新型平面磁界ドライバーはキレと厚みが“ひと味違う”。SENDY AUDIO「Egret」レビュー
優れた木材加工技術を持ち、独自に設計した平面磁界ドライバーを採用するSENDY AUDIOから新たなモデル「Egret(イーグレット)」が登場した。
イヤーカップには北米産ブラックウォールナット材を使用し、研磨、磨き上げ、多層コーティングといった入念な加工が施されている。
そして、平面磁界ドライバーは、最新のナノスケール複合ダイアフラムを使用した98mm×84mmドライバーを搭載。厚さ800ナノメートル未満の磁性切削層を加えたサンドイッチ構造となっており、応答速度と解像度を向上している。
また、独自のEB(電子ビーム)蒸着法を使用し、振動板表面にアルミニウム回路を精密にコーティングし、優れた周波数特性を実現している。
このほか、イヤーパッドの外縁部とヘッドバンドの内側には、柔らかく通気性に優れたラムレザーと肌に優しいベロアを組み合わせた素材を採用する。
付属ケーブルは2重シールド設計でエナメル加工金メッキ銅と銀メッキ銅、古河電工製OFCを使用した3重複合材による4芯線を採用。コネクターは4.4mmバランス端子で、3.5mm変換ショートケーブルと6.35mm変換プラグが同梱。
堅牢な作りのレザーキャリングケースと付属品を収納できる麻布ポーチがセットになっているのは、SENDY AUDIO共通だ。
重量は約443gとオーバーヘッド型ヘッドホンとしてはやや重い部類だが、メモリーフォームを採用した立体的な形状のイヤーパッドと肌触りの良いヘッドバンドが頭部をしっかりとホールドし、フィット感にも優れているのであまり重さは感じない。細身に感じるヘッドバンド部もアルミニウム製で強度は十分。圧迫感も少なく快適な着け心地だ。
ハウジング外周部の素材はスピーカーなどでも見慣れたウォールナットを採用している。ヘッドホンやスピーカーに採用される銘木はたくさんあるが、落ち着いた見目はもちろんのこと、手を触れた時の柔らかな感触も気持ちよく、その手触りの良さを損なうことなく仕上げているのがうれしい。そんなウォールナットの木目が浮かんだ外観はしっとりとした仕上げで細部の作りも精密だ。
そして、特徴でもあるハウジング開口部の美しいデザインは白鷺(Egret)の翼をイメージしたもの。扇型の幾何学的模様が整然と並んだ配置は波面のようにも見える。どのモデルにも言えるが、このデザインセンスは魅力的だ。
「Egret」音質チェック〜従来モデルのイメージを覆すキレ味と重厚さ
試聴では、Astell&Kernのデジタルオーディオプレーヤー「PD10」と専用クレードルを使用し、XLRバランス出力をBenchmarkのヘッドホンアンプ「HPA4」に接続。XLR-4.4mm変換アダプターを使用して聴いている。
まずは、ウラジーミル・フェドセーエフ指揮モスクワ放送響による『チャイコフスキー/交響曲第6番「悲愴」(自筆譜による世界初録音)』から「第三楽章」を聴いた。
平面磁界型としては、しっかりとした低音が出ることがSENDY AUDIOの特徴だが、Egretはさらに力強い低音が出る。芯の通った締まった低音だ。ドン!と叩いた大太鼓の皮面が震える感じもゆるまずにしっかりと出る。
木管楽器や金管楽器の中高音もクセの少ない自然な音色で、しかも音像が鮮明で各楽器の粒立ちやオーケストラの見通しも良好だ。
各楽器の質感を豊かに描くだけなく、音場の広がりも優秀。ただ音場が広いというのではなく、ホールの広さ感が伝わるような精度の高い描写だ。実際にコンサートホールに居るかのようなリアルな感覚がある。
グスターボ・ドゥダメル指揮ウィーン・フィルによる『ムソルグスキー/組曲「展覧会の絵」』より「鶏の足の上に立つバーバ・ヤーガの小屋」では、バーバ・ヤーガの恐ろしさを感じさせる力強く迫力のある演奏を、重厚でキレ味よく再現した。ホルンのボディ感や低音弦楽器の胴鳴りなど、低音の質感が重厚で聴き応えがある。
SENDY AUDIOは感触がソフトというか、情報量はあるが聴き心地が良いことが特徴のひとつと感じていたが、Egretはあまりソフトさを感じさせず、特に低音の重厚さが感じられ、音の立ち上がりの速さもあいまって、なかなかキレ味鋭い演奏を楽しめる。
フラグシップ機「Peacock」と比べてみる
試しに、SENDY AUDIOの最上位機「Peacock(ピーコック)」も聴いてみた。
音はより滑らかできめ細かく、さすがに質感表現ではこちらの方が優れるが、音の立ち上がりなどは反応は良いが感触がソフトだ。低音もしっかりと出るがフワッとした軽やかさで、重厚感という点では、Egretの方が好みに合う。
Peacockと比べると、Egretの方が少しメリハリを付けていることがわかるが、基本的な質感や情報量は十分にあるので、輪郭強調の強めなドライな音はひと味違う。Peacockの上質でしなやかな音に、ごくわずかな差し色を加えて鮮やかな印象に仕上げたような、うまい音のまとめ方だと感じた。
絶対的な性能を求めるならばPeacockの方が優秀であるのは間違いないが、ロックやポップスといったヒット曲を中心に聴く人ならば、Egretの方が好みに合う人も少なくないだろう。個人的にもPeacockにEgretのようなエッジの効いた重厚さが加わると、より素晴らしい製品になると感じた。
最後は、米津玄師と宇多田ヒカルによる「JANE DOE」を聴いた。宇多田ヒカルの声の質感は十分に繊細で、吐息の色っぽさも良い。バックの演奏やリズムもキビキビと鳴るが、ボーカルがそこに埋もれずに一歩前に出たかのように目の前に浮かぶ感じはかなり見事な表現だ。
米津玄師の歌唱に宇多田ヒカルがコーラスで加わる部分も、ふたりが寄り添いながら、しかし音像がひとつに溶け合ってしまわずに、微妙な距離感を保っている感じが伝わる。男女のせつない恋を描いた曲のムードと符合し、非常に満足度の高い再現だ。
SENDY AUDIOのヘッドホンは、平面磁界型ならではの音場感豊かな音に加えて、デザインのセンスの良さ、仕上げを含めた質感の良さなど、魅力的なヘッドホンメーカーだと感じているが、へんにハイエンドを目指して手の届かない高価なモデルを作らない点も好ましい。
その点では、Egretなどは音を聴いてから値札を見たらちょっとびっくりしてしまうほど実力が高い。コストパフォーマンスでは群を抜く実力があると思うし、つぎ込まれた物量を考えても、価格以上の魅力がある。
そして、Peacockよりもある意味ではEgretの方が魅力的に感じるような、新しいモデルが出るたびに音としての完成度を高めてきていることにも感心する。そういう意味では、まさに成長真っ盛りであり、価格を問わず新しいモデルが出れば注目してしまうブランドだと、改めて実感した。
(協力:アユート)
