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立体映像ジャーナリスト・大口孝之氏が解説

今度こそ本当に普及するのか?「3Dブーム」の今までとこれから【後編】2010年の3Dブームが定着するカギとは

2010/03/24 大口孝之
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2010年は「3D元年」と言われていますが、3Dブームって、過去にもあったことはご存じですか? 前回のコラムでは、1800年代から1990年代までの3Dブームについてご紹介しました。後編となる今回は、現在の3Dブームを紐解き、過去のブームとの比較。3D普及のカギを探ります。※前編はこちら

■第3次立体映画ブームの到来 − ハリウッドでの3D映画再興

ジェームズ・キャメロンは、ユニバーサル・スタジオのアトラクション『ターミネーター2: 3D』(1996)を監督したことをきっかけに、3Dの可能性に目覚めました。そしてIMAX(R) 3D方式のドキュメンタリー作品『ジェームズ・キャメロンのタイタニックの秘密』(2003)のために、ソニーと撮影監督のヴィンス・ペイスによって、デジタル3Dカメラが開発されました。


メガヒットを記録したキャメロン監督の3D映画「アバター」。近々ブルーレイ(2D収録だが)も発売が予定されている
キャメロンはこの技術を、予てより企画していた『アバター』に導入したいと考えます。しかしIMAX(R) 3Dでは劇場数が限られ、莫大な製作費の回収は不可能でした。そこで彼は、同じ志を持つ監督仲間(ゼメキス、ロドリゲス、ルーカスら)に呼びかけ、2005年に映画関係者向けに3Dの可能性を語るシンポジウムを行いました。彼らの主張は「今後ますます高度化するホームシアターに対して、映画館が観客を取り戻すためには、家庭では体験できない視聴環境を劇場側が提供する必要があり、そのための手段としてデジタル3Dが最適のツールとなる」というものでした。つまりかつてのラジオやテレビのように、ネット配信、大型テレビ、Blu-rayなどの新たなメディアに対抗するため、再度3Dに注目を集めようというのです。

彼らのメッセージは、徐々に浸透していきます。最初はスローペースでしたが、ディズニーの『チキン・リトル』(2005) 以降、毎年数本の3D映画が公開されるようになり、それに合わせてデジタル3D上映設備を導入した劇場も増えていきました。そして『アバター』の公開に合わせて、2009年に急増しました。さらに同作のメガヒットに刺激されて、3D作品もどんどん登場しています。

■2010年の3Dブームが定着するカギとは

さて問題は今回の3Dブームが、かつてのように数年で飽きられてしまうのか、トーキーやカラーのように定着していくのかは、まだ不明確です。普及へ最大の足かせとなるのが、「3Dメガネ」の存在です。これを嫌がって立体映画嫌いになる人も少なくありません。ディスプレイ向けには裸眼立体視の技術もありますが、大画面化はまだ難しい段階です。


「別世界へ旅立つ儀式」と思うと、3Dメガネはとても楽しいものだ
でも意識を変えれば、3Dメガネはけっして苦ではないはずです。もともと映画館は、外界から分断された異空間を楽しむもので、その没入感を3Dメガネがより高めてくれるのです。スクリーンに「3Dメガネをおかけ下さい」と表示されると、ワクワクするではありませんか。そう、これは別世界へ旅立つ儀式なのです!

しかしこれはメガネのフィット感や重量、お子様や通常メガネをかけている人への対応など、細やかな心使いがあってのことと言えましょう。「長時間掛けていると痛い」「ズリ落ちてくる」などということがあっては、せっかくの没入感も失われてしまいます。その点、劇場用でこの点に神経を使っている3D上映システムは、今のところReal D社(ワーナーマイカル系、ユナイテッド・シネマ豊洲、シネマイクスピアリが採用)だけです。さらに日常空間で用いられる3Dテレビは、映画館以上にメガネの存在が気になります。3Dテレビの普及の鍵はここにあるでしょう。

Real D社の各種円偏光メガネ。左列奥は業務用、左列手前は一般劇場用、右列奥は『アバター』プレミア試写専用、右列中央は子供用、右列手前はメガネ装着者用クリップタイプ。

■「2D/3D変換技術」に注目が集まる

過去の3Dブームの失敗は、ライバルの存在と共に、優れたコンテンツの不足にありました。今回は強力なライバルが見当たらない上、『カールじいさんの空飛ぶ家』(2009)や『Disney'sクリスマス・キャロル』(2009)のように、優れたコンテンツも少なくありません。

とは言っても、『アバター』クラスの大規模作品をそういくつも作るわけにもいきません。そこで現在、急速に注目されてきている技術が「2D/3D変換」です。文字通り2Dで作られた映像を3Dに変換するというものですが、その手法は多岐に渡り、電子回路でリアルタイムに処理するものから、人間が1フレームずつ手作業で修正を加えていくものまであります。当然、後者の方が自然で完璧な仕上がりになりますが、コストも膨大にかかります。

実際にこの技術を用いた作品として、『チキン・リトル』、『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』(1993)、『ルイスと未来泥棒』(2007)、『スパイ・アニマル Gフォース』(2009)、『アリス・イン・ワンダーランド』(2010)、『タイタンの戦い』(2010)などが挙げられます。実はあの『アバター』も、一部は3D変換で処理されました。他にIMAXシアター限定では『スーパーマン リターンズ』(2006)、『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』(2007, 3D版は国内未公開)、『ハリー・ポッターと謎のプリンス』(2009)などの例があります。そしてついに『タイタニック』(1997)の3Dバージョンも2012年に公開が決定されました。これならば優れた3Dコンテンツの不足も解消されそうです。

もちろん2D/3D変換以外に、最初から3Dカメラでステレオ撮影された作品や、CGでステレオ・レンダリング(左右2画面分計算する方法)の作品もたくさん登場しており、少なくても2012年までは安定したコンテンツ供給が見込めそうです。今後ヒットが期待される作品には、『アリス・イン・ワンダーランド』『ヒックとドラゴン』『トイ・ストーリー3』『シュレック・フォーエバー・アフター(原題)』『キャッツ・アンド・ドッグス2(原題)』『トロン・レガシー(原題)』『ガーディアンズ・オブ・ガフール(原題)』『バイオハザード4』『カーズ2』などがあります。さらに『スパイダーマン』の新シリーズや、スピルバーグの『タンタンの冒険旅行(仮題)』シリーズなども予定されています。

■あとはユーザーが受け入れてくれるかどうかに掛かっている

3Dは電気自動車に似ています。電気自動車が開発されたのは1894年で、発明の時期も立体映像と近いですし、これまで何度も有望視されながら普及に至らなかった経緯も共通しています。そして両者とも技術的には、ほぼ完成しており、後は人々が受け入れてくれるかどうかに掛かっています。

「2010年は電気自動車元年」と言われているように、「3D元年」も実現させたいと思います。今回の3Dブームは、ハード/ソフト両輪で盛り上がっていますから、本物であると信じたいですね。


【執筆者プロフィール】
大口 孝之 OHGUCHI,Takayuki
1959年岐阜市生まれ。日本初のCGプロダクションJCGLのディレクター、世界初のフルカラードーム3D映像となった花の万博・富士通パビリオンIMAX SOLIDO(TM)「ユニバース2 −太陽の響 −」のヘッドデザイナーなどを経て、フリーランス映像クリエータ/ジャーナリスト。NHKスペシャル「生命・40億年はるかな旅」のCGでエミー賞受賞。「映画テレビ技術」等に執筆。代表的著作「コンピュータ・グラフィックスの歴史」(フィルムアート社)

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