HOME > レビュー > カナダのアンプブランド「MOON」の工場をレポート! 10年保証を約束する精緻なもの作りの秘密を探る

【特別企画】旗艦モデル「888」の制動力にも驚愕

カナダのアンプブランド「MOON」の工場をレポート! 10年保証を約束する精緻なもの作りの秘密を探る

公開日 2021/06/16 06:30 井上千岳
  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE
MOONは1980年にカナダ・モントリオールで創業されたSimaudioのハイエンドオーディオブランド。2020年にはコロナ禍の中創業40周年を迎えた。「音楽のエモーションとスピリットを伝える」というブランドミッションの下、確かな技術と経験に裏打ちされた感性で、洗練されたオーディオ製品作りを続けている。日本国内ではDYNAUDIO JAPAN(株)が輸入代理店を担当。特にアンプ類に強みを持つが、MiNDと呼ばれる独自のネットワーク技術の開発など、最新のデジタル再生にも貪欲に取り組むブランドでもある。


MOONの製品ラインアップは、基本的に3桁の数字と末尾のアルファベットで構成されており、数字が大きいほどグレードの高いモデルとなる。プリメインアンプには末尾「i」、プリアンプは「P」、パワーアンプは「A」(モノラルの場合「M」)、DAC/ネットワークプレーヤーは「D」が付与される(一部例外もある)。ブラックとシルバーを基調としたシンプルなデザインと、すべて一貫して自社工場で製造するクオリティコントロールの高さは世界的にも高い評価を獲得している。

2019年9月、オーディオ評論家の井上千岳氏と担当編集は、DYNAUDIO JAPANの社長とともにモントリオールのMOONの工場を訪問。製造過程の全てを見せてもらうとともに、1台135kgの巨大フラグシップ「888」のサウンドを聴かせてもらった。当時の模様をあらためてレポートしよう。


■モントリオール郊外の工業団地に位置する、MOON工場に潜入!

とうとう来た。カナダ、東の玄関口モントリオール。フランス語ではモンレアルという。市内の小高い丘のような山、モン・ロワイヤルが由来だそうだ。

モントリオールの空港。フランス語と英語が混在し、移民も多く暮らすインターナショナルな街

移民の国なのはアメリカと一緒で、ユダヤ人やギリシャ人が多いと聞く。空港に迎えてくれたSimaudioの副社長、コスタ・クリサキス氏もそうで、カナダ生まれだが両親がギリシャ人だという。英語、フランス語はもとよりギリシャ語も話すのだ。なお、コスタは「MOON Academy」という役職も兼任しており、Simaudioのオーディオブランド「MOON」のブランドフィロソフィーや製品のこだわりを、世界中のディーラーやメディアに伝える仕事も担当している。

副社長のコスタ・クリサキス氏(左)と、現社長のルイ・ ルミール氏(右)

Simaudioがあるのは実はモントリオール市内ではなく、セント・ローレンス川を越えたブーシェルヴィルという別の市である。コスタの車でモントリオール中心部から小一時間といったところだ。

simaudioの工場は、 モントリオール市街から十数キロ離れたブーシェルヴィルという工場エリアに存在する。カナダはとにかく国土が広いため、社員は車通勤が必須

MOONの工場があるのは、同じような建物が延々と続く幹線道路に沿った工業団地の一角だ。目指すMOONの本社には、しかしどこを探しても看板がなかった。辛うじて玄関のドアに「MOON」という名前が浮いているだけ。これにはわけがある。

工場の入口扉にひっそり描かれる「MOON by SIMAUDIO」の文字 。 外観からはまったくなんの工場なのか分からないのは盗難防止のためだとか

「盗難除けです。オーディオ製品は高価なので、それと知られないように看板は出さないのです」

中へ招じ入れられて儀礼だけとは思えない温かい歓待を受けて、いよいよ工場へ突入する。が、その前に……やはり少しばかりMOONについて触れておこう。

■1980年に創立、グローバルに高い評価を得るアンプブランドとして成長

MOONはここカナダにあるSimaudioのブランドである。過去には他のブランドも展開していたようだが、現在はMOONブランドのみのため、MOON=Simaudioと思っていい。以下MOONで通すことにする。工場内に展示されるミニ・アーカイヴを見ながら、ブランドの歴史を辿ってみよう。

設立は1980年。ビクター・シマ(Victor Sima)というイスラエルからの移民が創設したSIMA Electronicsという会社が母体にある。その後社名をSim Audioと変え(現在はさらにSimaudioと一語になっている)いっそうの発展を図ったが、1994年にカナダ人のジャン・プーラン(Jean Poulin)に売却する。この時の人数は4人。製品数も少なく、ごく地味にやってきたという印象だ。

SIMA AUDIO(創業当時の名称)の初号機となるパワーアンプ「W-2002」。1984年から89年まで生産されていたモデルで、当時の価格で$890

ジャンは引き継いだSim Audioをもっと発展させたいと考える。エンジニアを入れ、R&Dを充実させ、もちろんマーケティングにも力を入れて従業員も大幅に増やした。その成果もあって会社は順調に成長。海外への輸出も始まり、2015年までに世界中から350ものアワードを受賞するまでになった。因みにMOONブランドの導入は1997年のことである。

MOONブランドの初号機で1997年に登場したMOON「i-5」。当時の価格で$2295

ジャンは2013年に3人の社員に会社を譲渡して退職。現在は「まったく別の」仕事をしているそうだ。それから創設者のビクター・シマ氏はまだ健在で、時々会社へ遊びに来るという。自分の作った会社が大きく発展したのが嬉しいらしい。

ほかにも、Sim Audio名義で発売されていたフォノアンプや電源ボックス、MOONブランド第1号機となるプリメインアンプ「i-5」、いまは消滅したCELESTEという別ブランドの製品も展示されている。DVDプレーヤーなどを作っていた時代もあったようだ。

SimAudio名義のフォノアンプ「IPS」と ACラインフィルターは1990年代〜2000年代前半に作られていたモデル

2000年以降に発売になった比較的新しいモデル。一番上はDVDプレーヤーのMoon「Orion」。 ロゴマークや外観も現行モデルに近づいている

事務エリアと工場棟の間には、MOON製品の修理工房もある。過去に発売されたモデルのほとんどのパーツ類を完全に保管しており、修理対応できるようにしているそうだ。製品としても10年保証を約束しており、そういった長期保証が約束されていることもMOONの強みと確認できた。

MOON製品の修理工房。熟練の職人がひとつひとつ不具合を確認し、修理可能か検証している

次ページ帯電防止のジャケットを来て、いざ製造現場を見学!

1 2 3 次へ

この記事をシェアする

  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE

関連リンク