巻頭言

商い考 / 和田光征 WADA KOHSEI

「お客さまは来てくださらないもの」
「お取り引き先は売ってくださらないもの」
「銀行は貸してくださらないもの」

これはイトーヨーカドー伊藤雅俊名誉会長の日経「私の履歴書」の書き出しである。続けて「何よりも信用が第一である。信用とは担保やお金ではなく、人間としての誠実さ、真面目さ、そして何よりも真摯であること」。さらに「感謝の心を忘れるな、過信するな、誠心誠意無私の人であるべき」と記してあった。

イトーヨーカドーやセブンイレブンの隆盛を見るにつけ、創業時からの理念は脈々と流れ、実践され、DNA化していることが分かる。同時に10年後、20年後における同社の成長をも予見できるのである。

● お客さまはきてくれない

「きてくれない」という逆説に私は感銘した。多くは「きてくれる」と思っているから大きな店舗を構える、きてくれるために、いわゆるワンセットの手法でチラシや宣伝や大特価行列をつくらせるのである。

しかし、永遠にきて頂ける保証は何もない。何度も何度もきてくれるなど至難の術であろう。いつも緊張感を持って、お客さまの立場に立って、お客さまが求めるもの、単に価格だけでない、もっと深いものを捉えないと永遠の繁栄などない。

故に「きてくれない」という判断に黄金の光を感じて止まないのである。お客さまはいい商品をベースにした暖かいサービス、安心感、信頼感を求めているのであり、決して価格だけでくるのではない。しっかりとお応えできる姿にして、お客さまとの絆を大切にする、このことが繁栄の礎であり商いの本質である。

● 売ってくれない

私は今、業界内の大きな変化を感じている。それはメーカーサイドに「売らない」という動きがはっきりあるということである。ブランドの防衛に、或いは利益の確保に目がしっかりと向いているということである。それが可能なメーカーはいずれ目的を達成することになると思うが、できないところは相変わらず価格競争の渦中であえぎ疲弊することになるだろう。

「売りたくないところには売らない」「安売りばかりでは売ってもらわなくてもいい」という思いは今や全社にあるのではないか。

また、過度のリベートや協賛金の要求など、モノ、カネを過度に要求し続けるケースも商いの本質から逸脱しており、そうした傾向の強い販売店からのメーカー離れは強いと言えるだろう。

販売店側に「売ってくれないもの」と伊藤会長は教えているのである。そして滅びていく要因は傲慢≠ゥら始まると教えているのである。日本一の売上げを誇ったダイエーにしても、その崩壊の要因は傲慢≠セった。傲慢という根っこが崩壊を招いたのである。

販売店はメーカーに「売りたくない」という思いを抱かせることなく、「利益ある商売」を展開し共存共栄を図って欲しい。またメーカーサイドも「お客さまは買ってくれない」という思いをさらに強くし、いい商品を供給して頂きたい。

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