スペシャルインタビュー

立ち上がってきたセルビジネス
様々な提案でより大きな市場に

ソニー・ピクチャーズエンタテインメント代表取締役副社長
宗方 謙氏

DVDの登場によってパッケージソフトのセル市場が拡大
各メーカーが内容や価格に対する様々な取り組みを行っており
これが市場拡大の原動力となっているのは明白な事実だ
ニッチな市場も含めて多彩な企画を提案しているSPEの宗方氏に
DVDを取り巻く環境についてうかがった

 

DVDはまだ伸びる市場
特徴を打ち出すことが鍵

―― 映画業界の収益構造も変化してきていますが、DVDパッケージのような興行以外のビジネスも非常に重要な要素となっていますね。

宗方 全体で見れば、すでに過半数は映画興行以外の収入となっています。

例えば、放送による収入は80年代から90年代にかけて非常に良く伸びました。米国では、衛星を使ってCATVシステムに配信する有料多チャンネル放送が開始され、総合誌のなかに専門誌を持ち込んだような感じになりました。衛星の中継技術もデジタル化し、ひとつの衛星で数十チャンネルも送ることができるようになりましたから、コストが下がり、欧米、中南米、アジアなどで衛星とCATVが大きく伸びました。DVDにしても、それまでパッケージメディアを買わなかった方々を買うように走らせたと言えるでしょう。

VHSのころは、日本でもアニメのような特定の分野でしか商品として成立していませんでした。今はセルとはDVDビジネスと捉えられており、セルで発売したビデオがDVDで発売されないことほとんどありません。DVDの普及によって、事業構造が大きく変化しました。

―― 日本でのパッケージ販売ということでは、ソニーピクチャーズ以外のスタジオの商品もありますね。

宗方 当社で扱っている商品には、コロンビア・トライスターのほかにユニバーサル、ドリームワークス作品の販売を受託しています。3つのスタジオのDVDとVHSをハンドリングするという恵まれた環境にあり、非常に豊富で魅力のあるラインナップを揃えることができます。このラインナップのなかのそれぞれのタイトルをきっちりと販売していくことが基本ですね。

さらにレンタルもセルも顧客の裾野を広げていくことが重要であると考えています。レンタルの世界では、VHSからDVDへの移行をスムーズに進めること、販売店が潤うようなビジネスを構築することです。VHSに比べれば、DVDの方がスペース効率が良く、レンタルビジネスを伸ばしていくことができることをアピールしていきます。セルビジネスでは、新作も過去の作品もお客様にとって値ごろ感があり買いやすく、お店にとってもマージンがあり、プレーヤーの低価格化による顧客の拡がりを期待したいですね。ディーラーの方々との連携のなかで、お互いに伸ばしていく努力をしていきたいと考えています。

DVDはまだまだ伸びると思います。伸ばすための起爆剤としては様々なものが考えられます。それは作品力かもしれませんし、プライシングであるかもしれませんね。

日本では専用プレーヤーの普及が19・3%程度に対し、米国は約40%と2倍以上ですが、ハード、ソフトともに値ごろ感のある商品が増えてくれば大きく伸びる状況にあると思います。米国では、DVDはハード、ソフトともにクリスマス商戦での目玉となっていますが、日本も購買意欲をそそる商材であると感じています。

いずれにしても、お客様に喜んでいただけることが大切で、その間にセル、レンタルといったディーラーの方々などのマーケット別に役割を持った方々がいるわけです。こういった方々はお客様との接点でもあるわけで、良いビジネスができる構造を考えなければなりません。

作品についても、認知度の高い大作ばかり並べることはできません。これからのビジネスは、ニッチな作品を適正な売り方と適正な量をわきまえてファンに提供していくことが必要です。余裕を持ってできる体制作りとともに、パブリシティ、プロモーションなども作品やマーケットに応じて対応できる組織を作り上げたいと考えています。

―― 公開からの流れも変わってきますね。

宗方 例えば、2人で映画を見て食事をすると1万円くらいはかかってしまいますが、半年待てば300〜400円でレンタルできます。通常は劇場公開からレンタル&セル、有料放送、地上波放送と続きますが、ウインドウとしてどのくらいが適正なのかはお客様の立場で考えなければなりません。一般消費者にとっては、なぜレンタルし、なぜ買うのかという理由があります。それをいろいろと仮説を立てながら検証していくことが重要であると思います。

―― 『Big Buy 2500』では、リーズナブルな価格設定で市場拡大を狙っていると思いますが、これを企画された経緯などをお聞かせください。

宗方 現在、新作はほぼ3800円で提供しておりますが、マーケットがライトユーザーにまで広がっていないということで設定されたものです。過去の作品のなかでも魅力がある作品は多く、値ごろ感のある価格設定をすることでマーケットを広げていけるのではないかと考え企画しました。

当社よりも安価な商品もありますが、お店のマージンも少なくなりますし、優れた作品ならばそこまで下げなくても良いのではないかと考え、2500円で設定しています。ある調査では、衝動買いの対象になる金額は2000〜3000円の前半であるというデータもあり、今の段階では極端に価格を下げても販売枚数の増加がそれほど期待できないと思います。現在は、2500円程度で十分に値ごろ感があるのではないでしょうか。

DVDは、VHSではできない価値を付けることができます。付加価値を認識していただき、お客様にもお店にもメーカーにも納得できる価格設定が一番だと思います。DVDだからこそ楽しめる内容でなければ、価格を下げただけでは商品として魅力がないと思います。

当社は同じ作品を同じ会社から複数のメディアに流していますので、VHSや、WOWOW、スターチャンネルなどの有料放送など、メディアによる差別化を明らかにして、メディアそれぞれの楽しみ方をアピールできることが重要です。そうでなければマーケットは壊れてしまうと思います。

ニッチな市場も含めて
企画で掘り起こしていく

―― レコードなどは再販で価格を維持していますが、DVDはそうではありません。独自の企画で様々な展開ができると思います。

宗方 どういったユーザーにどのように購入されているのか、またライトユーザーにはどの辺りまで広がっているのかなどを見極めるべきです。そういう意味では、価格については毎年見直す必要があるかもしれませんね。

例えばストップモーション・アニメの『レイ・ハリーハウゼン』などは、好きな方にはたまらない作品ですから非常に好評でした。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の3部作トリロジーBOX≠燉ヌく売れたタイトルです。このほかにもテレビシリーズのDVD化などが考えられますし、ニッチなマーケットに良い企画が出てきそうだと思います。公開から時を経ても確実にファンが存在する作品には、映像特典などの価値を付け、値ごろ感のある価格を設定し、なおかつお店がマージンを取れるという仕組みを構築していきたいですね。

―― 裾野を広げるということではいかがでしょうか。

宗方 コンビニエンスストアには注目しています。今年のビッグ4キャンペーンの一環としてDVDに予約特典(フィギュア)を用意し、さらにチェーンごとに特徴付けを行いましたが、なかでも『スパイダーマン』は非常に好評でした。

コンビニエンスストアのコンセプトは、あらゆる生活場面で使える商品やサービスの売れ筋だけを並べています。高回転の商品に絞り込むことで、書籍などは出版業界のルート別の出荷ベースで1、2位にあるわけです。

トップセリングの商品を扱うコンビニは、1日3回デリバリーされる整備された物流のインフラとPOSによって店ごとの売れ筋や在庫が把握されていますから、従来の専門店とは違う対応ができると思います。

―― DVDのビジネスにおいて、業界に対する啓蒙活動も必要になってくると思います。

宗方 メーカー側の意識改革と、各社が置かれた立場や役割りもあり、いつも百点満点とはいきません。しかし大事なのは、お客様からの要望に耳を傾け、各メーカーが良いものを確実にお客様のお手元に提供していくということだと思います。

そのためのいろいろなアイディアを我々が提供できれば、お店はお客様との接点としてその地域に最も適した販売ノウハウをお持ちですから、それを活用して販売していただけると思います。それぞれの地域の優良店をご覧になればわかると思いますが、既存のお店自身がお客様に対応できていなければ、市場原理が働き新規開拓者が出てくるでしょう。

―― ライトユーザーが増えてくるとまたレンタル中心になるのではないでしょうか。

宗方 自分自身、セルとレンタルの両方を利用していますが、まだ見ていない作品を見る場合にはレンタルを利用し、知っていて話題になっている作品やVHSで持っていなかった作品などは購入しています。潜在的な需要はあり、タイトル次第でセルまたはレンタルを選ぶわけで、現時点では両方こなせる態勢を整えておくことが大切でしょう。

レンタル中心だったVHS時代のパッケージビジネスにセルが加わり、きちっとしたマーケティングが求められています。レンタルはVHSからDVDへ移り、DVDが創り出したセルビジネスはまだまだ成長段階にあります。肝心なのはユーザーにとって欲しいものがあるかどうかということだと思います。

―― 各社様々なトライを続けてきていますが、セルスルー拡大するための起爆剤とはなんでしょうか。

宗方 やはりひとつは価格ですね。広告展開は『Big Buy 2500』を中心に行っていますが、これはDVDソフトにあまり興味を持っていない方たちへのアピールになっていると思います。さらに、スペースをとらず、テープのように傷むことがない半永久的で、ランダムアクセスが可能な使いやすいメディアであるという基本的な部分も、引き続きアピールしていかなければならないと思います。

一方で、ハイエンドユーザー向けにはSUPER BITシリーズを投入しますが、趣味性の高いニッチな作品まで揃えています。ソニーのWEGAシアターと組んだ体験会なども随時開催していますが、綺麗な映像と迫力の音に驚かれ、DVDの素晴らしさを改めて知った方たちも少なくありません。

スタイルに合わせた
商品を提供していく

―― DVDの要素のなかに5・1chのサラウンドという特長もありますが、この音のアピールが不足していると思います。

宗方 5・1chはワイヤリングのほか、一般的な居住空間を考えるとあまり大きな音で楽しむことはできませんよね。それを反映してか、最近では手軽で低価格なものが多く目に付きます。これではプライシングがひとつしかないような感じで、面白味に欠けますよね。

オーディオも以前はターンテーブルだけで100万円などというハイエンドクラスがきちんと存在していました。その下には別のクラスがあってそれなりにまともな組合せができたし、最終的にはラジカセでも良いというピラミッド型のマーケティング構造になっていたわけです。そしてそれぞれにどういった訴求をすれば良さが伝わるのか、客層に合わせた取り組みをしてきたんですね。

しかし現在は、高級なAV機器の良さを伝えられるような売り場になっていないと思います。自宅でDVDやBS、CSなどの環境は整えたけれど肝心なオーディオ装置を忘れていたことに気付き、お店に足を運んでもそこにあるのは小さなシステムばかりだし、たまに置いてあっても満足に試聴できる環境ではないのです。単価の安いものをただ売るだけという印象ですね。

―― DVDの一方では、ブロードバンド時代を見据え、映画のコンテンツ配信も話題となっていますね。

宗方 米国では、10月25日から他社と共同で『Movie Fly』というジョイントベンチャーがスタートしています。

DVDは省スペースですからお店は物理的な制約から解放されます。しかし、メーカーはコストから逃れられませんので、注文に応じて生産できれば一番きめ細かなビジネスとなるでしょう。もちろん、ブロードバンドはその最たるものだと思います。日本の場合はブロードバンド化が進んだといってもまだまだですから、映画館、ビデオ、放送とあるなかで、マスマーケットにおいてはインターネットで配信する具体的なメリットを見出すことができません。また、それをパソコンで楽しむ方は多くはないでしょうね。現時点ではハードルが高く、そのためのハードウェアが透明になるくらいでないとだめでしょうね。

理想としては、テレビのまわりにあれこれ置いて配線していくのではなく、ひとつの規格を作っていろんな機能を脱着式でテレビに組み込めるようになれば、チャンネルを変える感覚でネット配信を楽しめるようになるでしょう。

逆に、『アラビアのロレンス』のような過去の名作を利便性の高い所で映画館のスクリーンで見たいという方も少なくなく、こういう方たちはレンタル店へもあまり行きませんし、ご自分でホームシアターの機材を揃えるという気持ちもありません。ですが、映画館であればぜひ見たいというニーズはあります。そういう方々のために、『Movie Eater』を組織し、リクエストに応じて『ドリームシアター』という形で近隣のシネマコンプレックスなどで自主上映を行うような取り組みも始めています。

お客様それぞれにご自分のスタイルで映画を楽しまれるわけで、様々なマーケティングのなかから、それぞれのシーンに合った商品を提供していくことが重要だと考えています。

 

PROFILE

Ken Munekata

1959年長崎県佐世保市生まれ。1981年米国ブラウン大学卒業。同年ソニー入社、総合企画室に配属。1989年米国ハーバード・ビジネススクール卒業(MBA取得)。卒業後、ソニー経営戦略グループにてコロンビア・ピクチャーズの買収プロジェクトに参加。1990年米国コロンビア・ピクチャーズに赴任。主に衛星放送事業など新規事業の立ち上げを担当。1998年 ソニー・ピクチャーズテレビジョン・ジャパンを設立、代表取締役社長に就任。その元で「アニマックス」および「AXN/アクションTV」を同年6月に開局。2001年12月 ソニー・ピクチャーズエンタテインメントとの合併に伴い、代表取締役副社長就任。2002年6月 ホームビデオ部門長就任し現在に至る。