トップインタビュー

ソニー(株)
ブロードバンドソリューションネットワークカンパニー
ホームオーディオカンパニー
プレジデント
兼 スーパーオーディオCDビジネスセンター
センター長

山本喜則 氏
Yoshinori Yamamoto

A&Vフェスタを弾みに
新たな時代へ向けた
オーディオ復活へ全力注ぐ

オーディオマーケットの活性化が待望される中、装いも新たに本年秋に開催される「A&Vフェスタ2003」。
市場の機運を一気に高める一大イベントと位置付けられ、2003年はまさに、オ−ディオ復活の年と位置付けられる。
同フェスタ成功へ向けての意気込み、そして、現在の市場の課題など、副実行委員長もつとめるソニー・山本喜則氏に話しを聞いた。

インタビュー ● 音元出版社長 和田光征

スーパーオーディオCDを通して
オーディオの魅力と可能性を
より多くの人に語りかけていく

オーディオ市場を牽引する
販売店育成の環境を創る

―― まず、2002年度の上半期の決算ですが、世界的に見たオーディオの市況はいかがですか。

山本 全世界的に非常に好調ですね。特に、中南米・北米が牽引力になっています。米国ではDVDプレーヤーが非常に安価になり、日本の何倍も売れています。DVD映画ソフトの充実も含め、上期は大変好調でしたね。中南米も景気がよかったものですから、中でもメキシコでは、国民性とも言えますが、とにかく音楽が好きで、音楽をかけては踊る。そのダンス用としてDVDが大変普及しました。実はメキシコが日本を抜いて、米国に続く世界第2位のマーケットに成長しています。

―― 日本を抜いて2位というのは驚きですね。

山本 さすがに米国を抜くことはありませんが、しばらくは安定した世界第2位のDVDマーケットとなりそうです。重低音の効いた、大音量で鳴らせる大型スピーカーを野外に持ち出して、ボリュームをいっぱいに出して、一晩中ラテンミュージックを楽しむというスタイルで、市場が倍々で伸びてきています。当社の工場がメキシコにあることも一因かもしれません。国によって景気やお国柄などはもちろん様々ですが、中南米は共通してかなり高いポテンシャルがあると思いますね。

―― 他に動きの目に付く地域はありますか。

山本 中近東もすごくいいですね。隣接するアフリカも伸びてきています。元々が音楽好きな地域ですから、これからももっと伸びるでしょうね。さらに、世界に目を向ければ、これからオーディオが始まるという国や地域も珍しくありません。そのような中で、年々売上げが落ちている国の代表が、実は日本なんです。

海外ではこのようにうまくいっているのに、国内ではなかなかうまくいかない。国内メーカーはどこも、皆歯がゆい思いをしていると思います。その意味からも、今年秋に開催される「A&Vフェスタ」は、業界を上げて練りに練り上げたまったく新しいイベントとなりますので、これを大きなばねにしなければいけないと思います。

―― 国内のオーディオ市場の活性化へ、現状では、どういった点が課題としてあげられますか。

山本 例えばホームシアターにしても、まだうまく立ち上がっているとは言えないと思います。各社一生懸命にやっていますから店頭での露出度は確かに高い。しかし、売上的に見てみれば、米国の10分の1以下です。

ホームシアターがいいと、実はお店が大変頑張れるんですよ。米国にも量販店はありますが、それ以外にも、単品コンポを販売している販売店がかなりの数残っています。高価なスピーカーやアンプが日本の10倍以上売れている。ホームシアターだけでなく、SACDプレーヤーや2チャンネルのピュアアンプ、高級アナログプレーヤーなどをきちんと売っている販売店が数多くあるわけです。

それらの店も、ホームシアターという市場ができあがっているからこそ、売上規模がしっかりしていて、高価なものを売る余地が出てきています。ですから、日本でもこういうオーディオをリードしていく店が、これからもきちんと成り立つ環境を整えていくためにも、まずは、ホームシアターをきちんと立ち上げて、マーケットをもっと膨らませていかなくてはならないと思います。

―― 家電流通がこぞって、価格優先志向になり過ぎていることも、1つの反省材料ですね。全てがナショナルチェーン化する必要はありませんから、おじいちゃん、おばあちゃんの代から、その場所で商売をやってきている販売店は、抜群の信頼感を武器に、地域に密着してユーザーの懐へ深く入り込んでいくビジネスに、もっと磨きをかけるべきなんですね。お客様もお店も、ようやくそれに気づきはじめたのではないかと思います。

その中でのひとつの傾向として、地域密着型でホームシアターにしっかり取り組んだところが、前年比でもかなり数字を伸ばしているようですね。お客様へのしっかりした対応、付加価値販売における差別化戦略、その結果が目に見えて出てきているように思います。

山本 米国にはカスタムインストーラーという職種があります。ホームシアターの導入に際し、お客様の快適に楽しみたいという様々な要望に応えていくのは、彼らの役割になっています。商品を購入したお客様が満足いくように、店やカスタムインストーラーが競い合っている。それにより、お客様の側でも、お隣がはじめたから、友達が購入したからという風に連鎖反応が出て市場が広がっているわけなんです。そうしたひとつのプラスの流れを、日本でもうまく創っていきたいと思いますね。

SACDをメインテーマに
位置付け、市場拡大を図る

―― 御社をはじめ、年末にはプロジェクターの新商品が賑やかに揃いましたが、購入されるお客様も30代以下の若い方がかなり多くなっています。六畳間で楽しんでしまおうと、販売店と一緒になって知恵を絞ってやっていますが、非常によい傾向ですね。多くのお客様が今、とにかく大画面で見たいと思っています。そのタイミングで、店頭で体験していただき、さらに、店独自のソフトウエアでお客様に応じてデザインをしていく。そうした工夫が強く求められているのではないでしょうか。

山本 そうした意味からも、ホームシアターのビジネスはまだこれからなんですよ。マーケットは5倍にも、10倍にも伸びますから、業界一丸となった、市場のパイを拡大していく取り組みが必要です。そうすれば、延いては、SACD(スーパーオーディオCD)やDVDオーディオなどの音楽をマルチチャンネルで聴くという環境も、新しい楽しみとして加わってくるはずです。

売る側がお客様にもっといい音で聴いてほしいと思う。お客様の側でも、もっといい音で聴くには、どのスピーカーがいいだろうかと考える。そんな環境を創り出すことが、当面の課題ではないかと思います。

―― SACDもソフトが700タイトル近くになりました。ホームシアターの環境をきちんと創り上げていけば、そこにオーディオが入り込んでくる。おっしゃるように、SACDを使ったマルチチャンネルなどは、そこにズバリはまりますからね。

山本 我々もSACDを一番の戦略テーマとして考えています。

オーディオの魅力を改めてアピールしていくという点からも、例えば、CDでは高域が20kHzで切れています。高い音は自然界に多く、人間は聴感上感知できないと言われていますが、実際にはここのあるなしで音の聞こえ方がかなり違ってきます。SACDで聴くと、普通のCDで聴くより心地よくリラックスして聞けるんですね。そうした違いを、マニアの方だけでなく、多くの人が聴き取り、感じ取ることができるのが、SACDの大きな魅力です。

また、マルチチャンネルは、誰にでもわかりやすい新たな切り口となります。最近はアーティストも皆マルチチャンネルで作品を作りたがります。そのため新しいソフトでは、マルチチャンネルの作品が多く見受けられるようになりました。マルチチャンネルを聴くための環境をわざわざ整えなくてはならないというのであれば、それは大変なことですが、ホームシアターの環境が整っていれば、それも簡単ですからね。

―― ピュアオーディオに力を入れていきたいという話を、最近はメーカーや販売店でもよく耳にします。2003年は、ピュアオーディオに光が当たる年になるように思います。

山本 SACDのよさは、比較的容易に誰にでもわかっていただけるものなんですね。それを手軽に楽しんでいただくためにも、年末商戦でも人気を集めましたDAV―S880など、DVDホームシアターシステムへのSACDの搭載を進めていますが、今後も、より気軽に手にできるミニコン等への搭載も進めていきたいと思います。

この年末年始には他社からも相当強力な商品が投入されましたので、ソフトタイトル数の充実と合わせて、今年はSACDが大きく動き出す年になると非常に期待しています。

ネットワークには前向きに
対処法を導き出していく

―― 一方、オーディオではまた、「ネットワーク」が大きな課題としてクローズアップされていますね。音楽CDの売上げも前年比2ケタダウンとなりました。これも、コピー問題を理由にあげるのは言い過ぎですが、一因であることには違いないですね。

山本 違法コピーをはじめとして、大変整理のできていない状態にありますね。現実に音楽を聴く手段としてそこで完結してしまっている人もいます。すなわち、本来ならば、ステレオやCDを買ってくれたはずの人が、買わないで終わってしまっているわけです。オーディオ業界としても、もっと真剣に考え、取り組んでいかなければならないテーマであると考えています。

これまでオーディオでは色々な提案を行ってきました。CDが出て、MDが出て、その都度、マーケットが活性化されてきました。ところが今回のネットワークに関しては、その動きが急速だったこともありますが、何の提案もされないままでいます。ユーザーの側からみれば、CDを買わないでダウンロードしているわけですから、音楽を聴く機会が減ったわけではありません。重要なのは、この人たちを、もう一度どうやってマーケットにもって来るかということです。

要は音楽なのですから、「これは我々のビジネスだ」くらいに、強気に望むべき課題だと思います。何もしないでいたら、下手をすると、オーディオはPCに好きなソフトを入れて聴くだけ、ということにもなりかねませんからね。音楽というのは決してそうではないと思います。むしろ反対に、オーディオ機器を買ったら、インターネットラジオを楽しむことができたり、ボタン一つで好きな音楽が買えたりする。そうしたことを積極的に、こちら側から提案し、仕掛けていくべきではないかと思いますね。

昨年秋に、パシフィコ横浜で開催した「ソニードリームワールド2002」の狙いも、ひとつはそこにありました。ネットワーク時代に今、何ができるのか。それを、お客様に実際に体験いただきました。商品の面白さ、新しい楽しみ方を広めていくことは大切ですね。

A&Vフェスタの魅力を
最大限にアピールする

―― 今年秋には、待望の「A&Vフェスタ2003」が横浜で開催されますね。

山本 我々が昔、商品開発をしていた頃のオーディオフェアには、オーディオモデルというものが必ずありました。時間がなくて徹夜の連続で作ったものをショウに並べるんです。各社がそれをやりましたから、当日どういうものが出てくるのか非常に楽しみでした。ユーザーから見ても、ワクワクする商品が各社のブースに顔を並べていたのではないかと思います。A&Vフェスタでは、そんな匂いも感じられるものにできればと思います。

―― 昨年までは、まだどこかに20世紀の余韻があったように思います。それが、2003年になり、本当の意味での21世紀型がスタートを切りました。新しい商品で新しいユーザーのライフスタイルも出来上がってくると思います。そうした中で、2003年に新しく「A&Vフェスタ2003」がスタートするということは、非常に意義のあることです。業界をあげて取り組んでいかなければならないと思いますね。

山本 開催場所も、横浜という新しいところでスタートを切ります。当初は、出展を迷われていたところも少なくないと思います。しかし現在では、かなりの会社にご賛同いただいています。さらにこれから、このフェスタの魅力的な内容をどれだけアピールできるかが重要になると考えています。

Webでの宣伝も大変重要になるでしょう。メーカー各社の意識においても、「うちもうちも」、という形に盛り上げていきたいですね。

―― Webの力を存分に活かし、横浜を発信基地にして全世界に発信したいですね。メーカーの事前情報を随時アップし、当日はリアルタイムで更新していく。行ける距離にいる人々は行ってみようという気にさせ、行けない遠方の人々はネット上で内容を見ることができるわけですからね。

山本 これからのオーディオを知る上では、A&Vフェスタは見逃すことができない、そう思わせる内容にしていきたいと思います。このフェスタの成功を、オーディオ市場活性化の大きなきっかけにしていきたいですね。

 

◆PROFILE◆

Yoshinori Yamamoto

1949年5月14日生まれ。神奈川県出身。73年ソニー鞄社。95年ソニーHAVオーディオ2部統括部長、00年ソニーHNC,AE事業本部ホームオーディオ事業部長、01年ソニーBSNC、ホームオーディオカンパニープレジデント、現在に至る。趣味はオーディオ鑑賞、コンサート観劇、ゴルフ。