金賞受賞インタビュー

ヤマハの“こだわり”を、
お客様の価値観として
共有していきたい

画質的・音質的に様々な作品が登場してくる中で、それを極力素直に伝えることができるハードが求められている。
ヤマハDPX-1000の金賞受賞は、“こだわり”に対する同社のマインドの高さを改めて実証した。
飽くなき商品づくりに対する意欲を、同社前嶋常務に聞く。

ヤマハ(株) 常務取締役AV・IT事業本部長
前嶋邦啓

ヤマハ・DLPプロジェクター
DPX−1000
オープン価格(実売予想価格100万円前後)

ヤマハの商品は
こだわりの一語に尽きる

 ―― この度は、ビジュアルグランプリ2003金賞受賞おめでとうございます。映画館のフィルムライクな画質を、ご家庭でいつでも再現することができる商品として、DPX―1000が数々の競合を抑え、金賞受賞となりました。

 前嶋 大変うれしいです。ありがとうございます。

 ―― ヤマハさんといえば、AVアンプをはじめとするシアターサウンドの世界がまず頭に浮かびますが、プロジェクターという商品を、ヤマハさんの中ではどのように位置付けていらっしゃいますか。

 前嶋 ヤマハは、ホームシアターのサウンドシスムを中心にずっと事業展開をしてきました。音についてはそれ相応の評価をいただく中で、やはり映像を入れて、トータルソリューションで提供したいという思いを常々抱いていました。当社の商品開発におけるコンセプトは、映画ソフトを再生するために、映画館の臨場感を家庭で再現することです。それを、音はもちろん、映像についても実現したかった。そこで、プロジェクターへの取り組みをスタートさせたわけです。

 商品づくりの上でこだわったのは、映画で撮影された35oフィルムの画質を、特に黒の色を家庭でどう再現するかでした。また、家庭で楽しむわけですから、静音設計についても徹底的に気を配りました。今回、金賞をいただいたDPX―1000は、ヤマハがプロジェクターに取り組みはじめてから、3機種目の商品にあたります。この何年かにわたり、プロジェクターを開発してきたノウハウが着々と蓄積され、それらを活用した開発部隊の総力を結集したと言える商品に仕上がったと自負しています。

 ―― 商品に対して詳細に伺う前に、その背景にある、ヤマハさんのものづくりに対するマインドをお聞かせいただけますか。

 前嶋 私どもの商品は、お客様の視点からしますと、怩アだわり揩ニいう価値観を共有していただける商品であること。反対に、技術軸から考えますと、一桁違う技術、一味違う技術にこだわっていることです。このお客様の軸と、技術の軸とが交差したところが、ヤマハの商品開発のドメインだと考えています。

 そうした中で、プロジェクターという商品については、光学エンジン、デジタル信号を画面のドットの中にどう入れていくかというスケーリング、デジタルインターフェイス、静音設計、そして画質といった部分に、コアテクノロジー、コアコンピタンスを持って仕事をしています。プロジェクターに限らず、ヤマハの商品について言えば、「こだわり」という一語に尽きるのではないかと思いますね。

 ―― こだわりが乗っている商品。しかも、DPX―1000では、それをもっとも高度なレベルで実現できた商品ではないかと我々は理解しています。

 前嶋 怦鼬違う技術ノウハウ揩、きちんと実現できた商品だと思います。当社が、プロジェクターの第1代目の商品を発売した後、次の商品はどうしていくかという議論の中で、とにかくさらに改善の余地のある部分をとことん追求していこうということになりました。ひとつは光学エンジンの部分です。ここを、さらにグレードアップして、お客様に提供していきたいと考えました。そのためにまず、光学エンジン性能という基本的なところを大幅に改善しようというところからスタートしています。最初の段階では、トライアルしても成果が出ないといったことも経験しながら、非常に細かいレベルのところまで追い込んでいくことができました。

 追い込んでいく上での基本的なスタンスは、やはりコントラストです。映画を見るという楽しみは非日常です。お客様はまさに没入して、映画の世界に入り込みたいと思っています。そのためには、本当の映画館のように、周囲に余計なものは必要ない。そうなると、かなり暗い環境の中でも、没入して映画が堪能できなければならない。「なんか、黒が浮いていますね」というレベルでは満足していただけないわけですし、全体に暗くしてしまったのでは、「暗い画面だね」というだけになってしまいます。まさに、コントラスト比が家庭での35mmフイルムの画質再現のための最大のポイントであるわけです。

 実際の映画に迫るハイコントラストをいかに実現するかということが、大きなテーマのひとつとなりました。例えば、レンズの外周のところで反射する光がありますが、今回はそのような不要光までも徹底的に抑え込むという、そこまで気を配って性能を追い求め、非常に高いコントラスト感を獲得しています。とにかく、こだわりですね。

目標の達成へ向けて
試行錯誤を繰り返す

 ―― フィルムライクに高画質化するという面では、どのようなご苦労がありましたか。

 前嶋 信号処理系をどうするかは、DPX―1000を仕上げていく上で、非常に大きな要素のひとつになりました。方法は色々ありましたが、私どもとしては、さらに一歩でも二歩でも前進させていきたかった。ですから、オリジナルな信号処理にトライしました。既存のデバイスによるソリューションに頼るのではなく、本当に1から独自の高画質信号処理回路を開発致しました。

 特に、怦鼬違う揩ニいう意味からは、今回コンポーネント信号のフル10bit処理を行っています。従来のホーム用プロジェクターはそのほとんどが8bit処理です。DPX―1000はアナログ入力から内部のIP変換、スケーリング、そして出口のDMDに至るまでの部分を、すべてフル10bitで処理を行っています。これにより、コンテンツの持つグラデーション感をきちんと伝えることができたと思います。ビット数を上げるのは大変なことなのですが、開発当初からの技術課題として取り組んだことで、きちんと性能を出すことができたと思います。

 画質処理のところでは、目標は高く持ち、商品として出す以上、でき得る限りの最高レベルのところまで到達させたいという思いが常にあります。今回のDPX―1000では、お客様に大変ご満足がいくものになったと自信を持っています。

 ―― 画質調整も大変細かくできますね。

 前嶋 内部処理は入力するソースに対してできるだけ素直に、色温度、カラーバランス調整、肌色補正、色の濃さや色合いなど、色にこだわる方のために、かなり細かなところまでパラメーターを追い込めるようにしています。GUI(グラフィカル・ユーザー・インターフェイス)に関しても、使い勝手を考慮しました。

 また、HDコンテンツの処理で、IP変換をきちんとその解像度で行っているものは少ないと思いますが、DPX―1000では、パネルがHD対応である点も活かして、1080iで入ってきたものは、iをpにきちんとIP変換してから、パネルのところに持っていくということも行っており、HDの画質もかなり高いレベルを実現しています。

 ―― 「コンテンツの素性がよければよいほど、それをきちんと表現することができる。こんな商品どこにもなかった」といった声が、審査委員の間から出ていました。さらに画質のみならず、あくまで家庭で使う商品である以上、静音設計にもとことんこだわったわけですね。

 前嶋 ハイコントラストを得るため、DPX―1000には、270Wという非常に大きなランプを搭載しています。と同時に、大出力ランプを使用しながら、お客様が極力気にならないレベルまで、静音化していかなければなりません。ここにも、言葉では語りつくせないような色々な苦労があり、熱を抑えながら静音性能をどう出していくか、試行錯誤を繰り返しました。

 目標としては、映画で、普通ならば動作音が邪魔してそのシーンの雰囲気が十分伝わらないような、密かに、ささやくような会話の声が聞こえるくらいのレベルにしたいと思いました。結果として、今回は30dBにまで抑え込むことができました。エコノミーモードではさらに28dBというレベルをも実現しました。今回は我々も大変チャレンジャブルな目標に臨みましたが、270Wもの大出力ランプを使用しながら、標準モードで30 dBまで落とし込めたとことは、ヤマハの持つ高い技術ポテンシャルが示せたのではないでしょうか。

一味違った技術ノウハウが
こだわりを具現化する

 ―― さて、プロジェクターには部屋への導入がついて周ります。その際の提案やオプションの取り付け金具の準備はいかがですか。

 前嶋 プロジェクターで一番大切なのは、画質と静音性であるという考え方を追求した結果、商品本体は、今回はこれまでにもまして、かなりしっかりとした安定感のある形にしています。エントリーマーケットのプロジェクターとは違いますから、本格派志向の方がこの商品を楽しまれる場合に、まず考えられるのは、ワゴンに載せて使うときにだけ引っ張ってくるというのではなく、やはり天吊りのような設置事例が増す。それから、天井の取り付けには制約があるといった場合に、もうひとつ棚置きが考えられます。

 実は、DPX―1000の商品企画時点で、お客様が部屋へ導入した際の具体的なイメージが描かれていました。お客様がソファを置かれてくつろいでいる。その後ろに棚があり、そこにDPX―1000とDVDプレーヤーなどを置く。まさに映画館のように、お客様の後部上方から、映像が投写されているイメージです。このように棚に載せて部屋の中で楽しむためには、部屋の長手方向の寸法内で画面が実現できるようにしないといけません。そこで、業界でもトップクラスのズーム比1・6倍のズームレンズを採用し、非常に広範な設置に対応できるようにしました。具体的には、標準的な6畳間で100インチ16対9の大画面を実現できる仕様になりました。

 もちろん天吊りに関しても、今回は少し重量が増していますので、新しく強度のある金具を用意しました。設置の自由度の高い商品である点も、大きなセールスポイントになっています。

 ―― トータルで提案していくという点においては、ヤマハさんは家具も得意分野のひとつになりますね。

 前嶋 ヤマハリビングテックという子会社があります。システムキッチンやシステムバスを中心に住宅設備を手掛けている会社ですが、その関係から、ホームシアターもハイエンドの部分に関しては、すでにいくつかのハウスメーカーさんと様々な話を進めさせていただいています。

 日本では、住宅設備の中身の部分に関しては、実は金利が控除されない税制になっています。欧米諸国では、ほとんどの国で控除対象になっていますので、日本でも早くそうなれば、住宅の新改築時にローンの中に組み込んで、より負担感を少なくした形でホームシアターをはじめられるようになると思います。韓国では人口のおよそ半分がマンション住まいですが、現在では高級マンションには、すでにホームシアターが組み込まれて販売されているケースが少なくありません。日本も税制面の問題を1日でも早く改善してほしいですね。

 ―― 店頭では、DPX―1000の実力に見合った、アンプやスピーカーといった部分にまできちんと目を向けて、ビジネスを広げていっていただきたいですね。

 前嶋 いま、市場はどちらかというと、テレビ寄りの簡易型の商品に対する需要が非常に膨らんでいます。しかし、高画質・高音質で本格的に楽しもうというところもきちんと訴求していく必要があります。DPX―1000と当社AVアンプのDSP―AZ1やAZ2を組み合わせたようなシステムの提案です。

 こうしたシステムはホームシアターだけでなく、実は、マルチチャンネルオーディオを再現する、非常に素晴らしい設備でもあります。SACDやDVDオーディオ、あるいはDTSというように、高音質のオーディオソフトが、ホームシアターの環境を使えばもっといい音で楽しめる。ヤマハではSACDとDVDオーディオのコンパチブルプレーヤーの新製品DVD―S2300も12月に発売いたします。

 私どもには商品に対するこだわりがあります。そのこだわりを、お客様に価値観として共有してもらいたい。ヤマハはそこに執着しています。それを実現するために、一桁違う技術もあり、一味違う技術もあるというわけです。

 この業界の中で、私どものアイデンティティーをきちんと確立していくためには、プロジェクターに限らず、すべてのカテゴリーにわたり、競争力ある商品を定期的に出し続けていくことが大切だと考えています。そのために、我々の開発部隊は常に技術をブラッシュアップして、新しい技術を習得し、また、今持っている技術をどのように発展させていくかに取り組んでいます。これからもヤマハは、怩アだわり揩フ商品を出し続けていきたいと思います。

ヤマハ三賞・トップ賞受賞モデル

ビジュアルグランプリ サブウーファートップ賞
YST−SW1500

ビジュアルグランプリ 銅賞
オーディオ銘機賞 銅賞
ビジュアルグランプリ マルチチャンネル音声対応機器(20万円未満)トップ賞
オーディオ銘機賞 マルチチャンネルアンプトップ賞

DSP−AZ2

オーディオ銘機賞 録音機トップ賞
CDR−HD1300