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マランツ「11シリーズ」大ヒットの舞台裏(3)− 山之内 正が語る、11シリーズが再現する“演奏の本質”

2013/07/03 山之内 正
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マランツから昨年7月に登場したSACDプレーヤー「SA-11S3」とプリメインアンプ「PM-11S3」、今年2月発売のUSB-DAC/ネットワークプレーヤー「NA-11S1」が驚異的な売上台数を記録しているという。その舞台裏を探る連続企画の第3回では、数々の優れた製品に触れてきたオーディオ評論家たちが、「11シリーズ」の持つ魅力を語る。

音源品質が劇的に向上した現在
求められるのは「原音の忠実な再現」



山之内 正氏
CD、SACDに加えて高品質なハイレゾ音源が手軽に入手できるようになり、音楽ファンの耳は以前よりも鋭敏になったように思う。音色の繊細な変化を聴き取り、コンサート会場の余韻の広がりや演奏者の息遣いにまで耳を澄ませる。自宅のオーディオ装置でそんな聴き方ができる時代が現実になったのである。

もちろん、そこまでこだわるためには再生機器をしっかり吟味することが肝心で、どんな装置でも良いというわけではない。きめ細かい音色の変化や残響の広がりを実感するためには、楽器の音に含まれる複雑な倍音を正確に引き出し、ごく小さな音を余韻の消え際までていねいに再現する余裕が求められる。オーディオ用語で言えば周波数レンジとダイナミックレンジに相当する基本性能、それをとことん突き詰めたプレーヤーやアンプを選ぶことが、まずは基本といえるだろう。

それに加えて、プレーヤーやアンプの段階で固有の音色や響きを加えず、原信号を忠実に再生する忠実度の高さも従来以上に重要になってきた。オーディオ機器のなかには個性的な音色の魅力で人気を得てきた製品も少なくないが、音源の品質が劇的に向上したいまの時代、あまりに個性的なアンプやスピーカーはその役割を終えつつあるように思う。音源には演奏の表情や臨場感を引き出す情報がたっぷり入っている。それをありのままに引き出すことが求められているのだ。

余分な演出を加えず、原音の忠実な再現にこだわるブランドの一つがマランツだ。製品の種類や価格帯を問わず、ほぼすべてのモデルにその設計思想が反映されているが、なかでも11シリーズは象徴的な存在で、高忠実再生にこだわる音楽ファンから着実な支持を集めてきた。


高忠実再生の思想をいっそう深め
“演奏の本質”にまた一歩近づいた


その11シリーズが4年ぶりに世代交代を果たし、SA-11S3とPM-11S3として生まれ変わったが、今回も高忠実再生という基本思想はまったく揺らいでいない。それどころか、その思想をさらに深めることによって、演奏の本質にまた一歩近付いたというのが私の印象だ。特にSA-11S3はディスクの忠実再生に加えてハイレゾ音源の再生にも新たに対応し、マスターならではの臨場感や空気感をありのままに引き出す性能を獲得している。音源のバリエーションが広がったことで、マランツの設計陣が目指す音の本質がいっそう明確に浮かび上がってきたように思う。

MARANTZ「SA-11S3」¥504,000 背面にUSB typeB入力を設け、USB-DAC機能も備えるSACDプレーヤー。192kHz/24bitまでのPCM信号に対応している。ピュアオーディオ再生に加え、ネットオーディオにも対応している点も大きな魅力のひとつだ。

プリメインアンプ「PM-11S3」¥451,500 大きく進化したSA-11S3の表現能力を受け止めるために同時期に開発されたプリメインアンプ。長年の基礎開発の成果が贅沢に投入されている

そして、マランツが目指す高忠実再生の理想をファイル再生の視点から突き詰めた製品としてNA-11S1の存在を無視することはできない。昨年5月、ミュンヘンで開催されたHighEnd2012の会場でプロトタイプを目にして以来、発売を心待ちにしていた製品である。

USB-DAC/ネットワークオーディオプレーヤー「NA-11S1」¥346,500 マランツ創業60周年を記念して作られた、エポックメイキングなソースプレーヤー

NA-11S1はメカニズムなどの可動部分を持たない純粋なデジタルプレーヤーなので、音の純度を突き詰めて高忠実再生を目指すことは難しくないと考えがちだが、実はそう簡単に割り切ることはできない。音楽データはすべて機器の外部から入ってくるので、そのときにノイズが一緒に混入する可能性があり、既存のコンポーネント以上にノイズ対策に万全を期す必要があるのだ。

特にパソコンからUSB端子を介して混入するノイズは注意が必要だ。NA-11S1に接続するパソコンからどんなノイズが侵入するのか、特定することも困難をきわめる。ノイズの種類や大きさは本機につなぐパソコンの側に大きく依存するため、あらゆるケースを想定して対策を講じなければらない。

NA-11S1はパソコン接続時のノイズ対策を徹底することによって、USBオーディオとしてかつてない静寂を実現した製品だ。高精度なデジタルアイソレーターを信号ラインに追加し、さらにUSB入力基板のグラウンドをメイン基板及びシャーシから完全に遮断するという徹底した手法を採り入れたことが、S/Nの向上に大きく貢献している。

音質に悪影響を及ぼすPCからのノイズ流入を防ぐため、高速デジタルアイソレーターを搭載。さらに、PCとの接続時にはUSB-B入力インターフェース基板のグラウンドも、メイン基板およびシャーシから完全に分離。USB-B入力インターフェースとデジタルオーディオ回路間の信号ライン、グラウンドを電気的に絶縁することで、PCからのノイズの回り込みやグラウンド電位の変動を排除している。さらにDSPやUSBコントローラーICそれぞれの電源ラインにデカップリングコンデンサーを挿入するなど徹底したノイズ対策をおこなっている。

既存のUSB-DACは、信号の精度にこだわる製品はあっても、そこまで本質的なノイズ対策を導入した製品はなく、接続するパソコンによって音質が大きく変化する余地があった。NA-11S1はノイズ対策を徹底することで純度の高い信号伝送を実現しているため、接続するパソコンに依存することなく、確実な音質向上を期待できる。

実際にNA-11S1から出てくる再生音の純度の高さは圧倒的なものがある。オーディオ専業メーカーが本気で取り組めば、パソコン音源のクオリティをここまで高水準に高めることができるという好例だ。本機の再生音はその事実を見事に実証ししており、PCオーディオの限界を突き抜けた爽快さがある。ハイレゾ音源ならではの奥行きのあるサウンドステージと生々しい臨場感はPCMとDSDどちらの音源からも聴き取ることができる。


山之内 正 Tadashi Yamanouchi
神奈川県横浜市出身。東京都立大学理学部卒。在学時は原子物理学を専攻する。出版社勤務を経て、音楽の勉強のためドイツで1年間過ごす。帰国後より、デジタルAVやホームシアター分野の専門誌を中心に執筆。大学在学中よりコントラバス演奏を始め、現在もアマチュアオーケストラに所属し、定期演奏会も開催する。また年に数回、オペラ鑑賞のためドイツ、オーストリアへ渡航。趣味の枠を越えてクラシック音楽の知識も深く、その視点はオーディオ機器の評論にも反映されている。


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