巻頭言

ふつうの人への商品 / 和田光征 WADA KOHSEI

大昔?の話。昭和46年にテープオーディオ時代を確信し、私は「テープ元年」を宣言、数回に亘ってシンポジウムを催した。

テープメーカーといってもTDKはシンクロテープだったし、マクセルやフジもこれからという頃である。カセットテレコもソニーやアイワ、松下、ビクターから出ていたくらいだった。しかし、私はカセットテープをベースとしたテープオーディオ時代が必ずや爆発すると信じて疑わなかったのである。当時、私の行動は社内的にも反発を招いたし、こぞって反対された。レコードプレーヤーをベースとしたアナログ中心の時代であり、レベルが全く劣るといっていいカセットでハイファイ等ということはとんでもないことだった。今も鮮明に思い出すのは、あの発明家の中松義郎氏がシンポジウムを強力に支持し、中央に陣取っていたことである。

この年、TDKがストライプのパッケージデザインでSDシリーズを発売したことから、一気にカセットテープ時代の幕が切って落とされ、私はさらにカセットオーディオ時代を推進する決意を新たにしたわけである。

昭和47年に小誌の前身「オーディオ専科」がスタートしたのを機に、いよいよ市場創造に全力投球していったのである。当然ながらアナログオーディオも全盛であった。たえず比較論が渦巻いていたが、カセットの簡便性、そしてクオリティーアップによって急成長していった。

テープオーディオはふつうの人にとってやさしかったのである。そして、私自身がふつうの人でしかなかったのである。

ある時、カートリッジを頂いた。早速、秋葉原の光陽電気さんに行って、マイクロのシェルを購入した。家に帰ってカートリッジをシェルにつけるため大変な格闘を演じてしまった。なかなか取り付けられないのである。漸く取り付けても、ちゃんと付いているのか、いないのか不安でならない。結構ノイローゼ気味になった。この時も、私は疑問に思ったものである。メーカーはどうして最初からシェル付カートリッジにしないのだろうか、そうすればふつうの人々にもっともっと普及するのに…。テープ元年同様、シェル付カートリッジの提案を本誌誌上で展開した。そのことにご賛同頂いてオーディオテクニカさんのATシリーズはふつうの人達をしっかり掴まえ大ヒットした。

また、アンプにも参った。チューナーもプリメインアンプもプリアンプもパワーアンプも全く同じ格好をしていて区別がつかない。その区別がつかないことから編集上でとんでもないミスを犯した。アンプの紹介なのにあるメーカーはチューナーだったり、あるメーカーはプリだったり、これはふつうの人などと甘えていられぬ失敗だった。しかし、一方で間違うのは当り前だという思いもあった。システムコンポーネントの提案はまさにそうした中から生まれたのである。

今、新しいデジタル商品が市場を牽引している。そんな姿を見て、昔のことが懐かしく思い起こされた次第である。

ふつうの人が楽しめる商品、このことは永遠なるテーマではないだろうか。

ENGLISH