PR音響とデザインに徹底したこだわりを投入した新たな代表作
Meze Audioがダイナミックドライバーを再定義。開放型ヘッドホン「109 Pro」の“極上サウンド”を味わい尽くす
美しく機能的なデザイン、そしてサステナブルであること
もちろんメゼ・オーディオのヘッドホンにとって、デザインも重要な個性だ。「109 Proを開発する際に重視したテーマのひとつが、地球環境にも優しく、ユーザーが長く使えるヘッドホンをつくることだった」とメゼ氏は明かしてくれた。
「ユーザーに感動をもたらす良質な製品は流行の影響を受けることがなく、その魅力も色あせない。ユーザーの手に渡るヘッドホンが長く愛用されれば、結果としてむやみな消費を抑制して炭素排出量が削減される。製造から梱包、出荷や輸送で発生する無駄を省くことで環境への負荷も抑えられる」とメゼ氏は持論を説く。
イヤーカップの素材もまた、メゼが掲げる地球環境への配慮を象徴している。109 Proには寿命に達したウォールナットの木材を、原産地証明を確認した上で使用されているという。仕上げはとても美しく、ダークウォールナットの艶をとても上品に引き立たせている。「一生もののヘッドホン」に相応しい存在感があると筆者も思う。
ヘッドバンドにはマグネシウムと鉄を合成した繊細な亜鉛合金フレームと、ビーガンレザーのバンドを組み合わせた。ほかのメゼのヘッドホンと同様に、頭部を優しく包み込む優れた装着性を持つ。とてもきめ細かなベロア生地のイヤーパッドも質感が高い。
情報量が豊富で余韻もなめらか。奥深く洗練された味わいあるサウンド
今回の取材では、RME「ADI-2 Pro FS R Black Edition」につないで、109 Proのサウンドをチェックした。「プロ」の名前が示す通り、音楽の高い熱量や演奏空間に漂う静寂の緊張感も含めて、原音をありのまま忠実に再現できるヘッドホンだ。
ボーカルは口もとの描写が生めかしい。繊細な声のニュアンスの変化を的確に捉える。余韻の階調感はなめらかなだけでなくとても濃密。奥深く洗練された味わいはダークチョコレートのようだ。余計な付帯音がなく、力強いサウンドが様々な楽器の音色を鮮烈に描く。メゼ・オーディオの上位モデルのヘッドホンに迫るほど再現される情報量が圧倒的に豊かだ。
オーケストラの演奏を聴くと、立体的な空間の広がりを誇張することなく的確に描く。重低音をタイトに引き締めて、鋭く立ち上げる。力感に無駄がなく、沈み込みは深く響きはとても豊か。熱いジャズピアノの低音が体の芯まで静かに溶け込む。中高音域の自然な華やかさもいい。自然に音楽と一体になれる喜びを109 Proは存分に楽しませてくれる。
109 Proはメゼ・オーディオがルーマニアに構える本社工場で、Elite/Empyrean/Liricと同様、熟練した「職人」と呼ぶべきスタッフたちが組み立てる。中でも設計がとても複雑なドライバーの組み上げに時間がかかるそうだが、1台につき約6.5時間かけて丁寧につくられているというから驚きだ。
109 Proは部品の接合に接着剤を使わない。その理由は万一、部品が故障した場合に分解して交換修理がしやすいように気を配ったからだ。「愛機を長く使いこんでほしい」というメゼ・オーディオの願いが込められているのだ。
最後に、本機の独特な外観はメゼの街=マラムレシュを象徴する歴史的な木造建築群からインスパイアされたものだという。遠い異国の情景、彼らの「クラフトマンシップ」と「誇り」に思いを馳せながら、極上のサウンドを味わい尽くしたい。
(協力:完実電気)
※本記事は「プレミアムヘッドホンガイドマガジンVOL.19」所収記事をウェブ用に再編集したものです。