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過去作のドルビーシネマ化は?

ジブリ×ドルビーシネマ、最新作『劇場版 アーヤと魔女』に制作部も自信。「非常に良い作品になった」

公開日 2021/08/20 12:00 編集部:松永達矢
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ジブリ制作部が語るドルビーシネマ版制作の背景


試写上映後QAセッションに応じたスタジオジブリ映像部部長 奥井氏(写真左)と制作部副部長 古城氏(写真右)
試写上映の後、スタジオジブリ映像部部長 奥井氏と制作部副部長 古城氏によるQAセッションが行われ、『劇場版 アーヤと魔女』のドルビーシネマフォーマットでの上映決定の背景や、その経緯が語られた。

『アーヤと魔女』劇場公開の話は昨年末になって出てきたという。そして地上波でのオンエア後からほどなく、「劇場上映するならドルビーシネマでやりたい」との声が上がった。

また、スタジオジブリとしては、ドルビーシネマのフォーマットが本国アメリカで出始めた時期から、ドルビーに話を聞く機会を都度設ける中で、研究を重ねていったとのこと。奥井氏は「個人的にも『アーヤと魔女』はドルビーシネマに非常に適した作品だと思っている」と語る。準備は年明けからとなり、完成はギリギリになるも「非常に良い作品になった」と続けた。

ドルビーシネマ版の見どころについては、奥井氏が映像面から、古城氏が音響面から解説した。

『アーヤと魔女』は、暗いシチュエーションが多い中で、光り輝くような演出も画面内に同居するハイコントラストなシーンが多数ある。


オンエア版のSDRマスターでは潰れていた暗所のディテールもドルビーシネマ版では再現される
映像の製作においてはHDR製作ではなく、基本的に本編は2KのSDR製作にて行われているが、暗いシーンをSDRのスクリーンで確認すると暗部が多くて見えにくいという状況が多く、そのためにSDRのマスターでは暗部を若干持ち上げたり、見えるようにコントロールしたという経緯もあったとのこと。そういったシーンが、ドルビーシネマではキチンと黒が沈んだ上で、ディテールを見て取ることができるのが大きな特徴だとコメント。

ハイライト部分にもドルビーシネマ化の効果は出ており、冒頭のカーチェイスシーンではバイクのヘッドライトがSDRだと白飛びしているが、ドルビーシネマでは明るい輝きとディテールの再現を両立している。これはフルCGアニメーションとしてCGモデリングがキチンと作り込まれていることの証拠だとしており、「ドルビーシネマによって元データの情報量を復活させることができた」とアピールした。


続けて古城氏は、ドルビーシネマ版『劇場版 アーヤと魔女』の音響について、基本的に放送を主体として考えながら、劇場公開という将来を念頭に置いた上で5.1chで本編音響を製作していたと語る。

劇場公開が決まりドルビーシネマ化の話が出る中で、音響効果もドルビーアトモスに対応しなければならないということで、3日間に渡り、改めてミックスを敢行。基本的に5.1ch版と差がないようにしつつも、空間表現などを拡げるなど音響効果の見直しを図ったという。

古城氏曰く「一番はっきり解りやすい」、記者所感内でも触れた「トンネルのシーン」について、「5.1chではサラウンドの帯域制限の問題もあり、ボーカルトラックのみをグルグル回していたが、ドルビーシネマ版ではドルビーアトモスの持つ、サラウンドも低域まで出るという特性を活かし、バンドの音全部をグルグル回すという派手さが増すような味付けを行った」と振り返った。

また、「ストーリーテリングやキャラクターの表現にドルビーシネマが寄与した部分はあるか?」との質問に対して、奥井氏は「スクリーン上でのキャラクターの見せ方もこれからは変わってくるのかもしれない。個人的にはアーヤやベラ・ヤーガの瞳、その透明感と輝きがより一層目に入ってくるように感じた」と述べた。


『アーヤと魔女』の元素材は、劇場用のカラーフォーマットとして2KのP3カラー(Display P3)で製作されたという。TV放送用に、そこから放送用のカラーフォーマットであるBT.709へコンバートしてオンエアマスターを製作し、ドルビーシネマ用のマスターは、大元のマスターを利用してドルビーフォーマットに仕上げたとのこと。

HDR演出をする上で、放送用であるSDRは、あくまでもSDRのモニター上でファイナルフォーマットの仕上げを行っていたが、ドルビー用に関してはそのデータを流用するのではなく、元のCGデータに戻り、より広いレンジのデータに出力し直した物をドルビーのスクリーン上で調整して映像を追い込んだと、仕上げの違いを解説。また、実際には映像ソースを4K解像度へのアップコンバートは行わず、2Kのまま上映しているとのことだ。

『劇場版 アーヤと魔女』がスタジオジブリ初のドルビーシネマ公開作とのことで、スタジオジブリの過去作品のドルビーシネマ化、ひいてはUHD BD化について関心はあるか? と記者が伺ってみたところ、古城氏は、理由は様々あるものの「現状は難しいところではある」とコメント。

『アーヤと魔女』のパッケージでドルビーシネマ版が収録されるのかはまだわからないが、今回『アーヤと魔女』がドルビーシネマ化を果たしたことで、「お客様から要望の声が多いということを(販売元が)感じてくれれば、企画が立ち上がるかと思います」と、今後の展望を期待させる言葉もあった。


劇場での鑑賞がまだ難しい時世であるが、放送では決して味わえない “劇場体験” を詰め込んだドルビーシネマ版『劇場版 アーヤと魔女』は、8月27日(金)からの公開だ。


出演:寺島しのぶ 豊川悦司 濱田 岳 平澤宏々路
原作:ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 田中薫子 訳 佐竹美保 絵/徳間書店刊
企画:宮 駿
監督:宮崎吾朗
音楽:武部聡志
主題歌:シェリナ・ムナフ(ヤマハミュージックコミュニケーションズ)
配給:東宝
上映時間:1時間23分
©2020 NHK, NEP, Studio Ghibli

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