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MX-A5000

YAMAHA
MX-A5000

¥300,000(税抜)

発売:2013年10月上旬
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フラグシップセパレートAVアンプ“A5000”のAVパワーアンプ

【SPEC】●定格出力:20Hz-20kHz、2ch駆動…170W/CH1,CH2(L/R),CH3(L/R),CH4(L/R),CH5(L/R),CH6(L/R)(6Ω、0.06%THD)、1kHz、1ch駆動…230W/CH1,CH2(L/R),CH3(L/R),CH4(L/R),CH5(L/R),CH6(L/R)(6Ω、0.9%THD) ●実用最大出力:1kHz、1ch駆動…280W/CH1,CH2(L/R),CH3(L/R),CH4(L/R),CH5(L/R),CH6(L/R)(6Ω、10%THD) ●ダイナミックパワー(非同時駆動):190W(8Ω)、250W(6Ω)、350W(4Ω)、500W(2Ω) ●入力端子:アナログ音声…RCA×11/XLR×11(Pin1:アース、Pin2:HOT、Pin3:COLD)、その他…トリガーイン×1(+12V In) ●出力端子:アナログ音声(スピーカーアウト)…スピーカー出力×11 チャンネル(13端子:CH.1、CH.2-A[L/R]、CH.2-B[L/R]、CH.3[L/R]〜 CH.6[L/R])、その他…トリガーアウト×1/トリガースルーアウト×1 ●全高調波歪率:0.015%以下(70W/8Ω) ●周波数特性:+0/-3dB(10Hz〜100kHz) ●S/N比:116dB以上(入力ショート1kΩ、リファレンスレベル150W/8Ω) ●チャンネルセパレーション:90dB以上(入力ショート 1kΩ、1kHz)、75dB以上(入力ショート 1kΩ、10kHz) ●入力感度/入力インピーダンス:アンバランス…1.0V/47kΩ(1kHz、100W/8Ω)、バランス…2.0V/47kΩ(1kHz、100W/8Ω) ●消費電力:650W ●外形寸法:435W×210H×463.5Dmm ●質量:25.4kg

※原則として製品発表時のデータを掲載していますので、内容・価格は変更されている場合があります。また、この製品データベースには生産・販売を休止したモデルの情報も含まれています。

テストレポート

1990年の「AVX-2000DSP」で、“マルチチャンネル一体型アンプ”を初めて世に問うたのはヤマハだった。その翌年の1991年に、「AVC-3000DSP+AVM-3000」で“セパレート型AVアンプ”という分野を創始したのもヤマハだった。創業125年の今年、ヤマハは意欲的なオーディオ製品を続々と送り出しているが、AVアンプ製品は先述のAVC-3000DSP+AVM-3000から22年ぶりに発表されたセパレートモデル「CX-A5000/MX-A5000」が、新たなフラグシップとして登場した。

■なぜ今セパレートなのか?

一方で「なぜ今セパレート型なのか」という疑問もあるのではないか。今回のCX-A5000/MX-A5000は最大11.2chのマルチ出力に対応するが、かつてヤマハには一体型で最大11.2chまでの拡張に対応した「DSP-Z11」という名機があった。今回のCX-A5000/MX-A5000の価格はそれぞれ¥262,500+¥315,000で、このZ11の¥693,000より安価である。このことがフラグシップとしての価値感の演出でなく、実利的なメリットを見出してのセパレート化であることを物語っている。

DSP-Z11が発売された2007年に比べ、オーディオビジュアル環境は激変した。入力ソースにはPCオーディオなどのデジタルソースが加わった。プリアンプには、そうしたデジタル入力によってアンプ内に混入してくるPCなどのデジタルノイズ対策が切実かつ高度に求められる。今年同社が発売したSACD/CDプレーヤー「CD-S3000」のような高音質機器の出力を万全に受け止めるために、バランス入力(XLR)も必要だ。これらを実現する上で、一体型モデルでは仕様に一定の制約と妥協を余儀なくさせられる。

今回の製品企画の着想を一言で表現すると、“absolute”(完全)。意味するものについては後述するが、“absolute”を実現するために、ヤマハが出発点で選んだ道が<セパレート化>であったわけだ。

■CX-A5000/MX-A5000の製品プロフィールに迫る

それでは、CX-A5000/MX-A5000のプロフィールを紹介しよう。まずCX-A5000は、11.2ch 構成のAVプリアンプである。実物を前にすると、先行して発売された一体型モデルのトップエンド「RX-A3030」との類似性が強い。そのはず、CX-A5000はA3030のシャーシを流用して機構が構築されている。しかし、先述のようにデジタルノイズの封じ込めを第一義に設計され、電気的干渉を抑えるレイアウトを徹底しており、アルミサイドパネルにトップボードの3ピース構成を採用している。そのトップボードを外して内部を覗くと、H型クロスフレーム、ダブルボトムコンストラクション、リジッドボトムフレームが確認され、Z11からA3030に至るフラグシップ機の機構上の特徴を継承していることが分かる。ただし、パワーアンプの電源部が消えたためフロント部に余裕が生まれている。

心臓部のDACは今季の同社製品と同様にESSのSABLE PREMIUM DACで構成した。具体的には8ch一体型のES9016(192kHz/32bit)を2基使う。1基が基本の7.1chを、もう1基がフロント、リアのプレゼンス系を受け持つ。なおES9016 の場合、1chで2回路使用はパターン上出来ない。参考までに一体型最上位のRX-A3030の場合、ES9016+ES9006 の2基使用で、ES9006 は192kHz/24bitで9016比で若干スペックが落ちる。ちなみに、先行発売のSACD/CDプレーヤーCD-S3000はSABLE最上位のES9018を搭載している(以下の表参照)。

本機はデジタルフィルターの選択機構を採用しており、「シャープ」「スロー」「ショートレーテンシー(同社カスタム設定)」の3モードから選べる。オペアンプは、FEIインプットでローノイズが特長のADI OP275を搭載する。

シネマDSPはHD3で、Z11と同じ33のプログラム数を搭載する(A3030のプログラム数は23)。バーチャルプレゼンススピーカーにも対応する。

本機における“朗報”の1つは、入出力にXLRバランスを搭載したことである。プリアウトが11、ステレオイン(Audio4入力)が1。後者には、4Vあるいはそれ以上の入力信号を受け取る場合に使用するアッテネーター機能を備える。端子部には、PA業界で評価が高くマイク製品などに採用されているNuetric(ノイトリック)製金メッキ品が採用されている。

パワーアンプとのマッチングという点では、出力インピーダンスを低インピーダンスに設定しており、MX-A5000以外の他社製パワーアンプをつないでも問題が起きないように考慮している。電源部にはELトランスを搭載しており、アナログデジタル独立捲き線を使用した。

MX-A5000は、出力150W/ch(20Hz~20kHz/0.06%THD定格)のマルチチャンネルパワーアンプ。ブロックケミコンは27,000uFの大容量カスタムメイド品を2個使用。出力に3段ダーリントン回路を採用し、大きな電流の供給を狙っている。また、ファイナルは電流帰還型である。NFB(ネガティブフィードバック)量が少ないため、ノイズが抑えられ周波数特性の変化が少なく、伸びやかな音が特徴である。

内部バランス伝送もMX-A5000の特徴。入力セクションから増幅段までフルバランス構成とした。H型クロスフレーム、リジッドボトムフレーム、左右対称コンストラクションで構築している。

背面に11ch分のRCA/XLR入力とバランス/アンバランスの切替えスイッチを備える。11ch分のパワーアンプは数字で表示されフレキシブルに使用することが出来、上下ch同士(1+4、2+3、5+6)の組み合わせでバイアンプ設定が可能だ。(以下の表参照)。

■ヤマハAVアンプの新フラグシップ「CX-A5000/MX-A5000」速攻レビュー

CX-A5000/MX-A5000をヤマハのAV試聴室で試聴した。BDを再生して最初に耳を奪われるのは、S/Nの素晴らしさ。全ch にES9016(124dB)を奢ったことと、セパレート化によるノイズ遮断効果が奏功した印象だ。その結果生まれたのが、広大さも閉塞感さもつねに知覚出来る伸縮自在の音場空間である。

ステレオ再生の場合、高音質クラシックソフトの再生の肝は<静寂の表現>である。フロアノイズと楽器にまとわり付く動的ノイズの抑圧、そしてダイナミックレンジがその鍵だが、この<静寂>を制するものがクラシック音楽再生を制するのだ。AV映像音響の場合、それに相当するものが空間の広がり感と明澄度である。CX-A5000/MX-A5000は、映像ソフト毎あるいはシーン毎に出現する<空間の涯>まで聴覚で知覚されるようだ。これは、過去のAVアンプで到達出来なかった表現域といっていい。

描き出される音の情景は、明晰そのもの。今回はフロント/リアプレゼンスを加えた11.2chのシネマDSP HD3フル再生で5.1〜7.1chソフトを聴いたが、フロント/リアハイトスピーカーの加わった三次元空間表現内の音の定位、移動表現の明瞭さは圧巻で、ドルビーアトモスは要らないのではないかと思えるほど、動きの自由闊達さとch間の断絶を一切感じさせない素晴らしい一体感が生まれている。ヤマハが企図した“Absolute”はこの一体感を指していたのだ。

具体的には、『ゼロ・ダーク・サーティ』(DTS-HD MA5.1ch)の場合、クライマックスのステルスヘリの離陸から目標地点での一機墜落まで、試聴室の空間を越えた垂直水平の移動表現の大きさ、軌跡の生々しい鮮明さが挙げられる。日本映画『さよならドビュッシー』(ドルビートゥルーHDアドバンスド96kHz/24bitアップサンプリング)の主人公の幻想シーンは、オリジナル5.1chにして、子供時代の自分と従姉妹の足音の移動描写が7.1chあるいはそれ以上のch数で初めからサウンドデザインされたと錯覚されるほど、高低変化まで使いこなして試聴室内を奔放に駆け巡り、今まさにサラウンドの新境地を聴いた実感があった。こうした研ぎ澄まされた表現力は、パワーアンプMX-A5000の独立で得られたクロストークの廃絶による所も大きいだろう。

CX-A5000/MX-A5000の表現域は、現行BDのサウンドスペックを呑み込み、すでに次を展望している感さえ感じられる。バージョンアップと長期的使用に対応するセパレート構成という今回のヤマハの選択も、それがひそみとしてあったのではないか。そんな思いさえするCX-A5000/MX-A5000の卓越ぶりである。

(text/大橋伸太郎)