トップインタビュー

三洋電機(株)
取締役 専務執行役員
マルチメディアカンパニー 社長
兼 三洋テレコミュニケーションズ(株)
代表取締役社長

壽 英司
Eiji Kotobuki

お客様の立場に徹して
いいものを作れば絶対に売れる

“サンヨー”の元気のよさが目を引く。どの商品にも共通しているのは、ユーザー志向が徹底して貫かれていることだ。同社の総合力を生かした商品づくりの強さの秘密はどこにあるのか。同社マルチメディアカンパニー社長の壽氏に話を聞く。

インタビュー ●音元出版社長 和田光征

プロになってものを知りすぎたら
すべてのことが当たり前に
なってしまいます

商品はあらゆる面から見て
お客様にとってシンプルで
使いやすいことが大切です

プロジェクターは日本人の
生活スタイルを変えるきっかけに
なる商品のような気がします

新たな開発方式によって
ヒット製品を生み出す

―― 最近の三洋さんを見ていますと、たいへん元気がいいように感じられます。

 元気がいいというよりも、元気を良くしようということでやっています。私は三洋電機に入って、30年近く営業を担当してきましたが、当時はいつも事業部に対して、ガンガン文句を言ってきました。今は事業部長の立場にもありますが、今まで言ってきたことをいかに具現化していくかということが自分のやっていくべき仕事だと思っています。

―― 壽社長は三洋電機の携帯電話事業を立ち上げられましたね。

 三洋電機が本体で携帯電話に取り組むことになったきっかけは、94年4月の国内の携帯電話事業の自由化と、円の急騰による生産移管の急速な進展でした。プラザ合意によって円が急騰して日本での生産がコスト的に合わなくなって各社とも海外への生産移管を進めていましたが、当社も例外ではありませんでした。そこで、この事業所で作れる新たな大型商品を立ち上げないと、この工場が空洞化してしまうということから、当時のトップが携帯電話を立ち上げるという決定をしました。

―― 当初からたいへん大きな目標を掲げて、携帯電話事業を立ち上げられたとお伺いしていますが。

 94年に私が携帯電話の責任者に就任した時、三洋電機本体としての携帯電話事業の売上げはゼロでしたが、一千億円という大きな売上目標を掲げました。当時、三洋電機の電話機事業は子会社の鳥取三洋が国内向けのコードレスを作っていただけでした。事業を立ち上げる時に一番悩んだのが携帯電話の技術者がほとんどいなかったことです。当時携帯電話事業が属していたAV事業本部の研究所や本社の開発本部から技術者をかき集めても一千億円という売上目標を達成するためには全然足りませんでした。そこで当時としては珍しく外部から派遣社員を大量に入れました。

商品企画でも新しい手法を取り入れました。まず、ターゲットを女性に絞り、そして、ターゲットに見合う年齢の女性の商品企画者を外部から招いて、彼女達の発想をどんどん取り込んで作り上げた商品が非常にヒットしました。

たとえば、当時の携帯電話は単なる通信手段でしたが、これに遊び心を入れようということで、ゲームや占いなどを彼女たちからの要望で取り入れました。着メロも今でこそ最新の曲をダウンロードできますが、当時は著作権が切れたものばかりで、若い人から見たら魅力のない曲ばかりでした。そこで、著作権料が発生しますが、キロロやスマップなど、当時、流行っていたものを入れました。デザインも、斬新な色やスタイルを取り入れたところ、それらが評価されて1機種で200万台以上というわれわれにとって爆発的なヒット商品になりました。

いいものを作れば
絶対に売れる時代

―― 携帯電話をはじめとして家電製品でもお洒落な三洋というイメージを持たれています。これは、かつてのイメージとはずいぶん変わってきたように思います。

 実は携帯電話を始めるまで、三洋電機は若者にあまり人気がなかったブランドで、アウトドア商品でのヒットもありませんでした。ところが携帯電話をはじめたら、まったく抵抗なく若い人たちに受け入れられました。auさんなどのキャリアブランドではなく、by SANYOと製品に明記しているにもかかわらずです。その時に感じたことが、今の時代はいいものさえ作れば、お客様が選んでくれるということでした。

―― アナログの時代とデジタルの時代とでは、ブランドに対する消費者の受け止め方が随分変わってきたのではないでしょうか。

 確かにブランドは必要ですがブランドだけでは物が売れない。ブランドの時代から型番の時代になってきたというのが最近の私の考え方です。いい商品を出して、お客様にしっかりとご理解いただければお客様は素直に飛びつかれます。その代わり、中途半端なものを作ってしまったら、ブランドに関係なくお客様からそっぽを向かれてしまうという厳しい時代になってきたと思います。

かつて三洋では32インチ以上の大型テレビは、大型冷蔵庫と並んで、ブランドの壁をなかなか破ることができませんでした。いくら頑張っていいものを作っても、量販店さんからなかなか認めてもらえませんでした。こちらの勝手な判断かもしれませんが、それが今はお客様の物を見る目が肥えてきて、商品そのものの魅力で選ばれる時代になってきているように感じます。

その意味では、三洋電機は今まで以上にやりやすくなってきたと思います。そこで私は、「とにかくいい物を作ろう」という指示を全社に出しています。今の時代はいい物さえ作れば絶対に売れるからと。それでもし駄目なら、私が責任をとればいい話です。

お客様の気持ちで
考えることが真のCS

―― 先日発表されたPDPやプロジェクターを拝見しますと、まさにかゆいところにまで手が届くような徹底的なユーザー志向が貫かれていますね。

 物がなかった時代には、技術やデザインの押し売りが通用しました。使い方が難しい製品でもお客様は仕方なく受けいれざるを得なかったからです。

ビデオデッキはその最たるもので、たかだか家庭で番組を録画して見るだけのものなのに、やれVISS、BASSだとか16画面だとか、一時やりましたでしょ。当時、私は営業をやっておりまして販売店さん向けの講習会を随分やりましたが、なかなか覚えきれない。販売員さんがわからないものを、お客様がわかるわけがありません。ビデオデッキはリモコンで操作するようになっていますが、デッキの表示部の文字は少し離れたら読めない。録画モードにもEPとかSPがありました。でも奥さんやお爺ちゃん、お婆ちゃんたちにEPが3倍で、SPは標準だなんてわかりますか? 間違いなく録画できているのかいないのかも良くわからない。CS、CSと言っている割には、お客様不在の商品作りになっていたのではないでしょうか。

リモコンで操作できるようにするのであれば、離れたところからでも録画モードやきちんと録画されているかどうかが、すぐにわかるようなものにしておかないといけません。そういうことをいうとデザイン的にみっともないとデザイナーは言いますが、デザインのために事業をやっているのではありません。

―― ビデオの時短という言葉も壽社長がつけられたそうですが、わかりやすさということは大切ですね。

 当初はダイジェストという名前でしたが、それでは、どんなフィーチャーなのか良くわからない。そうかといって、ダイジェストという言葉の意味をお客様が質問するには日本語になりすぎているので、何となく聞きにくい。そんな中途半端なキャッチコピーはつけるなということで時短という言葉にして、しかも漢字で表記しました。これなら、時短とはどういう意味ですかということを聞くにしても恥ずかしくないだろうと。

その商品の一番大きなフィーチャーに、お客様にわかりやすいキャッチコピーをつける。これがいつも私が大切にしていることです。私はいつもユーザーなんです。プロになって物を知りすぎたら、すべてのことが当たり前になってしまう。いつも何にも知らない素人になっていれば、いろんなことが目につきます。

カンパニー全体の総合力を
生かす横断化プロジェクト

―― 今回発売されたPDPの開発には、オーディオチームも加わられたそうですね。

 このPDPの開発チームには画質だけではなく、音作りにも徹底的に取り組ませました。たしかにPDPは画面は大きいし、映し出される映像はとても精細できれいです。でも、音はどうかというと他社さんの製品を含めて今までの製品は決して満足できるものではありませんでした。あんな音では疲れてしまう。100万円近くする製品で音楽番組も楽しまれるものなのにです。ほとんどの製品では小型の縦型スピーカーをパネルの両サイドに取り付けているので、音を良くするという点ではどうしても限界がありました。そこで、聴いていて疲れずに、なおかつ画面の大きさに見合う迫力のある音作りをさせました。

私は、以前オーディオの仕事をやっていましたが、当時はいろんなメーカーさんの商品を集めてブラインドテストを行いました。それと同じように、今回各メーカーのテレビを集めて聴き比べました。当社の第一世代の商品と新製品、それから他社さんの商品を集めて何回も聴き比べています。私だけで決めると間違いが起こるかもしれませんので、他の人にも入ってもらい、音だけではなくて、映像についてもどの商品が一番きれいかを比較しました。それで、自分たちの新しい製品が一番いいということで、商品化にゴーを出しました。リモコンも使い方が難しいので、誰にでも使えるような簡単リモコンもつけることにしました。一般のお客様にどう対応していくか、そういう視点での設計が大切だと思います。

―― PDPや液晶プロジェクターなど一連の商品では、今までとは異なる体制で作られたそうですね。

 私は昨年からマルチメディアカンパニーの社長になりましたが、このカンパニーには映像、オーディオ、記録、通信、それから電子部品が全て揃っています。他社さんでもこれらの商品をお作りになっていますが、一箇所でこれらの商品をすべてやっているところはありません。そこで、この総合力を生かすための仕組みとしてトップダウンで作ったのが横断化プロジェクトチームです。

今回のPDPの開発でも映像メディア事業部やテクノサウンドなど様々な部門のメンバーが参加した横断型のチームを組んで、若い人たちに思いっ切りやりたいことをやらせました。テレビの設計者は画作りは上手ですが、音作りという点では決してベストではありません。でもこの場所では隣にオーディオのチームがいます。そこで、オーディオの技術者に応援しなさいという指示を出しました。

オーディオ部門にとって、数字上では何のプラスにもなりませんが、社長命令ですから担当部門としてはやるしかありません。その代わり、今度は別のことで応援しようじゃないかということです。そういう形で仕上げていって、最終的にゴーになった段階で、テレビであればテレビのチームにもどすという形で商品企画を行っています。

目的は事業部間の壁を取り払って、サンヨー電機としての総合力を活用していこうということと、今までと全然違う発想を出していこうということです。これからも、さまざまな技術が集積しているこの事業所ならではの優位性をなくいかんなく発揮していきたいと思っています。

メーカーの勝手な決め付けは
お客様には不親切

―― 木目調のデザインのPDPを出されたのは今回の三洋さんが始めてですが、これもその横断化プロジェクトチームから生まれてきたということですね。

 PDPといってもその本質は所詮テレビの代替えです。そうすると、それが設置される場所はテレビとそれほど大きく変わりません。当然、和室に置かれる方も多いでしょう。実際にPDPを買われた方を追跡調査してみると、以前テレビがあった場所に置かれている方が大半です。そうすると、洋室と和室に合わせた2種類のデザインが当然必要になってきます。そこで、シルバーと木目調を出したわけです。PDPはシルバーだと決め付けてはいけない。それは、メーカーのエゴであって、お客様には不親切でしょう。むしろ、今まで和室に合うようなデザインのPDPがなかったこと自体が不思議です。

―― 薄型が特徴のPDPですが実際に部屋に置くためには、ラックが必要なケースがほとんどです。でも、通常の市販のラックでは意外と場所をとってしまう。今回三洋さんが提案されている薄型ラックは非常に意義があると思います。

 PDP=パネル、パネル=壁掛けという感覚でよく語られますが、そんな都合のいいところにいつも壁があるわけではありません。今回の当社の42インチのPDPでは専用ラックに入れても、36インチのブラウン管よりも奥行が30cm浅くなるようにしています。ですから、同じ広さの部屋でも、それだけ空間が広くとれます。坪当たりの住宅価格を考えたらこの差はとても大きい。PDPという新しい商品によって得られるメリットをいかにお客様に還元するか。使う立場になって考えればこれは当然で、こういうものがなかったこと自体が間違いだと思います。

―― カラーリングやラックにいたるまでのデザイン面でも壽社長の唱えていらっしゃる顧客の使い勝手に対する配慮が徹底されているということですね。

 商品はあらゆる面から、お客様の目で見てどうかということを考えなければいけないと思います。よく自社のデザインはこうあるべきだといわれますが、私はそれは絶対におかしいと思います。お客様によって製品の使われ方は違いますし、嗜好性も違います。車は別かもしれませんが、一般の耐久消費財でそこまでこだわる必要はないでしょう。お客様が求めるもので、お客様にとってシンプルで使いやすいものを作っていかないと駄目です。お客様の好みは常に変化していきます。商品の内容も変わっていきます。でも、作る側には昔ヒットした残像がずっと残っていて、それにこだわりすぎると時代の変化についていけなくなってしまいます。今まではメーカー主導で需要を盛り上げることができたのでそれでも良かった。でも、これからは、お客様が自分たちの気持ちで選択する時代にかわっていきます。たえず、お客さんの変化をいかにつかむかということを大切にしていかないと、お客様の嗜好が変わったとたんに駄目になってしまいます。

―― PDPの登場はそれ以前のテレビの世界をまるっきり変えてしまったといっていいほどインパクトの高い商品ですね。

 そうですね。久しぶりにお客様が魅力を感じられている商品ですね。ただ残念ながら、値段がまだまだ高い。でも、テレビは一度買っていただいたら10年以上持ちます。それから、テレビほど一日中楽しませてくれる商品は、電化製品以外でもないように思います。それを考えると、決して高いものではありません。こういう商品は大事に売っていきたいですね。

家庭用プロジェクターが
どうあるべきかを徹底

―― 次に液晶プロジェクターのLP―Z1ですが、これも顧客指向という壽社長の哲学が非常に色濃く反映された商品ですね。

 私がマルチメディアカンパニーの社長に就任した当時、ホームシアターという言葉が盛んに言われていましたので、一度、家で見てみようと思って家庭用に近い商品を持って帰りました。ところが、2週間もしないうちに女房に、「お父さん、早くこれ持って帰ってもらって」といわれてしまいました。理由の一つはデザインです。プロジェクターは使っていない時間の方がほとんどです。ところが、デザインはいかにも業務用で部屋のインテリアに合わない。それから、線がいっぱいあって、どこをどう繋げばいいのかさっぱりわからない。自分がいなかったら家族にはできません。私の女房はごくごく普通のユーザーです。その彼女がいらないと言っているということは、普通の家庭でホームシアターを楽しむことは無理だと思いました。

ファンノイズも問題でした。せっかくいいスピーカーを使っていい音でDVDを楽しんでいる時に横でシャーというファンノイズがしている。家で映画を見る時に、こんなノイズが出ていたら興醒めです。そこでファンノイズの音を消せという指示を出しました。ファンで熱を逃がさないといけないので、そうは簡単には消えませんが、今回の製品ではほとんど静音に近い28dB以下に下げることができました。

―― この製品で初めて搭載されたレンズシフト機能が大きな話題を呼んでいます。

 プロジェクターを使おうとすると、スクリーンの位置とプロジェクターから投射される映像をきっちり合わせることが必要になります。今まではスクリーンをかける場所やプロジェクターを置く場所でまず調整して、それで調整しきれない時にはプロジェクターの足の高さで調整していました。さらに、それでも調整しきれない時のために最近の製品ではデジタル的に補正できる機能をもった製品もあります。

でも、実際に自分の家で、ホームシアターを楽しもうと思うと、そんな都合のいい場所にスクリーンやプロジェクターを置けるケースは少ないでしょう。プロジェクターの足で微調整するのも、実際にやってみると結構面倒くさい。最近のデジタル技術は進んでいますので、これを使って補正すると今度は画質が落ちてしまいます。そこで考えたのが、この商品の最大の特徴であるレンズシフトという手法です。

これを使えば、いちいち足で調整しなくても誰でも簡単に画質を落とさずに使用環境に合わせてプロジェクターを楽しめます。ただ、これは口では簡単ですが、ファンノイズと同じように技術的には大変な問題です。私は文系で素人ですから、使い手の立場から好き勝手なことをいえるわけです。でも、それはユーザーの視点から物を言っているわけで、これを実現していくのが技術ではないでしょうか。

―― しかも、単にレンズシフト機能が付いたというだけではなくて、実際に使ってみると非常に使い勝手がいいですね。

 いくら素晴らしい機能が付いていても、使いにくければ意味がありません。レンズの高さや横方向へのシフトつまみも、最初は手で触れないような小さなものでした。それでは滑りやすいので、軽く触るだけで調整できるようなものにしなさいといって、ほぼ出来上がっていた段階で変更させました。操作ボタンや端子も誰が見てもわかりやすくするためにシンプルなものにしています。

―― この製品はデザイン面でも従来の製品とは一線を画す新しいイメージを感じます。

 まず、使わない時に部屋の中に置いてあっても違和感のない飾り物に見えるようなものにしなさいという指示を出しました。それから、レンズキャップなしで使えるようにしなさいという指示も出しました。レンズキャップを外したり付けたりするのが面倒臭いのと、レンズキャップをなくしやすいからです。

そこで出てきたのが、レンズキャップ兼用のシーリングパネルを使ってフロント全面を覆ってしまおうという発想でした。これだったら、使わない時に部屋に置いてあってもそんなに目障りにならないし、レンズキャップもいらなくなります。レンズをカバーするシーリングパネルにしても、開ける時にガチャッという音がしたら、いかにも安物で興醒めです。この部分にはオイルダンパーを使うことにより、スーッと滑らかに下りてくるようにしています。操作ボタンも誰にでもわかるようににシンプルにして、表記も日本向けの製品は日本語にしました。

PCの周辺機器としての役割を
併せ持つ家庭用プロジェクター

―― この製品ではシアターユースだけではなく、パソコンの周辺機器としても使えるような配慮がなされていますので、多用途に使えますね。

 最近、パソコンが家庭にあるのが当たり前の時代になってきています。そういう環境を考えると、これからのプロジェクターはシアターユースだけではなくて、パソコンの周辺機器としても必要なものになっていきます。たとえば、三洋ではデジカメにも力をいれていますが、デジカメで撮ってきた旅行のシーンをパソコンに落として、パソコンからプロジェクターに送り出して100インチの大画面で子供たちと一緒に見るというような楽しみ方も提案していきたいと思っています。

―― この製品も横断化プロジェクトチームで作られた商品とうかがっていますが、こういう商品は、横断型の組織でしか実現できないものですね。

 お客様の立場に立って考えれば、これらの発想は簡単に出るんですよ。何でも難しくしてしまうから駄目なんですね。大切なことは、いかにイージーオペレーションで、家庭で使いやすい物にできるかということだと思います。これは何もシアターだけに限ったことではありません。

あとは、せっかくみんなで苦労して作り上げたこの商品をいかにして売っていくかですね。お客様にこの商品の魅力を店頭で実際に体験していだけるように、40インチくらいの簡易シアターというPOPを作って訴求していきたいと思っています。

プロジェクターは
まったくのアドオン商材

―― PDPの登場をきっかけに、大画面に対するお客様の欲求が強まってきています。プロジェクターは今後、第四のディスプレイとして定着していくと思われますがいかがでしょうか。

 今、お客様のところに入っていないまったく新規の商品はプロジェクターしかありません。液晶やPDPはテレビからの買い替え商品ですし、DVDレコーダーもビデオからの買い替え商品です。プロジェクターは今のところ普及率がほとんどゼロに近く、しかも大画面を求められているという時代背景があります。これは売り方によっては必ずヒットする商品です。これをいかにして売るかが、前年対比でプラスにつながる。お客様に対してまったく新規の買い増し商材は他にはないんですよということを販売店さんに説明させていただいています。

ところが、一部の販売店さんでは、プロジェクターとPDPを対比しようとされているところがあります。でもそれは間違いだと思います。プロジェクターはホームシアター用の機器ですが、一方でパソコンの周辺機器としての性格も持ち合わせています。いかに大画面といえどもPDPの本質はテレビの買い替え商品で、プロジェクターと競合する商品ではありません。電気業界にとってまったくの新規商材であるプロジェクターを売り込まなければ、お客様は旅行や家など別の業界にお金を使ってしまいます。ですから、これをやらないと駄目ですよということを申し上げているわけです。

―― 当社のホームシアターファイルで実施した調査でも同様の結果が出ています。若い人の中にはプロジェクターだけという方もいらっしゃいますが、これはPDPは高くて買えない。でも大画面は欲しい。そういうケースですね。お金のある方は両方お買いになる。

 そのとおりだと思います。これから高齢化社会になっていきますが、そうなると、ご夫婦二人でプロジェクターで映画を楽しむ時間が増えていくと思います。また、お孫さんが遊びに来た時に一緒にアニメを見たりとか、ムービーやデジカメでとったお孫さんの写真を見たりされたりすることになると思います。

―― 私はハッピーファミリーという概念がホームシアターのベースだという考え方を持っています。大画面があると子供たちやお孫さんがみんな集まってくるようになりますからね。

 私は海外も飛び回っていますが、日本と欧米の生活を比較した時に何が違うかというと、家庭の中に癒しが足らないということだと思います。欧米では、よほどの繁華街や観光客相手の所以外は、夜中に外で遊んでいる人はほとんどいません。ところが、日本では夜中でもサラリーマンや若い人が外で遊んでいます。その理由は家に癒しがないからです。家が小さくて自分の部屋をなかなか持てない。家に帰ってもテレビのチャンネルが自由にならない。お客さんを呼んで家族同士でパーティーをやろうにも、家の中にそんなスペースがない。結局、サラリーマンは寄り道をして家に帰ることになる。これはアジア人独特のパターンです。ホームシアターは、そういう日本人の生活スタイルを変えていくきっかけになっていく商品になるような気がします。

いちばん大切なことは
お客様に接する「心」

―― プロジェクターのような商品は地域店にとって、強みを生かせる商材ですね。

 地域店の最大の強みはお客様の家に堂々と上がりこんでいって、こういう製品があるので試してみませんかと言える関係を持たれていることです。そういう意味ではまさに地域店がこの商品に関心を持ったら、すごく面白いと思います。今年の年末にかけては、PDPとプロジェクターに徹底的に取り組んでいただくことを提案しています。

―― 地域店でホームシアターを良く売るお店をいくつか知っていますが、共通していえることは、ほとんど値引きされていないにもかかわらず、お客様から感謝されて商品を販売されているということです。10年くらいの周期でお客様のライフスタイルをデザインして、ご提案されているんですね。

 今、地域店に一番欠けているものは、お客様に接する心ではないでしょうか。価格の恐怖に怯えて自信を喪失されて心を忘れてしまっているところが多いように思います。たしかに、価格ばかりを追いかけているお客様はいらっしゃいます。でも、全部が全部そういうお客様ばかりかというとそうではありません。たとえば、自分でゴルフクラブを買う時に、どのメーカーのどの商品が、どの店でいくらで売っているか全部わかるかというと、そんなものいちいちわからんでしょ。それをお店の方が勝手にお客様が全部わかっていると思ってしまうわけです。自分たちの強さをお客様にわかっていただこうとするよりも、価格に対する怖さが先に立っているケースが多いように思われます。

それからもうひとつ見ておかなければいけないことは、今、日本はどんどん高齢化社会に向っているということです。今まではお客様の方からお店に来てくれましたが、これからはお客様のところに出向いて利便性を提供する必要が出てきます。電球を替えてくれたり、片付けもしてくれたりというようなことを望まれるお客様はこれから増えていかれるということです。

お客様は決して物だけを買っていらっしゃるわけではありません。今の日本人に希薄になってきた「心」も買っていらっしゃいます。ですから、販売店さんもわれわれメーカーも、徹底的にお客様の立場に立ったものの考え方をしていかなければならないと思います。そうすれば、必ずお客様から支持していただけるという確信を持っています。

 

Eiji Kotobuki

1941年10月21日生まれ。1964年4月中央大学法学部卒業。1964年三洋電機鞄社神戸営業所販売課。1990年10月三洋電機晦V事業本部オーディオ統括担当部長、1992年3月AV事業本部AV国内営業部統括部長、1994年12月AV事業本部パーソナル通信事業部事業部長、1999年4月マルチメディアカンパニー パーソナル通信事業部事業部長、1999年6月執行役員マルチメディアカンパニー副社長兼パーソナル通信事業部事業部長、2001年4月常務執行役員マルチメディアカンパニー社長兼三洋テレコミュニケーションズ椛纒\取締役社長、2002年6月 取締役専務執行役員マルチメディアカンパニー社長兼三洋テレコミュニケーションズ椛纒\取締役社長。現在に至る。