巻頭言

深層ユーザーオリエンテッド / 和田光征 WADA KOHSEI

 あけましておめでとうございます。

 いよいよ2003年の幕開けですが、振り返れば21世紀の扉を開いて3年が経過したことになります。20世紀型の価値から新世紀型の価値へと移行する、そんな「価値」の戦いに明け暮れる3年間であったように思います。また、新しい価値へ向け、業界も、企業も、個人も変わらざるを得ない環境が、国家から市場から要求され、その激変の中で明暗もあったといえるでしょう。

 しかし、新しい価値といってもその本質は人間の存在、人間そのものにあるわけで、そこからはずれたものは別の意味で排除されたのではないでしょうか。典型がITバブルの崩壊です。新世紀を迎えた云々ではなく、節目節目には必ず、バブル型価値を鼓舞する進歩的と自称する人達が現れ、砂上の楼閣を築き上げていくようです。

 その正体を見、限界も見、その中にある真実の部分を見ることの重要さを、我々は、バブル期にかなり訓練したといえるのではないでしょうか。私なりに申すならば胡散臭い集団が闊歩している場合がほとんどだといえるでしょう。

 GEの前CEO、ジャック・ウェルチが母親から受けた教育の中で言っていました。「遠くに立っている人が胡散臭い人かどうか、すぐ分かる」と…。

 この3年の間に、胡散臭い人達はかなり痛い目に合ったのではないでしょうか。人間とは素晴らしい反面、愚かです。株価が上昇するとどこまでも上昇すると思い、時価総額がどうなったといった価値が横行します。「額に汗流す」という価値観が無に帰すわけですが、2003年が始まる頃にはそうした価値は地獄を味わっているのが実情でしょう。

 企業や人々のモラルはそんな胡散臭い価値によって堕落していくわけですが、それは胡散臭いトップ達によっての行状であり、人間本来が持つ素晴らしい価値という輝く光によって、平常化されていくのだと思います。

 2003年、人間の本性的な価値から出発し、ユーザーにしっかり応えられなければ胡散臭い業界になってしまいます。「胡散臭い商品」、これもありました。利をただただ追い、それでいながら中身が薄く、ユーザー不在の商品。

 今こそ、深層ユーザーオリエンテッドが重要です。今まで以上にです。生活環境を考えれば、余程尖った商品でなければ買わないでしょう。昨年11月、失業率が6%台になり、中でも男性が9%台、10人に1人が職を失う、こんな状況で衝動的な消費などあり得ないわけで、業界あげてユーザーの生活を豊かにする尖った商品を提案していこうではありませんか。

 冒頭来「胡散臭い」などと新年に相応しくない言葉を連発してしまいました。

 10人に1人が職を失うという異常事態に他人事のような総理大臣はじめ政治家こそ、今最も「胡散臭い」と思うと同時に、憤りを鎮めることができない2003年の正月であります。

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