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(株)WOWOW
執行役員 営業総括

吉永弘幸 氏

どこよりも一番リアルな
映像と音声をお届けしていると
いう自信があります

日本初の民間有料衛星放送として1991年に放送を開始したWOWOWでは、2000年からデジタル放送をスタート。デジタルハイビジョン放送や5.1ch音声に意欲的に取り組んできたが、昨年来、加入者数の減少に苦しんできた。映画を中心に世界中から選りすぐった優良なコンテンツを高品位な映像と音声で放送するWOWOW。大画面の普及にともなってホームシアターが定着しつつある今、良質なコンテンツを豊富に持つ同社はどのような営業戦略をとろうとしているのか。本年4月から執行役員営業統括に就任した吉永氏に話を聞いた。

インタビュー ● 音元出版社長 和田光征

どこよりも一番リアルな
映像と音声をお届けしていると
いう自信があります

加入者数の拡大が
この一年間の最大の課題

―― 3月期決算が終わりましたが、WOWOWの近況はいかがでしょうか。

吉永 WOWOWの加入者数は昨年1月まで順調に伸びてきましたが、2月から減少しはじめました。2月〜11月まで続いた減少は昨年12月にいったん上昇に転じましたが、基調そのものは変わらず、今年に入っても減少が続いています。その結果、昨年1月に約270万人を記録していた加入者数は、今年の3月末で約250万人と20万人程度減少しました。

最大の問題点はWOWOWがお客様や代理店の皆様から忘れられてしまっていたという点です。WOWOWは有料放送局です。つまり、お客様がお金を払うということに価値を見出してくれなければ契約していただけません。

今、WOWOWにとっての最大のテーマは、いかにして加入者数の減少に歯止めをかけて、プラスに転換させていくかということです。WOWOWという会社を評価していただく基準には利益に加えて、成長性という面があります。経営的に何とか利益を出すことはできましたが、成長性という点からは加入者を伸ばしていくことが重要です。この1年間は何が何でも加入者を増やしていきたいということで、そこに向けていろいろな取り組みを進めています。ただし、企業ですから株主さんや従業員などのことを考えれば、利益は当然ですが、利益に偏りすぎることなくバランスをとりながら、加入者の拡大に取り組んでいくということになります。

―― 御社ではすでに約250万人の加入者がいらっしゃいます。そこからさらに加入者を増やしていくために、どのような施策を打たれるのでしょうか。

吉永 すでに契約されている250万人のご加入者に加えて、さらに増やしていくのはなかなか難しいところです。有料放送では常に10%程度の解約はつきものです。お客様のライフスタイルや番組に対する嗜好性の変化に加えて、昨今の経済環境もあっておやめになる方もいらっしゃいます。これをいかに抑えていくかということとあわせて、解約数を上回る新規契約をいかに獲得していくかということが問題になります。

そのためには、まず商品性を高めていくことが必要です。放送事業者にとっての商品は番組です。したがって加入者数を増やせるかどうかは、どれだけ魅力のある番組を作れるかどうかということが最大の課題になります。そこで、この春から番組の編成を変えて、全体にストーリー性を持たせるようにしました。また、昨年末から「プロデュースWOWOW」をスタートさせました。

WOWOWは大半の番組を購入していますが、単純にそのまま放送するだけでは有料放送としての付加価値をなかなか感じていただけません。加入者の皆様に有料放送ならではの付加価値を感じていただくためには、購入してきた番組をどういうふうに料理してみせるかということが大切です。それが編成の仕方であり、組み合わせの作り方です。いつ、どこで、どんな人に、どういうタイミングで、どんな番組を提供していくか。これを考えるのが「プロデュースWOWOW」の概念です。その流れの中で、この4月から習慣編成という考え方も出てきましたし、オリジナルドラマである「ドラマW」もはじめました。これから番組は段々良くなっていくと思います。重要なことはそれをお客様にどうお伝えし、認識していただけるかどうかです。

430万〜450万件の
加入者数を目指す

―― 御社ではデジタル放送への移行を積極的に推進していますが、お客様には、デジタルとアナログのサービスの違いが理解されていないようですね。

吉永 私はテレビ放送とはそういうもののように思います。その中で何を訴えられるかということが大事です。プロデュースWOWOWは、有料放送ならではの切り口でのプロデュースをやっていこうということで進めています。

昨年のサッカーワールドカップでスカパーさんが全試合の放送をうたい文句に、非常に上手なマーケティングをされました。その時に、WOWOWが世の中の意識の中から消えてしまったようです。昨年12月に当社の佐久間会長と一緒に全国のお店や代理店さんを回ってお話を聞きましたが、WOWOWが良くないとか、つまらないとかいう言葉は聞かれませんでした。ただ、忘れていたというんですね。これは、結構つらい話でした。この事実を受け止めてお客様や代理店さんに対して、もう一度WOWOWを思い出していただこうということに、今取り組んでいるところです。

―― 最終的な加入数の目標を、お聞かせください。

吉永 個人的な見解では、430万〜450万件程度を考えています。有料放送の総市場規模は全世帯数の20%程度といわれています。当社以外にも有料放送がありますので、ケーブルテレビを経由する場合も含めて、その半分の10%程度を狙うというのが妥当のように思います。これはそう簡単にいけるとは思いませんし、時間も相当かかると思います。

今、BS放送を視聴できる世帯は全国で、約1800万世帯あります。その中で現在WOWOWは250万世帯から契約をいただいています。これが仮に2000万世帯になれば、20%で400万件ということになります。

―― オリジナル番組の制作では、どのような方向の番組つくりを狙われているのでしょうか。

吉永 オリジナルでコンテンツを作るのは大変です。最近「ドラマW」ということでオリジナルドラマに取り組みはじめましたが、これがなかなか大変です。お金の問題だけではありません。地上波の皆さんは50年近い蓄積をもたれていますが、われわれにはほとんどありません。オリジナル番組を作るための人やノウハウで地上波の放送局とは大差があるのが実態です。また、地上波と同じものをやっても仕方がありません。地上波のメインコンテンツのひとつに報道があります。これに対してWOWOWはエンターテインメントに特化したチャンネルです。そのため、全国4300万世帯すべての人に見ていただくことは狙っていません。したがって、それを強みとしたオリジナルの番組の作り方が存在すると思います。

―― 携帯電話に向けた動画配信サービスにも「メディアキャスト・ケータイWOWOW」でFOMAの携帯電話向けの、動画配信サービスを開始されました。このような新しい取り組みにもWOWOWならではのサービスができるといいですね。

吉永 これからのブロードバンドに代表される新しいメディア時代の本格的な到来を考えて、WOWOWでは様々なトライアルを始めていますが、私は、テレビと携帯電話などではコンテンツそのものが違うように思います。たとえば、携帯電話では非常に近接して画面を見ることになります。PCでも近接視聴が基本で、テレビを見るときとでは画面との距離がまったく違います。ですから、それに合ったコンテンツがあるのではないかと思います。たとえばブロードバンドで2時間の映画を見るということはないように思います。ブロードバンドが広がっていくことは確実ですが、それをどのように活用していくかについてはまだはっきりとは見えていません。

デジタルハイビジョンと
5・1ch放送をさらに増やす

―― WOWOWの視聴者数を増やしていくためには、エンターテインメントやクオリティーに対して感度の高い層を動かさないといけないと思います。特に30代は世代別に見て最もホームシアターやデジタルAV機器への関心が高い層です。

吉永 そうかもしれませんね。若い層をどう取り込んでいくかということが、テーマであることは間違いありません。映画は画質がきれいですし、音声もサラウンドです。

WOWOWでは、今、デジタルハイビジョンや5・1chサラウンド音声の番組を増やすことに注力しています。少ないチャンネルであるがゆえの強みを活かして、より満足度の高い放送に徹していますが、そのひとつの切り口がデジタルハイビジョン放送です。素晴らしい画質とそれにふさわしいコンテンツをしっかりとお楽しみいただく。音の部分でも高品位な5・1chサラウンドを楽しんでいただく。この2〜3年はこれを徹底していきたいと思っています。

今後、地上波デジタルが出てくれば、放送全体に占めるデジタルハイビジョンのウェイトはもっと高まるでしょう。しかし、デジタルハイビジョンのコンテンツを作るにはまだ、大変な時間とお金がかかります。

WOWOWのコンテンツの中心は映画です。デジタルハイビジョンに一番適した、つまりデジタルハイビジョンの良さを最もご理解いただけるコンテンツは、映画です。今、WOWOWでは、映画のおよそ35%はデジタルハイビジョンで放送しています。5・1ch音声も20%強と、どこよりも一番リアルな映像と音声をお届けしているという自信があります。今後さらに、デジタルハイビジョンや5・1chサラウンド音声の比率の向上に力をいれていくことによって、より高画質で高音質なサービスをお楽しみいただけるようにしていきたいと思います。

―― 高品位メディアを世の中に普及させるためには、オピニオンリーダーとして役割を担ってくれる先端ユーザーを捕まえることが大切だと思います。

吉永 現在ご契約いただいている加入者はどちらかというと、コアなお客様というよりも、ライトユーザーの方が中心のように思います。放送としての性格上、今後もライトユーザーが中心になっていくことは間違いないでしょうが、高画質や高音質を理解していただける層への訴求も大切なポイントだと思います。

デジタルハイビジョン放送の
魅力を広めていきたい

―― せっかくいい高画質とそれにふさわしいコンテンツを揃えた時に、次に課題になることは、いかにそれを世の中に認知させていくかですね。

吉永 デジタル放送によって提供できる高品位なサービスに、できるだけ多くの方を誘導したいというのが私どもの願望ですが、BSデジタルを受信できるハードが広がっていかないと、われわれの思いを受けていただけません。何とか、デジタルの受信機が早く広まって欲しいというのが切なる思いです。そして、販売店さんでハードを販売する時に、ハードを売られる際のツールとしてデジタルWOWOWを使っていただければいいと思います。

―― そのためにはデジタルハイビジョン放送の魅力をもっと皆さんに知らせるべきではないかと思いますね。

吉永 今、宣伝・広告を中心とした告知活動を進めているところです。デジタルハイビジョンの素晴らしい世界を一度体験されたお客様は、後には戻れません。ただ、一方で、WOWOWにはまだ多くのアナログ契約を結んでいただいているお客様がいらっしゃいます。将来のことを考えると、デジタルの契約を増やしていくことが必須ですが、会社経営という面ではアナログのお客様も大切にしていかなければいけません。ここが難しいところです。今年から地上波デジタルが始まって2005年頃には花開くだろうと思っています。その間の2〜3年がたいへん厳しいように思います。

―― アナログ契約とデジタル契約で、販売店さんとのお付き合いの仕方に違いはありますか。

吉永 アプローチの仕方はあまりかわっていません。アナログではデコーダーの販売や、つないでいただかなければいけないということで、量販店さんや地域店さんなどの電気店のルートを中心にやってきましたが、デジタル契約においても電気店ルートがWOWOWの契約を獲得するための最大のターゲットであることは間違いありません。ただ、販売店さんにとっては、WOWOWは主力商品ではありませんので、必ずしも順調とはいえませんが、われわれの放送をうまく利用していただければと思っています。

―― PDPの普及やプロジェクターの広がりが進んでいる中にあって、地域店の役割が大きくなってきています。そこへの取り組みはいかがでしょうか。

吉永 地域店さんは現在5万店の登録をいただいています。このため、直接全店をフォローすることはなかなか難しいので、各メーカーさんの販売政策に取り入れていただくことで対応させていただいています。

―― 今もっとも重要なことはWOWOWがデジタルハイビジョン映像とサラウンド音声の放送をしているということを、いかに広い層に知らしめて体験させるかということですね。

吉永 そのとおりです。いかにして、それをひとりよがりにならずにお客様に伝えていけるかが、WOWOWにとっての最大のテーマです。

 

◆PROFILE◆

Hiroyuki Yoshinaga

1948年12月26日生まれ。71年3月九州大学経済学部卒業。71年4月松下電器産業入社。99年WOWOW営業局局長、00年7月CS企画室室長、01年7月プラット・ワン取締役。02年9月WOWOW執行役員プロモーション局長、02年12月執行役員営業局長、03年4月執行役員営業統括、現在に至る。