆転しました。今年は台数でも逆転するかもしれません。DVDレコーダーは海外でも非常に楽しみな商品です。今年から欧米でも本格的なマーケティング活動を始めますが、どういう反応が出てくるか非常に興味があります。いきなり日本ほどにはいかないでしょうが、2〜3年後には、全世界で1500万台〜2000万台ほどの大変大きな市場に育っていくように思います。

―― 昨年発売されたDVDレコーダーのDVR―77Hなどが大ヒットしましたが、今年はどういう商品戦略で臨まれるのでしょうか。

五月女 DVDレコーダーは実際に使ってみると非常に楽しいものですが、人によってさまざまな使われ方があります。そこで、さまざまなタイプのユーザーをしっかりと見据えて、それぞれのターゲットにしっかりとリーチできるような商品の準備を進めています。

たとえば、徹底して高画質にこだわったハイエンドユーザー向けの商品、また、ムービーで撮ったソースなどで自分のオリジナルビデオを作りたい人に向けた編集のしやすさに力点を置いた商品、テレビ番組をいったんハードディスクに録画しておいてその中から必要な番組だけをDVDで保存しておく人にとって使い勝手のいい商品などです。

中心はハードディスク内蔵機になりますが、1機種はDVDのみのストレートモデルを用意します。価格的には10万円前後が中心になると思います。

われわれの最大の強みは、ハードディスクからDVDに高速でダビングできることと互換性の高さです。実際に使ってみると良くわかりますが、高速ダビングは大変便利ですし、互換性の高さは録画機にとって非常に大切な要素です。

強力な商品群を背景に
パワーブランド化を推進

―― 商品戦略以外で取り組まれている経営課題はありますか

五月女 これからやっていこうとしていることのひとつに、パワーブランド化があります。もちろん、われわれはメーカーですから、強い商品がないとブランド力の強化といっても絵空事になります。今、当社では非常に強力な商品が揃ってきました。今後さらに商品力を高めて行く一方で、宣伝の強化などを通じて、ブランド力の強化を進めていきたいと思います。世界中で「パイオニアは何かが違う」とイメージを早く作り上げたいですね。

―― プラズマやDVDレコーダーでの成功を足場に、さらに高いステージを目指していこうということですね。

五月女 私は未完成という言葉が好きです。何事でも完成するということはありえません。いつも何かが未完成だからこそ未来があります。そして、それを完成させていこうと努力から想像力が生まれてきます。私は絵が好きですが、たとえばゴッホやセザンヌは自分の描いたすべての絵に対して未完成だという思いがあって、それが次の創作意欲を駆り立てていったのだと思います

。 企業も同じです。われわれは未熟で未完成です。まだまだやることはたくさんあるという認識を常に持ち続けることから、新しいチャレンジが生まれてきます。プラズマでもDVDレコーダーでもオーディオでもそうですが、常に究極のものにチャレンジしたいですね。それがわれわれの使命であり夢です。これからも、お客さんがあっと驚くような商品を次々と出し続けていきたいと思っています。

 

◆PROFILE◆

Masaru Saotome

1944年8月20日生まれ。北海道出身。 69年パイオニア鞄社。 71年パイオニアヨーロッパ。 79年国際部(東南アジア、中南米、オセアニア担当)。 86年パイオニアアメリカ副社長。 90年国際部特機部長。 93年パイオニアフランス社長。 98年ホームエンタテインメントカンパニーバイスプレジデント。 99年執行役員就任。 01年常務執行役員就任。 03年専務執行役員就任、現在に至る。趣味は音楽、映画鑑賞、読書。