トップインタビュー

ソニー(株)
執行役副社長

高篠静雄 氏

商品力の強化を軸に
エレクトロニクス事業で
リーダーの地位回復を狙う

先端的な技術への意欲的な取り組みと新しいライフスタイルの提案でAVファンの心を掴んできたソニー。先日、開催された経営方針説明会で、あらためて、AV分野の大幅な強化を宣言した。今年6月に同社の執行役副社長に就任した高篠静雄氏に、ソニーのAV分野への取り組みや先日発表されたQUALIAについて話を聞いた

インタビュー ● 音元出版社長 和田光征

QUALIAは
ソニーの創業の原点であり
終わりのない旅です

ソニーの基幹商品群として
AV分野の大幅強化を図る

―― 5月28日に開催された2003年度の経営方針説明会で、創立60周年にあたる2006年度に向けた新たな経営方針が示されました。

高篠 昨年度の第4四半期は、在庫の健全化や試作研究費発生額の増加等期末処理費用などのいろいろな処理がこの期に集中したことと、その額が例年よりも大きかったことなどから赤字になりましたが、2002年度通期では、前年度を大幅に上回る営業利益を上げることができました。
メーカーにとっては商品力が基本です。先日発表した2003年度経営方針でも、新たな経営管理体制の確立などに加えて、エレクトロニクス事業の商品力強化を打ち出しました。ソニーは過去、いい時も悪い時もありましたが、創立50周年などといった節目では、逆風の中でも素晴らしい成果を上げてきました。今、社内では創立60周年にあたる2006年に向けて、全社員が一致団結して頑張っています。

―― フラットテレビやDVDレコーダーなどへの取り組みが遅れたように見えましたが、今年度の経営方針の中でエレクトロニクス事業でのリーディングポジションの回復を掲げられていますね。

高篠 フラットディスプレイやDVDで出遅れたことは事実ですが、5月に開いた経営方針説明会でも説明しましたように、オーディオビジュアルはソニーの基幹商品群として、今後、再強化を図っていきます。今年は、フラットパネルテレビ24モデルを一気に投入します。
市場で非常に好調なスチルカメラ、カムコーダーに加えて、DVDレコーダーでも、年末にかけて強力な商品を出していきます。

―― AVはもともとソニーの強い分野ですから、今後が楽しみですね。先日、ブルーレイを発表されましたが、マニアの間で非常に評判がいいですね。

高篠 ブルーレイは、いまのところ、価格が高いことやハードを発売しているのがソニーだけということもあって、まだまだ浸透していません。当面は、DVDレコーダーが家庭用録画機の主流になっていくだろうと見ています。
ただ、ハイビジョンを2時間以上録画できるリムーバブルメディアは、今のところブルーレイしかありません。今年の年末から3大都市圏を皮切りにスタートする地上デジタル放送によって、ハイビジョンソースが一気に身近な存在になっていきます。また、ブルーレイは日・米・欧10社による統一フォーマットですから、各社によって方式が異なるという問題もありません。
ブルーレイの将来性には、大変大きな期待をしています。

―― ブルーレイでもそうですが、基本デバイスを自社で持っているかどうかが、商品の競争力を高めていく上で大きな要素になってきています。この点についてはいかがでしょうか。

高篠 メカトロニクス技術や自社デバイスの採用などを通じた内部での垂直統合によって、高付加価値化と他社製品との差異化を実現して、オーディオビジュアル製品の高い収益力の継続的な確保を、先日発表した「2006年度に向けた中期施策」の中で掲げています。
ソニーはもともとポータブル系に強みを持っていますが、これに加えて映像の入口になるCCDでも圧倒的な強みを持っています。カメラ、携帯電話、バイオ、クリエはもとより、テレビ会議システムや、セキュリティー用監視カメラ、コミュニケーション用カメラ、さらに、ソニーが伝統的に強みを持っている放送用など、様々な用途でのCCDを社内で作っています。モバイル系の低温ポリシリコン表示デバイスや小型液晶、バッテリーも自社で生産していますし、半導体の内製化にも積極的に取り組んでいます。大型ディスプレイについても液晶も含めて積極的に取り組んでいます。

人を感動させるモノ作りが
QUALIAに託した思い

―― 先日発表されたQUALIAが大きな話題を呼んでいますね。

高篠 われわれも含めて、昨今の物の作り方や考え方が、経済的な視点に偏り過ぎているように思います。ソニーはカンパニー制度を敷いていますので、各カンパニーでは、売上げや利益、マーケットシェアの獲得などといった経済的な価値を軸に、商品を展開しています。もちろんビジネスですからエンジニアがやりたいことを何でもやれるわけではなく、商品としてどこかで一線を引くことは必要ですが、もう一方で、本物をもう一度見つめ直すということも必要です。
今回発表した4モデルは、素材も含めてとことんこだわった結果、高価になりましたが、設計者や企画者がとことん妥協せずにこだわって作ったものは、必ずお客様に感動していただけると思っています。QUALIAが目指していることは、超高額品を作ることではありません。
これまでの経済的な価値の追求に加えて、感動の価値の追求によって、お客様に感動してもらえる商品作りをしていこうということが、QUALIAで目指していることです。そのためには技術も必要です。 そしてそれを創り上げる設計者や関係者の魂と執念があいまって、はじめて人の心を感動させる製品が生まれるのではないでしょうか。
もっと追求することがあるのではないか、もっとできることがあるのではないかというソニーがもともと持っているDNAを発展させたモノづくりをしていこうということです。QUALIAはいわばソニーの創業の原点であり、終わりのない旅です。

―― モノづくりの考え方を切り替えようということですね。

高篠 昨年のアメリカのサンクスギビング商戦の話ですが、ある家電量販店で、中国製の39ドルのDVDプレーヤー数万台をわずか6時間で売ったそうです。
これは、数万人の人が39ドルのDVDプレーヤーを買ったということで、100ドルとか120ドルの商品を売ろうとしているメーカーでは、その分、売れなくなってしまいます。安価な商品を大量に売ることは販売側にとって一時的にいいかもしれません。しかし、結果的には市場全体の価値を落とすことになってしまい、意味のない価格競争は全員を敗者にしてしまいます。
消費者にもいい物を安く買いたいという気持ちがあると思います。しかし、それは元々安物をさらに安く買うということとは意味が違いと思います。とことんコストダウンした、ぎりぎりの性能の商品ばかりで、本当にいいものに触れる機会を持てなくなるような世の中になることが、消費者にとって望ましいことだとは思えません。本物であることを貫いたQUALIAは、一人でも多くのお客様に使っていただきたいと思いますが、たとえ買わないまでも、是非実際に見ていただいて、本物とはどういうものかを感じとっていただければと思います。

導入段階ではソニー自身も
お客様と対峙していきたい

―― QUALIAではモノづくりだけでなく、販売面でも新しい手法をとられていますね。

高篠 発表会の時点では、ソニーが直販をするのかという印象を販売店に持たれたかもしれませんが、そうではありません。このような商品では、ただ商品を出しましたということだけではお店にご迷惑をかけてしまうことになります。そこで、導入段階においては、われわれ自身が真剣にお客様と対峙しながらやっていこうということです。また、ホームシアター商品は、「QUALIA Tokyo」と「QUALIA Osaka」だけで販売できるようなものではありません。ソニーがソニーらしくあり続けるためには、QUALIAのような商品が必要ですが、最終的には数を売る商品でもお客様に感動を与えられなければいけません。
たとえば、ウォークマンは決して高額商品ではありませんが、多くの人々に感動を与えることができました。このように人に感動を与えられるような商品こそがQUALIAだと私は思っています。そういう意味でも、QUALIAをソニーが直販だけで売っていくということは絶対にありえません。お店と個別にお話をさせていただいたうえで契約を結んで、一緒にやっていきたいと思っています。

―― 今回発表された製品は4モデルですが、今後、さらに相当な数が計画されているようですね。

高篠 これまでに各カンパニーからエントリーされたものが70件ほどあります。それらのひとつひとつについて、QUALIAにふさわしい内容かどうかを審議しています。今回、発表した商品は4モデルですが、QUALIAと認定されて商品化が進行している企画構想が17件あります。デザインの段階や製品化の段階で企画構想どおりいかなければ陽の目を見ないこともありますが、年末にかけて、さらにモデルを増やしていく予定です。
QUALIAでは、スケジュールやコストを守るのではなく、満足できる内容に仕上がった時点で発売を決定します。モデルナンバーは企画の発生順に割り当てられています。今回発表した4モデルでは、004が一番若くて、001が含まれていませんが、これもQUALIAらしくていいと思います。

―― 各製品を見ると、デザインが非常に個性的ですね。

高篠 人間でも尖っている人はものすごいことをやりますが、人と合わないところがあります。商品でも同じです。尖っているということは、そういうものだと思います。ですから、QUALIAからは好き嫌いが相当分かれるようなデザインも出てくると思います。もちろん、音質や画質など基本的な性能はいいに越したことはありません。これについては、尖っているとかどうという問題ではありません。

明るい材料の多い
オーディオビジュアル業界

―― ようやく日本でもホームシアターが盛り上がりを見せ始めてきましたね。

高篠 人間の感性は目で見えるものと、耳で聴こえるものが中心です。その意味で、映像と音は切り離すことができません。以前はテレビとオーディオという区分けがありましたが、ホームシアターによって、これらを具体的につなぎ合わせることができるようになってきまた。
私事で恐縮ですが、数年前に自宅にホームシアタールームを作りました。私は忙しくてなかなか自分で使えませんが、娘の友達がしょっちゅう来て、みんなで映画を楽しむようになりました。ホームシアタールームができたことは、家族の生活や人間関係まで変えてしまうほどのインパクトがあったということです。ホームシアターは体験型の商品ですから実際に体感していただくことが大切です。
ホームシアターをより広い層に広めていくためには、メーカー側では使い勝手が良く、買い求めやすい価格の商品を実現していくための努力が必要ですし、流通側でも、展示の仕方を含めてお客様にホームシアターの認知度を高めるための努力をしていただきたいと思います。
DVDや衛星放送に加えて、ブロードバンド経由でもコンテンツを楽しむことができるようになっていくなど、コンンツがどんどん広がっていきます。また、今年から始まる地上デジタル放送によって、ハイビジョン映像や5・1chのサラウンド音声が一気に身近な存在になっていきます。我々の業界には、やり方次第では、いくらでも明るい材料があります。

―― 富裕層ではホームシアター市場は着実に拡大していますが、比較的若い世代の人達は大画面でホームシアターを楽しみたくても価格の問題でなかなか手が出ません。ホームシアター市場を爆発的に拡大させるためには、団塊ジュニア層を中心としたヤング&ヤングアダルト層を取り込んでいくことが不可欠だと思います。この点についてはいかがでしょうか。

高篠 家庭の中で大画面を楽しめるディスプレイとしては、PDPやスクリーン以外にプロジェクションテレビがあります。日本ではあまり普及していませんが、比較的手頃な価格で大画面を実現できる商品としてアメリカでは大きな市場があります。今、アメリカや中国では当社のグランドベガが、大変好調です。
画質などの点でプロジェクションテレビにあまり良くない印象を持たれている方もいますが、最近の製品は非常に良くなっています。
実際に見ていただければわかりますが、画質はPDPなどと比較しても遜色ありませんし、デザインも非常に洗練されてきています。奥行きは30cmほどで、重量もそれほど重くありません。50〜60インチのPDPは100万円近くしますが、同じサイズのプロジェクションテレビは50万円程度と手頃です。
カジュアルスクリーンもそうですが、ヤング&ヤングアダルト層にホームシアターを広めていくという点では、グランドベガも、推奨できる商品のひとつです。これを使った仕掛けも考えていきたいと思います。

 

◆PROFILE◆

Shizuo Takashino

1962年4月ソニー鞄社。85年11月オーディオ事業本部ゼネラルオーディオ事業部ゼネラルオーディオ第1部長、90年9月ゼネラルオーディオ事業本部長、94年4月コンスーマーAVカンパニー シニア・バイス・プレジデント(兼)同カンパニー パーソナルAV部門長、95年4月コンスーマーAVカンパニー エグゼクティブ・バイス・プレジデント、96年4月パーソナルAVカンパニー プレジデント、99年4月ホームネットワークカンパニー プレジデント& COO(00年4月、プレジデント& COOをNCプレジデントに名称変更)、99年6月執行役員専務、03年4月ホームネットワークカンパニー、I & Tモバイルソリューションズネットワークカンパニー担当、I & Tモバイルソリューションズネットワークカンパニー NCプレジデント、03年6月執行役 副社長就任、現在に至る。