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松下電器産業(株)
パナソニックマーケティング本部本部長

牛丸俊三 氏

消費者の夢を実現し
流通に貢献できる
商品を作っていきたい

先日発表された前期決算で期初の計画を上回る営業利益をあげ、厳しい市場環境の中で見事に業績のV字回復を実現した松下電器。
その大きな原動力となったのが、強力なV商品の投入と斬新で緻密なマーケティング戦略を展開してヒット商品を連発したパナソニックブランド。
パナソニックマーケティング本部長として、同ブランドのマーケティングを指揮する牛丸俊三氏に、現状と今年度の戦略や見通しを聞いた。

インタビュー ● 音元出版社長 和田光征

松下電器は世間から
期待されている会社だと
いうことをひしひしと感じます

強力な商品の投入と緻密な
市場戦略でV字回復に貢献

―― 先日行われた前期の決算発表では、当初の計画を上回る営業利益を実現されました。その中核となったのが、パナソニックのV商品でした。ここであらためて、2002年度の決算におけるパナソニックのV商品が果たした役割についてお聞かせください。

牛丸 前期の松下電器全体の年間売上高は約7兆4000億円でした。その中でナショナルブランドとパナソニックブランドを合わせた市販ルートでの家電製品売上は、約1兆1000億円と、全体から見れば、決して大きな割合ではありません。一方、海外での売上は連結ベースで半分以上を占めています。昔から「松下電器=国内=家電」というイメージを強くもたれていますが、今の実態はそうではありません。ただし、私が担当しているAV商品に限っては、国内市場での成否が全社に非常に大きな影響を与えます。

冷蔵庫や洗濯機などの白物家電商品では、他社も含めて全世界統一モデルで展開することはありません。これに対して、パナソニックブランドで扱っているAV商品では、世界統一モデルが当たり前になってきています。この分野は日本メーカーが非常に強い分野ですので、まず国内でしっかりヒット商品を作りあげていくことが非常に重要です。また、国内で企画台数を達成できるかどうかは、工場の稼働率や製品に付随するチップやシステムLSIの開発費の償却などに大きな影響を与えます。一昨年パナソニックマーケティング本部長に就いた時に、中村社長からマーケティング本部が中心になって、国内家電をしっかり引っ張っていって欲しいという指示を受けました。

幸い昨年はヒット商品が続出しました。なんと22モデルもの商品が、あるタイミングで1位を記録しました。過去10年近くで、これほど多くの製品が販売台数で1位になったことはありませんでした。その好影響は単に国内家電事業の業績向上だけにはとどまりません。工場の稼働率や基幹部品の開発・生産など、AVC社を筆頭に、グループ全体に対して大きく貢献することができました。そういう意味で、パナソニックのV商品の成功が昨年度の松下電器全体の業績に寄与できて良かったと思っています。

―― V商品では、非常に緻密なマーケティング戦略を展開されましたね。

牛丸 流通の皆様方やマスコミの方々からもご評価を頂き、たいへんうれしく思っています。パナソニックマーケティング本部は、国内営業・専門店営業・事業部・広報・宣伝・物流・人事・経理などいろいろな部署から、それぞれのプロフェッショナルが集まって2年前にスタートしました。本社のある門真を離れて浜松町に集結して、新しい価値観のもとで心をひとつにして、新しい業務の遂行メカニズムを作り、新たなマーケティングの方法論を実践し、そして、新しい企業文化を作り上げてきました。

以前の松下電器では、事業部が企画し、生産し、在庫責任も持っていましたので、国内営業部門では事業部から商品を買い取っていませんでした。これをマーケティング部隊が事業部に対して発注し、買い取ることによって、在庫責任も販売側が持つように根本から変革しました。これは世間から見れば当たり前のことかもしれませんが、松下にとっては非常に大きな変化でした。宣伝事業部や広報機能もマーケティング本部に集約しました。これらによって、それまでの松下における既成概念が破壊されて、新しい文化が創出されました。

店の形態にかかわらず
知恵を出したところが伸びる

―― その意味で昨年は記念すべき1年だったと言えますね。

牛丸 今の松下電器全体の中で、国内家電事業が特別大きな構成比率を持っていないことは、社員もわかっています。それでも、国内家電が頑張って欲しいという気持ちをみんな持っています。その点で、昨年はその期待に応えることができ、会社全体に明るさを与えることができたように思います。

また、社内だけでなく、流通の皆様からも、松下電器からこういう商品が出るのを待っていた。これで松下が復活したとおっしゃっていただくことができて、大変うれしく思いました。多くのお店の方から励ましていただき、サポートしていただき、本当にありがたいと思います。松下電器は世間から期待されている会社だということをヒシヒシと感じます。

―― 昨年は量販店と地域専門店の両方がバランスよく伸びましたね。

牛丸 それは、商品を機軸にするというメーカー営業の原点に返ったからだと思います。消費者側の求めているもの、こういうものが欲しかったという夢を実現できるような商品を企画して、適切なタイミングとデザイン、値付けで市場に投入しました。その結果、販売店さんでの実需ベースでの回転率が非常に高くなりました。

日本では量販店と系列店との対決とか、消えゆく系列店などと言われますが、今市場で起きていることはそんな単純な問題ではありません。量販店同士の間でも地域専門店同士の間でも非常に厳しい競争が行われています。専門店にも量販店的なお店もあれば、いろいろな形態があります。これは常々お話していることですが、今は「個」の時代です。量販店、系列店ということではなく、真剣に知恵を出してビジネスをきちんとやっていくお店が伸びています。

たとえば、以前の地域専門店では、パナソニック製品は、ほとんどテレビしか売れませんでした。しかし昨年は従来地域専門店では苦手とされてきたオーディオやムービーなども大きく伸びました。売れる商品、売りやすい商品、売りたい商品が出たことによって、地域専門店にとってもオーディオやムービーを伸ばせるということが証明されたように思います。

昨年の垂直立ち上げを上回る
超垂直立ち上げを今年は実践

―― 2003年度が始まって一ヶ月が過ぎました。新年度のスタートはいかがですか。

牛丸 広域量販店さんをサポートする総合会社と地域店さんをサポートするレックを再編し、全国6社の販社の体制でスタートしましたが、4月は6社とも事業計画を達成でき、順調に発進することができました。

前期に引き続いて4月もAVは前年比125%と非常に好調でした。昨年の上期はサッカーワールドカップの影響もあって前年比133%、下期も前年比120%でした。業界そのものがフラットに終わった中にあって、販売店さんやお客様からの支持をいただいて、大きく伸びることができましたが、今年も引き続きこの好調を維持しています。

―― 昨年に続いて今年も強力な商品を発売されましたが、市場で急速な立ち上がりを見せていますね。

牛丸 今年に入ってからも多くの新商品を投入してきました。ムービーでは昨年発売したNV―GS5Kに続き、「もっと愛情サイズ」をキャッチフレーズにしたNV―GS50Kと、その上位機種で3CCDを搭載したコンパクトサイズのNV―GS70K、オーディオでは5枚CDチェンジャーと5倍速録音機能を搭載したCD・MDパーソナルコンポSC―PM77MD、また、液晶テレビでは32V型のTH―32LX10、DVDレコーダーではDIGAを5機種発売しました。いずれも順調に推移し、計画どおりの販売実績を達成しています。

昨年は「垂直立ち上げ」という言葉を創りましたが、今年は「超・垂直立ち上げ」というテーマを掲げて実践していきます。垂直の上限は90度ですが、さらにこれを上回るようなスピードで立ち上げていこうということで「超」をつけました。すでに、これを実現できた商品があります。DVDレコーダーDIGAのE80H、E70V。ムービーのNV―GS50K、NV―GS70K、オーディオのSC―PM77Dなど、導入後わずか3週間でヒット商品になりました。液晶テレビのTH―32LX10も、発売直後から立ち上げることができました。

新製品の導入ではパブリシティーや宣伝、ウェブサイトでの展開など販促の仕掛けづくりも重要です。同時に営業に対するトレーニングや流通の皆様方に対する勉強会も徹底的に行っています。一方、工場では、あらかじめ商品を作りだめておいて、導入タイミングで一気に投入することによって、急速なスピードで立ち上げる。徹底した需要予測をおこない、販売店さんの回転率をみながら工場と密接な連携をとっていくというプロセスマネジメントに昨年から取り組んできました。その成果が積み重なって、「超・垂直立ち上げ」を実現できるようになってきました。その結果、店頭での回転率が非常に高くなって、販売店さんからもたいへん喜ばれています。

日本の人口は減少していきます
そこで価格競争に走ったら
業界が疲弊してしまいます

本物を見抜く感性を持ち、
上質さが求められる日本市場

―― 最近の日本市場の大きな特徴は、高くてもいい製品が動いていることですね。

牛丸 私は、例えば、「日本は貫目の国」だと思います。古来から重さで本物の価値を計れる国だと考えております。絹織物や生糸、金細工、銀細工など、何百年にもわたってすばらしいものを作り続けてきました。また、国民は物の価値を理解できるような教育を受けています。先日あるお客様を連れて、松下電器の迎賓館でもある京都の「真々庵」に行きました。そこにあるプライベートミュージアムには、いろいろなジャンルにわたって人間国宝級の人たちの作品が展示されています。それを見ても日本はすごい国だと思います。一芸に秀でた人が心を込めて、レベルの高い工芸品を何百年にもわたって世代を超えて連綿と作り続けてきたのが日本です。つくづく日本は物作りの国だということを実感します。そして、それに対するマーケットもあります。こんな国は世界でもありません。日本に生まれて本当に良かったと思います。

小学生の時、日本は貿易立国だと教わりました。原材料を輸入して、知恵を絞って商品に加工し、そして、その商品に魂を込めて売ってきました。今、日本はこれだけの不況でありながら、いいものをしっかり作れば、それを認めて買っていただけています。日本人には本物を見抜く感性があります。ですから、メーカーとしては、いい物を作らないといけません。

―― 今日本の市場で付加価値の高い商品が好調なのは、そういう歴史的な背景も大きいということですね。

牛丸 付加価値の高い商品が売れたことで業界に対して貢献でき良かったと思います。昨年、国内で最もよく売れた当社のDVDは、10万円以上もするレコーダータイプのHS2でした。一方、アメリカでは、$49のDVDプレーヤーが一番売れました。台数ベースで10万円の商品が最も売れた日本と5千円の商品が最も売れた米国。いいものを出せば、きちんと認めてもらえる。消費者のインテリジェンスが高く、流通もいい商品を理解して販売していただける。日本は本当にありがたい市場だとしみじみ感じます。

人口が減少していく日本では
高付加価値化が今後の課題

―― 御社でも高付加価値商品が非常に好調ですね。

牛丸 昨年度は、付加価値の高い製品が非常に好調でした。この流れは直近でも継続しています。DVDレコーダーのDIGAでは、5モデルの中でHDD付きのDMR―E80Hがもっとも売れています。ハードディスクとコンボタイプやVHSとの複合機のE70Vも好調です。ムービーでも3CCDを搭載した14万円前後のNV―GS70Kが、9万円前後のNV―GS50Kとほぼ同数売れています。オーディオでもSC―PM27MDよりも高価なSC―PM77MDの方が圧倒的に売れるなど、ほとんどの商品カテゴリーで高いものの方が売れています。今後もそういう付加価値の高い商品を増やしていきたいと思っています。

日本では少子高齢化が進んでいて、今後、人口は減少しはじめます。そこで安物に走ったらどうなるかは明らかです。台数を増やすことではなく、いかにして金額を上げていくかが、これからは大切です。電機メーカーの悲しい性で、どうしても年々商品の値段が下がっていきます。決してシェアを目的に商売をしているわけではありませんが、生産量をあげたいというメーカーの事情がその背景にあります。付加価値を高める努力を怠ると、価格競争に陥って業界が疲弊してしまいます。

たとえば、テレビでは従来の4対3のタイプではなく、デジタルハイビジョンテレビや液晶テレビ、プラズマテレビが好調です。国内の年間総需要を見ると台数ベースでは、かつての1000万から昨年は900万台弱に落ちていますが、金額はむしろ上がってきています。32V型の液晶テレビは50万円以上もするのに、たいへん好調です。

―― ただし、いかに付加価値の高い商品といえども、価格がいくらでもいいというものではありませんね。

牛丸 そのために、メーカーではたいへんな努力をしています。たとえば、今回発売した32V型の液晶テレビでも、いくらスタイリッシュで画質がいいといっても100万円もしたら、売れないでしょう。でも50万円ならお客様はがんばって買おうと思っていただけるでしょうし、お店もがんばって売ろうということになります。

―― こういった商品が影響を与えたこともありますが、最近の流通を見ていると売り方が変化してきたことを感じますね。

牛丸 メーカーでは採算をとることが、非常に厳しくなってきています。流通業界でも競争が厳しく、粗利がとりにくい状況です。そこで、新しく世の中に出された商品は大切に売っていこうということで、機運がかわってきています。われわれもメーカーの都合でどんどん作って安売りしてシェアをとっていこうというようなことは考えていません。企業にはしっかりと利益をとって事業を継続していくという使命があります。精魂込めて作った商品を大事に売っていきたいという思いを強く持っています。

ユーザーの掘り起こしによって
成熟商品でも市場創造は可能

―― カラーバリエーションに力を入れられていますが、それによって市場で新しい動きが起きていますか。

牛丸 SC―PM77MDでは3色、デジタルカメラのルミックスDMC―FZ1でも2色用意するなど、カラーバリエーションには力を入れています。SC―PMPM77MDでは当初の予測以上にホワイトが好評です。ムービーでもNV―GS50Kで4色展開していますが、従来はシルバーが売れ筋だったのに対して、今回はブルーとレッドがたいへん好評です。どの色が売れるかを予測することはなかなか難しい問題ですが、流通の方々からは、カラフルな展開によって女性のマーケットを掘り起こしてくれたという評価をいただいています。その点では、これがムービーという成熟商品の活性化に貢献できて良かったと思います。

―― 今回のムービーでは色に加えて、大きさや価格の面でも女性を強く意識された商品作りをされていますね。

牛丸 ムービーを実際に使われるのはほとんどお母さんです。お父さんは仕事の関係などもあって、運動会、卒業式、入学式にはなかなかいけません。ですから、ムービーではお母さんにとって使いやすいもの、買いやすいものであることが大切です。女性が使うとなると、重いものや持ちにくいものでは困ります。そこで、軽くてさらに女性の手にフィットするサイズにしました。我々がトライをしたことは、いかにしてお母さん方に使いやすく、また、買い求めやすいものにするかでした。

また、価格もいちいちお父さんの決済がなくても買える範囲ということで、10万円以下に抑えました。その結果、さきほどのカラーバリエーションの充実と合わせて、女性市場を開拓することができ、ムービーという成熟商品でありながら、新たな需要を作り出すことができました。新しい市場を作り出すための努力をすれば成熟商品でもまだまだ頑張れます。メーカーは、マーケットを広げるための商品企画をしていかなければいけません。ムービーに限らず、成熟商品では今後さらにユーザーの掘り起こしを深めていくことによって、市場の活性化を図っていきます。

競争のための競争ではなく
いい商品をしっかり作って
大切に売っていきたい

企業文化としての
物作りのプロセス

―― 付加価値の高い製品の比率が高まってくると、生産方法もずいぶんかわってきますね。

牛丸 かつては非常に長いラインで単一モデルを大量に作っていましたが、今は市場の動向に迅速に対応していくために、セル生産方式をとっています。

―― 松下電器では海外への工場展開を積極的に進めている一方で、国内でも多くの商品を作られていますね。

牛丸 ムービーは岡山、プラズマテレビは茨木、ハイビジョンテレビは宇都宮、DVDレコーダーのDIGAは門真、SDメモリカードは山形、ポータブルCD・MDは福島、DVD―RAMディスクなどは津山でと、多くの商品を日本で作っています。

―― 最近の製品では非常に高度な技術が投入されていることから、製品の内部は、ブラックボックス化されている部分が多くなっていますね。

牛丸 白物でもそうですが、ますますブラックボックス化される部分が増えてきています。たとえば、カスタム化が進んでいるシステムLSIもそうです。これらは、すべて日本で作っています。

一般の人からはなかなか見えにくい部分ですが、5倍速録音できるPM77MDのマイコンは、我々がずっと開発を続けてきたものです。BSハイビジョンテレビに使われているOSも、長期間にわたってコツコツ開発してきたチップセットを使っています。日本の一般紙では非常に自虐的で悲観的な記事を書いたりするところがありますが、私はそう思いません。開発面でも生産面でも、今の日本の水準は、非常に高いと思います。

―― キャノンの社長も日本はすごいと言っていますね。

牛丸 アラン・ケネディーの書いた「株主資本主義の誤算」という本にも、そういうことが書かれています。今、 時価総額的な考え方が叫ばれています。しかし、仮に松下の株価が下がったからといって、外国資本が乗り込んできたとしても、松下幸之助が作り上げてきた文化や遺伝子を理解できない人がきて、経営できるものではないでしょう。物を作りこむプロセスは極めて難しく、それぞれの企業にとっての文化です。

日産自動車を改革したゴーンさんも、従業員の質の高さには驚かされるものがあったと語っています。私もそう思います。日本企業の従業員の質は非常に高いと思います。パナソニックマーケティング本部では、様々な部署から集まった人たちが心を一つにして新しいマーケットの方法論を作り上げてきましたが、そのベースには全員の質の高さがありました。

お客様にとっての利便性を
いかに高められるかが大切

―― 新しい時代の商品、新しい考え方でのマーケティング手法とそれを実現するための新組織など、様々な要因が、今回のV字回復を後押ししましたね。

牛丸 昨年は非常にラッキーな年でした。プラズマテレビ、液晶テレビ、デジタルカメラ、DVDレコーダーなど、今のAV業界には消費者に望まれている商品がたくさんあります。しかも、日本のメーカーがそれらの商品を作り上げて、世界をリードしていることをたいへん誇りに思います。民生用の市場で、プラズマや液晶テレビの需要がこんなにある国は世界中にありません。DVDレコーダーも爆発的に売れています。デジタルカメラも銀塩カメラを抜いて、これだけの市場に育ってきました。

いいものを作るメーカー、それをきちんと販売する流通、そしていいものを理解していただける高いインテリジェンスを持った消費者。日本の市場は三位一体で本当にすばらしいと思います。

―― 少し前までの家電業界は、各社が同じような商品を作られていましたが、最近は、各社とも重点分野に特化するように変化してきましたね。

牛丸 かつて総合家電メーカーは、各社横並びであらゆるジャンルの商品を作っていました。しかし、今は、メーカーごとに力を入れている商品カテゴリーが違います。すべての商品カテゴリーで各社が同じような商品を横並びで開発して、横並びで販売していくという時代は終わりつつあるのではないでしょうか。サバイバルという言葉がありますが、事業の集中と選択のコンビネーションだと思います。競争のための競争ではなく、商品をしっかり作って、大切に売っていきたいという流れです。

―― そういう中で今後の商品開発の中で大きなテーマにされていることは何でしょうか。

牛丸 とんがった特徴を持ったユニークな商品を作り続けていきたいと思っています。それと、作りやすいとかシェアがとりやすいといったようなメーカーのエゴイズムではなく、お客様にとっての利便性をいかに高められるかを考えていかないといけません。

そのひとつにイージーブリッジメディアのSDカードによるネットワーク化があります。昨年、SDスロットをつけた商品をたくさん出しました。パソコンは立ち上げにものすごく時間がかかります。操作も複雑です。これに対してSDカードを使えば、簡単にする事ができます。その代表的な例がDスナップです。D―snapのSDカードをテレビやプリンターのSDスロットに差し込むだけで、D―snapで撮った動画や静止画を簡単にテレビで見たり、パソコンを介さずにプリンターで印刷することができます。

AV製品の使い勝手をもっともっと簡単にしていくことは、今後のAVメーカーの一つの課題です。当社では、SDスロットをつけた商品をどんどん増やしていくことによって、誰にでも簡単に使うことができるイージーネットワークの世界を実現していきたいと考えています。

膨大なビジネスチャンスを
生み出す地上波デジタル

―― まもなく地上波放送のデジタル化がスタートします。これによって、業界にどのような影響が出るとお考えですか。

牛丸 地上波放送のデジタル化は業界にとって大変な好機として捉えています。BSデジタルが登場した時に、一般紙では普及率が悪いじゃないかと書かれたこともありました。しかしBSデジタルが導入されたことによって画像の美しさが一般の消費者に認知されるようになりました。その結果、せっかくの美しい映像を大画面で楽しもうという流れができてきました。気がついたらDVDも普及してきました。すると女性がさらに目覚めて、大画面は欲しいけど薄型じゃないと困るという要求が出てきました。特に首都圏ではマンションで坪単価が高いので、薄型に対する強い要望がありました。そして気がついてみたら、大型、薄型、高画質化のテレビがたいへんよく売れるようになってきて、テレビの販売台数が落ちているにもかかわらず、売上金額が上昇するという今の状況につながっています。

―― 一般の人が日常見ている電波がハイビジョン放送になる。本来はその点が強調されるべきですね。

牛丸 地上波放送がデジタルされると、気軽に高画質が見られるようになります。また、地上波でもハイビジョン放送が行われるということで、BSデジタルが導入された時と同様に高付加価値化をもたらすと見ています。今、日本には1億台近くのテレビが、家庭に入っています。2011年にはアナログ放送が打ち切られることになっていますので、いずれそれらを買い換えないといけません。セットトップボックスを買う人もいるかもしれませんが、膨大なマーケットが生まれてきます。

また、高画質を大画面で見たいという要求もでてくるでしょう。国内のほぼ全世帯に普及している地上波放送がハイビジョン化されることによる影響は、BSデジタルの比ではありません。我々にとってはまさに援軍来たりという感じです。

―― 一般の視聴者にとって地上波放送デジタルの最大の魅力は、高画質です。これがもっと強調されるべきですね。

牛丸 そのとおりです。デジタル放送には、データ放送や双方向を使った様々な機能がありますが、テレビという視点から見ると、それは本質ではありません。

日本の家庭で、テレビはエンタテイメントの中心に位置しています。仕事で疲れて帰ってきた時に、横になってビールでも飲みながらテレビを見てくつろぎたいということがあります。その時に、画面のちらつきやゴーストが出るといらいらしてしまいますが、綺麗な画面がシャッキっとでたら元気づきます。そこにデジタル放送の良さがあるのではないでしょうか。

テレビの本質は番組の内容と、画質や音質です。地上波デジタルに関してはしっかりしたエデュケーションを社内はもちろん、流通やコンシューマーに対して、放送側と一緒になって行っていくというプロセスが必要です。それによって、テレビのビジネスを、液晶、プラズマ、大画面、高画質化、ホームシアターなどさらに付加価値の高いものにしていくことができます。松下電器では組織をあげて推進していきます。商品企画を含め様々なバックアップ体制をとるべく準備を進めています。今年の後半は、相当おもしろい展開になると思います。期待してください。

勝っていくことによって
人も組織も強くなっていく

―― 最後にパナソニックマーケティング本部長に就任されて以来を振り返られての感想と、今後の商品作りの基本的な考え方を聞かせてください。

牛丸 ニューヨークのヤンキース・スタジアムのグランドへの選手用の入り口に「There is no substitute for Victory(勝利に勝る良薬はなし)」という言葉が掲げられているそうです。これはビジネスでも同じです。強い商品を出して、しっかり売っていく。それによって、在庫回転率が高まり在庫回転率も高まり、社員のモラルが高まっていくというように、ますます良循環になっていきます。

パナソニックマーケティング本部ができて2年経ちましたが、その間、みんながいろいろな知恵を出してチャンピオン社員がたくさん出てきています。私が指示しなくても、自分でいろいろ考え出してやってくれるという自己完結型の人が増えてきています。これは素晴らしいことだと思います。

消費者の夢を実現し、流通に貢献できるようなエキサイティングな商品を作っていきたいと思っています。

 

◆PROFILE◆

Shunzou Ushimaru

1944年5月生まれ。長崎県出身。1968年入社後、海外勤務が長い。国内事業部、およびカナダ、イギリスでは現地法人の社長を歴任。2000年より国内営業担当。2003年4月より松下電器産業潟pナソニックマーケティング本部長(兼)松下コンシューマーエレクトロニクス且ミ長に就任。趣味はオペラ鑑賞、映画鑑賞、スキューバダイビング他。